熱砂の夢
先手を取り、一撃を振り下ろすが紅サソリの硬い甲殻に斬撃を阻まれてしまう。
ハサミが足を切断しようと向けられたため、急いでバックジャンプで後退する。
「硬ぇな」
「火魔法じゃ!火魔法で焼いてやるのじゃ!」
「火魔法・・・狐火!」
ゆらゆらと揺れる炎が出現し、サソリの視界感覚を狂わせる。狐火を振り払おうとハサミを振り回すが、抵抗は意味を成さない。
「今ッ!」
狐火を操作しながら再びサソリと距離を詰め、着弾と同時に甲殻を切り裂く。ズバッといい音がなり、サソリの体は切り裂かれて地面に倒れ伏した。
毒液と血液が地面に染み込んで行くのを見て、残り二体の方を見る。
「ギャハハハハハハ!!!無様に死に晒せぃ!」
リルの手には、炎を纏う紫色の刀身を持った剣が握られている。サソリの体を容易く切り刻み、肉塊へと変貌させていた。残った一匹の頭にリルが剣を刺し、戦闘は終了する。
「強いなお前」
「ふっふっふっ、余は最強じゃ。余に勝てるものはこの世におらぬ」
ナダルは体の綺麗な紅サソリの死体を観察し、尻尾を切断する。ズルズルと細長い管が抜け綺麗な肉がサソリの体内に見える。
「リアンさんなら喜んで食ってるんだろうなあ」
甲殻から身を剥がす。プリプリした肉が弾け、貴重な食糧として確保される。
どうやらラザリエもよく食べているようで、ラジーネの郷土料理的な物らしい。
「エビのような味がしますよ。夜に食べましょうか」
「そりゃ楽しみですね。あ、そうだユイレ、ちゃんと水飲んどけよ」
「はーい」
そして待ちに待った夜。昼とは真反対でかなり寒く、火がなければ凍え死にそうだった。
「地獄のような環境じゃな・・・」
「さっっっむぅ・・・」
「ナダル・・・もっと・・・」
「いやぁ、本当外部の方には堪えますよねここ。あ、布もう1枚いります?私は慣れてるので大丈夫ですよ」
ナダルの脳内に精霊の声が聞こえる。姿は見えないがどうやら全員サラマンダーの体で暖を取っているようだった。
「あぁ・・・サソリ肉が身に染みる・・・!!」
精霊にも堪えるような環境。この先もっと酷くなるようだが、ラジーネとは一体どんな生活様式なのだろうか。ナダルはそんな事を考えながら膝元で凍えるユイレを温め、十分暖を取って眠りに着いた。
*
「消え去れぃ!」
リルがサンドワームを倒し、剣を収める。砂漠に来て早五日。ついにピラミッドが見えてきた。
「もうすぐラジーネです。あと数時間歩けば着きますよ!」
「うむ。先を急ぐとするかの」
一行が気を取り直して歩を歩めた瞬間、大地が大きく揺れ、目の前の砂が隆起し始めた。
かなり強いモンスターの気配、砂の中から巨大なキラキラした金色の石でできた腕が生える。
「あああ!!ゴールデンゴーレムですぅぅぅ!!絶対に仕留めてください!!!」
ラザリエが興奮でおかしくなる。超早口で莫大な富になると説明され、ナダルも目を輝かせながら対面した。
「金!見積もり9999億ゼラ!!絶対仕留めてやるからな!!」
「ギャハハハハ!!!面白い!!気炎万丈ォッ!」
炎の竜巻がゴールデンゴーレムを包み込み、その温度を上げながら爆発四散。
上級火魔法、気炎万丈が炸裂したのだ。その結果ゴールデンゴーレムの身体は跡形もなく溶けて消え去り、見積もり0ゼラへと進化した。
「───────!!!!」
声にならない悲鳴が聞こえた後、ドサリと人が倒れる音がする。超が99個は付くほど激レアなゴールデンゴーレムが目の前で消し去られた事でラザリエの情緒がおかしくなり、泡を吐いてぶっ倒れた音だった。
「お?なんじゃ?どうしたお主らそんな暗い顔をして。そうかあのゴーレムと戦いたかったんじゃな!スマンスマン!じゃが余は本気が出せて満足じゃぞ!ギャハハハハハハ!!!」
「・・・うん。仕方ないよナダル。気を落とさないで」
「・・・わりぃ、やっぱつれえわ」
ラザリエを背負って、遠くに見える街並みへと向かう。滴る水は汗か涙か、その正体を気にもとめず歩き、一行はラジーネへと辿り着いた。
鉄と蒸気が街を包む。世界一を誇る科学力は見る物次第では魔法と勘違いしてしまうだろう。しかし魔法に頼らないその発展は人類の力の証明であった。
土の国ラジーネ改め、砂漠都市ラジーネへと辿り着いた。
「着いたあああああ!!!のはいいけど空気悪いなここ」
「マーネイトの方が空気おいしいね」
蒸気の影響かやや蒸し暑い。砂漠にあるのも関係しているのだろうが、住み心地は正直悪そう、というのがナダル達の感想だった。
「・・・はっ。失礼しました。っておお!ラジーネに着きましたね!早速私のお仕えしているご主人様の家へ案内しましょう!」
街の中心から少し離れた場所。かなり広い、芝生の生えた庭のある豪邸が目の前にあった。
流石公爵家とも言うべきか、金持ちである事をこれでもかとアピールしている。
屋敷に案内される。ナダル達は複数のメイドに歓迎され、リルやユイレ共々少し身だしなみが整った。
その姿に慣れないナダルやリルとは裏腹に、ユイレは慣れているのか整った姿が板に付いていた。
「流石ですユイレさん。エレイフルで見た紅茶の飲み方もそうですが、貴族としての振る舞いがかなりしっかりしていらっしゃいます」
「やるじゃないか。どこで身につけたんだ?」
「私のお家、元伯爵貴族だもの。当然よ」
伯爵貴族、という言葉でナダルはハーバー王を思い出した。
マーネイトのモンスターに襲われた伯爵貴族の土地。おそらくはそこがユイレの親が領主をしていた土地、なのだろうと一人で納得した。
「ご主人様がお見えになります。お客様は私の後にお付ください」
夕食の並んだ席に座らせられ、家主を待つ。
三人はラザリエの使える公爵貴族に感謝の意を述べられながら数時間の食事と会話をし、一行はユイレを除いてかなりヘトヘトになっていた。
「・・・とりあえず今日は客室貸してくれるらしい。至れり尽くせりでほんと感謝だな」
「お父様の知り合いで良かった。会話が弾んじゃった」
ユイレはかなり楽しんでいた様子だ。リルが畏敬の念をこめてユイレに土下座をしている様子を眺めながら、ナダルがベッドに横になる。宿とは比べ物にならないレベルのふわふわ感がナダルを襲い、そのまま一瞬で眠りについてしまった。




