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転生

 千年前、モンスターの出現により人類は壊滅的被害を受けた。そこに突如として現れたのが、今現在勇者と呼ばれている、フユキ・ジルフォードだった。


 圧倒的に洗練された剣技や徒手武術、さらにはそれまで人間に扱えなかった魔法をも操り、モンスターを殲滅して行った。彼に技を教わった3人と共に魔王を討伐し、千年の安寧がもたらされた、というのがナダルの知っている知識だ。


「何度も言うように奴は化け物じゃ、魔法の威力も四大精霊の本気を超えとる」


「シルフ達以上か・・・」


「そしてそれを無制限にぶっぱなしてくるんだよ、恐ろしいったらありゃしない!」


 シルフが憤慨しながら語る。ウンディーネも泣きながら頷き、事の深刻さがひしひしと伝わる。


「てか、なんで千年前の勇者の技がどうたら知ってるんだ。8歳くらいだろお前」


「失礼なやっちゃのう!余は今年で21じゃ!お主より年上じゃ!」


「えええええ」


 21ならばアレスと同年代である。ナダルは有り得ないという顔でリルを観察した、丸っぽくやや大きい顔、微妙に細い手足、どこからどう見ても10代以下である。


「まええわ。さて、ジルフォードについてじゃが、お主は異世界という物を知っておるか?」


「イセカイ?」


「なんじゃ知らんのか。こことは文化も文明も何もかもが異なる世界じゃ」


 リルの話によれば無限に存在する異世界の1つがこの世界であり、文明が進んだ世界、既に生命の消え去った世界など様々な世界があるようだ。


「生命とは生まれ変わる。生まれ落ちて死に、生きた記憶が消えてまた別の生命体に生まれる、その転生のサイクルを世界が滅びるまで繰り返すのじゃ」


 リルが両手をクルクル回しながら話す。その回していた右手を離し、左手から遠ざけた。


「しかし、時に違う世界に生まれ変わる者がいる。異世界転生者、とでも言うべきかの」


 聞きこんでしまっているナダルと精霊達を見ながら、リルは続ける。


「勇者ことフユキ・ジルフォード。奴はそう、異世界転生者じゃ」


「異世界・・・転生」


「ま、正直異世界転生自体はそう珍しくは無い。その辺の虫なんかも前世は異世界の魚かもしれんからのう。珍しいのは人から人への転生じゃ。こうなるともう手が付けられん」


 フユキ・ジルフォード。圧倒的な剣技と徒手武術は異世界の技術であり、魔法の才は神に授かった力だと説明される。神は世界に一柱だけ存在する上位存在のようだ。


「恐らくは、神ミアレスの送った対モンスター用兵器。モンスターを滅ぼすためだけに投入された意図的な転生者じゃな」


「・・・難しくてよく分からん!」


「ま、とりあえず勇者は異世界の人間。とでも覚えておくんじゃ。例の首飾りの類いもちいと能力で作ったんじゃろな」


 精霊達とリルがミアレス様に対する文句を垂れ流しまくり、部屋がワーワーギャーギャーと騒がしくなる。部屋の明かりを消し、全員が大人しくなるのを待った。


「酷いんだよあの化け物。ユイレみたく契約も無しに魔法使うし何回死にかけた事か!」


「ウチも死にかけはったなあ。でも先に死にはったのは化け物の方だったどす」


「アタシは会った事ないけどイフリートに愚痴を聞かされまくってうんざりだね」


 精霊は眠らないため、静かになる事は無かった。精霊達はぐっすり眠っているナダルの横でリルと日が昇るまで話していた。


 リルの目的地は魔王城、ナダル達の目的地はラジーネであるため十日ほどの別れかと思われたが、リルもラジーネ近郊に用事があると言い着いてきた。四人は話しながら下山する。


「用事ってなんだ?リルより先に魔王城に行くやつがいるかもしれないだろ?」


「あぁ?お主、まさか結界を知らんのか?」


 ネルロハ大陸にある四つの建築物、この中には磁場発生装置があり、人間の侵入を防いでいる。


「ラジーネの近くに、磁場発生装置があるってこと?」


「そういうことじゃ。お主小さい癖に理解早いのお」


 リルがユイレを撫でる。幼女が幼女を撫でているようにしか見えないが、これでも21歳と7歳である。


「確か街を離れるとピラミッドがあります、そこにあるかもしれません」


「ま、とりあえず磁場発生装置?をぶっ壊せばいいんだろ?魔王城に行けないなら、俺も喜んで協力するぜ」


「お主と余はぱあていめんばあじゃろ。始めから拒否権などないわ、ついてくるのじゃ」


 下山を終えた一行。麓には草原が広がっており、さらにそこを超えると砂漠に辿り着いた。まだ多少暑いくらいだが、この先には猛暑が待っている。あと5日、地獄の砂漠地帯を歩かなければならないのだ。


 砂漠の砂に足を取られ、かなり歩きにくい道が続く。確保していた水も重く、さらに歩みが遅くなる。


「・・・何か来ます。お二人とも、対処をお願いします」


 遠くから何者かが土煙を上げて近づいてくる。赤い甲殻に身を包み、巨大なハサミと毒針を備えた巨大な節足動物。紅サソリが三匹、ナダルらを感知し襲って来たのだった。


「やつの毒は危険じゃ。刺されたら最後内臓と骨が溶けて死ぬ、気をつけい」


「ああ、分かった」


 いくら生まれ変わるとしても、死ぬ事は嫌だった。転生なんぞ真っ平御免であり、逆にサソリどもを転生させてやろうという勢いでナダルとリルはサソリに突撃していった。

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