火の国、ユンラン
朝、まだ薄暗い時間帯にナダルは目を覚ます。そのまま木刀を持ち外へ出て、その辺を散歩しているであろう精霊達を探した。
「あれ?早いねぇ。まだ5時前だよ」
「シルフ、ノームとウンディーネを知らないか?シルフにも用がある」
「へえ、じゃ呼ぶから待ってて」
三秒程してが二人がやって来る。
不思議そうな表情を浮かべる三人にナダルは手を合わせ用を伝えた。
「頼む!魔法鍛えてくれ!」
ナダルはヴァンパイアロードとシルフの戦いを見て自身の魔法では力不足だと思い至った。
魔王の他にも、四天王と呼ばれる存在がいる。言ってしまえばヴァンパイアロードよりも強いため、今のままではどう足掻いても勝てないのだ。
「ボクはいいよ〜。鍛えに鍛えてしんぜよう!」
「シーサーペントを一撃で仕留められるなら剣を鍛えた方が戦力向上にはいいと思いますが」
「あーごめんなあナダルはん、土魔法は教えてくれんみたいどすわ。残念残念。ささ、シルフと一緒にあっち行きましょか」
「あ、ちょ。教えますから仲間はずれにしないでくださいぃぃ!!」
*
ウンディーネに連れられヴァンパイアロードが縛られている川上にやって来た。まだヴァンパイアロードは火傷と再生を繰り返しながら何かを叫んでいた。
「とりあえずウチが手本見せます。そしたら真似してくださいな。あ、あのモスキートが標的どす」
「モスキートとは私の事か!?失礼にもほどがあるだろう!というか早く解放しろ!」
「まだ生きてはるわ。元気な事やねえ」
ウンディーネが水魔法を放つ、ヴァンパイアロードの腹部分が丸々抉りとられすぐに再生した。
「よし、湧水!」
「よせ!やめろ!痛いものは痛いんだぞ!」
湧水がヴァンパイアロードに直撃する、がしかしヴァンパイアロードの身体は骨が折れたのみで抉り取られるようなダメージにはならなかった。
「魔力の属性変換率が悪いねぇ、ウンディーネちゃんが99%くらい、ナダルは75%くらいかな」
「まあまだ習得してから1日も経ってないですしね。風魔法でやってみましょう」
ヴァンパイアロードに向けてシルフと同時に鎌鼬を放つ。熟練されている現れか、ヴァンパイアロードの胴体を引き裂く事ができた。
「ぐわああああ!!!」
「風魔法は変換率85%って所かな、まあまあいい方だと思うよ」
「もっと放出量を増やせるといいですね、リラックスしましょうか」
その後も特訓は続いた。威力向上のトレーニングなので代償の血はいいと言われ、食事を振る舞う事にする。
血も料理も精霊にしてみれば嗜好品なので変わらないだろうという魂胆である。
荷物を取りにプレハブ小屋に戻るとユイレが溶けたゴーストを摘み食いしていた。
「うわあああ!!幽霊泥棒だぁぁぁ!!」
「違うの違うの!これはね!?」
*
溶けたゴーストを鍋で煮沸し、砂糖、アラウルネの蜜と混ぜる。完成したジャムをパンに塗って4人に振舞う。中々に好評だったためゴーストがいたらまた作ることにした。
やがて太陽が登ってくる。新しい1日の始まりだ。
「お、紅茶セットがある。ラザリエさんが置いといてくれたのかな。飲むか」
「紅茶、久しぶりに飲む」
ティーカップに紅茶を注ぎ海を眺めながら飲む。ウンディーネは緑茶の方が好きだったようでノームに押し付けていた。
「リアンさんも緑茶好きだったなぁ」
「誰?」
「俺の前いたパーティの人」
窓の外を見るとイカ焼きを食べる男達の姿が見える。紅茶を飲みながらナダルはリアン語りを続けた。
「神教の巫女さんだったんだよ。イザエラ皇国にでっかい神社があってそこで神事やってたんだ」
「ミレアスの宗教か、あんな化け物送り付けた超本神だよ、帰る時にぶっ殺してやるからな」
「どうした急に」
謎の殺意の波動に目覚めたシルフを宥めているとラザリエが入ってくる、ユイレに微笑みと一礼をするとナダルの隣で自分の分の紅茶を入れて座った。
「三日後に出発します、ユンランまでは四日ほどになりますのでご支度お願いします」
それだけ告げると再びユイレに一礼し去っていく。ティーカップを洗い再び特訓に出向いた。
太陽光でヴァンパイアロードが灰になってしまっていたため、三日間ゾンビやスパルトイ、ゴーストを狩り尽くす事になった。
三日後。水や土の魔力の扱いにもだいぶ慣れ、かなり高威力になっていた。特に風魔法は進化が著しく、シルフにも引けを取らない程の威力だ。
「準備万端。よっしゃ、出発だ!」
「ユンランまでは山道を登ります、魔王城に近い関係上モンスターはより凶暴になりますのでご注意ください!」
ナダルにヴァンパイアロード討伐を依頼した老人に別れを告げ、登山道を進む。この辺りは火山地帯のため火属性モンスターが多く見られた。
「キシャアアア!!!」
「せいやっ!」
エキドナを討伐したところで日が暮れ始めたため、野営の準備を始める。
現在地は山の中腹、周囲を見ると、麓の湖の奥に魔王城が見える。あの魔王城にこの世界を狂わせた張本人がいるのだ。
ラザリエのテントを貼っていると、複数のモンスターの気配がしてくる。ヘルハウンドの群れだ。
「ガゥルルル・・・」
「一、二、三・・・六匹か」
剣を構える。ヘルハウンドはワーウルフを黒くしたような見た目だ、しかし一般的なワーウルフよりも凶暴とされている。
三匹が早速噛み付いて来た。ナダルは鍛えた魔法を存分に奮う。
「鎌鼬!」
かつての鎌鼬とは一線を画す勢い。刃が3匹のヘルハウンドの体を破壊し尽くし、地面に血が飛び散る。
「ヴァウ!」
残っていたヘルハウンドが火球を放つ。剣でかき消し、距離を詰めて叩き切った。
ナダルは六匹を討伐し、動く速度も明らかに早くなっている事を自覚する。大量のスパルトイやゾンビの攻撃を回避し続けたためか、スピードも上がっていた。
安全が確保された事を確認し、テント貼りを終わらせる。完全に日が沈み、月明かりが大地を照らす。
3人で食事しながら、ラザリエが二人の関係について問う。
「お二人は兄妹ではないですよね、パーティでしょうか?」
「私がついて行ってるの。行くあてと帰る場所をナダルがくれるから」
「孤児、ですか」
ラザリエの表情が少し苦しそうになる。ユイレを撫で、再び話し始めた。
「私も昔は孤児でした。スラム街でひっそり死ぬはずだった私をメイド長が拾い、仕事を教えられ、今の私になりました。メイド長は私の救世主なんです」
「俺も孤児でした。なんか、三人揃って同じような身の上ですね」
「あら、それは偶然。誰に助けて貰えたのかお聞きしても?」
勇者パーティに拾われた事とその後の事を語る。過去の楽しかった思い出を引き出す、楽しい夜だった。
一行は長い山道を歩き、ついにユンランへと辿り着く。
熱気と湯気に満ちた街、屈強な冒険者の揃った最強の武力国家、火の国ユンラン改め、火山都市ユンランへ辿り着いた。
「皆様お疲れ様です!さて、ユンランといえばなんでしょうか!」
「温泉!」
ユイレが目をキラキラと輝かせながら答える。今までは冷たい水浴びで体を清めるのが主だったので、暖かいお湯につかれるのは久しぶりなのだ。
「正解です、流石ですね!という訳で温泉に入りましょう!」
冒険者ギルドが温泉を解放していたので向かう。男女で湯が別れている訳ではなく、時間帯で男湯と女湯が切り替わるシステムだったので、ナダルは冒険者ギルド内で時間を潰す事にした。
*
ギルドのテーブルで軽食を取りながら、ギャンブルをしている他の冒険者を見ていると、女の子の声喧嘩する声が甲高くギルド中に鳴り響いた。
「それは余のぽていとうじゃ!返すのじゃ!」
「お前みたいなチビにゃもったいないねぇ!あー!うめえなぁ!」
女戦士と少女がポテトを奪い合いながら冒険者の注目の的になっていた。
少女は見た目の割にかなり凶暴でありポテトを貪り食いながら女戦士を叩きのめした。
冒険者達の賞賛が女の子に向かって飛び交う。
「フン!雑魚が!」
女の子は鼻を鳴らし、再びポテトを貪り始める。そこで何かに気が付いたような表情をすると、ナダルに向かって鼻をくんくんとながら近づいてきた。
「な、なんだよ」
上目遣いでナダルを見上げながら周りをグルグルと回る。正面でピタリと止まると、指をさして言い放った。
「貴様!余のぱあていめんばあになれ!」
「は?」
ギルドが静まり返る。ナダルが言われた事を理解するのにそう時間はかからなかった。




