97話 カタコンベ探索
「あの、ルナさん。これ」
階段を下りきった所で、ショコラがわたしに遠慮がちに声を掛けてきた。
「ん? どうしたの?」
わたしはショコラに振り返ると、ショコラが差し出している手元を見て「ああ」と得心する。
ショコラの手には先ほど手渡したダガーワームが握られていた。
そういえばと、まだ返してもらってなかった事を思い出す。
「ショコラ、ありがとね」
「はい」
わたしはショコラから、ダガーワームを受け取ると礼を言った。
といっても、もうあまり必要はないんだけど、と心の中で苦笑する。
元々、MTTB養殖プラントの手掛かりを持っているという狂猫という猫を探すために、このダガーワームでダウジングしていた。
だけど、それをすっ飛ばしてMTTB養殖プラントそのものの方が先に見つかってしまったので、このダガーワームダウジングはそんなに役に立たなかったという事になる。
とはいえ、こんな所に捨てていくわけにもいかないので、一応持っていく。
地下に着くと、ちょっとしたホールくらいありそうな広さの細長い部屋に出た。
カタコンベというのは地下墓所の意味で、墓所というだけあって壁には一面の石棺が納められている。
「ちょっと、怖いです」
「ね、あそこの壁なんて骸骨積んであるし」
正直こういう雰囲気は苦手なので思わず声が小さくなってしまう。
「さすがに本物はカタコンベホテルよりも雰囲気ありますね」
「カタコンベホテル?」
「カタコンベみたいな超低価格なカプセルホテルですよ。前に、話しましたよね?」
「ああ、うん」
そう言えば、聞いたかも。確か低価格だからショコラはよく利用してたって話をしていたような気がする。
「こんな感じなの?」
「ここまでリアルではないですけどね」
そう前置きして、
「でもあれが、カタコンベホテルと呼ばれる所以はわかりました」
そう言うと、ショコラが苦笑した。
「ふぅん」
わたしが頷いていると、ショコラが付け加えるように言った。
「あまり寝心地もよくないですし」
「でも、一回くらいは泊まってみたいかも」
「石がゴツゴツしてて、きっと寝れないですよ」
わたしが提案するように人差し指を立てて言うと、ショコラがそれを打ち消すようにヒラヒラと手を振った。
わたし達は、その壁に納められた石棺を横目に見ながら、おそるおそる奥へと進んでいく。
そして、行き止まった所で足を止めた。
「ここが一番奥だな」
「エータが言っていたのはここね」
わたしが言うと、ミケが「ああ」と頷く。
「でも、どれでしょう?」
ショコラが壁一面に埋め込まれた石棺を眺めて、困ったように言う。
ショコラの言った通り、壁にはいくつもの石棺が納められている。
エータの言った事が本当なら、この中のどれかをどかすと地下通路へと続く更なる階段が出てくるという話だった。
「ルナ、ダウジングをしてみろ」
「え……」
ミケが言うのに、わたしがキョトンとする。
「あの、ミケさんそれは無駄なんじゃ……」
ショコラが言うのに、わたしもうんうんと同意する。
このダガーワームは、あくまでも持ち主の狂猫という猫に反応する。
つまりは、狂猫の場所を探すのには役に立つのかもしれないけど、正解の石棺を当てるといったような本当のダウジングのような事が出来るわけではない。
わたしがそう思って渋っているとミケが、
「いいから」
と言って催促する。
わたしは釈然としないものを感じながらも、ミケの言った通りにダガーワームを構えると、その切っ先を壁に納められた石棺の一つずつに向けていった。
上から順々にダガーワームの切っ先を向けていき、それが中ごろに差し掛かった時だった。
切っ先が、ある一つの石棺を指すと同時に、ダガーワームが勢いよくブルブルと震えたのだ。
「きゃっ」
あまりのバイブ感に、思わず取りこぼしそうになる。
「ミ、ミケ……」
わたしが困惑しながら見つめると、ミケは無言で頷きダガーワームが反応した石棺を調べ始める。
叩いてみたり、引いたり押したりしていたが、力強く石棺を押した時、カチと何かがはまったような音がして、石棺が納められている壁自体がズズズと重たい音と共に奥へとスライドし、階段が出現した。
「……階段出てきた」
「やったな」
ミケがグッと親指を立てる。
いやいやおかしいでしょ。
「な、なんで……」
確かにわたしがやったんだけど。まさか本当にダウジングでわかってしまうとは、言われるがままにダウジングしてたけど、思わずびっくりしてしまう。
わたしが目をぱちくりさせていると、
「もしかして、中にいるんでしょうか?」
「多分な」
ショコラが眉を寄せながらミケに言うと、ミケが目配せをしてそう返す。
二人で勝手に納得するのやめてほしい。
「どういうこと?」
わたしが訊ねると、ミケはわたしが持っているダガーワームを一瞥すると、
「狂猫もここを通ったって事だ。だから、一番触ったであろう石棺にダガーワームは強く反応したんだよ」
「じゃあ、中にその狂猫って猫もいるって事?」
「元々、奴も目的は同じはずだからな。この入り口が本当にMTTB養殖プラントに続いているなら、むしろ居て然りだろう」
確かに、よくよく説明されたらそれほどおかしな事でもないかも。ダガーワーム用済みとか思っちゃって、ごめんね。
わたしは手元のダガーワームに片目を瞑って、心の中で謝る。
っていうか……。
「って事は完全に先越されてるじゃん。急がなきゃっ」
わたしが慌てて階段を下ろうとするのに、ミケは肩を竦めると、
「いや、もうとっくに先は越されてるから。慌てずゆっくり行こう」
そう言って、わたしの腕を掴んで引き止めた。
「そうですよ、ルナさん。どこから魔物〈モンスター〉が沸いて出てくるか、分からないんですから。慎重に行きましょう」
ショコラもミケに同調するように、わたしの服の袖を掴む。
「えー……」
わたしはフグのように頬を膨らませるが、この場合向こうの方が筋が通っているので、反論も出来ない。
そりゃ、こんな時だし、慎重になるに越した事はないのはわかるけど……。
「わかったわ」
わたしははぁとため息を吐くと、二人に離してと目で訴えかける。
その嘆願を受けて、二人が手を離した。
「なら、石橋を蹴り飛ばしながら進むわよ」
わたしは二人に笑いかけると、たたっと早足で出現した階段を下りていった。
「あ、おい」
「もう、しょうがないんですから」
「ほらほら、早く!」
わたしは振り返ると、二人を手招きする。
ミケとショコラは、やれやれという風に顔を見合わせると、わたしを追いかけるように階段を下ってきた。




