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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
4章 ネコソギシティの騒乱
93/229

93話 チート能力にはご用心

「補助魔法?」


 最初に反応したのはミケだった。

 ミケはブツブツと唱えている雪之丞に対して、馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、


「一体どういうつもりだ? 身体能力を向上させる補助魔法は一定以上の身体能力を持つ猫には効果がないと知らないのか?」


 どうやら、雪之丞が唱えているのは補助魔法を使っているらしい。

 補助魔法については、グレーとキャットフォレストからの帰りのバスの中でミケに聞いた事があった。

 たしか、主に力の弱い猫が使うもので、身体能力の高い猫が使っても効果はないと言っていたはずである。

 強い猫が補助魔法によってさらに強くなれるなんて、おいしい話はないのだと話していた。


 わたしが思うに、彼ほど動ける猫が補助魔法をかけた所で、ほとんど効果はないんじゃないだろうか? ミケもそう思ったから、指摘したに違いない。

 しかし、そんなわたし達の反応をあざ笑うように、雪之丞はくつくつと笑みを漏らした。


「確かにその通りだ。補助魔法は弱い奴ほど効き易く、強い奴には効きにくい。それゆえに弱い猫が使うだけの産廃魔法。それが世間一般の評価。だが、俺は別だ」

「別……?」


 わたしが体の痺れに眉根を寄せながら訊ねると、雪之丞がニヤリと笑みを作り続けた。


「俺はこの世界に召喚された時からの魔法過敏体質でね。攻撃、回復、問わずあらゆる魔法が効き過ぎてしまう。攻撃魔法を喰らえば下位の魔法であっても上位の魔法のようにダメージを負い、回復魔法を受ければ、回復しすぎて肉が腐る。さらに自分で使えば、使用した魔法のダメージが自分に返ってくる」

「あ……」


 だから、さっきわたしに雷を落とした時に苦しそうにしてたんだ。


「この体質には苦労させられたが、代わりに一つのチートを俺に授けてくれた。それは、本来効きにくいはずの補助魔法が、この高い身体能力にも拘わらずマックスに効く、しかも重ねがけも可能。これがどういう事かわかるか?」

「……」

「つまり、理論上は補助魔法をかけ続ける事によって無限にステータスアップが可能だという事なんだよ!」

「っ!?」


 どんどんと加速度的に雪之丞のプレッシャーが上がっていく。


「そして、もちろん俺は全ての補助魔法と契約しているぞ」


 そう言うと、雪之丞は再び念仏を唱えるように補助魔法の名前を呟き始めた。


「補助魔法かけ放題の無限ステータスアップとはな……。まさにチートだな」


 ミケが苦々しく言うのに、雪之丞が呪文を並べていく。


「ロイヤルムーブアシスト・オン。アドインパクトサード・オン。ロイヤルコンセントレート・オン。ハイロイヤルムーブアシスト・オン。ファイナルアドインパクト・オン。ハイロイヤルコンセントレート・オン――」


 そして、ゆっくりと立ち上がると雪之丞はゆっくりとした動作で猫紫電を構える。


「うぅ……」


 わたしもゆらゆらと立ち上がると、猫村正を構えた。

 刀を構えるわたしの姿に、雪之丞は満足気に笑みを浮かべると、


「行くぞ……!」


 その瞬間、雪之丞の姿が消える。


「はっ――」


 そして気づいた時には、わたしの首元に刃が迫っていた。


「くっ!」


 猫村正で辛うじて受け止める。すると体がふわりと浮き上がった。

 あまりにも重たい一撃に、踏みとどまる事が出来なかったのだ。

 ふわりと浮き上がった体は為す術もなく、雪乃上が力任せに刀を振り抜くとまるで弾丸のように吹き飛ばされてしまった。

 そのまま建物の壁に衝突し、レンガの壁を突き破る。ガラガラと音をたてて瓦礫が体に落ちてきた。


「うぅ……」


 体に乗った瓦礫を振り払うと、刀の切っ先がそこにあった。


「――っ!」


 わたしは転がって、それを何とかかわす。

 わたしが居た場所に雪之丞の猫紫電が突き刺さった。

 わたしは反撃しようと猫村正を振るうが、すでにそこに雪之丞の姿はなく刀は空しく空を斬るだけ。

 背中に痛みが走る。


「あ……つぅ」


 背中を斬られたのだ。


「このっ」


 振り返りざまに刀を振るが、やはり当たらずに空を斬る。

 見れば、少し離れた距離で挑発するように剣をゆらゆらと揺らす雪之丞の姿が見える。いつの間に、あんな所に……。


 雪之丞が猫紫電を大上段に構え突進してくる。

 横に逃げようとした所で、わたしの肩口から鮮血がパッと散った。


「っ?!」

「置き斬撃もあるのを忘れるなよっ」


 置かれた斬撃。それがわたしの肩を切ったのだ。

 わたしは横に避ける事を諦め、刀を背に手を当てると、大上段から振り下ろされる雪之丞の斬撃を両手で受け止める。


「ぐっ……」


 なんて重たい一撃。バリバリと音を立てて、地面に敷き詰められた石レンガを割り足がめり込んでいく。

 さらにもう一撃を加えんと、雪之丞が刀を振り上げた所で、わたしは三重の斬撃によってこれを弾き、距離を取った。


「はぁはぁ……」


 前屈みになり、荒い息をつく。

 やばい。辛うじて目で追えるようにはなってきたけど、パワーに差がありすぎる。


「もう終わりだと思ってるのか。まだあるぞ。――マイティアップ・オン!」

「っ……!」


 さらに、雪之丞の圧力が増す。

 補助魔法ってどんだけあるんだろう。その辺の知識はまったくないんだけど、さすがに打ち止めだと信じたい。


「ああ、もうっ」


 とにかくもう、出し惜しみはしていられないっ。

 雪之丞が突っ込んでくる。


 わたしは暴風のように襲い掛かってくる雪之丞の重たい剣戟を、防戦一方になりながらも斬撃を三重に束ねて打ち返す。

 しかし、それでも防ぎきれずに受け止める度に細かい傷が増えていった。




「このままじゃルナさんが、死んじゃう」


 ショコラが悲痛な面持ちで声を上げる。

 もはや、彼女の目には満足に姿が追えていないのか、時折見当違いな場所を見つめながら話していた。


「ショコラ達も援護しましょう」


 ショコラが提案するのに、ミケは「いや」と首を振った。


「駄目だ」

「なんでですかっ」

「あのスピードだと魔法はまず当たらない」


 広範囲の魔法を使えば、当たるかもしれないがそれだとルナも巻き込んでしまう。


「なら、せめて回復魔法だけでも……」


 そう言ってショコラがニャルラトフォンを操作しようとするのをミケが止める。


「今、変にあいつの集中力を乱すのはよくない。もう少し様子を見よう。相手に対応してきてる」

「そ、そうなんですか?」


 ショコラが驚く。

 ミケが、ああと頷く。

 ショコラの目には断片的にしか戦いが映っていないだろうから、判らないのかもしれないが、あの雪之丞とかいう侍が補助魔法でドーピングをかけてから、最初は全く歯がたたずに防戦一方だったルナも、驚くべきスピードで対応してきている。

 補助魔法かけ放題の、無限ステータスアップも大概チートだと思うが、ルナの成長速度も驚異的と言わざるを得ない。


 今は相手の攻撃をいなしながら、反撃する余裕が出てきていた。もっとも空を斬るばかりで相手には、まるで届いていないのだが……。


「もしルナが倒されたら、その瞬間に介入する」


 あいつが自分で言っていたように魔法に激弱なら、タイミング次第で瞬殺出来る。

 わざわざ、ルナのように相手の領域で戦ってやる必要はなく、そもそも、すでに決闘の約束を反故にした相手に正々堂々もない。


 不意打ち万歳。

 ミケは上位の暗黒魔法を待機させたニャルラトフォンを握り締めると、二人の戦いの行方を見守る。


「ルナ……」


 暫く剣を切り結んだ後、ルナが刀を鞘に納めるのが見えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >回復しすぎて肉が腐る ガン化と同じくらい恐ろしい(゜Д゜;) そしてこれは……トリモチとかのトラップじゃないと捕らえられないぜ(゜Д゜;)
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