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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
4章 ネコソギシティの騒乱
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92話 百夜の剣

「う……」

「あ、やっと気がついた。よかったです」


 ミケがうっすらと目を開けると、片手にニャルラトフォンを握り締め、ミケの回復に努めているショコラの姿が目に入った。

 ショコラはミケが目を開けたのを確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。


「つっ……、ショコラか」


 ミケは自分に手を翳しているショコラと、回復の光に包まれている自分の体を交互に見た。


「俺は……?」

「覚えてないんですか。ミケさんは斬られたんですよ」

「斬られた……」


 言われると段々と思い出してくる。

 侍の格好をした怪しい男と対峙していたこと。

 そして、その男に剣を突きつけた。

 その後は……。


「ああ、思い出した。あのクソ野郎」


 その後。凄まじい剣速で斬られたのだ。

 いつ相手が剣を振りかぶったのかさえ見えなかった。

 まさか突然斬りかかられるとは思っておらず油断していたとはいえ、不覚を取りすぎたと言わざるを得ない。

 ミケは頭を被り振ると改めてショコラを見た。


「それで、どうなった?」


 ミケが訊ねるとショコラは不安そうな顔をしながら、


「今、ルナさんが戦ってます」


 チラリと視線で指し示した。ミケもその視線の先を追う。

 すると、ルナと先ほどの男が少し距離を取り対峙しているのが見えた。


 膠着状態なのだろうか。

 お互い動かずにただにらみ合っている。

 すると、バチバチと青白い火花のようなものが、ルナの周りに現れた。

 そしてそれはすぐに定規で空中に引かれたかのような青白い線となりルナに近づいていく。

 やがて、線同士が重なりあいルナを囲む籠のような形状へと姿を変えた。


 よく見ると相手の得物も代わっており、電気を帯びた刀を持っている。


「一体どういう状況なんだ?」

「ショコラにもよくわかりません。でも、このままじゃルナさんが……」


 そう言うと、ショコラは睫を伏した。


「……」


 ミケは目を細める。

 何か技を仕掛けられているのは確かなようだ。


「もしかしたらライトニングディメンション系の何かかもしれないな……」


 ライトニングストリングスという雷糸を生み出す雷魔法がある。

 そしてその雷糸を網目状に編んだ上位魔法にライトニングディメンションというものがあったはずだ。


 相手が使っている魔法はそのライトニングディメンションのバリエーション魔法かもしれない。

 たしか主に投げ網漁業を行う、漁師を副業にしている使い魔の間でよく使われている魔法だったはずだ。


 本来は普通に雷の糸で攻撃するという魔法のはずだが、あまりにも漁業に使われるために、もはや開発魔法会社もそちらに力を入れているという有様で、完全にそっち方面で有名になってしまっている。


「あの、多分魔法じゃないと思うんですけど」


 そこまで考えて、ミケの思考はショコラの声によって中断される。


「どうしてそう思うんだ?」

「あの……、お二人が戦う前に魔法は使わない真剣勝負だと言ってましたから」

「……」


 ミケはショコラの言葉を受けて、再びルナ達の戦いに目を向けた。

 どこまで相手がその約束を守っているのかは知らないが仮にそうだとするならば、あれは剣技の一種という事になる。

 確かに極められた武術は魔法と区別がつかないとよく言われたりもするが。

 だとすると、仕掛けはあの剣か。


 男が持っている雷を纏った刀を見つめながらミケがそんな事を考えていると、ルナが自身の刀を鞘に収めるのが見えた。


「ルナさん……」


 ショコラが心配そうに見つめる。


「ルナのやつ。あれをやる気だな」


 ミケが口元を緩めて呟いた。

 ショコラがそれを聞きとめて、ミケを見た。


「ショコラ、心配するな」

「ルナさんが何をしようとしているかわかるんですか?」


 ショコラが訊くと、ミケが頷いた。


「ああ、昨日夜中に叩き起こされて練習につき合わされたんだよ」

「そうですか、お二人で夜のレッスンを……」

「いや、その言い方はちょっとどうかと思うけど」


 ミケはショコラにそう言ってから、ルナに目を移しニヤリと笑みを作る。


「とにかく、あの技は一瞬百斬――」


 ルナが刀を鞘から引き抜く。


「あの網がどんな技だったとしても、問題ない」







「百夜〈びゃくや〉!!」


 掛け声と共に猫村正を引き抜くと、鞘走りによる一閃と共におよそ百に及ぶ斬撃が現れる。

 纏うように出現した斬撃は、わたしを取り囲んでいた幾重にも重なりあった青白い斬撃。

 雪之丞が雷火の檻と呼んでいた斬撃の囲いを一瞬で切り飛ばした。


 これが現在、わたしが増やせる斬撃の最高値。

 納刀状態で溜めに溜めて放つ抜刀術。


 その数は、およそ百。

 だから名前は百夜にした。

 ほんとは百爪剣〈ひゃくそうけん〉って名前にしようかと思ったんだけど、ミケに剣技に剣がつくのは頭痛が痛いと同じだぞ。

 と言われてしまったので、こっちにしたのだ。

 ちなみに百夜は、夜に思いついた斬撃百個の技の略である。


 纏〈まとい〉の技術を用いて、わたしを取り囲む雷火の檻を構成する斬撃一つ一つに丁寧にあわせるように、百夜の斬撃を重ね合わせて斬る。

 それによって、わたしを取り囲むマスクメロンの網目のような電気を纏った青白い斬撃の檻は一瞬に内に霧散した。


「な、なにっ」


 突然の内に雷火の檻が消え去ってしまった事で、あからさまに雪之丞が動揺するのが見えた。


「……っ!」


 チャンス……っ。

 わたしは眼光を鋭くすると、勢いよく足を踏み切る。

 そして、そのまま疾風のように雪之丞の懐へと飛び込んでいった。


「くっ……!」

「はぁっ!」


 そして勢いよく猫村正を振り下ろす。

 雪之丞はなんとか猫紫電で受け止めるが、勢いを止めきれずにバランスを崩す。

 わたしはそこを逃さすに、さらに追い討ちをかけるように大きく振りかぶった一撃を浴びせる。


 もう、感電が怖いとか言ってる場合じゃない。


 アウトボクシング大作戦で逃げ回ってやっと巡ってきた好機。

 わたしは雪之丞の一瞬の隙を逃さすに、畳み掛けるように鋭い斬撃を繰り出し続けた。


 金属同士がぶつかり合う甲高い音が何度も響き渡り、剣と剣がぶつかり合う周囲には赤い火花と青白い稲妻が奔りまるで花火のように散る。


 そんな剣戟の嵐の中で、ついに猫村正が相手の刀を弾いた。

 胴ががら空きになる。


「ここっ!」


 わたしは刃を返すと、深く沈み込むと横一閃に猫村正を振るった。


「――っ」


 雪之丞は体を捻るように逃がし、後ろへと飛ぶが間に合わない。

 かわしきる事が出来ずに、猫村正の切っ先が雪之丞の胴に一筋に裂いた。


「ぐぅっ……」


 距離を取って着地した雪之丞が膝をつくのが見えた。

 傷を押さえながら、雪之丞が顔を歪めている。


「ふぅ……」


 わたしは呼吸を落ち着けるように、胸に手を当てると息を吐き出す。

 なんとか、勝てた。


「どうする、まだやる?」


 わたしは座り込み雪之丞へと、歩み寄ると口元に笑みを湛えて声を掛けた。

 雪之丞の傷口からは、血が滲み着物に真っ赤な染みを作っている。


 いくらとっさに後ろに飛んだとはいえ、致命の間合いとタイミングで斬りこんだ一撃を回避しきれるはずはなく、彼の負っている傷はかなり深いもののはずだ。


 そんな深手を負いながら戦いを続けても結果は火を見るよりも明らかで、それがわからないほどの腕ではない。

 それは戦ったわたしが一番よくわかっている。


 雪之丞は顔を歪めながら、わたしを見上げると、


「ここまで強いとは……な。……お前、名前は何と言ったっけ? パーティ名は?」

「え、ルナだけど。家猫同盟のルナ。っていうか戦う前に名乗りあったんだから、いい加減覚えたらいいのに」


 すっかり頭に入ってないなら、あの武士の礼儀とかいう名乗りの儀式は、一体なんだったのかという話なんだけど。心の中で苦笑しながら突っ込む。


「これから殺す相手の名前なんぞ、いちいち覚えているわけがない」


 雪之丞は吐き捨てるように言うと、思考の糸を辿るように目を細める。


「家猫同盟か……聞いたことがないな」

「そりゃまあ。だって、まだ結成したばかりだもん」

「お前達、家猫なのか?」


 雪之丞が訊ねるのにわたしは頷く。


「うん、だから家猫同盟にしたの。わたし達が活躍したら、家猫の地位もちょっとは向上するかと思って」

「家猫か……」


 そう呟くと目を閉じて沈黙する。

 な、なんなのよ。わたしは困惑していると、少し離れたところからミケの、わたしを呼ぶ声が聞こえてきた。


 そちらを見ると、ショコラに抱き起こされたミケの姿があった。

 よかった。意識が戻ったんだ。

 わたしはほっと安堵していると、ミケの叫び声が聞こえた。


「ルナ、上だ!」


 言われて上を向くと、わたしの頭上の遥か上に青白い稲妻を蓄えた電気の塊のようなものが浮いているのが見えた。

 そして、その電気の塊が一本の柱となって落ちてきた。


「きゃっ!」


 わたしは咄嗟に身をかわすが、地面に辺り弾けた電撃の一部をもろに被ってしまい体がビリビリと痺れる。

 それと共に今まで蓄積した分も一気に来てしまったらしく針で刺すように痛い。


「やはり甘ちゃんだな。もう勝った気でいるのか」

「あぅぅ……」


 わたしは痺れた体を押さえると、膝をつく。


「ぐっ……」


 雪之丞も苦悶の顔を浮かべ前屈みにうずくまる。


「おい、お前!」


 そんな雪之丞にミケの怒鳴り声が掛かった。


「今のはライトニングピラーだろう。魔法は使わないんじゃなかったのか?」


 ミケが言うと、雪之丞はミケを一瞥すると笑みを浮かべる、


「気が変わった。俺の全身全霊と全財産を賭けてこの女を殺してみたくなった!」

「なんだと……」


 ミケが睨みつけるのも厭わず、雪之丞は瞑想をするように軽く目を閉じる。


「……ムーブアシスト・オン。アドインパクト・オン。コンセントレート・オン。ハイムーブアシスト・オン。アドインパクトセカンド・オン。ハイコンセントレート・オン――」


 まるで念仏を唱えるような、雪之丞の声が辺りに響き始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >極められた武術は魔法と区別がつかない 娘々(ニャンニャン)書房刊ニャ―サー・C(キャット)・クラーク著『とある武術の剣書目録』より(ォィ >ミケに剣技に剣がつくのは頭痛が痛いと同じだぞ …
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