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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
4章 ネコソギシティの騒乱
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91話 雷火の檻

「っ?!」


 わたしは飛び込んできた雪之丞の一撃を猫村正で受け止めようとするが、直後に弾くと横に転がって逃げる。


 猫紫電を受け止めた時に、ピリリと手に微かに痛い感触があった。

 猫紫電が纏っている稲妻が、刀を通じてこちらにやってきたのだ。


 下手につばぜり合いなんてしてしまったら感電してダメージを負ってしまう。

 猫紫電が纏っている稲妻は静電気というレベルじゃない。

 おそらく握っているだけでも結構辛いはず。


 これは、普通の猫が使えるような刀じゃない。


 普段は使わないというのも納得の一本。マゾなの?


「くっ!!」


 瞬時に追い討ちをかけるように、青白い残像を残しながら雪之丞が斬り返してくる。

 わたしは辛うじて体勢を立て直すと、猫紫電の一閃を受け止めた。


 ビリビリと青白い稲妻が這うと共に全身を針でチクチクされているような痛みが走る。

 つばぜり合いはしない方がいいと思った直後につばぜり合いをしてしまった。


 でも、それも仕方がない。

 得物が猫紫電に変わった影響なのか。先ほどまでよりも、心なしか相手の剣速が上がっているような気がする。


「どうだ、猫紫電の一撃は」

「すごい痛い! こんなの持ってて大丈夫なの?」

「最初だけだ。じきにこの痛みが気持ちよくなってくるぞ」

「うわぁ変態ちっく……」

「それがこの剣に選ばれるって事だ!」

「――っ!?」


 グッと、押し込まれる。

 電気ショックを浴び続けたらそんな境地に至ってしまうのか。

 わたしには絶対無理そう。

 ああ、だからわたしにはあの刀の持ち主になれないって事なのかな。

 ある意味持ち主を選ぶ刀なのかも。

 ともかく、自滅はないって事だ。

 やっぱり普通に倒すしかない。


「はぁ!」


 わたしは力を込めると、刀を押し返して雪之丞を突き飛ばした。

 それと共に、わたしは距離を取る。


「つぅ……」


 微かに、わたしの体の表面に稲妻が奔っている。

 体も少し痺れているように感じた。

 あの電気は厄介だ。とにかく、距離を取ってなるべく猫紫電と接触しないように戦わないと、感電して先に参ってしまう。


 剣をぶつけ合うような戦いは最終手段。ヒットアンドアウェーを心がけないと。

 そう、心の中で戒める。


 わたしはある程度の距離感を保ちながら、牽制するように刀を振る。

 切っ先を撫であうような攻防の中で、時折青白い火花が散る。

 そして、隙を見つけては少し深く踏み込み相手に小さな傷を付けていった。

 名づけて、アウトボクシング大作戦。


 相手の刀の届かない所から、隙をついてジャブを斬りつけるのだ。

 幸い、わたしの方が移動のスピードも刀を振る剣速も若干速い。

 この戦法でわたしが遅れを取る事はないだろう。最後に弱ってきた所で、一気に懐に入って斬る。

 それが、わたしの作戦だった。


 石レンガのひっくり返った通路から、崩れた建物の残骸の上まで縦横無尽に駆け回りながら攻防を続けていく。


「……?」


 ふと、違和感を覚える。

 わたしが常に逃げて距離を取っているからそんな事になっているわけだが、相手もそれに付き合ってくれているような気がするのだ。


 雪之丞もわたしと同じように時折、明らかに届かないとわかる空振りなどを組み入れて必要以上に距離を詰めないように戦っているように感じられた。


 最初は単純に距離が詰められないからだと思っていたのだが、どうも、わざわざわたしの戦い方に合わせてくれているようだと感じられた。


 一体、どういうつもり?


 雪之丞の体には猫村正の切っ先が触れた際の浅い傷がいくつも出来ている。

 いずれは、細かな傷によりバランスを崩し大きな隙がやってくるに違いない。


 それは、わたしの目論見どおりなのだが、あまりに打開しようという意志が感じられないのが気になってしまう。

 向こうからすれば、なんとかしてつばぜり合う距離に持ち込むのが最善のはずなのに……。


「……ふっ!」


 わたしは雪之丞の斬撃から逃れるように、かつてお店だったであろう瓦礫から、道路に飛び降りた。

 やはり浅い。


 あんなんじゃ当たるわけないのに。

 わたしは追随するように瓦礫から飛び降りて、斬りかかってくる雪之丞から距離を取るために後ろに下がる。

 その時だった――。


「いたっ……」


 突然、背中に焼けるような痛みが走り、顔をしかめる。


「な、何?」


 確かめるように、背中に手を回すと手のひらにべったりと赤い血がついていた。

 背中をばっさりと斬られたのだ。


「なんで……」


 わたしが困惑しながら後ろを見ると、後ろにはわたしの血がべったりとついた一筋の線が浮いていた。


「……っ!?」


 な、何これ……。

 わたしが痛みに身を屈めながら目を瞬かせていると、目の前に立つ雪之丞が含み笑いのような声を上げた。


「驚いているようだな。何も隠し技を持っているのはお前だけじゃないって事だ」


 そう言うと、雪之丞は猫紫電をその場で振った。


「西表流剣術奥義ニャンクルナイ斬秘奥〈置き斬り〉。俺は思いを込めて刀を振る事で、斬撃を置く事が出来る」

「斬撃を……置く?」


 わたしは、むぅと目を凝らしてみる。そして、はっとなった。

 よくよく見ると、微かに風景に揺らぎがあるのがわかった。

 あの揺らぎが置かれた斬撃なのだ。

 そして、それは一つや二つではない。

 風景の揺らぎ、置かれた斬撃はまるでわたしを取り囲むように無数に存在していた。


 縦横無尽に逃げ回るわたしを追いかけるフリをしながら、雪之丞は斬撃を設置し続けていたんだ。

 その事に気づいて、思わず冷や汗が出る。


「……? 近づいてきてる?」


 そして、その置かれた斬撃は除々にわたしに近づいてきていた。


「気づいたか? 猫紫電によって生み出された置き斬撃は電気を帯び、お互いに引き合う性質を持つ。そしてお前の周囲に配置された斬撃は、全てお前に集まるように計算されて配置されている」


 それは……。

 わたしは目を細めて、全方位から近づいてくる斬撃を見つめた。


「ふっ、自分がどういう末路を辿るかわかったようだな。これが〈雷火の檻〉。西表山猫流剣術を極めた俺がさらに昇華させ、猫紫電と共に編み出したもっとも残酷な斬刑術だ。お前を取り囲む雷火〈ライカ〉の檻はお前をサイコロステーキのように細切れにするだろう。どうだ、わくわくしないか?」


 どんどん斬撃が近づいてくる。

 斬撃同士が重なり合い。まるでマスクメロンの網目のようにわたしを取り囲む。

 それまで景色の歪みでしかなかった斬撃は、重なりあった事が原因なのかバチバチと電気が弾ける音と共に、青白く発光していた。


「別に……」


 わたしは自分を取り囲む青白い網を見ながら呟くと、


「こんなの斬り捨てればいいだけでしょ!」


 勢いよく叫ぶと、その中の一つに狙いを定めると猫村正で斬りつけた。

 この程度の網。檻と呼称するのもおこがましい。

 真っ二つに切り開いてしまえばいいだけだ。

 そして、わたしが思った通りに、切りつけられた置き斬撃の網は真っ二つに裂けた。


「……くっ」


 しかし、近くにある別の置かれた斬撃から稲妻が伸び、二つに切られた斬撃を再び結び合わせるように、つなぎ合わせてしまう。


「無駄だ。この距離まで斬撃が近づきあえば、斬撃を破壊しようとした所で、斬撃が帯びた電気が干渉しあってすぐさま再生する。置かれた斬撃を斬ろうというなら、すべてを同時に斬りつけでもしない限りは破壊することは出来ない」

「……」

「あからさまな隙には気をつけるべきだったな」


 それ、わたしが言ったやつじゃん。


「ねぇ、同時に斬りつければいいって言ったよね」

「ああ、尤も百はあろうかというお前を取り囲む斬撃をすべて同時に斬る事など不可能だろうがな」

「わかった」


 わたしは猫村正を鞘に戻すと、「ふぅ」と息を整える。


「諦めたか、せめて最後まで足掻く姿を見たかったが仕方ないな。斬刑に散れ、せめて彼岸に咲く花のように」


 ポエムが聞こえてくる。

 雪之丞が煽るように言うのも構わず、わたしは目を瞑ると頭の中でカウントする。


 いち、に、さん……。


 青白く光る斬撃の檻が、どんどんと狭まってくるのがわかる。

 それでも、わたしは刀を鞘に納めたまま佇む。

 そして、狭まってきた斬撃が肌に触れようかという時。


 ……きゅうじゅうはち、きゅうじゅうきゅ、ひゃく!


 わたしは猫村正の柄に手をかけると、一気に引き抜いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] きっとコ○ンくんの増強シューズと同じ原理で身体能力強化されてるんだね(ォィ そして置き斬り……一度に複数の斬撃出るのもカッコいいけどこちもカッコいい(゜Д゜;)
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