87話 ダガーワーム・ダウジング
「ところで、そのMTTB何とかって場所はどこにあるの?」
「MTTB養殖プラントニャ」
「うん、それそれ」
潰せばいいのはわかったけど、どこにあるのかが判らなければ、どうしようもない。
わたしが訊ねると、ヤマネコは苦いものでも口に入れたように渋い顔をした。
「市の極秘チームも結局、所在を掴めずじまいだったって言ったはずニャ」
「って事はつまり?」
「まったく判らないニャ」
そう言うと、ヤマネコはあっけらかんと笑った。
「それを探すのも、クエストのうちニャ」
「えぇ……」
思わずテンションがだだ下がる。この街どんだけ広いと思ってるのだろうか。というか普通に考えたら無理では……。
「どうしよう……」
わたしは困った顔で、ミケとショコラを交互に見た。
「安請け合いするからだろ」
「何よ」
ミケが素っ気無く言うのに、わたしはむすっと睨みつける。
一緒に考えてくれてもいいじゃん。
「あの、じゃあ。ネットで検索してみるとか?」
ショコラがフォローするように言った。
「いや、ネットで検索してわかるなら、とっくにもうわかってるから」
「うぅ、そうですよね……」
ミケに言われて、ショコラがしょんぼりと耳を垂らして引き下がる。
ミケは、はぁとため息をついた。
「大体、こういう場合は地道に聞き込みをしたりして、怪しい場所を虱潰しに潰していくしかないんだが……」
「プロジェクト虱プレスですね」
「プロジェクト虱プレスだね」
思わずショコラとハモる。
ミケは無視すると。
「……だが、こんな状況だしな。とてもじゃないけど話を聞いて回れる状況じゃないし、それにもうそれは多分市の極秘チームとやらがすでにやっただろう」
「まあ、そりゃそうだよね」
多分、人員とか多そうだもん。
「後は、知ってる奴に直接を訊くかだな」
「でも、知っている方がいるなら苦労はしないですよね」
ミケの言葉に、ショコラが言った。
確かにショコラの言う通り、知ってる猫がいるなら最初からその猫に訊けばいいだけだ。
「ニャ……」
わたし達が話していると、ヤマネコが不意に声を上げた。
「知っている奴ならいるはずニャ。違うニャ? ミケ」
「ああ……」
ヤマネコが覗きあげるのに、ミケは口元に手を当てると、
「いや、でもアイツの居場所もわからないでしょう」
「ニャ~、それもそうニャ~」
ヤマネコは誤魔化すように笑みを作ると、クシクシと毛づくろいを始める。
「知ってる猫に心当たりがあるのね?」
わたしが期待を込めた目と共に訊ねると、ミケは「ああ」と呟いてから首を振った。
「いや、でもそいつを探すのも多分無理だぞ」
「でも、ちょっとでも手掛かりが欲しいじゃない? どんな猫? 名前は?」
わたしが訊ねると、ミケはあまり気乗りしない様子で説明してくれた。
それの猫はミケが英雄ショップに併設された酒場で会った猫で、どうやら、かなり前からMTTB養殖プラントを調べていたらしい。
そして、酒場でその場所を掴んだと話していたのだという。
「ふぅん。確かにその猫に訊いたら一発で判りそうね」
「そいつの目的も施設の破壊らしいから、もしかしたらもう仕事を終えてるかも知れないけどな」
ミケが茶化したように言うのに、わたしは「えー」と、不満を口にする。
「じゃあ、先に辿りつかなきゃ駄目じゃん」
「なんで、そういう結論になるんだよ……」
ミケのジト目に、わたしはむぅと細めた目を返すと、
「それで、名前は?」
そう言って先を促す。
ミケはやれやれと肩をすくめた。
「本名は知らない。でも、狂猫の二つ名で呼ばれてる」
「狂猫――」
わたしが確認するように、口にした時だった。
「ひゃうっ?!」
お尻の辺りにモゾモゾという感触を覚えて、思わず変な声を共に飛び上がり座り込んでしまう。
な、何?
「?」
「ルナさん、どうかしたんですか?」
「ルナ顔が紅いニャ。熱でもあるニャ?」
心配そうにみんなが覗き込んでくるのに、わたしは眉を八の字にして取り繕いの笑顔を作ると、
「へ、平気。なんでもないから」
座り込んだままでヒラヒラと手を振る。
「ふぅ……」
わたしは一度深く深呼吸すると、立ち上がるとお尻の辺りを擦る。
一体、なんなのよぉ。
そして、ベルトに括り付けていたハンカチに包まれたダガーを思い出して、取り外すとマジマジと見た。
もしかして、これが原因なんだろうか?
覆っていたハンカチを外すと、銀色の刀身が露わになる。
光が反射してキラキラと輝いていた。
特別、おかしな所はないように見えるけど。
「むぅ……」
わたしは眉間に皺を寄せながら、ダガーを見つめていると横からミケの声がした。
「なんだよ、それ?」
ミケが覗き込むと、銀色の刀身が粟立つように波打った。
「わっ」
わたしはその異常な様子に思わず声を上げる。
普通の金属は波打ったりしないはずなのに、手元のダガーの刀身はミケが顔を近づける度に、ざわざわと震えていた。その反応は、まるでミケの事を怖がっているようにわたしには感じられた。
まるで生きているみたい。
「ルナ、ちょっとそれ見せて欲しいニャ」
ヤマネコに頼まれて、ダガーをヤマネコの鼻先まで持っていってあげた。ヤマネコは難しい顔でそれを見つめると、
「ルナ、これどうしたニャ?」
首を僅かに傾けながら訊ねてくる。
わたしは、そんなヤマネコの様子を怪訝に思いながらも説明する。
「アグリアスって猫から貰ったの。正確には落としたのを拾ったんだけど、いらないからって」
「誰だよ……」
ミケが呟くのに、ショコラが顎に手を当てて思い出すように言った。
「ハンバーガーショップで店員さんを恐喝していた、怖そうな猫のお姉さんですよね?」
「そうそう」
ショコラが言うのに、わたしもうんうんと首を縦に振る。
そんなわたし達のやり取りを見て、ヤマネコは口元に手を当てながら、
「にゃるほど……」
と小さく呟いてから、ミケを見て言った。
「ミケ。これは多分、狂猫が持っていたダガーワームニャ」
「狂猫の……?」
それを受けて、ミケが険しい顔をしてダガーを覗き込む。刀身の粟立ちが一層強くなった。
「確かに言われて見れば、これはダガーワームですね。でも、どうして狂猫の物だと思うんですか?」
「襲われたオレが言うんだから、間違いないニャ。オレのネコフォースが囁いてるニャ」
「いや、そういう冗談はいらないんで」
ミケが言うと、ヤマネコはクシクシと毛づくろいをする。
「んにゃあ、まあ詳しくは話せニャいけど。ルナにダガーワームを渡した猫は狂猫と接触した可能性が非常に高いニャ。だから、狂猫の持ち物を持っててもそこまで可笑しくはないニャ」
「ああ、つまりは例の依頼者だと」
「ニャ~」
誤魔化すように、ヤマネコは猫の鳴きマネをする。
「ねぇ、ダガーワームって何?」
どうやら、二人にはこのダガーの正体が分かっているらしい。
だからって勝手に話を進められては困る。
わたしがそう言うと、ミケがわたしの手に握られているダガーを指差して、
「ダガーワームっていうのは、簡単には言えばダガーに擬態するヒルだよ」
「ひる?」
「要するに虫って事」
「虫なのっ!?」
思わず、ダガーから手を離して取りこぼしそうになるのを必死に堪える。
「はわわ」
「おい、落とすなよ」
ミケに注意されるも、ダガーの柄を掴む手がなるべく設置面積が狭くなるようにと緩んでしまう。
ゴキほどではないにしても、わたしは虫が全般的にあまり得意ではないのだ。
「ルナ、もしかしたら。そのダガーワームが手掛かりになるかも知れないニャ」
「手掛かりなるの? これが?」
わたしが訊ねると、ヤマネコはゆっくりと頷き、
「そのダガーワームは狂猫が飼っていたペットに間違いないニャ。オレ達は直接見せてもらった事があるから間違いないニャ。おそらく狂猫が落としたのが、巡り巡ってルナの手元にやって来たニャ」
「う、うん」
このダガーが、元々はその狂猫という猫の持ち物だという事はわかったけど、それがどう手掛かりになるというのだろう。
わたしがそう思っていると、心を読んだようにヤマネコが続けた。
「本人が言うには、長く飼っている間に魔力的な繋がりが出来るほど狂猫とダガーワームは深く繋がっているらしいのニャ。という事は、共鳴を利用してダウジングのような事が出来るんじゃないかと思うのニャ。ダウジングって知ってるニャ?」
「ええっと」
「振り子や金属の棒を使って、隠れたものを探し出す手法の事だ。ベトナム戦争の地雷探知なんかにも使われた事がある由緒あるオカルトだぞ」
「へー、そうなんだ」
ミケが補足するのに、わたしは素直に感心していると、
「ルナもやってみるニャ」
そう促されて、とりあえず言われるままにダガーの切っ先を前後左右に向けてみる。
すると、ある一つの方角に向けた時にダガーの刀身がブルブルと震えた。
それは丁度、街の中心に向けた時の事だった。
MTTBの出現密度が高い地域とも合致する。
結構いけるかも。どこまで信頼性があるかはわからないが、まあ、何も指針がないよりは遥かにマシといえるだろう。
わたしはダガーを下ろすと、ヤマネコに向き直った。
「ありがとう、ヤマネコさん。とりあえず、これで頑張ってみるわ」
ヤマネコにそう言うと、ミケとショコラを見た。
「やる事は決まったわね。狂猫という猫を探すわよ。で、所でなんだけど……」
わたしは目を左右に泳がせると、
「このダガーワームだっけ? ……って誰が持つの?」
上目遣いで伺うように二人の顔を交互に見た。
「俺は無理だぞ。かなり嫌われてるみたいだからな」
ミケが素っ気無く言う。ミケに押し付けようと彼にダガーを近づけると、再びダガーの刀身部分がざわざわと始める。
「ショコラぁ……」
甘えるような声でショコラの名前を呼ぶ。
「あの、ショコラも虫はちょっと……」
すごいあからさまに、後ずさられた。
「お前がそのまま持ってればいいだろ。別に今まで持ってて大丈夫だったわけだし、ゴキブリ以外なら我慢できるだろ」
「うぅ、出来るけど……」
「ルナ知ってるニャ~? シロアリは蟻の仲間じゃなくって、ゴキブリの一種にゃんだって~」
「ねぇ、ヤマネコさん。どうしても、今その話しなくちゃいけない?」
面白半分といった様子で言うヤマネコに、わたしはキッと視線の牽制球を飛ばすと黙らせる。
「まあ、そうだよね……」
いや、最初からわかってたけど。
再び手元に戻すと、ダガーのざわつきは治まった。
「懐かれてるみたいでよかったじゃないか」
「よかないわっ」
ミケは面白そうに言うのに、わたしはがっくりと肩を落とすと、「はぁ」と一息ついた。




