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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
4章 ネコソギシティの騒乱
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86話 ヤマネコからの依頼

「はぁ!」


 最後の一体の頭に猫村正を突き立てると、声になっていない断末魔の声と共にMTTBは塵となって消えた。


「ふぅ……」


 わたしはふわりスカートを膨らませて軽やかに地面に着地すると、額の汗を拭った。

 ボロボロになった街並の中、MTTBの残骸である黒い塵が、あちこちで煙のように立ち上がり風に流れていく。周りに敵の気配はない。


 これでとりあえずは打ち止めらしいと、緊張を解く。

 露払いをすると、猫村正を鞘に戻す。


 あの後、最初の三体は手際よく倒せたのはいいものの、次々に同種のMTTBが空や地中から沸いてきて、結局この場に転がっているMTTBの死骸は十数体に及んでいた。


 どうやら、あの時、彼らが円陣を組んで光をチカチカやっていたのは、仲間を呼んでいたらしい。

 そういえば、前にテレビの特番でみたUFOを呼ぶ儀式にちょっと似てたかも。


「ルナさん、お疲れさまです」

「ショコラもありがとね」


 途中から、ショコラに回復してもらいながら戦っていたので、あれだけの戦いをしたにしては疲労感がない。


「やっぱり治癒師〈ヒーラー〉一人いるだけでも違うよ」


 わたしが表情を柔らかくしながらショコラを見つめると、ショコラは照れたように顔を赤くして下を向いた。

 そして、思い出したようにポケットをまさぐると、


「あの、ルナさん。これ」


 そう言って、ニャルラトフォンを取り出し、わたしに手渡した。

 ショコラに預けていた、わたしのニャルラトフォンだ。

 そういえば、ショコラにはこの場所の事をミケに伝えて欲しいと頼んでいたのだった。


 ニャルラトフォンをショコラから受け取りながら、周囲を見る。

 建物は崩れ、道路には穴が空き、標識は折れ曲がっている。

 かなり、景色が様変わりしてしまっているが、大丈夫だろうか。


「あのショコラ、それでミケの事だけど……」


 おずおずと訊ねると、ショコラは「ああ」と頷き、


「大丈夫ですよ。この場所の地図情報をメールに添付して、ミケさんの携帯に送っておきましたから」

「へ?」


 なんか、すごい難しそうな事してた。いや、別に口で伝えてくれればそれでよかったんだけど。


「なので、もうそろそろ来るんじゃないですか」


 ショコラが言うと、遠くから「ルナー」とわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。

 タタタと小さな黒い影が、こちらに駆けて来る。

 そして、直前で大きく跳ねるとわたしの胸へと飛び込んできた。


「ヤマネコさん?」

「にゃあ、そうニャ。ルナ、元気してたかニャ?」


 わたしの胸の中で黒猫のヤマネコが、髭をぴくぴくとさせている。


「うん、元気だけど……」


 なぜ、ヤマネコさんが? なんだか分からないけど、とりあえず抱っこしなおして、頭を撫でてやる。


「はぅぅ、やっぱりルナは手つきがうまいニャぁ」


 ヤマネコはトロンとした顔をすると、手に顔を擦りつけてくる。


「二人共、大丈夫か?」


 そんな事をしていると、少し遅れてミケがやってきた。


「あ、ミケ」


 ミケは周囲を警戒しながら、駆け寄ってくるとわたし達を見つけて声を掛ける。


「わたし達は平気だよ」

「襲われましたけどね」


 わたしが言うのに、ショコラが付け加えるように言った。ミケは改めて周囲を見回すと、


「かなり、派手にやったみたいだな」


 そう言って、変わり果てた街並に目を細めた。


「まあ……」


 わたしは、わしゃわしゃとヤマネコさんを撫でながら苦笑する。


 いや、わたしがやったんじゃなくて、あくまでも街を壊したのは相手なんだけど。

 そりゃ、確かに刺突の勢いのままに、道沿いのお店の石壁に突っ込んで大穴をあけたり、信号機や標識の柱を片っ端からぶった切って相手を下敷きにしたりとかもしたけど、それは不可抗力だし。


「あまり無茶はするなよ。相手はA級だぞ。A級以上のMTTBは基本パーティで戦うもんなんだからな」

「わかってるわよ」


 来てそうそう説教しないでよ。とむくれる。


「本当にわかってるのか? 間違っても一人で複数体同時に相手にしようなんて――」

「はいはい、わかったって」


 ミケはわたしのお母さんなの? わたしはミケの言葉を遮ると


「それはともかく。どうしてヤマネコさんまで連れてきたの?」


 コホンと仕切りなおすように一つ咳をした。

 そして、ヤマネコさんの首元をかゆいところを掻いてあげるように、爪を立てて素早く刺激しながら、ミケに訊ねた。

 戦闘能力のないヤマネコをこんな場所にまで連れて来たら危ないんじゃないだろうか。


「それは、オレが説明するニャ」


 わたしに抱っこされて、首元を撫でられて目を糸のように細めていたヤマネコが言った。

 顔を上向きにして、わたしの顔を見上げる。


「実はルナにお願いがあるニャ。とある極秘クエストを受けて欲しいニャ」

「極秘クエスト?」


 何そのちょっとかっこいい響き。

 ヤマネコはこくりと頷くと、


「そうニャ。もうルナにしか頼めないニャ。クエスト受けてくれないかニャ?」

「うん、いいよ」


 わたしが二つ返事で答えると、ヤマネコの顔がパッと明るくなる。


「お前、マジ即決だな。まだ内容も聞いてないのに」

「ミケは聞いてるんでしょ? だから連れて来たくせに」

「いや、まあ……」


 ミケは頭を掻くと、目を逸らした。


「でも、ルナさん。内容は重要ですよ」


 ショコラが不安そうに言った。確かにショコラの言うとおり内容は重要だ。


「それで、わたし達は何をすればいいの?」


 改めて、ヤマネコに訊ねる。ヤマネコは「別に難しい話じゃないニャ」と前置きをすると、


「今、街に溢れているMTTBの出所を突き止めて、破壊してきてもらいたいニャ」


 さらりとした口調でそう言った。

 確かに内容自体は難しい話じゃなかった。

 MTTBが街に溢れてしまっているから大元を潰してくれというのだ。至って普通の依頼だと思う。

 それこそ、この内容を緊急クエストの内容にすればいいんじゃないのと思うくらい。


 わたしがそう思って口にすると、ヤマネコは罰が悪そうな顔をした。


「何が原因かは大体わかってるニャ。おそらくMTTB養殖プラントと呼ばれる場所から溢れてきていると思われるニャ」

「MTTB養殖プラント?」


 何それ?

 わたしが首を傾げていると、ミケが補足するように言った。


「要するに、MTTBの牧場みたいなもんだ。この街のどこかにあるらしい」

「ほぇ。育ててどうするんだろ?」

「さあな。食うんだろ」


 いや、食わないでしょ。

 心の中でミケに突っ込みを入れていると、ヤマネコが説明を続ける。


「実は市の方では随分前から、存在を疑っていて極秘チームを作って調査していたらしいんニャけど結局所在は掴めずじまいだったそうニャ。しかし、この事態になって正式に市の方から極秘クエストという形で依頼が来たというわけニャ」

「今度は本当に市からの依頼だそうだ」

「?」


 ミケが付け加えるように言ったのに、わたしがハテナを浮かべているとヤマネコがさらに続けた。


「市としてはこの事を公にしたくないのニャ。だから秘密裏に解決してほしいというわけニャ」

「それで、わたし達に」

「そうニャ。もうルナしか頼れる猫がいないニャ」


 ウルウルとした瞳で上目遣いに鼻をつんと突き出して、わたしを見つめながらヤマネコが言った。

 か、かわいい。そこまで言われると悪い気はしない。


「え、そ、そう。もう、しょがないなぁ。わかったわ。わたし達に任せて」


 わたしはテレテレと頷くと、ヤマネコの頭を撫でてやる。


「ニャ~。ルナは素直でいい子ニャ~。……全員このくらい馬鹿だといいのにニャ~」

「え、何か言った?」

「ニャ、何も言ってないニャ」

「……?」


 なんかボソボソと言っていたような気がしたけど、気のせいだったのだろうか。


「じゃ、早速クエストの受注ニャ。ルナ、ちょっと下ろしてニャ」


 わたしは、ヤマネコを地面にそっと降ろしてあげる。

 地面に降りたヤマネコは、お座りのポーズをすると目を閉じた。

 そして、暫くの間、瞑想すると、


「ルナ……、ニャルラトフォンをオレにかざしてニャ……」

「こう?」


 ヤマネコの言った通りにわたしはニャルラトフォンを取り出すと、ヤマネコの小さな額にニャルラトフォンをかざす。

 すると、『にゃおん』とクエストの受注が完了した音が鳴った。


「わ、クエストを受けられた。機械がなくても出来るんだね」

「まあ、普段は機械があるからやらないけどニャ」


 そう言うと、ヤマネコはふぅと息を吐いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 転移直後に比べると……回復付きとはいえ強くなったよねぇ( ´∀` )
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