76話 不思議なダガー
「どうしたんですか? それ」
わたしが手に持ったダガーを見つめていると、ショコラが訝しそうに指を指しながら言った。
「うん、ちょっとそこで貰ったの」
本当は、アグリアスが落としたのを拾ったのだが、まあ、欲しければやると言っていたので、貰ったといっても差し支えはないだろう。
しかし、見れば見るほど普通のダガーである。
特別な装飾があるわけでもないし、特別な形をしているわけでもない。シンプルイズベスト。ザ・ダガーといった感じだ。しかも、あまり刃が立ってなく。切れ味も大した事なさそう。屋台のくじ引き屋さんで、はずれクジの景品としてもらったとしても、まあ相応だなと思ってしまうくらいの品物のように見えた。
どうして、アグリアスはこんなダガーを持っていたのだろう。彼女の何を知っているわけではないけど、なんだかミスマッチな気がして違和感を感じてしまう。
「ちょっと、見せてもらってもいいですか?」
「え、うん。どうぞ」
わたしは手に持っていたダガーをショコラに手渡す。
ショコラは両手で、ダガーの柄の部分を両手で持ち、ジッと見つけると、
「これは……!」
「ショコラ、何かわかるのっ?」
「至って普通のダガーですね」
「見ればわかるって」
わたしはガクッと肩を落とす。無意味に溜めるのはやめて欲しい。
わたしはショコラからダガーを返してもらいながら脱力する。
「それで、それどうするんですか?」
「えっと、どうしよう」
「とりあえず、シュレディンガーの革袋に仕舞っておいたらどうですか?」
ショコラの提案に、わたしは「ああ」と声を上げる。
そうだった。今のわたしには倉庫魔法なんていう便利なものがあるのだ。とりあえずそこに突っ込んでおこう。
そうと決まればと、わたしはニャルラトフォンを取り出すと意気揚々と操作する。チコのお店で沢山やった操作なので、預ける方に関しては、もはやなんの問題もなく行うことが出来る。いや、出来ると思っていたんだけど。
「あれー?」
ニャルラトフォンの魔法ページからパッシブ魔法のオンオフ画面を表示させ、そこにあるシュレデインガーの革袋のボタンを押し魔法を起動させる。
それと同時に、出現した濃紺色をした空間の裂け目に、手に持ったダガーを放り込む。これで問題ないはずなのだが、何度やっても吐き出されてしまう。
「えー、なんで預けられないの?!」
何回入れても食わず嫌いをするように、空間の裂け目はペッとダガーを吐き出してしまうのだ。
いやいや、確かに倉庫魔法に食わず嫌いが存在するのは知ってるけど、それって生き物と生ものって話だったはず。
なのに、なぜかダガーが弾かれてしまう。
「故障でしょうか?」
「魔法に故障なんてあるの?」
「さぁ、ショコラも使ったことないのでわからないですけど……」
「うーん、だよねぇ」
全部セッティングはやってもらって、ただ使ってるだけの立場だと、こういうトラブルの時すごい困る。
「そうですね……」
ショコラは、ハンバーガーセットについてきた口拭きようの粗紙をクシュクシュと丸めると、わたしの隣まで来てぽいっとわたしの目の前にある空間の裂け目に放り込む。
「ちょっとショコラ。他猫〈ひと〉の倉庫魔法にゴミを投げ入れるのやめてよ」
わたしが半笑いを浮かべながら言うと、ショコラが至って真面目な顔で、わたしの持っているニャルラトフォンの画面を指差した。
「でも、ちゃんと預けられましたよ」
「え? あ、ほんとだ」
画面を見ると確かにショコラの放り投げた、紙ごみはしっかりとシュレディンガーの革袋へと預けられていた。先ほどのように、吐き出される事はない。
それならばと、もう一度ダガーを入れてみるが、やはり吐き出されてしまって預ける事は出来なかった。
「もしかして、こちらのダガーの方に問題があるんじゃないですか?」
「問題って?」
「それはわからないですけど……」
ショコラが口ごもる。問題、問題か……。
「実は精巧に作られたチョコレートとかっ」
「それなら、もう溶けてるんじゃ。でも、ナイフに見えて実はお菓子っていうのはあるかもしれませんね。ルナさん食べてみたらどうですか?」
「え……やだよ」
っていうかお菓子じゃないし。どう見ても。
「ふふ、冗談です」
ショコラが可笑しそうに笑みを作る。なんだか遊ばれてる気分。
「まあ、いいわ」
わたしはニャルラトフォンを操作すると、空間の裂け目を消失させる。
「入らないんじゃ、しょうがないもんね。ダガーはベルトにつけておく事にするわ。ショコラ後ろに付けてもらっていい?」
ダガーをショコラに手渡すと、お尻を向ける。
「付けるって言っても、刃がむき出しのままじゃ危ないですよ。ちょっと待っててくださいね」
そう言うと、ショコラはポケットからピンク色のハンカチを取り出して四つ折にすると、ダガーの刀身の部分に巻きつけると、そのままわたしの腰のベルトに括り付ける。
先ほどまで抜き身だったダガーの刀身は、ハンカチに包まれて腰のベルトにしっかりと固定されている。
動くのにも特別、支障はない。
「ん、ありがと」
わたしはショコラに礼を言うと、ポンポンとお尻のダガーを叩く。
「ひゃうんっ」
その時、なんだかダガーがブブブと携帯のバイブレーションみたいに震えた気がして、思わず、声を出してしまう。
「どうかしたんですか?」
ショコラがそんなわたしにキョトンとした顔をする。
「な、なんでもない」
わたしはヒラヒラと手を振ると、笑って誤魔化す。
うぅ、まだ足ツボマッサージの後遺症が残ってるんだ。無駄に敏感になってるから変な錯覚をしてしまうんだ。
わたしは取り繕うように、ポテトの容器を掴むと底に残ったポテトの残りを口の中に流し込むと、
「そろそろ行こっか」
そうショコラに声を掛けた。
「そうですね」
ショコラが頷く。
わたし達は食べ終わったゴミをゴミ箱に捨てた後、わたし達は広場を後にした。
後は、チグリスに頼まれたお使いをするだけだ。
わたしは行きに彼女から手渡された手書きの地図を取り出すと、改めて場所を確かめる。
うん、ここからあんまり遠くない。
わたし達は、煌びやかな街並を眺めながら、大通りを歩いていった。




