73話 足ツボマッサージ後日談
「グッジョブ、お疲れ様」
エミリーのいる受付テーブルへと行くと、エミリーが労いの言葉をかけてくる。
「おかげで沢山の魔力が集まったわ。本当にありがとう」
「いや、そんな」
「はい、これ約束のしまねこバーガーのハンバーガーセットの無料券。あなた達にプレゼント」
エミリーは机に置かれた箱からハンバーガーの無料券を二枚取り出すと、それぞれ、わたしとショコラに手渡した。
「後、こっちはナゲットの無料券ね」
さらに、もう一枚ずつ券を取り出すと、それもわたし達に手渡す。
「やったぁ、やっと手に入ったね。ショコラ」
「はい。やりましたね」
手渡された券を見ると、そこには確かにハンバーガーセット無料の文字。
忘れそうになってたけど、これを手に入れる為に、あれを受けたんだよね。
あ……。
ビクッと体が反応する。
思い出すと、なんだか体がむずむずしてしまう。
「大丈夫? 顔が真っ赤よ」
「あ……、うん、大丈夫……」
わたしが途切れ途切れで返事を返すと。エイリーが「はぁ」とため息をついた。
「無理もないわ。マイケルとジャックめ。奥義は使うなと言ってあったのに。私の言うこと全然聞かないんだから。そのあまりの気持ちよさに失神してしまう子が続出してしまったから使用禁止にしていたの。でも、あなたは大丈夫そうでよかったわ」
「失神って大げさです。確かに気持ちよかったですけど、普通の足ツボマッサージじゃないですか」
「彼らの奥義はね。もはや気持ちいいのレベルが違うのよ。いえ、レベルを通り越してカテゴリーも違うと言っていいわ」
苦笑を浮かべているショコラ、人差し指を立てながら真剣な声音でエミリーが言った。
「は、はぁ」
いまいち要領を得ないという様子でショコラが頷く。
「私達が迎え入れるまで、彼らは流浪の足ツボマッサージ師だったの。彼らはふらりと村や町を訪れては手当たり次第に猫達に足ツボマッサージを施していったわ。そして、彼らが村や町を後にする頃には、誰も立っている者はいなかった。なぜなら、あまりにも気持ちよすぎて皆、腰砕けになってしまったから。伝え聞く伝説によれば、彼らの訪れた村や町ではその後、三日三晩寝食も忘れて男女が……、いえ、これ以上は子供に話すような事じゃないわね。兎に角、それくらいすごいの。それ故に、力にリミッターをかけさせてたんだけど、どうやらルナ、あなた相手には本気にならざるを得なかったみたいで……」
「べ、別にいいよ。わたしも普通のじゃ満足出来なかったと思うし……」
くすぐったいだけで、きっと消化不良だったと思うし。
「うふふ、まっ、楽しんでもらえたなら、あの二人のジャッジの方が正しかったのかもね」
わたしが目を逸らしながら言うのに、エミリーはクスクスと笑みを浮かべる。
「べ、別に楽しんでなんか……」
「なんだか、ルナさんずるいです。もっとすごいのがあるなら、ショコラも体験してみたかったです……」
ショコラが少し残念そうに言うのを、エミリーは聞きとめるとショコラに営業っぽい笑顔を向ける。
「それなら、またぜひ献魔に来てくださいね。もちもちウェルカムよ。今度は、二人にもそう言っておくから。明日にはネコソギシティを出て、ネコエルフの里の方に行っちゃうけど。また戻ってきたらよろしくね」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「いや、止めといた方が……、ショコラって何気にチャレンジャーなのね」
わたしが苦笑を浮かべていると、こちらを見たエミリーと目が合う。
「ルナもね」
わたしは顔を逸らし、エミリーに流し目を向ける。
「……ま、気が向いたらね」
わたしが素っ気無く言うと、エミリーは思い出したように手招きする。
「あ、そうだ。ルナ、ちょっと耳貸して」
「?」
言われた通りにエミリーの口元に耳を寄せると、わたしの耳に息を吹きかけるようなヒソヒソ声が聞こえてきた。
「実は車内の声、私のインカムに駄々漏れなの――」
「……っ!?」
瞬間、これ以上ないというくらいバッと顔が赤くなる。
ずっと聞いてたの。わたしが言った。あんなことや、こんなこと全部っ。
「あんなに声出す猫初めて、聞いてる私の方が変になっちゃうかと思ったわ――」
「あの、その……あぅぅ」
顔を真っ赤にしながら、わたしはエミリーを見つめる。
そんなわたしにエミリーはクスクスと可笑しそうに笑った後、営業スマイルを作ると、
「シーユーアゲイン。またのご利用をお待ちしておりますわ」
そう言って、片手を挙げてわたし達を送り出した。




