72話 足ツボマッサージをしよう
黒ネコバスの中は座席がなく、代わりにいくつかの機材が置かれている以外は、ガランとしていた。薄く照らされた車内。柔らかい毛に覆われたふにふにとした床を奥へと進んでいくと、待ち構えるように二人の猫がわたしの前に姿を現した。
「よく来たわね」
「待っていたわ」
二人共ムキムキのマッチョの体に、サイズが小さすぎるのかピッチピッチのTシャツと短パンを着ている。おそらく兄弟か何かなのだろうか。二人はよく似ていた。
「いやいや」
それよりも突っ込まなきゃいけない事があった。
二人はどう考えても男の猫だと思うんだけど、まるで、女性のように濃いアイシャドウをばっちり塗って、唇には真っ赤な口紅をつけている。目元に付けられたつけ睫でおめめもばっちりである。
い、一体、なんなの?
わたしが口をあんぐり開けて、二人を見つめていると、メイクばっちりムキムキぴちぴち男の一人が、唇を尖らせて隣のメイクばっちりムキムキぴちぴち男その二に話しかける。
「あら、かわいそう。固まっちゃってるわ。ジャック」
「私達のあまりの美貌に、目が眩んじゃったのね。マイケル」
「美しさは罪、そうなのね。ジャック」
「さあ、目を覚まさしてあげましょう。マイケル」
そう言うと、ドス、ドス。という足音が聞こえてきそうな足取りで、わたしの元へと歩み寄ってくる。
「ちょ、ちょっと。なんなのよ。あなた達」
「私はマイケル。全ての性を超越し、美の極地へと至り賜うた罪深き獣」
「私はジャック。全ての美を超越し、性の極地へと至り賜うた罪多き獣」
「そう、私達はオカマ……」
「でも、安心して。私達は両刀……」
マイケルとジャックと名乗ったオカマの猫は、わたしの体を両脇からがっちりと抱えるとまるで息を吹きかけるように、左右の耳に息を吹きかけるように囁きかけてくる。
「いやぁ、ねっとり言わないで。あ、ちょっと……っ」
二人に抱え上げられてわたしの体が宙に浮く。満足に抵抗できないまま、わたしはネコバスの唯一残っている座席である後部座席に連れて行かれると、無理やり座らされた。
「な、なっ!」
状況が飲み込めず混乱していると、
「ジャック、この娘の靴を脱がすわよ」
「ええ、じゃあ、マイケルはそっちの足を脱がせて」
マイケルとジャックは二人で同時に、わたしの足に掴みかかると瞬く間に靴を脱がしてしまう。
「靴下も脱がすのよ。マイケル」
「言われなくても、分かっているわ。ジャック」
そして彼らの華麗な手際で、次は靴下を脱がされ、すぐさまわたしは素足にされてしまう。
そして、わたしが素足になったのを確認すると、マイケルとジャックは手に太い棒のようなものを手に戻ってきた。
「そ、そんなもので何するつもりなのっ?」
やっと混乱が収まり、喋れるようになったわたしはキッと二人を睨みつける。マイケルとジャックは分厚い唇を愉悦を楽しむかのように歪ませると、撫でるようにわたしの足に触れた。
「ひゃうん」
くすぐったさに、思わず声が出てしまう。
「もう、急かさないの。いまからじっくり説明してあげる」
「せっかちな女は嫌われるわよ」
「むぅ……」
わたしが湿り気のある視線を向けると、彼らは手元の棒をわたしに見せるように示した。
「これは足ツボ刺激型魔力吸引棒。技術の粋が集まった新発明……」
「しかも特許出願中……」
「この棒で、あなたの足ツボを刺激して、魔力を吸い出す……」
「そうこれは足ツボマッサージ……」
ねっとりした口調でマイケルとジャックが、魔力吸引棒を擦りながら説明してくれる。
「えっと、つまりは足ツボマッサージをこれからするって事?」
わたしが訊ねると、
「そういうことよ」
「ぐりぐりちゃうわ」
そう言って、二人は揃って頷いた。
なんだ、何をするのかと思ったら、足ツボマッサージか。無駄に警戒して損しちゃった。わたしは脱力すると、席に座りなおした。
「あなた、足ツボマッサージは初めて?」
訊ねられて、わたしはコクコクと頷く。
「あ、でも、足ツボマッサージって痛いんじゃなかったっけ? わたし痛いのは、ちょっと」
飼い主さまが垢すりに行った時に、足ツボマッサージを受けて痛かったって言ってたような気がする。
「それは偏見よ。足ツボマッサージは本当はとても気持ちいいの」
「私達は、究極の足ツボマッサージを習得するために、ひたすら山に籠もって修行を続けたわ」
「そして、気づいたらオカマになっていた」
「あなたにも、究極の足ツボマッサージを味わわせてあげる。さあ、あなたのあんよを晒し出しなさい」
そう言うと、マイケルとジャックはわたしの両足をがっちりとホールドすると、魔力吸引棒をあてがうと、足裏に強く押し付けた。
ぐいぐい、ぐいぐいと、棒の先端が足の裏をつつく。
しばらく、そんな事をされていたが、次第にマイケルとジャックの顔が曇り始めた。
「私達の技が通じない?!」
「くっ、この娘。手強いわ」
わたしは身をよじりながら、
「あはは、くすぐったいって。全然、駄目じゃない。痛くも気持ちよくもないわ。ただ、くすぐったいだけだもん。究極の足ツボマッサージも大したことないのね」
ショコラがすごいって言ってたから、どんなのかと思ったら。もう、ショコラってば大げさなんだから。
「煽られてるわ。ジャック」
「煽られてるわね。マイケル」
二人は一旦、わたしの足から手を離すと立ち上がった。
「仕方がないわね……」
「マイケル、あなたまさか……!」
「ええ、リミッターを解除するわ」
「……っ!?」
マイケルは手首に付けられたリストバンドを外した。
リストバンドが床に落ちると、ドスゥン! ドスゥン! と重たい音と共に床にめり込む。
「ふぎゃあああ」と、ネコバスの悲鳴が車内に木霊する。
「さあ、ジャック。あなたも……」
マイケルに促されて、ジャックも手首に付けられたリストバンドを外すと床に捨てた。再びドスゥン! という重たい音と共に、悲鳴と共に車内が大きく脈動する。
『――ジジジッ、もしもし、マイケル、ジャック。あなた達まさか奥義を使う気じゃないでしょうね。駄目よ。あれは――プッ』
エミリーからの通信を切ると、マイケルとジャックの二人はわたしの前に仁王立ちになった。
「さあ、ジャック!」
「ええ、マイケル!」
二人は手を繋ぐと、気合の声を上げ始めた。
「うおおおおおおおぉおおおおおお!」
「うおおおおおおおぉおおおおおお!」
な、なんなのっ。
思わずわたしは目を見張る。
威勢と共に、体の筋肉は肥大しみるみる大きくなっていく。そして声が途切れた時、肥大した筋肉によって彼らの体はふた回り以上も大きくなっていた。
ふしゅううううう……。
まるで蒸気機関車のように煙を吐き出す。
体からは、無数の湯気が立ち上り辺りを燻らせていた。
「この力を使うのは久しぶりね……」
「やり過ぎてしまうかもしれないわ……」
「そうなったら、ごめんなさいね……」
「でも、この力を使わせたあなたが悪いの……」
ギラギラと目を怪しく輝かせながら、マイケルとジャックはガシッとわたしの足を掴んだ。
「な、なんなのよ」
困惑を隠せないわたし。っていうか無駄に大げさすぎでしょ。
二人はそんなわたしの目を見ると、
「私達はきっとあなたに気持ちいいと言わせてみせるわ!」
「我慢しても無駄よ!」
「べっ、別に我慢なんか。気持ちよかったら気持ちいいって言うわ。まぁ、ほんとに気持ちよかったらだけど」
「その言葉、本当ね!」
「女に二言はなしよ!」
そう言うと、マイケルとジャックは魔力吸引棒をわたしの足裏へと押し当てた。
「――っ!」
え、何っ。
その瞬間、わたしの体がビクンと跳ね上がる。
先ほどまでとは比べ物にならない圧力を足裏に感じる。
「あっ……、はぅっ」
棒で足裏を突かれる度に、ジンジンと頭が痺れてしまうような電流が走る。体が火照り始め心臓の鼓動が早くなっていく。
「効いてるわ。ジャック!」
「もっと、突くのよ。マイケル!」
ズンズンと二人が勢いよく棒で突いてくる。その度に、わたしは身もだえしながら体をよじった。
どのくらい続いたのだろうか。
時間の感覚が麻痺してしまって、よくわからないがかなり経ったように思う。
「んん! んんんっ!」
わたしは口元を押さえ、必死になって声を出さないように我慢していた。
二人の棒は激しく攻め立てるように、わたしの足裏を突いてくる。その度にわたしはビクンビクンと魚が跳ねるように、激しく体を動かした。
「さあ、早く気持ちいいと言うのよ!」
「さあ、早く!」
「んん! んー!」
囃し立てるような二人の言葉に、わたしは目に涙を溜めながら口元を押さえて必死に我慢する。
「なんて強情な娘なの!」
「体の方はこんなに素直なのに」
「とんだ負けず嫌いだわ」
「このままじゃ埒があかないわね」
マイケルとジャックは魔力吸引棒を足裏に押し当てながら、目配せをする。
「アレをやるわ。ジャック」
「ええ、よろしくってよ。マイケル」
そう言い合うと、同時に魔力吸引棒を足裏から離す。
「んん、ん?」
突然消えた刺激に、わたしは困惑する。
「あなたがいくら我慢しようが関係ないわ!」
「快楽の津波があなたを飲みつくす!」
「修行の果てに身につけた私達の最終奥義!」
「受けなさい! 究極絶技!」
「エクスタシー・エクスプロージョン!!」
「エクスタシー・エクスプロージョン!!」
掛け声と共に、勢いよく二人の棒がわたしの足裏を突き刺した。
「んん! んんんん!」
まるで濁流のような衝撃が、わたしの体を駆け上がってくる。体は火照り、体はジンジンと痺れ、頭はフワフワと浮いてしまっているよう。もう、わたし……。
「わかったっ。わかったからっ。ごめんなさい、ごめんなさい。気持ちいい、気持ちいいからっ。だから、もうやめて。これ以上は……。あ、だめ、だめっ。なんかくる、なんかくるのっ。これ以上されたら、ルナおかしくなっちゃう。おかしくなっちゃうから。んん……!」
「やっと言ったわね」
「まったく、強情なんだから」
足裏から棒が離れる。
「あ……、やめちゃう……の?」
わたしはぼんやりと二人を見る。
「あら、そんなにもの欲しそうな目を向けて」
「そんなに、この棒が欲しいの?」
「ち、ちがっ、あ、あぅ、んん!」
わたしが言いかけると、再び二つの棒がわたしの両足を攻め立てる。
「はぅぅ、きちゃう、きちゃうよぉ。気持ちよすぎてルナお馬鹿さんになっちゃうっ」
「これで終わりじゃないわよ。まだ秘奥義が残ってるわ」
「ひおうぎ?」
「安心して、最後まで気持ちよくしてあげる」
「あっ、だめぇ、はぅ……」
「さあ仕上げをしましょう、ジャック」
「ええ、マイケル。私達の秘奥を全て引き出した彼女に敬意を表して」
そう言うと、マイケルとジャックはわたしの足裏を押す力をさらに強くした。
「あ、ルナさん出てきた」
ネコバスから降りてきたわたしを見つけて、ショコラが手を振る。
「ルナさん。どうでした?」
「すごかった……」
訊かれて、わたしはポツリと漏らすようにショコラに言った。
「ほら、だからすごかったって言ったじゃないですか」
ショコラが嬉しそうにわたしの顔を覗き込む。
「うん……」
わたしは目を瞑ると、
「とにかくすごかったわ……」
かみ締めるようにその言葉を口にするのだった。




