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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
4章 ネコソギシティの騒乱
68/229

68話 極秘クエスト

 ゴゴゴゴゴ――。


 階段を下り部屋に入ると、丁度そのタイミングで壁が震えるように揺れ、室内がざわついた。


 何事かと目配せするものもいるが、特別それ以上騒ぎ立てることもなく混乱する者もいない。それだけで、この部屋に居る猫達がトラブルに対して耐性がある猛者達の集まりである事が分かる。

 程なくして振動は収まり、誰もそのことについて口にもしない。


 ミケは今ヤマネコに呼び出され、英雄ショップの地下に存在する隠し部屋の中に居た。

 正方形の石壁に覆われた部屋の中心には木製の丸テーブルが置かれており、その上には、クエスト受注用の端末と橙色の光を放つランプが置かれている。

 部屋の中は暗い。卓上のランプだけが唯一の光源なのだから当然だろう。


 いかにも密談という雰囲気だが、事実これは密談なのだから当然か。

 部屋にはミケの他にも数人の使い魔達が集められていた。

 室内に目を向ける。


 知っている顔もあるにはあるが、ほとんどは知らない猫だった。

 まあ、それだけ世代が入れ替わったという事だろう。

 自分が知らないからといって、彼らは決して弱くはないはずだ。なぜなら、猛者でなければこの場にいるはずがない。


 普通の使い魔は英雄ショップにこんな隠し部屋があるという事を知らない。

 この部屋はあまり公にはしたくないクエストを発注する時に使われる秘密の部屋。

 つまりここにいる事がそれすなわち、ここにいる全員がヤマネコに認められた猛者という事になるのだ。


 その中で、一人の猫に目が留まる。壁際にいる男。独特な雰囲気を持つ男には見覚えがあった。

 確かあれは狂猫とか呼ばれてた奴だな。


 壁にもたれ掛かった男が、毛づくろいをするようにダガーを舐めている。

 ニタリと口角を歪め目に怪しい光を灯していた。


 ミケがかつてニャルハラで勇者と呼ばれ、もてはやされていた時代にも、あの男は実力者として名を知られていた。


 もっともその狂気性から表舞台に出てくる事は滅多になく、ミケもかつて一度だけちらりと見たことがある程度に過ぎない猫だ。

 あんな危険人物にまで声を掛けるとは、よほど切羽詰まった事情があるのだろう。


「……」


 ミケは自嘲の笑みを浮かべた。

 ヤマネコは俺のことをまだ認めてくれているんだな。

 その事に若干嬉しく思いつつも、自分がこの場に居ることに軽い違和感をミケは覚えていた。


 いかにかつてニャルハラの最前線に居たとはいえ、一度ドロップアウトし、戻ってきたばかりで大した戦果もあげていない。

 パーティメンバーも素人ばかりで中級者とも言いがたい。

 来てしまってからこんな事を考えるのもどうかと思うが、そんな状態でこんな重大らしき案件〈クエスト〉に関わってもいいのだろうか。


 ミケがそんな事を考えていると、ヤマネコは部屋に入り部屋の中心に置かれた丸テーブルの上にしなやかな体さばきで飛び乗った。

 それと同時に扉が閉まる。

 どうやらミケで最後だったらしい。


 テーブルに飛び乗ったヤマネコは舐めるように皆の顔を一瞥すると、チョコンと前足をそろえてお座りをする。

 猫耳の生えた人間の姿をした猫ばかりのニャルハラにあって、ヤマネコのようにちゃんとした普通の姿の猫は実はかなり珍しい存在だ。彼らは英雄猫と呼ばれ、どちらかと言えば市民よりも使い魔〈サーヴァント〉に近い存在でもある。


 ミケは腕を組むと、壁に背を預けてそんなヤマネコの話に耳を傾ける。

 ヤマネコはピクピクと髭を振るわせると、まずは労いの言葉を口にした。


「今日はわざわざ来てもらってありがとうニャ」


 そう言うと、ヤマネコはちょこんと頭を下げる。


「それで早速本題に入りたいんだけどいいかニャ?」


 ヤマネコが訊ねると、シーンと沈黙が流れる。いやいや、誰か何か言ってやれよ。コミュ障の集まりなのかよ。そんな事をミケが思っていると、さすがにまずいと思ったのか若い戦士風の人の良さそうな男が「いいですよ」と先を促した。


「じゃあ、始めるニャ」


 それを受けて、ヤマネコが話を先に進める。


「まず、最初にこれは極秘のクエストニャ。パーティメンバーにはもちろん話していいけど、それ以外に他言は無用ニャ。ちゃんと仲間にも口止めしてほしいニャ」

「ええ、分かりました」


 若い戦士風の猫が頷く。とりあえず受け答えは彼に任せておけば大丈夫そうだ。


「頼むニャ。それでクエストの内容ニャんだけど、ネコソギシティにある、とある施設の場所を見つけてきて欲しいニャ」

「とある施設ってなんだ?」


 今度は別のゴツめの革の鎧をつけた男が訊ねる。

 ヤマネコは頷くと、


「このネコソギシティ周辺にA級という非常に強力なMTTBが出現するようになっているのは知っているかニャ?」


 ヤマネコの言葉に室内がざわざわとざわつく。


「この中には実際に遭遇し戦ったものもいるはずニャ」


 そう言うと、ヤマネコは明らかにこちらを見た。

 そして、別の数名にも目配せをする。


「未だ例は少なく、出現は非常に稀なケースとはいえネコソギシティはニャルハラ有数の巨大都市ニャ。そんな都市の周辺にあれほど強力なMTTB徘徊しているなんて事が世間の知るところになれば街は大混乱になるニャ」


 なるほどなとミケは思った。

 おそらくヤマネコが言っているのは、こちらに来てすぐに遭遇したMTTBの事だろう。

 確かにあれはA級レベルの強力なMTTBだった。

 あの時はネコソギシティのような大都市のすぐ近くにもあんなに強力なMTTBが出現するようになってしまったのかと思ったものだが、どうやら違ったらしい。


 世間にもその事を隠しており、これ以上情報を拡散させたくないと考えているならば、実際にそのMTTBに遭遇して戦った者、つまりすでに知ってしまっている猫に依頼をするのがもっとも合理的でリスクも少ないというわけだ。

 ここに呼ばれた猫の中にも、そういう事情で呼ばれた者が多そうである。


「我々はアレをMTTBフォロワーと呼称する事とし、排除することに決めたニャ。でも、問題があるニャ~。どこから沸いて出て来てるのか分からないニャ。それをみんなに探して欲しいニャ~」


 甘えるような声でヤマネコが首を傾ける。いきなり猫っぽくなったな。


「それでネコソギシティにある施設とやらが、その原因だと?」


 戦士風の男が訊ねると、ヤマネコが「そうニャッ」と頷く。


「それで施設ってのはなんなんだ?」


 業を煮やしたように、ゴツめの男が言った。そう言えば微妙に話が逸れていたな。

 ヤマネコは「うーん」と頭を垂れると、


「実はよくわかってないニャ」

「なんだそれは……」


 男が呆れる。


「じゃあなんで、その施設から沸いてきてると思うんだ?」

「それもわからないニャ」


 ヤマネコが首を傾げながら言うのに、「本当に大丈夫なのか」「ほとんど何もわかってないじゃないか」と室内に動揺が広がる。無理もない、これではほとんど何も分かっていないに等しい。これでその施設とやらと探し出せという方が無理だ。そもそも、本当にその施設が原因なのか。実在するのか。それすらも疑わしい。


「施設はあるニャ。多分地下にあるニャ」

「そんな施設はありまーす。みたいなこと言われても」

「ねぇ……」

「本当にあるのかよ」

「とろとろあんかけチャーハン食べたい」


 懐疑的な声が相次ぐ。


「とりあえず三日を目安に、怪しい所をピックアップしてほしいニャ。多くは望まないニャ。頼むニャ~」

「要するに探偵の真似事をしろって事か?」

「面倒くさそう……」

「残念ですけど、忙しいので……またの機会にお願いします」

「まったねー、ヤマネコちゃん。らぶゆー」


 口々にそう言うとぞろぞろと帰っていってしまった。


「そんニャー」


 ヤマネコの手が空しく伸びる。

 ミケは扉の脇に寄りかかりながら、その様子を横目に見ていた。


 まあ、仕方がないだろう。ヤマネコがここに呼んだ選考基準を考えれば、彼らはA級MTTBと遭遇、戦闘し勝利しているバリバリの武闘派の使い魔〈サーヴァント〉なのだ。彼らにとってクエストとはすなわち敵と戦う事であり、あるかも分からないものを見つけて来い、などという依頼はそもそも彼らの守備範囲の外の依頼なのである。


 合理性に目が眩んで人選を間違えたとしか思えない。

 涙を浮かべながら、招き猫のように手を動かしているヤマネコを白い目で見つめる。


「やれやれ……」


 そんな中で、狂猫が壁にもたれ掛けた背を離すとヤマネコの前へと進み出た。


「その真偽を確かめるのも仕事の内だろうよ」


 狂猫とか呼ばれてるクセにえらいまともな事を言っているな。


「でも、ヤマネコさんよ。あんたも悪いと思うぜ。あんなに隠し事が多くちゃ、誰もついてこねぇさ」

「ニャ?」


 狂猫に言われて、ヤマネコが目をパチパチと瞬かせる。


「あんたらが探させようとしてる施設――MTTB養殖プラントなんだろ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの施設!?(゜Д゜;) これは絶対にむっ潰さないとねぇ!!
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