66話 ヴィンテージセーラー服
「こちらルナお姉ちゃん、で、こっちはショコラお姉ちゃん。あたしの友達」
いつの間にか友達に昇格していた。
チコによるわたし達の紹介が終わると、チコショップの店内で、服の置かれているスペースを見ていくことになった。
ショコラは何着か、手に取りながら体に当てていたが、なかなかしっくりくるものが見つからないのか首を捻り、手に取ったり戻したりを繰り返していた。
しばらくそんな事をしていたが、ショコラはわたしに振り返り両手に服を持ったままおずおずと口を開く。
「すみません。ちょっと時間が掛かりそうなので、ルナさんも適当に見て回っててください」
「そう?」
確かにちょっと時間が掛かりそうである。
ここまでショコラの服選びについて回っていたけど、逆にわたしがいる事で気が散ってしまっていたのかもしれない。
「なら、そうしよっかな」
一人でじっくり選びたいって気持ちも分かるしね。
「ショコラお姉ちゃんにはあたしがついてるから安心してよ」
すっかり店員になりきっているチコが、手一杯に服を持ちながらわたしに向かって言った。
ショコラのサポートは彼女に任せておけば大丈夫だろう。
わたしは二人から離れる、改めて店内を見て回ることにした。
「ふーん……」
さすがに色々あるとチコが言っていた通り、様々なものが置かれていた。
その中には、オリハルコンの孫の手とかミスリルのツボ押し器とかいうような本当に需要があるのかと疑ってしまうようなものまである。
あ、でも。確かショコラは孫の手で戦っていたはず。
という事はオリハルコンの孫の手なんていいんじゃないの。
そう思って手に取り付けられた値札を見て、わたしは思わず目を見張る。
「五百万っ!?」
たかが背中を掻くだけの道具に五百万も出してくれる猫は果たしているんだろうか。ちなみに隣に置かれていたオリハルコンの耳かきは五十万だった。
「お嬢ちゃん、オリハルコンの孫の手に興味あるのかい? 最高級の金属オリハルコンで作られた最高の孫の手、職人が一本一本丁寧に作り上げた一品だよ。背中を掻けば血肉も抉れる圧倒的攻撃力!」
「抉れちゃったら駄目でしょっ」
はっ、思わず突っ込んでしまった。
チコパパこと、コクリコがレジカウンターから商品の説明をしてくれる。
「買う?」
「買いません」
わたしがきっぱりと言うと、コクリコは長く伸ばした髭で毛むくじゃらな顔を残念そうに、落ち込ませていた。
そこまで落ち込まれると、なんだか悪いことをしているみたいな気分になるんだけど。
わたしはオリハルコンの孫の手を元の棚に戻すと、ふと店の端の一角に目が停まった。
どうやらセーラー服のようだが、わざわざ普通の棚とは分けておいてあるのが気になる。
「ねぇ、これは何で分けて置いてあるの?」
カウンターにいるコクリコに訊ねると、すぐに返事が返ってきた。
「ああ、それは古着だからだよ」
「へー、古着も取り扱ってるんだ」
近寄って、値札を見てわたしは目を見張る。
「って、高! 古着って普通安くなるんじゃないの?」
その古着に付けられた値段は、明らかに向こうの普通に売っているセーラー服よりも高い。
わたしが驚いていると、コクリコはニヤリと口角を上げた。
「ヴィンテージ物だからね。セーラー服とジーンズは使い込まれた物の方が高くなるんだよ。知らないかい?」
「へー、ってジーンズないけど」
置かれているのはセーラー服ばかりでジーンズは一本もない。
コクリコは「ああ」と頷くとレジカウンターから外に出て、ヴィンテージセーラー服の棚の前にいるわたしの所まで来ると、セーラー服の一着を手に持って言った。
「うちはヴィンテージセーラー服専門店だからね」
「そうなんだ」
「確かルナちゃんだったっけ?」
「うん、ルナだよ」
わたしが髭に覆われた顔を見上げながら言うと、コクリコは柔らかな表情を作った。
「ルナちゃんも、着なくなったセーラー服があったら持ってくるといい。高く買い取ってあげよう。ただしその際洗濯は絶対にしちゃ駄目だけどね」
「え、そうなの?」
わたしが訊ねると、コクリコは含蓄のこもった所作で深く頷く。
「ヴィンテージ物は不用意に洗濯をすると価値がガクッと落ちてしまうんだ。セーラー服なら出来れば、お店まで着てきて脱いだものをその場で手渡してくれるとヴィンテージものとしての価値がグッと上がるよ」
「へー、ヴィンテージってのも色々大変なのね」
「プレミア価値というものは細かい所作一つ一つによって決まってくるとても繊細なものなんだ。我々もより高品質なヴィンテージセーラー服をお客様に提供できるように日々努力している所だよ。匠の仕事ってやつさ」
「ふーん、匠かぁ」
匠というだけあって、ヴィンテージセーラー服について話している彼の瞳は少年のようにキラキラと輝いていた。
手に持ったヴィンテージセーラー服に顔を近づけ入念にチェックするその姿はちょっとかっこよく見えた。
これが何かに真剣に打ち込む大人の顔なんだ。
わたしもこんな大人になりたいな。
そんな事を思いながら、わたしはマジマジとヴィンテージセーラー服を見る。
全部ビニールで綺麗に包装されているのもプレミア価値の維持ってやつの為なんだろうか。
「でも、わたしセーラー服持ってないから、関係ないかな」
「むぅ、それは残念だ」
本気で落ち込んでいた。
っていうか本当にヴィンテージセーラー服なんて売れるのかな。
どういう猫が買っていくんだろう。少なくともわたしは要らないかな。
「わたしも、なんか服探そうっと」
わたしはヴィンテージセーラー服の売り場を離れると、元の様々な服が置かれたスペースへと戻った。




