63話 ネコカーとたわむれる
街の中心部までやってくると、沢山の猫でごった返していた。
石レンガが敷き詰められた大通りには、ひっきりなしに猫の車であるネコカーが行きかっている。
それらの様々な音が入り混じって、おおよそ聞き取りの不可能の喧騒となってあたりを包んでいた。
最初にこの街に訪れた時も思ったが、今改めてこのネコソギシティという街は本当に都会なのだと気づかされる。
道路沿いには、ガラスのショーケースの中に高価そうなドレスを展示している高級ブティックがずらりと並んでいた。
わたし達はそれら高級ブティックの店内に入ることなく、道路からウィンドウショッピングしていくわけだけど。煌びやかな洋服の数々に思わず息を呑むだけで中に入ることはしない。
というか場違い過ぎて出来ない。
「どうしよっか……?」
わたしは眉で八の字にして笑顔を作ると、ショコラに声を掛けた。
しかし、声を掛けられたショコラの方も困っているようで、同じように眉を八の字にしていた。
確かに洋服店は沢山あるけど、なんだか求めているものと違うのだ。
わたし達は冒険者用の服を探しているのであって、舞踏会に出る為の服を探しているわけではない。
しかし、大通りにはブランド物の服を扱う高級店しか出店していなかった。
街の中心部まで来れば、きっと求めてるようなお店がなにかしら見つかると思って出てきたけど、ちょっと考えが甘かったかもしれない。
「まあ、大通りは高級店ばかりなのは予想してましたけど」
「とりあえず、どっか入ってみる?」
わたしが訊ねると、ショコラは首を振った。
「とりあえず、ネットで調べてみます」
そう言うと、ショコラはニャルラトフォンを取り出し画面とにらめっこを始める。
わたしはその間、手持ち無沙汰にあたりをぼんやりと眺めていると、ふと一人の少女が目に入った。
わたしの目の前の道路で白いワンピースを着た子猫の少女が、猫じゃらしを持って路肩に駐車し腕を畳んで眠っているネコカーの鼻元をくすぐっていた。
目の前で揺れる猫じゃらしに気づき薄目を開けたネコカーが、少女の猫じゃらしにじゃれるように前足をゆっくりと出す。
それに気をよくしたのか少女はさらに素早く、さらに小刻みに猫じゃらしを揺らす。
それを追いかけるように、ネコカーが素早く手を出す。
少女は器用に猫じゃらしを操ると、巧みにネコカーの手と手の間をするすると抜いていった。
中々捕まらない猫じゃらしに、ネコカーがイライラしヒートアップしていくのが傍目にもはっきりとわかったが、当事者の少女はまだその事に気づいていないようだった。
あれ、そろそろヤバイんじゃ……。
わたしがそう思った瞬間、ネコカーは立ち上がるとまるで狩りをするかのように深く沈み込み少女に向かって飛び掛った。
「危ないっ!」
ネコカーは毛皮で覆われている猫とはいえ、車と同じ大きさと質量を持った巨体である。
そんなネコカーに轢かれてしまったら、あんな華奢な女の子などひとたまりもないに違いない。
わたしは飛び出すと、覆い被さろうとするネコカーを呆然と見つめていた少女を突き飛ばした。
「――っ!」
突き飛ばしたはいいものの、入れ替わる形で今度はわたしが飛び掛るネコカーの前へと出てしまった。
しまった、避けられないっ。
そう思った瞬間、ネコカーの柔らかい毛で覆われたお腹に押しつぶされていた。
ズーンと重たい音と共に土煙が舞った。
「お姉さんっ」
少女の悲痛な声と共に、辺りが騒然とする。
「お、なんだ?」
「人身事故かっ?」
「おい、女の子が車の下敷きになったぞっ」
わらわらと野次馬が集まってきていた。なんだか、大変なことになってる。
ネコカーの下敷きになっている状態はフカフカとした重たい布団をかけているような感じで、とにかく重たくて息苦しかったが、幸いのしかかられた時の衝撃で怪我はしてないようだった。
わたしはもぞもぞとネコカーのお腹の下から顔を出すと、大丈夫である事を示すために集まってきた野次馬に声を掛ける。
「あの、大丈夫なんで、そんな騒がないでいいから」
「おい、大丈夫って言ってるぞ」
「いや、でもかなりの勢いじゃなかったか。本当に大丈夫か。救急猫を呼んだ方がいいんじゃないか」
「いや、先に憲兵所に連絡した方が」
なんだかわたしを無視して議論が巻き起こっている。
「だから大丈夫って言ってるでしょっ。って、きゃっ!」
ネコカーのお腹の下から唯一出ているわたし頭の部分をネコカーは前足でがっちりホールドすると、ペロペロと顔を舐め始めたのだ。
「ちょっ、ん、駄目だって舐めちゃ。ちょっと痛いし」
猫の舌なので、舐められても涎でべとべとになるような事はないんだけど、その代わり舌がザラザラとしていて舐められるとちょっと痛いのだ。
「なんだ、じゃれ合ってるだけだったのか」
「本人の言うとおり大丈夫そうだ」
「仲が良さそうで何よりだ」
「こんなに好かれるとは、いいドライバーになれるぜお嬢ちゃん」
口々にそう言うと野次馬達は去って行った。
いや、じゃれ合ってるわけでも仲がいいわけでもないんだけど、むしろ助けて欲しいは欲しいっていうか。
ネコカーにペロペロと舐められていると、すぐ近くのブティックから紙袋を抱えた身なりのよい女性が慌てて、飛び出してきた。
多分、このネコカーの持ち主。
「ポンペイウスちゃん。何してるのっ。駄目でしょどきなさい」
その女性が言うと、あれだけわたしを抱きしめてペロペロと舐めていたネコカーが、パッと手を離して前足を折りたたんで伏せの姿勢をとる。
ポンペイウスというのはこのネコカーの名前らしい。
「あの、大丈夫でしたか?」
そして、不安そうな顔で女性がわたしに声を掛ける。
わたしは、やっと重たいのから解放されたという開放感から伸びをしながら立ち上がった。
「大丈夫、怪我はなかったから」
その言葉を聞いて女性は安心したのか胸に手を当てると、ほっと肺から空気を吐き出す。
「ごめんなさい。ちゃんとサイドブレーキのツボを押しておいたはずなんだけど」
女性は申し訳なさそうにそう言うと、改めてわたしの目を見る。
「それでいくらですか」
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