61話 朝起きるとそこは月面でした。
気がつくと、そこは銀色の荒涼とした大地だった。
夜空には満天の星空。
遠くには青く輝く大きな星が見える。
月面――。
そうだ月面だ。
ここは、飼い主さまに写真で見せてもらった月面という場所によく似ていた。
「ルナ……」
微かにわたしを呼ぶ声が聞こえる。
わたしは声のする方へとパジャマ姿のままで、裸足で銀の砂を噛みながら進んでいく。
すると、月面にぽつんと置かれたベッドが目に入った。
もっと目を凝らすと他にも化粧台や椅子も置かれている。
まるで月面にそこだけ女の子の部屋が出来ているようだった。
「ルナ……」
誰か居る。
ベッドに座りこちらを見ている女の子がいる。彼女がわたしを呼んだのだろうか。
誰だろう……?
妙にくっきりとした視界の中で、その女の子の姿だけはぼやけてしまって顔がよくわからない。
その女の子はわたしの姿を確認すると、微笑んだ――ような気がした。
あなたは誰?
声を出そうとするが、声が出ない。
「ルナ、早く私の所に来て、私に会いにきて」
そう言うと少女はわたしのすぐ近くまで来ると、そっと頬を撫でた。
「まずは、月面探査猫のキュリちゃんを探して。狂月面〈ルナティックサイド〉で待ってるわ」
急に意識が暗くなる。
まるでシャットダウンしてしまったみたいに、体から力が抜けていった。
「――――さん。――ルナさん」
「ふにゃ……」
ゆさゆさと体を揺すられる衝撃で、わたしは目を覚ました。
「ショコラ……」
うっすらと目を開くと、そこにはわたしを覗き込むショコラの顔があった。
「ああ、やっと起きた。もう朝ですよ。ルナさん」
「あさ……」
そっか朝かぁ。わたしは再び目を閉じる。
「あ、ちょっと二度寝しないでください。そんな事してたらお昼になっちゃいますよ」
ゆさゆさとショコラがわたしの体を思いっきり揺する。
わかったから、ちょっと待って。起きるから。まだ体が起きてないんだって、そんなに揺すったら酔っちゃう。
「ふぁぁ……」
わたしはゆっくりと体を起こすと欠伸をした。そしてキョロキョロと辺りを見回す。そこは昨日寝る前に見たとおりチグリスの部屋だった。
「夢だったのかな……」
でも妙にはっきりと覚えている。
「月面探査猫を探してって言われてもなぁ」
ヒントゼロじゃさっぱりわかんないよ。
「どうかしたんですか?」
ぼんやりと辺りを見回すわたしを不思議に思ったのかショコラが覗き込んでくる。わたしはそんなショコラに軽く手を振ると、
「ううん。ちょっと変な夢を見ただけ」
「変な夢ですか?」
「ねぇ、ショコラ月面探査猫って知ってる?」
「月……? なんですかそれ?」
ショコラはキョトンとすると、
「ネコバスとかネコカーの親戚でしょうか?」
首を捻りながら、ショコラが頭を悩ませている。
「ごめん、なんでもない。変なこと言っちゃってごめんね」
「そうですか。じゃあ、準備が出来たら下に降りてきてくださいね」
わたしが首を振ると、ショコラが微笑みを残して下に降りていった。
わたしはそれを見送ると、一度大きく伸びをする。
「ま、いっか」
考えてもしょうがないしね。
枕元には洗濯を終えたわたしの服が畳まれて置かれていた。
わたしはパジャマから着替えると、布団を畳んで端によせられているショコラが使っていた布団の上に乗せた。
新章開幕です。
毎日投稿していきますのでよろしくお願いします。




