60話 キャッチコピーを考えよう
「何してるの?」
わたしは布団から顔を出すと、隣の布団の真剣な表情でニャルラトフォンの画面とにらめっこしているショコラに声を掛ける。
二回目のお風呂に入った後、わたし達はパジャマに着替えるとチグリスの部屋へと来ていた。ちなみにパジャマはこのアパルトマンに元々置いてあったやつで、単色の飾り気の無いものだ。わたしがピンクでショコラがブルーのパジャマをそれぞれ身に着けている。
チグリスの部屋には、当然ベッドは一つしかないので、わたしとショコラは床にお布団をひいてそこで寝る事になった。
「これですか?」
ショコラはもそもそと近づいてきた。
わたしに気がつくと携帯の画面を傾けてわたしに見せてくる。
「今日撮った写真をサイトにアップしてるんです」
「ふーん?」
今日撮った写真? サイトにアップ? なんのこっちゃ?
わたしが何とはなしに、画面を覗き込み「あっ」と小さく声を上げた。
そこには非常に高解像度な画像で、あの超巨大なおっぱいスライム、キングおっぱいスライムの画像と共に、『新種発見!? 幻のキングおっぱいスライム現る! 今日君は伝説を目撃する!!』という煽り文がゴテゴテのゴシック文字で添えられていた。ご丁寧に普通サイズとの比較画像まである。
「あの時のか……」
そう言えば、あの時なんか写真撮ってたな。と思い出す。
「我ながらよく撮れてます」
ショコラはほっこりした顔で、画面を人差し指で撫でていた。
投稿しようとしているサイトの名前を見てみると、ニャルハラおっぱいスライム学術協会公式サイトとなっていた。あの変態しかいなさそうな学会のサイトか。本人楽しそうにしてるからあんまり言えないけど、もし仮にオフ会とかあっても絶対に行っちゃ駄目だよショコラと、わたしは強く心の中で思った。その時は全力で止めなければ……。
「でも、文章がなぁ……」
うーんとショコラが口元に手を当てて目を細める。
「この文章もショコラが書いたの?」
わたしが訊ねると、
「そうですよ」
ショコラは控えめに頷く。
そして、わたしに上目目線を向けた。
「あの、どうですか? 文章これでいいと思いますか?」
そんな事訊かれましても。
「なんだか凡庸な気がして、もっとパンチが欲しいんですけど」
「うーん、『帰ってきたら、部屋にキングサイズのおっぱいの形をしたスライムが鎮座していたんだが?』みたいなのは?」
「ちょっと事務的過ぎです」
「じゃあ、『スライムのくせに、キングカップなんて生意気だ!』みたいなのは?」
「明らかに私怨入ってますよね」
「なら、『わたしスラたん。キングおっぱいスライムになったよ(ハート)』みたいなのは?」
「スラたんって誰なんですかっ」
ショコラははぁと息を吐くと、
「もう、真面目に考えてないですよね。とりあえず参考にしてみますね」
そう言って、画面を操作する。
いや、割りと真面目に考えてたんだけどなぁ……。わたしは脱力するとべたーと布団につぶれる。
「出来ました」
暫くして、ショコラが声を上げた。
「ほんと、見せて見せて」
ショコラに画面を見せてもらうと、わたしはそこに書かれている文章を読み上げる。
「えっと『わたしスラたん。キングおっぱいスライムになったよっ。気になる新種は小生意気? 幻だけどお部屋に出現しちゃいました! スラたんの全部みせてあげるね。あなたは今日、伝説を目撃しちゃうのっ』……えっ」
ちゃんぽんしすぎて駄文になってるし、完全にスラたん視点じゃん。スラたんって誰だよ。いや、自分で言ったんだけど。
「あの、ショコラ?」
「我ながら結構いいかも……」
ショコラはほっこりしながら、画像に添付された丸っこい文字で書かれた煽り文を撫でながらほぅっと吐息をもらしている。いい出来なんだ……。
「送信っと」
ショコラが画面上のボタンを押すと、無事画像のアップロードが完了した。
「みんなびっくりするだろうなぁ。明日、反応を見るのが楽しみです」
ショコラはニャルラトフォンを抱きしめながら、顔をほころばせる。
まあ、本人がいいならいいか。
なんだか色々思うところがあったような気がするんだけど、そんなショコラの嬉しそうな表情を見ていたらどうでもよくなった。
「よかったね」
「はいっ」
ショコラは嬉しそうに返事をすると、ニャルラトフォンを枕元に置いた。
「そろそろ電気消していい?」
「あ、はーい」
チグリスに返事をすると、わたしはもそもそと自分の布団に戻る。
それを確認すると、灯りが消えて部屋が暗くなった。
月明かりが窓から入り込んで、ほのかに淡く室内を照らしている。
わたしはそっと目を閉じた。
「……」
どのくらいそうしていただろうか。わたしはパチリと目を開くと体を起こした。
すでにショコラとチグリスは眠りについているらしく、穏やかな寝息の輪唱が聞こえてくる。
わたしは起き上がると、二人を起こさないように慎重に布団から抜け出し、スリッパをひっかけて壁に立て掛けてあった猫村正を抱きかかえるようにして持つと、部屋を出た。
確かミケはユーフラテスの部屋に泊まっていたはず。どの部屋だったかな?
薄暗い廊下を出来るだけ音を立てないようにして進む。
そして目的の部屋の前までくると、コンコンと扉をノックした。
抑えた声で、扉に話しかける。
「ミケ、起きてる? わたし、ルナだけど……」
しばらく待つ。返事は返ってこない。もう眠ってしまったのだろうか?
そう思った時、ガチャリと音を立てて扉が開いた。
「なんだよ、こんな時間に。夜這いか?」
「よばいかあちゃん?」
「それは、がばいだろっ。……いや、、なんでもない。それで何か用か?」
寝癖のついた髪をガリガリと掻きながら、ふあぁとミケは大きくあくびをした。
わたしは少し目を伏せると、伺うように上目遣いで彼を見つめる。
「あの、あのね。剣の練習に付き合ってほしいんだけど……」
「今からかよっ!?」
わたしはもじもじと体を揺すると、うんと頷いた。
「どうしても試してみたい技があって、こんなことミケにしか頼めないし」
ぎょっと胸元の猫村正を抱きしめると、下がり眉毛でミケの目を見つめる。
「ねぇ、だめ?」
ミケはわたしから目を逸らすと、困惑顔で頭をガリガリと掻いていた。
わたしも不安で目を逸らす。何気なく窓の外に目を向ける。
やっぱり突然過ぎだよね。もう深夜だもん。ほら、あんなに月が輝いてる。
「いいよ」
「えっ」
びっくりして、ミケに視線を戻す。
「いいの?」
「そんなにびっくりするような事か?」
ミケが呆れたように苦笑する。わたしは首を振ると、
「ありがとう」
「ちょっと準備するから待ってろ」
そう言うと、ミケは一旦部屋の中に戻り剣を持って戻ってくる。
「じゃあ、行くか」
「うんっ」
二人で廊下を歩く。
「試したい技って、新しく剣技を閃いたのか?」
「寝てたら思いついたの」
「剣技って寝てて思いつくものなのかよ」
ミケが胡散臭そうな目でわたしを見る。わたしは人差し指を立てると、
「あのポール・マッカートニーも夢の中でイエスタディを思いついたんだよ」
自慢げに知識を披露する。
「よくそんな事知ってんな」
「って飼い主さまが言ってた」
「ああ……」
ミケは納得したように頷きながら、笑みを口元に溜めると、
「あの人、アニソン以外も聴く事あるんだな」
「ふふ、ミケちょっと飼い主さまの事バカにしてるでしょ。駄目だよ」
思わずわたしも笑ってしまう。
二人で笑いあうと、階段を下りそのままアパルトマンの扉を開いて外に出た。
月明かり照らす街へと。
このお話で3章はおしまいとなります。
この3章は好き勝手やらせていただきました。
書いていて楽しかったです。
女の子が恥じらう系のネタが好きなんですよね。
存分に恥じらわせる事が出来たので満足です。
それで、それでもしよかったらなのですが!
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