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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
3章 アパルトマンの猫達
57/229

57話 ポトフを作ろう

 バーに戻ってきたわたしはミケと目が合う。


「なに?」


 わたしは眉を寄せる。

 ミケの顔が、あまりに鳩が豆鉄砲撃たれたみたいにポカンとしたものだったからだ。

 マジマジとわたしの顔を見つめてくるミケに、わたしは首を傾げると、


「わたしの顔に何かついてる?」

「いや……」

「?」


 一体何? わたしは頭上にハテナマークを点灯させながら見返す。


「いや、正気に戻っちゃったんだなと思って」

「何それ、まるでわたしが正気じゃなかったみたいじゃない」

「別に、覚えてないならそれでいいんだけどな」


 そう言うと、ミケは目を閉じてため息を吐いた。

 わたしは、むすっと上目を向けると、


「もしかして、わたしに変なことしてないでしょうね。突然抱きついてきたりとか」

「さぁな」

「ちょっと」


 ミケは鼻で笑ったように言い残すと、ミケが去っていく。


「なんなのよ。一体……」


 わたしは困惑しながら、その後姿を見つめる。


「ちょっと、ルナちゃん入り口で止まらないで」

「あ、ごめん」


 後ろから声を掛けられて、わたしは脇にどく。

 すると、パタパタと音を立ててエプロンをつけたチグリスが通り過ぎていった。

 カウンターに入ると、更にその奥にあるキッチンへと消えていく。


「どうかしましたか?」


 無為にその姿を視線で追っていると、わたしを覗き込むようにショコラが声を掛けてくる。

 わたしははっとすると、


「ううん、なんでもないよ」


 軽く手を振ると前に進みテーブルの一つまで進み、椅子に腰掛けた。

 すでに外はすっかり日が落ち、夜の帳が下りてきていた。

 それからしばらくして、チグリスが熱々のポトフの入った鍋を持ってきてくれた。


 チグリスのポトフは、あの時わたしに言ってくれた通りに、大きな蕪がゴロゴロと入っていて、その他にも甘いニンジンやひき肉をキャベツで巻いたロールキャベツが入っていて、チキンブイヨンがベースのスープに浸っていた。


「お口に合うか、分からないけど」


 チグリスが手にはめたキッチンミトンを外しながらはにかんで言う。

 もう謙遜しすぎ。こんなに美味しそうなんだから、お口の方が合わせるレベルだよ。

 温かい湯気に包まれて、わたしは目を輝かせる。それはショコラも、普段は冷静を装っているミケも同じだったらしい。


 チグリスがお玉でそれぞれのお皿に取り分けてくれる。

 はいどうぞの声と共に、わたし達はチグリスに飼われている猫みたいに、一斉にがっついた。

 わたしはゴロゴロ入った蕪の一つをスプーンで掬いあげると口の中に頬張る。


 はふはふと熱さと戦いながら、租借すると野菜の甘みが口いっぱいに広がってすっと溶けていった。

 次にロールキャベツを齧りつくと、肉汁がジュワーと溢れて口の中に広がる。

 脂の旨みがころころと舌の上でダンスする。


「どうかしら?」


 しばらく会話も忘れて完全ポトフ捕食マシーンとして、ひたすらにスプーンを口に運ぶ

 作業を繰り返していたが、声を掛けられてそちらを見る。


 すると、チグリスはわたしの隣に立つと不安そうに、わたしを覗いていた。

 そもそも、ポトフ食べたいと言い出したのはわたしだから、チグリスはわたしの反応が特に気になっているようだった。そんなチグリスにわたしは笑顔を返すと、


 「すっごくおいしいよ。お店のよりおいしいっ」


 と言っても、お店の料理もそんな食べたことないけど。


「ありがとう、そこまで言ってもらえるとうれしいわ」


 チグリスは表情を綻ばせると嬉しそうにしている。


「うん、チグリスはいいお嫁さんになれるよ。わたしも今すぐにでもお嫁さんにきてほしいくらいだもん」

「うふふ、じゃあ、よろしくね」

「あ、えっと。今のは言葉の綾なんだけど……」

「なんだ、残念」


 ニコニコと上機嫌にチグリスが目を細める。

 対するわたしは照れながら、ポトフのお皿を見つめた。

 っていうかなんで、わたしが照れなきゃいけないのよっ。


「あ、無くなっちゃったね。おかわりしましょうか?」


 チグリスはそう言うと、空になったお皿を手に持つと、鍋からおかわりを注いでわたしの前に置いた。それから、わたしは何度もおかわりをした。

 和やかで、落ち着いた雰囲気の中で楽しい夕食の時間が流れていった。

 そして食後、


「うん、だから三階は掃除が終わるまで使用禁止だって」

「まあ、しょうがないですよね」


 先ほど受けたナイルからの説明について、わたしはショコラと話していた。

 予想以上に汚れが広範囲に及んでいるため、今日中には終わりそうにないというのだ。

 今現在も、ナイルが使ったというお掃除妖精の魔法が半ばパニックになりながらフル稼働で掃除をしているが、まだ終わる気配はないのだという事だった。


 ちなみにお掃除妖精というのは、部屋をお掃除してくれるという魔法で〈ねこもっぷ社〉という魔法会社が提供しているらしい。美少女妖精型全自動お掃除魔法というのが売りで、撫でたり課金アイテムのお菓子〈マカロン〉をあげたりすると、お掃除妖精の好感度が上がりお掃除効率がアップするらしい。


 プロトアキ、プロトハル、プロトフユ、プロトナツの四体の素体から選んで清掃道具を組み合わせてカスタマイズする。もちろん見た目もコスチュームを買って好きに変える事が出来る。性格はおっとり、強き、ツンデレ、狂気の四種類から選べる。お掃除妖精には人工知能を搭載しており、育て方次第では自分好みの性格にする事も可能だ。


「って正直マニアックすぎて説明されてもよくわからなかったけど……」


 わたしはナイルの早口を思い出して苦笑する。

 なので、今日の所はわたしとショコラはチグリスの部屋へ、ミケはユーフラテスの部屋

に泊めてもらう事になった。


 わたしとショコラがそんな話をしていると、チグリスが奥のキッチンから鼻唄を歌いながらわたしとショコラが座っているテーブルにやってきた。

 チグリスは手に持ったお皿を、ショコラの前におく。


「あ……」


 それを見て、思わずわたし達はざわつく。いや、というか主にわたしがざわつく。


「あ、あの……」


 困惑顔でショコラがチグリスを見るが、その顔は有無を言わさない笑顔を貼り付けられており、とりつく島もない。今度はわたしの方に助けを求めるように視線を向けてきた。


「それね、わたしも食べたよ。ショコラも食べたら? おいしいよ」


 わたしは意地悪い笑みを浮かべると、ショコラに食味を勧める。

 ショコラの前に置かれた皿の上には、わたしも食べさせられたおっぱいプリンだった。

 おっぱい型のミルクプリンがぷるぷると弾力をもって揺れている。

 そういえば、ショコラにも食べさせたいみたいな事をチグリスが言っていたのを思い出した。


「これ、アレの影響で作ったやつだよね……」


 ぽつりとショコラは呟くと、


「えっと、食べていいんですか」

「どうぞ、召し上がれ」

「じゃあ、遠慮なく……」


 チグリスに促されて、そろそろとスプーンを手に取ると、ショコラはスプーンの先の部分ををおっぱいプリンの乳首に先端につけた。


 うわぁ、ショコラ、最初は乳首からいくんだ。

 思わず固唾を飲んで、見守ってしまう。

 自分が食べるのはそうでもないけど、他人が食べてるのを見るのは結構興奮するかも。


「あっ」

「あっ」


 しかし、次の瞬間わたし達は悲鳴にも似た声を上げることになった。

 スプーンを手にとって、プリンをひと掬いではなかった。


 ショコラは、そのまま口に運ばずにプリンをどんどん崩し始めてしまったのだ。

 おっぱいプリンであったものは、もはや原型を留めない。ドロドロのミルクジュレになってしまっていた。


「そんなんありなの」


 わたしが呟くのを、聞きとめてショコラがびっくりしてわたしと見る。


「え、ショコラ何か変な事しました?」

「だって、せっかくの形が……」


 わたしが言いにくそう言うと、ショコラがはっとして手元の皿に目を落とすと、


「ごめんなさい。ショコラ、プリンってこういう風に食べるものだと。だってネコ缶は崩してから食べるから」

「確かにっ」


 反射的同意。

 なるほど、確かにネコ缶は崩してから食べるね。っていうか正確には飼い主さまに崩してもらうんだけど。だって、崩してもらわなきゃ食べられないし。前に缶から出したそのままの状態で出てきた時は、わたしも舐めるだけで食べなかったのを思い出す。あの後飼い主さまブチ切れてたなぁ。


「ネコ缶もプリンも大差ないもんね」


 わたしは笑みを浮かべて頷く。


「ほら、チグリスも落ち込んでないで」


 がっくりと肩を落としているチグリスを励ますように声を掛ける。

 チグリスは「うぅ……」と声を漏らしながら目に涙を滲ませていた。え、泣くほどっ。

 ものすごくショックだったらしい。

 ショコラも気にしているのか、申し訳なさそうにチグリスを見てから、プリンを口に運んだ。


「おいしいです」


 そう言って改めてチグリスを見た。


「ごめんなさい。プリンは崩さないで食べるものだったんですね。ショコラ知らなくて」

「いいの。おいしく食べてもらえれば、私はそれで。私もパフェに入っているプリンはグチャグチャに食べるし」


 チグリスは涙を拭うと、そう言って微笑んでプリンを食べるショコラを見守る。

 そして食べ終わって、チグリスがお皿を片付けようとした所にショコラが椅子から腰を上げ声を掛けた。


「あの、一人で洗い物大変ですよね。ショコラも手伝います」

「ほんとっ。ありがとう助かるわ」


 夕食を食べ終わった後、チグリスがせっせと一人で食器類をキッチンに運んでいたのをショコラはずっと気にしていたのだろう。声をかけるタイミングをずっと計っていたという様子だった。


「はい」


 チグリスの返事にほっと安心したように返事をすると、立ち上がりチグリスの隣にたった。


「あ、じゃあ。わたしも手伝おっかな」


 わたしは人差し指を立てると、ふと思いついたように言う。

 それに対してショコラはやんわりとした口調で、


「二人で大丈夫ですよ。ルナさんは休んでてください。まだ本調子じゃないんですから」

「お皿割られても困るしね」


 チグリスがくすくすと笑う。

 酷い言われようである。お皿割らないもん。どこのドジっ子キャラですか。やったことないから知らんけど。


「ゆっくりしててね」


 と言い残して二人はキッチンへと消えていった。

 テーブルに一人残されるわたし。


「……」


 本当は手伝いたかったわけじゃなくて、一人にされるのが嫌だっただけなんだけどな。

 しょうがない。ミケの所に行こうかな。


「ミ――――」


 そう思って、カウンター席でナイルと話しているミケに声を掛けようとした所ではたと止まった。


「いちいち魔法のオプションに課金させようとしてくるのは間違ってると思わないか?」

「まあ、しょうがないんじゃないでしょうか。魔法の開発費も高騰しているという事ですからね」

「集金方法ばかり進化されても困るんだけどな」

「ならあれはいかがです? 精霊魔法なんて基本無料ですよ」

「精霊魔法?」

「おや、ご存知ありませんか?」

「何分、ブランクがあるんでね」

「精霊魔法っていうのはですね――――」


 魔法の追加課金について熱い議論が交わされていた。

 なんか難しい話してる。

 とてもじゃないけど、わたしが入っていけるような話題じゃない。


 どうしようと思った所で、少し離れた席に一人で座っている彼の姿が目に入った。

 わたしの視線に気がついたのか、こちらを一瞬見ると会釈し再び目線を前に向ける。


 いやいや、他人行儀すぎるでしょ。と思った所でわたしは彼とまともに挨拶も交わしていないことに気づいた。一緒の建物に住む仲間なのに、これはよくない事だ。

わたしは彼のついているテーブルまで進むと、声をかけた。


「となりいいかな?」


 頷くのを待ってから、わたしはユーフラテスの隣の席に腰を落とした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は出されたカレーライスを混ぜちゃう派だが、プリンをぐちゃぐちゃにする人は初めて見た(いやヒトじゃない
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