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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
3章 アパルトマンの猫達
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51話 ガールズパーティ

「なるほどな」


 チグリスから説明を受けたミケは顎に手を当てると、静かに頷いた。

 え、リアクションそれだけなの。

 俄然テンションの高いわたしとは対照的に、ミケの応対は努めて冷静なものだった。


「それで、俺たちはその魔物が倒されるまで下で待ってればいいんだな」

「その魔物って言われてもわかんないなー。魔物にも沢山いるしなー」


 しかしわたしは気づいたのだ。この男は単語を口に出すことを避けているという事に。


「名前言ってくれないとなー。魔物の名前なんだっけ?」

 わたしがによによしながら横槍を入れると、ミケが煙たそうにわたしを睨みつけてから、


「その〈おっぱいスライム〉とやらが駆除されるまで下で待ってればいいんだな。おっぱいスライムとやらが」


 苦虫を噛み潰したような顔で「おっぱいスライム」の所を強調したように言い直す。


「――――っ!」

「お前、自分で振っといて、自分で真っ赤になるなよ」


 ミケは呆れたように目を細めると、ため息をつく。


「し、知らないもん。ミケの馬鹿っ」

 わたしはミケの視線から逃げるように顔を背けた。

「……」


 いや、確かにミケの言うとおり何をしたいのか自分でもわかんないかも。自分でけしかけといて、やっぱり恥ずかしくなっちゃったんだもん。なんか情緒不安定だわたし。これもおっぱいスライムの影響ってやつか。


「で、そのおっぱいスライムなんだけど――」


 何事もなかったかのように、チグリスが平然と話を進める。


「どうも、家具の隙間とかに隠れちゃっているみたいなのよね。そこで、ナイルにお願いしたい事があるんだけど」

「なんでしょうか?」


 ナイルが微笑を湛えながら訊ねる。


「このアパルトマンの中にある家具と調度品を全部どかして空にしてほしいの。ベッドからタンスに至るまで全てね」


 チグリスはまるでおとぎの国の魔法使いみたいに、宙を指差すとクルクルと回した。

 それはあまりにも無茶振りが過ぎるのでは、今から引越し業者に入ってもらっても全部運び出すのに一日以上はゆうに掛かるんじゃ、とわたしが心配するが当のナイルはいたって涼しい顔をしていた。


「かしこまりました」


 そう言うと、慇懃に頭を下げる。


「あの、無理なら無理って言った方が……」

「いえ、お気遣いなく。出来ますので」


 妙に自信に溢れた態度である。

 しかし、すぐにわたしはそれが決してはったりではない事を見ることになった。

 それから、わたし、ショコラ、チグリス、ナイルの四人で上の階へと向かうと、二階の一番近い部屋に入った。


 そこはチグリスの部屋だった。

 まずは自分の部屋から手をつけようという事らしい。


「ナイルお願い」


 チグリスが言うと、ナイルはニャルラトフォンを取り出し画面を操作する。

 すると、しばらくしてナイルの前の空間に一本の黒い線が引かれた。

 そして、チャックを開くように口が開き、その中に紫とも黒とも取れるような異次元な空間が出現した。


「な……」


 わたしが驚愕に口をあけている間にも、その異次元の裂け目はバクバクと口を動かすように次元の開け閉めを繰り返しながら、ベッドやタンスなどの家具に這いより、次々と飲み込んでいってしまう。


 そして、全てを飲み込み終えると、また一筋の黒い線となって宙に消えた。

 それに伴い、ベッド、タンス、床にひかれていた絨毯にいたるまですべてが姿を消し、部屋は一気にガランとしてしまった。

 残っているのは、クローゼットが置かれていた場所に残された。

 おそらく中にかけられていたと思われる衣服が、山となって残されているだけだった。


「あ、しまった。先に片付けとけばよかったわ」


 チグリスは手で口元を押さえると、その衣服の山に駆け寄りニャルラトフォンを操作する。

 するとチグリスの前に先程よりも規模の小さい異次元の割れ目が出現した。


 チグリスは積もった衣服をむんずと掴むと、まるで洗濯機に衣服をぶち込む飼い主さまみたいに、ぽいぽいと割れ目の中の異次元空間に衣服を投げ入れていった。

 そして、全て投げ入れ終わると、空間を閉じて戻ってきた。


「な、何だったの?!」

「倉庫系の魔法ですね。ショコラ初めて見ましたっ」


 何もなくなった部屋で、わたしは目をパチパチと瞬かせ、ショコラはキラキラと目を輝かせた。


「大げさね。シュレディンガーのクロゼットなんて、みんな使っている魔法でしょ。いままで、どんだけ持ち物に困らない生活をしてきたの?」


 チグリスは苦笑いする。


「あ、でも。ナイルが使ったシュレディンガーのトランクルームは中々見る機会がない魔法かもしれないわね」


 チグリスはチラリとナイルに視線を向ける。


「業者でもないと、この規模の倉庫を使う必要がないですからね」


 ナイルがそれに補足するように言う。


「今のも魔法なんだ?」


 わたしが訊ねると、チグリスは自信のニャルラトフォンを指差しながら、


「ええ、ネコネコンテナカンパニーの倉庫魔法よ。どこでも持ち物を預けたり引き出したり出来るわ」

「へー」


 そんな便利な魔法もあるんだ。ってあれ?


「なら、ネコエルフから貰ったお土産もそれ使えばもっと楽に運べたんじゃない。なんでミケは使わなかったんだろう?」

「さすがに、あれだけの為に倉庫魔法と契約するのはもったいないですよ。それに生ものと生き物は預けられないですから、お饅頭みたいな賞味期限の短いお菓子も無理だったでしょうし」


 ショコラが苦笑しながら指摘する。


「ああ、生菓子は無理だったのね」


 確かに荷物の中に生菓子が結構あったからどっちみちあんまり意味なかったのか。

 基本的に生き物と腐りやすいものは預けられないって事ね。

 そう考えると、あんまり便利じゃないかも。


「さて、それじゃあナイル。この調子で他の部屋もお願い。もし、家具をどかしている時に見つけても相手しなくていいからね。私達は先に例の部屋に行っているわ」

「わかりました。他の部屋を片付けたらそこに行きます」


 ナイルはチグリスにそう言うと、今度はわたしに向き直った。


「所で部屋にある荷物なんですが……」

「あ、荷物ね。適当に部屋の隅にまとめといてもらって大丈夫だから。ね、ショコラもいいよね?」

「はい」


 ショコラが返事を聞くと、ナイルは別の部屋へと向かっていった。


「じゃあ、私達も行きましょう」


 チグリスの掛け声に頷くと、わたし達は三階へと上がった。

 目指すのは先ほどの部屋だ。

 三人で話し合った結果、やっぱりあの部屋が一番怪しい。


 一番出やすいのではないかという話になり、建物中のおっぱいスライムをなんとかおびき出して、この部屋で戦うとわたし達は決めたのだ。

 わたし達は部屋に入ると明かりをつける。


「あ、ナイル」


 わたし達が部屋に入ってからしばらくして、ナイルが入ってきた。

 そして、最後の部屋であるこの部屋の家具と調度品を全て異次元に片付けると、わたしに向かってツカツカと歩み寄ってきた。


「え、どうしたの?」


 しかもナイルの手にはフライパンが握り締められていたのだ。わたしが困惑していると、


「そんな刃物を室内で振り回されたら部屋が傷つきますから。これで戦ってください。お願いします」


 そう言って、わたしの手にフライパンを握らせてくる。


「へ……?」


 思わず手に持ったフライパンを見つめてキョトンとしてしまう。

 そして、周りをみる。


 ショコラが持っている武器は木製の孫の手だ。いや、孫の手がはたして武器なのかどうかは置いておいてもすくなくとも刃物ではない。


 そして、今度はチグリスを見る。チグリスが持っている武器は白蛇のケインと呼ばれる白い蛇の皮で作られた短いムチで、先端には蛇の頭がついており、シャーと口を開けたり舌をチョロチョロと出したりと妙なリアリティがある。


 というか体がクネクネと動いていたりと、ぱっと見生きてる風にしか見えないんだけど、別に生きてるわけじゃないよね?


 主にお仕置きや拷問に使われる道具なの。とさっき嬉々としてチグリスが話してくれた。

 満面の笑みで語られるとちょっと怖い。でも、やっぱりこれも刃物ではない。


「わかったわ」


 確かに、この狭い室内で刀なんて振り回したらそこら中に傷がついてしまうだろうし、大家であるナイルがその事を気にするのは、考えてみれば当然なのかもしれない。


「じゃあ、これ預かっててもらえるかな」


 わたしは腰から猫村正をはずすとナイルに渡す。

 ナイルはわたしから猫村正を両手で、恭しく受け取った。

 もう、ちょっと大げさだよと思いながらも、自分の刀が大切に扱われているのを見ると安心する。


 わたしは、猫村正と交換したフライパンを軽く振ってみる。

 お、結構いいかも。フライパンは武器としても優秀だなー。

 わたしがフライパンの殺傷具合を確かめていると、ナイルが「御武運を」と言い残して、部屋を後にした。


「さて……」


 何もなくなった殺風景な部屋の中で、わたしはショコラを見る。


「おびきだして倒すとは言ったものの、どうやっておびき出すの?」


 この部屋におびき出して一網打尽にするという所までは聞いているのだが、肝心の具体的にどうやっておびき出すのかを、わたし達はまだ聞いていなかった。

 この作戦を立案したのはショコラなので、わたしもチグリスも自然とショコラに意見を仰ぐように視線を向ける。


「もちろん方法はありますよ。任せてください」


 そう言うと、懐からお菓子のパッケージを取り出した。

 そのパッケージに描かれているお菓子は、長細いクッキーにチョコレートがコーティングされたお菓子だった。


「それは?」

「ポッキーです。さっきナイルさんに譲ってもらったんですよ」


 ショコラは機嫌よくお菓子の箱を開けると、そこから一本長細いクッキーのお菓子を取り出して、目の前に示しながら言った。


「今から、ショコラとルナさんでポッキーゲームをしましょう」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >残っているのは、クローゼットが置かれていた場所に残された。 >おそらく中にかけられていたと思われる衣服が、山となって残されているだけだった。 ど、どういうこっちゃ?(゜Д゜;) [一…
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