50話 その名はおっぱいスライム
「はっ?」
「だから、おっぱいスライム……」
「え、何?」
「だから、おっぱいスライムですって! 何回も言わせないでください! ルナさんのおっぱいみたいな色白な肌の色のお饅頭型にピンク色の乳首がついた、おっぱい型のスライムですよ!」
「なっ……。ショコラ、わたしのおっぱい見たことあんの?!」
「昨日お風呂で着替えてる時に……」
「覗きとかひどーい!」
「女同士で何言ってるんですか! んな事言ったら、ルナさんだってショコラのおっぱい揉みまくってたじゃないですか!」
「え、そんなことしたっけ?」
「しましたよっ」
「二人共、変なことでヒートアップしないで。おっぱいがゲシュタルト崩壊するわ。男の子もいるのよ」
チグリスの言葉にはっとしてミケ達を見る。
完全に唖然とした表情をしていた。
多分、状況を飲み込めてないのだろう。というか、わたしもよくわかんない。
ついでに言うと、おっぱいプリンを半ば無理やり食べさせてきたチグリスに諌められるのは釈然としない。
「はぁ」
大きく深呼吸する。
「とにかく話を戻すけど、この建物にはその……おっぱい…スライム。とかいうのが住み着いてるわけね」
「そうなんです。その……おっぱい…スライム……が住み着いてるんです」
なぜかヒソヒソ声になるわたし達。いや、やっぱり大声で話すのは憚られる内容だしね。
とはいえ、わたしはニャルハラの魔物について全然詳しくないので、ショコラの言っている魔物がどれほどの脅威なのかもさっぱり分からないのだった。
「ね、チグリスはおっぱいスライムって知ってるの?」
「さあ、聞いた事がないわ」
チグリスも知らないのか。
メジャーな魔物〈モンスター〉じゃないのだろうか。
「まあ、普通の使い魔〈サーヴァント〉はスライムの相手なんてしないですし、結構レアなスライムなんで知らなくても無理はないと思います」
ショコラが苦笑しながら続ける。
「でも、放置は危険ですよ。主にホテルや旅館なんかに住み着くんですけど。いつの間にか温泉が混浴になっていたり、おっぱいプリンやおっぱいチョコレートがお土産になってたりするんです。果てにはただのホテルが娼館になってたなんて笑えない話もあるんですよ」
「ああ……」
わたしはジト目でチグリスを見る。アレはコレの影響だったのかな。
「何?」
「別に」
わたしはチグリスから視線を切ると、ストローを咥える。
「それで、その魔物が男を操って女を襲わせるような事もある……という事なの?」
「多分、そうなんじゃないかと思うんです。普通そこまではしないんですけど。なんでか分からないですけど、このアパルトマンに住み着いているおっぱいスライムは浮き足立ってるっていうか、活性化してるみたいに思うんです」
チグリスがおずおずと訊ねると、ショコラがたどたどしく説明をした。
そして、うーんと考え込む。
「まあ、ともかくやる事ははっきりしたわね」
わたしが言うと、二人が顔を上げた。
「細かい事なんて気にしなくていいのよ。とにかく倒しちゃえばいいんだから。おっぱい大虐殺大作戦ね」
「その作戦名はともかく……」
ショコラはコホンと小さく咳をすると、
「倒すのは賛成です。放っておく事は出来ないですから。ただ戦闘に参加するのは女の子だけの方がいいと思います。男性の方が、その……おっぱいスライムの影響を強く受けますからね」
「……あ、そうだね」
ショコラが恥ずかしそうに、赤面するのでわたしも釣られてしまう。
「でも、一応話さないと」
「……」
「……」
わたしが言うと、二人が一斉に黙り込む。わたしはにゃははと愛想笑いを浮かべると、
「えっと、誰が説明しよっか?」
声を掛けると、ショコラとチグリスは目を合わせた後に示し合わせたようにわたしを見た。
「え……」
笑顔を固まらせたまま、思わず身を引く。
「お願いしちゃっていいですか? ルナさん」
「ルナちゃんならキャラ的に許されるわ」
キャラ的に許されるって何ですか。二人の期待の視線が重いんですが。
わたしは、「うぅ」とひとしきり言葉に詰まってから搾り出すように、
「わかった。わたしが説明する」
はぁ、とため息を吐きながら言う。我ながら押しに弱いのであった。
「ありがとうございますっ」
「ルナちゃんならそう言ってくれると思ってた」
「別に、ありのままを説明すればいいだけだし」
大した事じゃないの。そう、大した事じゃ……。
「男の子相手におっぱい連呼とか完全にド変態ね」
そう言うと、チグリスが聖女のような微笑みをわたしに向けた。
もう完全に人にものを頼む態度じゃないよね。それ違うよね。
「そうと決まったら、善は急げね。早速行きましょう」
チグリスは席を立つと、軽快な足取りで少し離れたミケ達が座っているテーブルまで進んでいった。
「ほら、早くー」
手を掲げて呼び寄せる。
仕方なく、重たい足取りで向こうのテーブルに向かう。
「なんだよルナ。話って?」
椅子に座り、体だけをこちらに向けたミケが訝しげな目線を向けた。
目が合った瞬間わたしは胸が跳ね上がって顔が火照ってしまう。
「えっと、ミケ、あのね……」
落ち着かずに体を揺すりながら、
「この建物に幽霊が出るって話があったでしょ……?」
「ああ」
「それのね……、正体がわかったの」
「本当か?」
「うん……」
わたしが頷くと、ミケが身を乗り出す。
「それで一体なんだったんだ?」
「えっとね……」
わたしはモゾモゾと落ち着きなく体を動かす。
「おっぱいスライム……」
「はっ?」
「だから……おっぱいスライム」
「お前、何言ってんの?」
「だから、おっぱいスライムだって言ってるでしょっ! 何回も言わせないでよ! わたしのおっぱいみたいな色白な肌の色のお饅頭型にピンク色の乳首がついた、おっぱい型のスライムなの!」
言い終わってからはっとする。ショコラの説明そのままトレースしちゃったっ。
「あぅぅ……」
わたしは勢いよくその場にしゃがみ込むと、顔を覆う。
トントンと肩を叩かれるのに顔を向けると、そこにはチグリスがグッジョブみたいな顔をして親指を立てていた。
「なんか盛り上がってる所悪いが、正直全く話が分からないんだが」
「詳しくは私が説明するわ」
チグリスは立ち上がると、ふわふわしたツインテールの一つを触りながら言った。
なら、最初からチグリスが説明してよ。とわたしは思わずにはいられなかった。




