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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
3章 アパルトマンの猫達
48/229

48話 銃声

 バンッという耳を劈くような音が、建物内に響いた。


「え、何?」


 わたしは、ぐでーと机につっぷしていた身体を起こすと、耳をピンと立てる。


「銃声か……?」


 ミケが呟くのを聞きとめ、バーカウンターの方を見ると一様に怪訝な表情を浮かべていた。

 何で、銃声が……?


「上の階からだったよねっ」


 それは、一種予感に近いものだった。もしかしたら、ショコラに何かあったのかもと思ったのだ。


「あ、おい! ちょっと待て」


 わたしはうさぎのように飛び起きると、制止の声を置き去りにして弾丸のように階段を駆け上がっていった。

 まずは二階を見る。


 一直線に続く廊下に、均一に閉じられた扉。

 特別、何かおかしい所は感じられない。

 それに、音の聞こえ方からしてももっと遠かったはず。

 この階じゃない?


 わたしはさっさとそう判断を下すと、更に階段を上へと上る。

 そして三階の廊下へと出て、その最初の部屋に何か違和感を覚えた。

 魔力的な気配。とでも言うんだろうか。

 多分、チグリスに魔力を活性化してもらった後遺症がまだ残っているからなのかもしれないけど、魔力の残り香なのかミルクのような甘い匂いを感じた。


「ここだ」


 扉の前に立つと、わたしは確信する。

 確かこの部屋は、わたし達が幽霊がいるとかいないとかやっていた部屋じゃなかったっけ。うっ、幽霊か。でも、今はそんな事気にしてはいられない。

 わたしはドアノブを掴むと、ぐっと捻る。


「開かないっ」


 鍵が掛かってるんだ。

 わたしがガチャガチャと扉相手に格闘していると、ミケ達が追いついてきた。

 わたしはその中のナイルに視線を向けると、訴えるように言った。


「ナイルっ。鍵が掛かってて開かないの。大家なんでしょ。合鍵とか持ってないの?!」

「待ってください。今開けます」


 そう言うと、ナイルは懐から鍵束を取り出すと、その中の一本を鍵穴に差し込み回す。

 カチャリという音がして鍵が開いた。


「開きましたよ」

「ありがとっ」


 わたしはナイルを押しのけると、勢いよく扉を開いた。

 そして、間髪入れずに中に入ると、部屋の中の様子を確認する。

 窓から入る光と、それに照らされた薄暗い室内。


「……っ!」


 目の前を横切る白い影に、思わずぎょっとする。

 え、何こいつ?

 拳銃を持った猫耳をつけたキューピットだった。キューピットが葉巻を咥え一仕事終えたかのような表情で満足気に一服していた。


 そして口から煙を吐き出し一服を終えると、ニヤリと口元を吊り上げ魔力の粒子となって姿が掻き消えてしまった。どうやら、魔力で作られたものだったらしい。

 そして、その掻き消えた先にあったベッドを見て、わたしは目を見開いた。


「ショコラ……?」


 ベッドの上には、ショコラとショコラに覆いかぶさるように気絶しているユーフラテスの姿があった。


「――っ」


 わたしはベッドに駆け寄り息を呑んだ。

 ショコラがいつも纏っていたローブは無理やり脱がされたのかボタンは弾け飛び、クシャクシャ皺になっていた。

 そして、その下の黒いワンピースが露になっている。


 よくみれば、ショコラの着ているワンピースは初期装備の薄いやつだ。

 頭上で手を組まされた状態で押さえつけられ、気絶してもなおユーフラテスの手は薄手のワンピースを握り締めている。

 なんなの。いや、なんなのかはわかるけど、うまく考えがまとまらないよ。


「……」


 わたしは、ぐっと強く瞼を瞑ると気持ちを切り替えた。

 今は、とにかくこの場を何とかしないと、


「どいて」


 わたしは、ショコラに覆いかぶさっていたユーフラテスをベッドの脇に落とすと、ショコラの体を起こした。

 着衣の乱れを確認する。ローブは皺だらけだけど、その下に着てるワンピースはそこまで乱れてないかも……。


「ショコラ、大丈夫?」


 声を掛けるが、返事が返ってこない。


「はっ、はっ、はっ」


 ショコラは目を見開いて、はっはっと荒い息を断続的に繰り返していた。

 過呼吸になってるんだ。


「ショコラ、落ち着いて。落ち着いて息をするの。ほら、すーはーすーはー」


 わたしがゆっくりと呼吸をすると、それに合わせてショコラの呼吸も段々とゆっくりになる。


「落ち着いた?」


 わたしは訊ねると、ショコラはコクコクと首を縦に振った。

 どうやら、平常に戻ってきたみたいだ。


「あの、ショコラ……」


 わたしは一度目を逸らすと、眉を寄せながら再びショコラを見つめた。

 聞きにくいことを聞かなければならなかったからだ。


「えっと、その。何もされてない?」

「はい……」

「ほんと……?」

「はい」

「そっかぁ」


 少し腫れた目を細めるショコラを見て、わたしは肺の中に溜まっていたどんよりとした空気を吐き出した。


「よかったぁ、よかったよぉ」


 わたしはショコラを抱きしめると、頭を擦る。


「これは一体どういう事なのかしら?」


 遅れて部屋に入ってきたチグリスが、床のユーフラテスの体を起こしながらわたしに訊ねる。


「わからない。でも、今はとにかくショコラを下に連れてって休ませてあげたいの」

「……そうね。それじゃあ二人を下の階に運びましょう」


 そう言うと、チグリスは倒れたユーフラテスの体を背負い部屋を出て行く。

 しかしさすがに重いのか、途中バランスを崩しそうになるのを、ナイルに支えられながら階段を下りていった。


「俺も何か手伝った方がいいのか?」

「大丈夫。ミケは先に下りてて。わたし達ももう少ししたら行くから」

「そうか」


 ミケは頷くと、部屋を出て行った。

 わたしはそれを見送ると、ショコラに向き直ると、


「ショコラ、立てる? って何してるの?」


 わたしは目を瞬かせる。視線を向けたとき、ショコラが着ているワンピースをしきりに引っ張っていたからだ。


「服、伸びちゃいました」

「ああ……」


 なんだ、そんな事か。随分と暢気な感想に、思わずわたしは頬を緩める。


「その程度で済んでよかったよ。ショコラの着てる服って初期装備のやつでしょ?」


 コクリとショコラが頷く。


「いつまでも初期装備ってのもおかしいよね。明日一緒に服買いに行こっか。ほら立って」


 わたしはショコラの手を取ると、立ち上がらせる。

 まだ頭がぼんやりしているのか、足取りは覚束ない。


「……ボタン」

「え……」


 ショコラが床を指差す。

 その指差した先には、ショコラのローブから弾けとんだボタンが落ちていた。


「あ、ボタンか」


 わたしはそのボタンを拾い上げる。


「これでいい?」


 ショコラに渡すと、ショコラはそれを握り締めて胸に当て、ほっと落ち着いたように顔を弛緩させた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの事案!?(゜Д゜;) これはヒト……っつうか猫によってはトラウマモノ!!
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