39話 魔法を使ってみよう! ニャルラトフォン編
表彰式を終えた後、わたし達はリィリィを初めとして、わたし達の為に頼み込んでくれた猫や、金棒ジャグリングの猫〈ひと〉、その他お世話になった猫達に挨拶をしてから帰路についた。
行きと同じように、バス停まで森の中を歩きやってきた車掌の帽子を被ったネコソギシティ行きのバスに乗る。
わたし達はショコラを間に挟むように席に着いていた。
貰った商品は大量の紙袋となって足元に置かれている。
もっとも、ネコモッコリDXGOLD2000の箱は、わたしが膝に乗せて厳重に持っている。
何しろ、これだけで百八十万の価値があるっていうんだから、そりゃ大切に扱うってもんでしょ。内容物は別にして。
ネコバスが森を抜けて街道に抜けた辺りで、肩に何かが乗っかる感触があった。
それは、ショコラの頭だった。報酬で貰ったネコモちゃん人形を抱きしめたまま、ショコラは眠ってしまっていた。
無理もない。今日は彼女にとっても色々あり過ぎたのだろうから。
「ショコラ、寝ちゃってるよ。今日頑張ったもんね」
ショコラの一つ向こうに座っているミケに話しかけた。
ミケはチラリと横目でショコラを確認すると、
「ああ、もしショコラが幻術を解いてくれなかったら、俺はお前を殺してる所だったからな」
「はぁ?」
ミケの言葉に、わたしは眉を八の字にする。
「ちょっとミケ、事実を歪曲して伝えるのやめてよ。わたしがミケを殺す所だったんでしょ?」
「お前さぁ、奥の手があったかもとは思わないのか?」
「え、あったの? 奥の手」
「いや、ないけど」
「ないんかい!」
はっ、思わず突っこんでしまった。
っていうか。
「ははーん、さっき態度が妙だった理由がわかったわ。わたしに負けたのが悔しかったんでしょ?」
「さあな」
「えー」
「しつこいぞ」
うん、これはきっと図星。
目線を逸らし素っ気無く応えるミケに、わたしはニヤニヤと笑みを浮かべながら詰め寄る。
わたしがミケをいじめられる機会は、めったにないからね。
こんなことでもないと、っていっても正直ギリギリだったと思うけど。
「ところでさぁ。ミケが出した黒い霧みたいなのって魔法なの?」
「黒い霧? ああ、魔法だよ。ギガペインっていう暗黒魔法」
わたしが訊ねると、ミケが思い出すように言った。
ああ、やっぱりあれ、魔法だったんだ。
マリリンの時も悔しい思いをしたけど、もしかしてこの世界って結構魔法が馬鹿に出来ないのかも。
「そういえば、あれかなり痛かったんじゃないか?」
「うん、すっごい痛かった」
あの時の激痛は思い出すだけでも辛くて泣きそうになる。
「痛みが残ってたりしないよな?」
そう言うと、ミケは身を乗り出してわたしの手を掴むと、手のひらを揉み始める。
ちょっとくすぐったい。
「だ、大丈夫だよ。ちょっと、そんなに揉まないで」
「そうか、ならよかった。あれは、日本でかつて起こった公害病のイタイイタイ病を擬似再現した魔法で、対人に使うような魔法じゃないからちょっと気になってたんだ」
「そうなんだ」
どんだけヤバい魔法使われてたんだろう。
わたしはミケから解放された手を擦りながら睫を長くする。
「ねえミケ……、わたしにも魔法の使い方教えてくれない?」
わたしが伺うように言うと、ミケは驚いた顔をする。
「前は魔法なんて興味ないって言ってたのに、一体どういう心境の変化なんだ?」
「べ、別になんでもないよ。その、えっと、ただ魔法の一つくらい使えた方がいいかなって思っただけで」
わたしが足をぶらぶらさせていると、ミケがフッと力を抜くように顔を綻ばせたのが分かった。
「いいよ。で、どんなのがいいんだ?」
「めんどくさくない奴」
即答する。
「だって攻撃魔法の為にちまちま携帯弄るくらいなら、斬った方が早いもん」
「やっぱりお前、興味ないだろ」
ミケが目を細めるのに、わたしは目を泳がせると、
「あるってば。ただ、わたしあんまり器用じゃないから……」
わたしの言葉に納得したのか、ミケが頷く。
「なるほどな。なら、まずはアクティブ〈能動的〉じゃなくてパッシブ〈受動的〉な魔法にした方がいいのかもな。パッシブ魔法で一番有名なのは、身体能力を強化する補助魔法だが」
「身体能力の強化! なにそれすっごい便利そう。魔法かけまくって攻撃力とか上げまくれるってことなの?!」
「と、思うかもしれないが、実際はそんな便利なもんじゃない。よく考えてみろ、今まで会った使い魔〈サーヴァント〉で身体強化の補助魔法を使っていた使い魔がいたか?」
「そういえば……」
「だろ。いないって事はそういう事なんだよ。身体強化の補助魔法は元々の身体能力が低ければ低いほど大きく働き、高ければ高いほど効果が小さくなる。つまり、お前くらい動ける猫だと効果はほぼ望めない。もちろん重ねがけも出来ない。『か弱い私が補助魔法を重ねがけしまくったら、こんな大きな岩を片手で持ち上げられるようになりました』的な事は起こらないわけだ。基本力の弱い魔法使いなんかが、接近戦をせざるを得ない時に使うような産廃魔法だからな」
「でも、プラシーボくらいにはなるかも」
わたしが言うと、ミケがふんと鼻で笑った。
「お守り程度に考えてるならやめとけ。パッシブ魔法は使用契約を結んだ瞬間から常にお金が掛かる上に、解約が容易じゃない。大体二ヶ月しばりというのが一般的だな。戦闘の時だけ契約して、終わったら解約というような運用方法を会社の側で封じてるわけだ。さすがにオン、オフくらいはあるが、待機状態〈オフ〉で毎分〇,五コネ。作動状態〈オン〉で毎分十五コネって所だ。お守りにするには高すぎる」
「うーん、そっか……」
身体強化はなしか、よさそうだと思ったんだけど。
「じゃあ、他には?」
「そうだなぁ。後は武器に属性を付与したり、状態異常の耐性を上げたりとか」
「状態異常の耐性って上げられるの?」
ぱっと顔を上げてミケを見る。
「えらい食いついてきたな」
「だって、すっごい痛かったからね」
もう、あんな思いはしたくないからね。
耐性って事は、痛みが和らぐって事のはず、なら食いつくなという方が無理である。
「状態異常の耐性を上げる魔法は存在する。特にお前に使ったペインなんかの呪いを付与するものに関しては、ほぼ完全なレジスト〈抵抗〉魔法が確立されている。これはかつてニャルハラで巻き起こった暗黒魔法ブームの時に、使い魔同士の怨恨による呪い被害が頻発し社会問題化した為、最終的に暗黒魔法会社の企業責任が問われる事となって、その結果、全暗黒魔法会社が共同出資し、世界で初めて状態異常に対する耐性魔法を研究する会社を作った事に由来する。その時作られた会社が魔法耐性専門の会社〈ねこがまん社〉だ。そんな経緯を持つ会社なので、ことさら呪いに関する耐性は完璧というわけだな」
「じゃあ、そこと契約すればいいわけね」
「ああ、でもこの状態異常耐性魔法。かなり費用対効果が微妙なんだ。というのも、現在俺たちが戦っている敵であるMTTBはあまり魔法を使ってくるような敵じゃない。使ってきたとしてそれは未知の魔法であって、既存の耐性魔法で効果があるとも限らない。過去の脅威の蓄積によって生み出された技術は、新しい脅威には無力という事もありうるわけだ」
ミケは一旦言葉を切ると、更に続けた。
「そして、この手の耐性を謳うパッシブ魔法は攻撃系のパッシブ〈受動的〉魔法と違ってオンオフの概念がないのも問題だ。契約したら常のオン状態の金額を請求される事になる。例えば、呪いの耐性を付けるとする。すると、基本契約料に上乗せされて、毎分五コネのお金が引き落としされていくという感じになる」
「えっと、毎分五コネって事は……、六十分で一時間だから。一時間で三百コネ、一日で七千二百コネ、一ヶ月で二十一万六千コネ。二ヶ月しばりだから、一回契約したら最低四十三万二千コネ掛かるって事かぁ」
「低位の耐性魔法でそれだから、更に高い効果を求めるならもっと値段は高くなる」
「うわぁ」
そりゃ、高いわ。提示する数字を小さくして一見安そうに見せかける詐欺師の手口そのものと言えなくもない。
「くらうかどうかも分からない、状態異常の為にそこまで払えるかというのが一番の問題だな」
一応、武器に属性を付加する魔法というのも聞いてみたけど、ほとんど変わらない説明だった。
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