38話 ネコモッコリDXGOLD2000貰ったよ
「み、皆さん。ご静粛にお願いしまーす」
ネコエルフのお姉さんの声が、マイクを通して会場に響いた。
「会場での暴力行為は固く禁じられてまぁす。皆さん仲良くお願いしまーす」
かなり今更な忠告が、会場に響き渡る。
どうやら、リィリィからマイクを取り戻したらしい。しかし、すぐにリィリィに奪われてしまった。
「もう、お前達満足したあるな。文句のある奴は、前に出てまたルナにのされるがいいアル」
ジトっと目を細めながら、リィリィの声が響く。
また、煽るような事言うんだからと思ったが、意外な事に反発を受ける事はなかった。
「不満はねーよ」
「ああ、不満無し」
「お前らが優勝だよ。おめでとう」
周りの猫達が、口々にわたし達を祝う言葉を口にする。
わたしはびっくりして辺りを見回す。そして、次第に状況を理解して顔を綻ばせた。
やっと、わたし達は認められたのだ。
もう、なんかあれだね。全ての猫達にありがとうとか言っちゃいそうな気分。
「こら、勝手にマイク取るんじゃないわよ」
「あぅっ」
ステージでは司会のお姉さんが、再びリィリィからマイクを取り戻していた。
「あっち行ってろ。シッシッ。誰か、その娘〈こ〉を裏手に連れってって。ついでに、水の入ったペットボトルで周囲を囲んどけ」
「ああ、水の入ったペットボトルらめぇ」
ステージにネコエルフの裏方スタッフが二名ほど出てきて、リィリィを羽交い絞めにするとズルズルと、ステージ裏まで引きずっていく。
その途中、リィリィと目が合った。
パチッと片目を瞑り、リィリィがウィンクを送ってくる。
わたしもウィンクを返した。
っていうか、水の入ったペットボトルが猫よけになるって完全に迷信だからそれ。
「えー、こほん。では気を取り直して……、それじゃあ、式の続きを開始するよー。みんな準備はおっけーかなー?」
おおー、という野太い返事。
「それでは、見事一位に輝いた家猫同盟の皆さんはステージに上がってきてください」
アナウンスが掛かる。
「だってよ」
「行きましょう」
ミケとショコラが駈け寄ってくる。
「うんっ」
わたしは刀を鞘に納めると、頷く。
そこで、背を向け歩き出しているアリエル達に気づいた。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
「どこも何も、私達はもう帰るって言っただろ」
「えー、わたし達の勇士見ていかないの? 見ていけばいいのになー。ね、ショコラもそう思わない?」
「え、う、うん」
わたしが同意を促すと、ショコラが控えめに頷く。
「悪いね。マジで興味ないから。他人が表彰される所を見るくらいなら、映画のエンドロールクレジットでも観てた方がマシだね」
そう言うと、アリエルはフッと笑みを作る。
「じゃあね。また戦場で」
「ばいばい、らしいですよ」
そういい残すと、今度こそ二人は去っていった。
二人を見送り、わたし達はステージへと向かう。
ステージに上がると、ネコエルフのお姉さんが大げさすぎっていうくらいに、わたし達の事を持ち上げてくれた。
ありがたいけど、ちょっと照れくさい。
「一位の家猫同盟の皆さんには、特別報酬が与えられます」
司会のお姉さんが言うと、ステージに次々と物品が運び込まれる。
「我々、ネコエルフの里が誇る代表的な特産品っ! 猫の形をしたマリモ! ネコモを使った物産品の数々です。どうぞ!」
マリモというのは北海道なんかにいる球体の藻のことだ。
といっても、テレビで観た知識しかないけど、形は緑色の丸い物体で毛糸玉に似ている。
しかし、ネコエルフ達が持ってきたマリモは完全な球体ではなく、猫の耳のような突起物が二つ頭上についていた。
ネコエルフ達によると、これをネコモというらしい。
ネコモはグレートキャットフォレストの深奥に存在するネコエルフの里のさらに奥に存在する、神猫湖〈しんびょうこ〉という湖で採取する事が出来る稀少なマリモなのだという。
神猫湖にしかない事から、ネコエルフの特産品として知られている。
その為、ネコモが入ったキーホルダーを始めとして、ネコモをテーマにしたお饅頭やお酒やぬいぐるみなんかがどっさりと置かれている。
「ええっ、報酬ってお金じゃないの?」
てっきり賞金が貰えるものとばかり。
「やだー、誰がお金だって言ったのかなー。報酬はネコモセットですよー。ネコモ饅頭に、ネコモ煎餅、ネコモ酒でしょ、ネコモちゃん人形に、ニャルラトフォンで使えるネコモちゃんアイコンに、ネコモちゃん壁紙。中でも最も一押しなのは、我々ネコエルフが開発するのに三年も費やした。この最強の精力増強剤ネコモッコリDXGOLD2000!」
司会のお姉さんが物産品の中から小瓶を手に取り掲げると、会場がおおお! と歓声が巻き起こる。
なんか、みんな異様に盛り上がってるんですが……。
「これぞ、知る人ぞ知る伝説のアイテムなのです。超稀少なネコモエキスの抽出に時間が掛かり大量生産が出来ないため、市場に出回る数が非常に少ない。現在一般市場では一本三十万というプレミア価格で取引されているこのネコモッコリDXGOLD2000を今回出血大サービスで六本入り一箱プレゼントしちゃいます!」
パチパチパチという割れんばかりの拍手が会場を包み込む。
「今回のネコエルフは太っ腹だぜ」
「くそー、なんてうらやましい奴らなんだ」
「頼む、安くネトオクで流してくれ」
口々にそんな声が聞こえてくる。どうやら、わたしには分からないが、分かる猫には分かる代物らしい。
そして、このクエストを受けてここに来ている使い魔〈サーヴァント〉の大半は、その分かる猫の方に属しているらしい。
「これがあれば、急な夜戦も一安心だね! やったね!」
CMのキャッチフレーズのように、お姉さんが親指を立てる。
「夜戦? 夜に戦うって事?」
そう言えば飼い主さまも、夜、お仕事をする前にあんな感じの茶色の小瓶に入った飲み物を飲んでいた事があったけど、あんな感じだろうか。
「ちゃうちゃう。あ、でも、お子様に説明するには早過ぎる概念かもしんないねー」
司会のお姉さんは小瓶の首を摘むとユラユラと揺らしながら、によによと口元を猫にみたいに歪ませる。いやまあ、猫なんだけど。
っていうか、なによそれ。明らかに馬鹿にした態度に、わたしはムッと眉を寄せて、ショコラに振り返る。
「ねぇ、ショコラわかる?」
「え、えっとそのぅ……」
わたしが訊ねると、ショコラは顔を赤くして俯くと、指をつけたり離したりしながら目を逸らしていた。え、何、どうしたの?
「あのですね。ちょっと耳貸してくださいっ」
そう言うと、ショコラはわたしの耳元に口を寄せる。
「実は、アレのレビューをネットで見たことがあるんですけど、あれって――」
ごにょごにょ。ごにょごにょ。
「……っ!?」
やかんが沸騰したかのように、顔が熱くなる。
夜戦って、そういうこと……。
思わず、ショコラと顔を見合わせて苦笑する。
「いいから、さっさと受け取っとけ」
わたし達が小鳥のようなさえずりあいをしていると、ミケが至極冷静な声で割り込むように言った。
「わ、わかってるわよ」
別に、何か特別な感情があるわけじゃないけど、なんだかミケの顔を直視できない。
わたしは、目を逸らしながら頷くと、ネコエルフのお姉さんに向き直った。
相変わらず、猫みたいな口をしてによによと笑みを作っている。
まったく、なんてものを作ってるんだか。ネコエルフってのはド変態だな。伊達に寿命長いだけあるわ。
「私達ネコエルフの熟練の職人達が一滴、一滴ゆっくりと抽出したネコモエキスがたっぷり入ったネコモッコリDXGOLD2000。ここぞという時に、飲んでくださいね。はいどうぞ!」
そう言うと、お姉さんはドリンクの入った小瓶が六本入った箱をわたしに持たせた。
その瞬間、わー、と歓声が巻き起こる。
なんだろう。せっかくの表彰式なのに、なんだかひどく羞恥プレイに感じるのは、わたしの気のせいだろうか。
そんな歓声に紛れて、
「嬢ちゃん、今夜頑張れよー」
と誰かが言うと、頑張れ、頑張れ、と頑張れコールが起こる。
使う予定なんてないっつーの。
「一体、何を頑張れっていうのよー」
わたしが悲痛な叫び声をあげると、更に会場はわっと沸いて盛り上がりを増していた。
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