34話 改めてよろしくね
「別に、仲間割れってわけじゃ……」
ただ、ショコラが変なことを言い出すもんだから。でも、端から見ていたら仲間割れに見えてたんだろうか。
一体いつくらいから起きていたのか、体を起こしたアリエルはわたし達の話の内容を結構知っていた。
多分、ショコラが幻術の話を出したあたりからもう意識だけはあったんだろう。
「なんか勘違いされてるみたいだから訂正するけどさ。確かに、私はショコラに闇金から借りろって言ったけどさぁ。あれ本気で言ってると思ってんの?」
「違うんです……か?」
ショコラが恐る恐る訊ねると、アリエルは「はっ」と息を吐く。
「あったり前じゃん。闇金なんかから借りてみろ、本人だけの問題じゃなくなるぞ。あんたが借金で首回らなくなったら借金取りが私達の所にも来るじゃん。あいつらから目を付けられたら何されるかわかんないからね。もし何かの間違いで捕まったら一生ハイダラケシティで奴隷労働させられるかも知れねー。あんなのに関わったら終わりだっつーの」
「……」
「あれは、あんたの覚悟を試しただけ。で、覚悟がないと思ったらから追い出したってわけ」
「……」
アリエルの言葉をショコラは伏し目がちに聞いていたが、「でも」という声に顔を上げた。
「あんたは、私達を助けてくれた。その功績に免じて、私達のパーティに戻してやってもいいよ」
「はっ?」
真っ先に声を上げたのは、わたしだった。
「ちょっと、何勝手なこと言ってんのよ。ショコラはわたしのパーティの仲間なの。あんんたのパーティになんて戻るわけないでしょ。そんなブラックな――」
「私はショコラに訊いてるんだ。ちょっと黙ってな。クソガキ」
「っ……」
ギロリとしたアリエルの眼光に思わず言葉を飲む。
凄みを利かせているアリエルは、本当にレディースの総長みたいでちょっと怖い。なので、気おされてしまった。
「さあ、どうするの? ショコラ」
アリエルは胡坐をかくと、頬杖をついてショコラに訊ねた。言葉を向けられたショコラは、逡巡するように目を伏している。
ショコラ……?
ハラハラした気持ちで、わたしはそれを見つめる。
わたしの目からは、ショコラが迷っているように見えたからだ。
やっぱり、元居たパーティに未練があるのだろうか。
あんな猫を猫とも思わないような扱いをされても、戻って来いと言われれば、戻ってしまうくらいに。
今にして思えば、借金をしなければパーティに居られないなんて。なんで、ショコラがアリエルの言った事をあんなに気にしていたのか。それは、もしかして古巣に未練があったからなんじゃないかって。
「……」
少しの沈黙の後、ショコラが口を開いた。
「ショコラは……戻りません」
「どうして? 下らない理由だったら、マジでシメるよ?」
「だって、ショコラは……」
唇を震わせながらショコラが言葉を紡ぐ、その先をわたしもドキドキしながら見つめる。
「ショコラは、もう家猫同盟の一員ですから」
にへらと笑みを作って、ショコラが言った。
「ショコラぁ!」
わたしは思わず体が熱くなって、ショコラに抱きついていた。そして、そのまま押し倒す。
「ちょっ、ルナさん!?」
「やっと言ったわね。もう、焦らしすぎなんだから」
ぎゅーと抱きしめる。もしかしたら、アリエルの元に戻ってしまうんじゃないかと、本当は心配で心臓が張り裂けそうだった。
「ルナさん。苦しいです」
「あ、ごめん。うれしくってつい」
いつの間にか、ショコラを押しつぶしていた。慌てて、ショコラの上からどく。
「あのー、お取り込みの所申し訳ないアルが」
いつの間に意識を取り戻していたのか、緑色の瞳を上目遣いですまなそうに、わたし達の間に割り込んでくる。
「クエストの終了を告げる狼煙が上がったアル。広場に戻ってほしいアル」
リィリィが目線で指し示した先の空には、緑色の狼煙が何本も上がっている。
あれがクエスト終了の合図なのだという。
ちなみに狼煙を上げているのは、ネコエルフ野鳥の会の皆さんなのだと、リィリィは教えてくれた。
よっこらせとアリエルは立ち上がると、地面に放置されていた大剣を持ち上げ背中に背負った。
「アリエル……」
そんな様子を目で追っていたショコラが遠慮がちに声を掛けた。
「アリエルは、またショコラを試したんですか? それとも本当に――」
アリエルは目を閉じるとふっと息を吐きながら、
「ほんと、あんたは相変わらずだよね。さあ、どうだかね。私って割りとクズらしいし」
そう言うと、ニヤリと口の端をあげながらわたしを見る。
「ほら、ザクロ。起きてんでしょ。行くよ」
アリエルが声を掛けると、ザクロがムクリと起き上がる。
「えっ、一緒に行かないの?」
すでに、歩き出そうとしているアリエルに向かって、わたしは声を掛けた。
どうせ、広場に戻るなら道は一緒なんだから、一緒に行けばいいのにと思ったからだが、アリエルは呆れた表情をわたしに向けた。
「なんで一緒に行こうって発想になるわけ。っていうか、私たちそのまま帰るし」
アリエルの言葉に、今度はリィリィが「え?」という顔をする。
「広場で結果発表があるアルけど?」
「それ、もういいわ。なんか興が削がれたっていうか、興味なくなちゃったんで、私達〈リトルマーメイド〉は帰るんから適当にやっといてって他のネコエルフの猫〈ひと〉に言っといて」
「ちょっと、なら勝負はどうするのよ?!」
わたしはアリエルに食ってかっかる。
ここでアリエル達が結果を見ずに帰ってしまったら、わたし達の勝負はどうなるのだろうと思ったからだ。
わたし達は、MTTBの討伐数を巡って勝負をしていたはず。
「ああ」
アリエルは、少し考えるように目線を遠くにすると、
「なんか、それもマジどうでもいい気分だわ」
「えー……」
軟体動物のように、力が抜ける。
「私等が勝ってたら、郵送で送ってよ」
「なんで、わたしがそこまでしなきゃなんないのよ。っていうか、わたし達負けてないからね」
「わかったよ」
「何がよ」
わたしがむすっとした顔を向けると、アリエルははぁとため息をついた。
「もう、私の中じゃあんたと勝負する理由がないわけ」
「だから、どういう事なのよ?」
「曲がりなりにも、助けてくれた相手から、装備を剥ぎ取るわけにもいかねーし、それに――」
アリエルは、ふっと目を横に逸らすと、
「家猫だからって、無条件で馬鹿にすんのもなってマジ思っちまったからさ」
「え……」
思わず、耳をちょんちょんと動かしてしまう。聞き間違いじゃなかったよね。
「ほら、ザクロ!」
「はーい」
返事をするとザクロは立ち上がり、パンパンと軽く埃を払う。
すでにアリエルは正面に向き直ると森の出口へと向けて歩き出している。ザクロはそれを追いかけるように体を動かしかけたが、ふと、何かを思い出したようにショコラの耳元へと口を寄せた。
「あんなですけど、あの後ね。アリエル結構ショコラの事気にしてた……らしいですよ?」
びっくりしてショコラがザクロを見ると、ザクロはふふっと笑みを浮かべ、浴衣の袖をパタパタと翻しながらアリエルを追いかけていく。
何か変な事言われた? とわたしが訊ねるとショコラはふるふると首を振り、そんな二人の後姿を黙って見つめていた。
やがて姿が見えなくなると、ショコラは罰が悪そうに頬を掻いてからわたし達に向き直った。
「その……、改めてよろしくお願いします」
そう言うと、頭を下げる。
「当たり前じゃない」
わたしは、言うが早いかショコラに抱きつく。今度は押しつぶさないように加減するのを忘れない。
「なんかよくわからんが、吹っ切れたみたいでよかったな」
「はい!」
一言で纏めるかのようなミケの言葉に、ショコラは元気よく返事をすると、花を咲かせるように笑顔を作った。
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