33話 ショコラの苦悩
ショコラの回復魔法の淡い光がアリエルとザクロの体を包んでいる。
幸い二人の傷は致命傷という程のものではなかった。
このまま回復魔法をかけ続ければ問題なく傷は塞がり、いずれ意識を取り戻すだろう。
そして、もう一つ気づいた事がある。
それは二人の傷からだったのだが、どうやらお互い戦いあって出来た傷っぽいという事だった。
ショコラが回復魔法を使っている間、彼女から色々なことを聞いた。
辺りに立ちこめていた霧の事とか、ねずみのかけた幻術の事とか、ショコラがそれらどう立ち回ったのかとそんな事を。
どうやら、わたしが戦っていたMTTBの正体はミケだったらしい。通りでちょっとおかしいと思ったんだよね。だってB級MTTBにしてはあまりに強すぎたから。
それと共に、先ほどのミケの態度にも納得がいった。
おそらくミケは霧が晴れた時に、全部気づいたのだろう。
そりゃ、相手に殺されそうになればああいう顔になるのも無理はない。
ちなみにねずみ妖精達は逃げてしまったらしい。
周りを見ても気配が一切感じられないし、ショコラもそう言っているので、そうなのだろう。
なんだか、勝ち逃げされたみたいで癪だが、まいっか逃げちゃったもんはしょうがない。いつかリベンジする機会もあるだろうしね。
「じゃあ、ショコラが幻術を解いてくれたって事でしょ」
「多分……」
わたしの問いかけに、ショコラは自信なさげに応えた。
話題は、先ほどのショコラの発言に戻っていた。
ねずみの張った蜃気楼の幻術。
それが晴れたのは、どうやら、ショコラが使ったウルトラスーパーライトヒールのおかげだったらしい。
ショコラに言われて思い出したが、そんなものもあった。
あれは回復魔法の契約の特典かなんかだったはず。
そういえば、ショコラは回復魔法の会社の乗り換えをしていたから、あの時に手に入れていたのだろう。
わたしが以前ミケを治すのに使ったものと同じもので、それが無かったら、今頃は全滅していたかもしれない。
「なら、わたし達が今ここにいられるのはショコラのおかげなわけで。なのに、どうしてそんな事言うのよ」
「それは、偶然ですよ」
「偶然でもいいじゃない。わたし達がショコラに助けられたのは事実なんだよ?」
ね、そうですよね。ミケさん? と同意を求めると、ミケが腕を組みながら頷く。
「元はといえば、お前がホイホイねずみについて行ったのが悪いんだけどな」
「だっ、だってしょうがないでしょ。猫だもの」
「お前、ねずみなんて玩具でしか見た事ない癖に」
「うぅっ……」
確かに生まれて初めての生ねずみに興奮して判断力を失っていたのは、認めざるを得ない。
でもだからって、そんなちくちく言わなくてもいいのに。
それに、飼い主さまの猫アレルギーに関係していると思った以上あそこで見失うわけにはいかなかった。
そうだ。
「さっきショコラが連れてきたウェアウルフ。あれが、わたしの飼い主さまの猫アレルギーの元凶の魔物だったんだよ」
「え……」
「ルナ、それは本当か?」
ショコラが思わず顔をあげるのに、ミケが確認するように訊ねてくる。
わたしはそれに頷くと、わたしは改めてショコラを見つめる。
「ショコラのおかげだよ」
「それこそ、偶然ですよ」
しかし、ショコラは再び俯いてしまった。
「と、とにかく。わたし達はショコラのおかげで助かったって事」
取り繕うように、わたしが言うのにも、ショコラの顔色は晴れない。
「それじゃ駄目なの? それとも他に何かあるの?」
わたしが訊ねると、ショコラはちらりと横たわるアリエルを一瞥すると、おずおずと話し始めた。
「昔、アリエルに言われたんです。借金してでもパーティに貢献しろって」
「え、借金?」
「知りませんか? 弱い使い魔でもお金さえ借りれば強い魔法が使えるんですよ」
わたしがキョトンとしていると、ショコラが自嘲気味の笑みを浮かべる。
借金ってあの借金? パチンコ店の隣に沢山設置してあるアレのこと?
まだわたしが実家で暮らしていた時、ママの飼い主さまのお母さまのお婆さまが度々銀玉錬金(と本人は呼んでいた)の最中に利用してしまってお母さまに怒られていたアレの事かな。
わたしが首を傾げていると、ミケが割って入ってきた。
「確かに、使い魔が借金をして魔法を使う事はある。まあ、それはある程度実力がある使い魔の話だけどな」
「はい、ショコラがお金を借りるには〈信用〉が足りませんから」
「となると、闇金か」
「はい、それがパーティに残る条件だと言われました」
ふぅんと、ミケは顎に手を当てた。
「ま、パーティの方針は猫それぞれだから。俺はなんも言わないけど」
「さっきも、後少しだけお金を借りれば、もっと強い魔法を使う事が出来たんです。でも出来なかった。もし、ルナさんが倒してくれなかったらわたしだけでなく、リィリィさんも死んでいたかもしれないのに」
ショコラの耳が心情を表すかのように垂れ下がる。
「だからもう、パーティにいる資格ないんじゃないかって……」
「そんな事ないよ!」
わたしはショコラの隣にペタンと座りこむと、顔を覗き込みながら強く否定する。
「借金だけはしちゃ駄目って、ママの飼い主さまも言ってたもん。まして闇金からお金を借りるなんて全うな猫のする事じゃないわ。悪魔と契約するようなもんなんだから。たとえ目の前の敵を倒してもショコラの人生がゲームオーバーしちゃったら意味ないのよ」
わたしが言うと、ミケが頷きながら続ける。
「銀行から融資も受けられないような使い魔〈サーヴァント〉が闇金の高金利を返済できるわけないしな」
「そうそう……って、ちょっとミケは黙っててくれる?」
わたしはジト目を向けると、ミケを黙らせる。彼に話させると角が立ちすぎて小指をぶつけそう。
「大事なのはショコラ自身の気持ちなの。ショコラはわたし達の事嫌いになっちゃったの?」
「そんな、そんな事ないですっ」
「じゃあ、どうしてっ」
「……」
ショコラは俯くと、そこで黙り込んでしまう。
わたしは横たわっているアリエルに一度、視線を落とす。
「この女がどうだか知らないけど。わたし達は、そんな事でショコラを責めたりはしない。むしろ、そんな事はしてほしくないの。大体、猫に借金を強要するなんてクズよ。クズリンピックが開催されたらクズ高飛びで金メダルを取れそうなくらい」
「クズで悪かったな」
突然、寝ていたはずアリエルの口が動いた。
わたしとショコラがぎょっとする。
意識を取り戻したらしいアリエルは、むくりと頭を押さえながら上体を起こすと、頭に掛かった靄を払うように軽く頭を振った。
「私等、一体どうなったんだ?」
「あんた達は敵にのされて、気を失ってたのよ。そこをわたし達が助けてあげたの。ショコラなんてずーっと回復魔法を掛けてくれてたんだからお礼くらい言ったら?」
「ふん」
アリエルはショコラを一瞥すると、小さく鼻を鳴らす。
アリエルの視線にショコラがビクッと体を震わせた。
「……、どうやらそうらしいね。マジありえねーけど。一応礼は言っとくわ。あ・り・が・と・う」
うわ、なんという心のこもってないお礼。
「所でさぁ、なんで仲間われしてんの?」
好奇心に口の端をあげながら、アリエルがわたし達に向けて目を細めた。
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