28話 猫VSねずみ
リーダーの統率を失ったMTTBの動きはそれはひどいものだった。
安全が確保された事により、ミケ達も参戦してきた事によって完全にこちらが優勢になり、一瞬で決着がついた。
最後にミケが、木々に磔にされ、はやにえとなっていたMTTBに止めを刺して回り、それでここでの戦いは完全に終わった。
「やれやれ、終わったな」
剣を鞘に戻しながら、ミケが戻ってくる。
ショコラとリィリィは極度の緊張状態から開放されたからなのか、ペタンと地面に座り込んでいた。
わたしは多分この森に住み着いていたMTTB全体のリーダーと思われる巨躯の塵芥の中から、琥珀色の結晶を取り上げるとマジマジとみた。
結晶の中には木片が入っている。
これは確か一回見たことがある。以前戦ったA級のMTTBが落としたものと同じだ。
確か、結晶化マタタビとかいうもの。大きさもあの時のものとまったく同じだった。
「B級のクエストにA級の敵が混じってたんだな」
わたしが手に持った琥珀色の結晶を見つめていると、ミケがそう言って目を細める。
「まったくひどい詐欺だぜ」
草臥れたという事を示すように、首を回しながら言った。そんなミケに、わたしは手に持った結晶を差し出す。
「ねぇ、これどうする?」
「そんなもん捨てとけ」
「ええ、なんで?!」
興味なさそうに素っ気無く言うミケに思わず大きな声を上げてしまう。
これって持って帰ればお金になるんじゃないの? 前の時は確かに持って帰ってヤマネコ相手に換金していたはずなのに。
そんなわたしの疑問を感じ取ったのか、ミケは罰が悪そうに頭を掻くと、
「上級MTTBから高級マタタビが採取できる事は、公然には秘密にされている事なんだよ。だから捨てとけ」
「えー」
不満に頬を膨らませる。
って事はヤマネコとのあれは違法取引だったって事じゃん。
ミケが言うにはヤマネコは英雄猫という立場を活かした裏ルートをもっているので、MTTBから採取された高級マタタビを買い取ってはくれるが、本来憲兵に見つかれば投獄されてしまうような違法な行為なのだという。
だから、わたしにはやるなとミケは言うのだ。
「自分は違法取引してるくせに」
ジト目を向ける。
「あんまり違法取引をしてると、裏社会の猫に目を付けられちゃうゾ☆」
いや、可愛らしく言われましても……。
「実体験だぞ。どこで誰がみてるかわからないからな」
「むー」
もったいないと思ってしまうのは、わたしが日本生まれの猫だからだろうか。でも、確かに法を犯してまでやることでもないのかも。
「わかったわ」
そこまで言うなら捨てた方がいいものなんだろう。
わたしは脱力すると、手に持った琥珀色の結晶を後ろに放り投げた。
――ちっ、ちっ……。
その時、わたしの中にある種の直感が走った。
いる――近くに。
飼い主さまを猫アレルギーにしているやつが。
ニャッバーンさまが言っていた通りわたしと飼い主さまの繋がりが、飼い主さまとその魔物との繋がりを教えてくれているのだ。
最優先で倒さなければいけない相手。
それは、一体、どこに――。
わたしが繋がりの気配の方に目を向ける。
それは丁度、わたしがマタタビの結晶を投げ捨てた方向だった。
「ちゅっ」
「ちゅ?」
わたしが投げ捨てた結晶を抱きかかえるソレと目が合った。
十センチくらいの小さな妖精が、ぎょっとした顔でわたしを見上げている。
「え、ねずみ?」
ほんと、本能ってすごいと思う。
わたしの猫としての本能が即座にソレがねずみだと見破った。
この世界では、猫が人間の姿になっているわけだから、ねずみが妖精の姿をしていても驚くほどの事でもない。
よくみたら頭にねずみの耳がついている。
「ちゅー!!!!」
ねずみの妖精はやばっ、という顔をすると、結晶を頭に乗せ全力疾走で森の奥へと駆けて行く。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
その方向は、わたしが敵を感じている方向と全く同じ。
やっぱり、あのねずみ何か怪しい。
飼い主さまの猫アレルギーの原因に関係しているかもしれない。ここで見逃すわけにはいかない。
「あ、おい!」
ミケの声を後ろに置いてきぼりにしながら、わたしも全力で木々の間を駆け抜ける。
ねずみを狩らない猫はただのネコ科だからね。
「っ!?」
しばらく追いかけた所でわたしは足を止めた。
いや、足を止めざるを得ないというのが正しかったのかもしれない。
あたりには派手に戦闘をした跡が広がっていた、木々は切り倒され無数の切り株が並んでいるちょっとした広場となっている。
そして、その中心にはうつ伏せに倒れる二人の猫の姿。それは、アリエルとザクロだった。
「し、死んでるの?」
わたしは駈け寄ると二人の呼吸を確認する。微かに息があった。二人共ひどい怪我をしているが、辛うじて命は繋ぎとめていた。
ほっと息を吐く。
ショコラが追いついてきたら、回復魔法を頼もう。
それにしても変だ。
一体何にやられたんだろう。
遠くから見た限りだと、とてもあの程度の敵には遅れをとるような感じじゃなかったのに。
「クスクス、一匹でのこのこついて来ちゃってよかったの?」
「よかったのー?」
「やっぱり猫って馬鹿だなぁ」
「馬鹿過ぎー」
どこからとも無く、小さな男の子のような声が反響しながら聞こえてくる。それと共に流れてくる生ぬるい殺気。
ああこれか。
この森に来てからずっと感じていた、見られているような感覚とよくわからなかった殺気の正体。
「……」
飼い主さまの猫アレルギーと関係は……ないな。
明確に感じられるようになった敵との繋がりと照らし合わせてわたしはそう結論を出す。
「ねずみ風情が、猫を怒らせて生きて帰れると思ってるの?」
わたしは立ち上がると、目を細め周囲を見渡す。目に見える場所には彼らはいない。
「聞いた?」
「聞いた、聞いた」
「なんて傲慢な猫。百獣の王にでもなったつもりなのかな」
「ただの愛玩動物のクセに」
「三味線の材料のクセに」
きゃははははは。という笑い声が森に響き渡る。
「愛玩動物はお互い様でしょ? しかも実験動物のクセに」
「ハムスターと一緒にするな」
「モルモットと一緒にするな」
ピリピリと空気が張り詰めていく。それと共にどこからともなく霧が立ち込めてきた。気がつけば、あたりは白い霧に視界を奪われていた。
「……」
一体何をするつもりなのやら。
視界を奪ったくらいでねずみが猫に勝てると思ってるのだろうか?
「こいつすごいムカつくんだけど?」
「殺す?」
「即殺安定」
「おけおけ、猫に殺された全てのねずみの恨み思い知れ!」
そう言うと、それまで五月蝿いくらいだった話し声が、不気味なほど静まり返る。
仕掛けてくるつもりだろうか? わたしは猫村正を引き抜くと周囲への警戒を強くする。
「……っ」
来る!
ヒュンという風切り音。
目に見えない不可視の刃が風を切り裂いて目の前に迫る。
それは真空波に近いものだった。
風の音、そしてその刃による微かな景色の揺らぎから透明な刃を見極めると、わたしは叩きつけるように猫村正を振り下ろした。
猫村正の叩きつけを喰らった刃は霧散する。
攻撃の飛んできた方の霧から、ゆらりと浮かび上がる影。
段々と近づいてくるにつれて、その姿は鮮明になる。わたしはさらに警戒を強くしたが、
「っ?!」
思わず目を凝らす。
それは、これまで散々倒してきたB級MTTBウェアウルフだった。
しかも群れではなく一体。
他のパーティの討ち漏らしだろうか。
「直接戦うわけないだろ」
「お前は、アイツに殺してもらうよ」
「さあ、殺しあえ」
「殺しあえ」
「猫と毛玉の殺し和えだ」
「え、なにそれ、おいしそう」
キャッキャとした愉快そうな声が耳元に響く。
どうやら、ねずみ達はあのMTTBにわたしを殺させるつもりらしい。
「はぁ」
思ったよりつまらない作戦できたなぁ。とわたしはため息を吐く。
いわゆる漁夫の利戦法。
または虎の威を借る狐大作戦……この場合ねずみだけど。でもさぁ、あんたらが威を借りてるその虎は張子の虎だよ。
所詮はねずみの考える事だね。
警戒して損しちゃった。あの程度のMTTBにわたしが殺せるわけない。
わたしの思考はすでに、この後どうやってねずみ達をとっちめてやろうかという事で一杯になっていた。
だからかもしれない。
わたしの体の周囲に発生していたどす黒い靄の存在に気づくのか遅れた。
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