25話 百舌のはやにえ
「っ!?」
いや、私何もしてないアルよ。という顔で、リィリィがわたし達の顔を伺う。
大丈夫、分かってるから、指差しただけで巨大な木を薙ぎ倒してしまうような娘じゃないって事くらいはわかってるから。
「ちょっと、わたし見てくる」
そういい残すと、わたしは音の方へと近づき手近な背の高い木に登った。
わたしは手でバイザーを作ると、目を凝らす。
「あれは……」
遠くの方に小さく見えるそれは、MTTBの群れと戦うアリエルとザクロの姿だった。
彼女たちの戦い方はまるでわたし達と対極。策らしいものは一切なし、力押しの一点突破だ。
アリエルの身長以上もあろうかという大剣をただ、力任せにぶん回している。
その大剣が描く軌跡に巻き込まれたMTTBの体が野球のボールのように吹っ飛んでいく。
最も、それだけなら相手も距離をとればいいだけの話だが、おそらくザクロの魔法と思われる水蛇のような水流が、うまくアリエルのストライクゾーンに入るように誘導している。
脳筋のアリエルを、さりげなくザクロがフォローする。
なかなかのチームワークだ。
ちなみにアリエルが剣を振るった場所は木々が切り倒され切り株だらけになっていた。
先ほどの轟音も、一際大きな巨木をアリエルが切り倒した音だったのだ。
明らかに環境破壊なんだけど、ネコエルフさん達的にはいいんだろうか、あれは。まあ、文句を言っていないって事は黙認されているという事なんだろう。
それよりも――。
わたしは慌てて、木を飛び降りた。
思っていたよりも、向こうはハイペースだ。暢気に構えていたら負けてしまうかも。
急いで元の場所に戻ろうとした時、ふと奇妙な光景が目に入った。
「これって……」
それは、木に打ち付けられた人狼型のMTTBの姿だった。
それも一つや二つではないおよそ六体のMTTBが木に打ち付けられてビクンビクンと体を痙攣させている。
リィィィィ、リィィィィというノイズのような声にならない声が、この空間を包むように響いている。
「……」
なんだか趣味が悪いな……。
ああ、こういうのなんて言うんだっけ? 確か、モズのはやにえだったっけ? 飼い主さまが持っていた図鑑で見たことがある。モズという鳥がエサをこんな風に枝に刺すのだ。
でも、まさか食べるわけじゃないだろうし、一体なんだろう。
「……ん?」
するとそのはやにえの場所を見張るような木の根元に、木の葉や草木を体に貼り付けた男がうずくまっているのに気がついた。
おそらくカモフラージュのつもりなのだろう。顔にも迷彩色のペイントがされている。
しかし、そのカモフラージュはお世辞にもうまいとはいえないものだった。遠目のわたしでも気づいたのだから。
わたしはもう一度木登り、男が潜んでいる木の上まで枝を渡りながら進むと、そこから飛び降りて、男の背後へと音もなく着地する。
「あのぅ?」
「ひぃっ」
わたしが声を掛けると、男は悲鳴をあげ尻餅をつく。
「あなたが、あれをやったの?」
「ああ、あああああ……」
訊ねるが、男はガタガタと震えて嗚咽を漏らすばかりで会話にならない。目は血走り正気であるかどうかも疑わしい状態だった。
「ねぇ、ちょっと――」
「あー、あーああ」
困ったなぁ。
会話も成立しないんじゃ、わたしにはどうしようも無い。
「助けて……くれ」
「え?」
「なかまが……」
「仲間?」
わたしは周囲を見る。しかし、他に人影は見当たらない。
「ねぇ、仲間って?」
「……」
声を掛けるが、返事が返ってこない。
もしもーし?
男はぐったりと下を向くと、光の無い目を見開き震えている。
「わかった。助けたげる」
わたしが言うと、男が顔を上げた。本当にわたしの姿が映っているのか、それすらもわからない空洞のような瞳だった。
「ちょっと待ってて」
とにかく、わたしじゃ話にならない。
わたしは彼を置いて去ると、とりあえずは一旦元の場所に戻り、みんなにこの場所のことを告げた。
そして全員でまた、この奇妙な場所へと戻ってくる。
「あれ、さっきまであの辺に猫がいたんだけど……」
わたしが言うと、「本当かよ」という目でミケがわたしを見る。いやいや、本当にいたんだって。なんで、わたしがそんな事で嘘つかなくちゃいけないのよ。
助けてあげるって約束したのになぁ。
位置を変えたのか先ほどの男の姿はなくなっていた。今も、どこかでこの場所を見張っているのだろうかと、キョロキョロとわたしは辺りを見回す。
同じように、周囲を見回していたミケが、
「ああ、これは多分罠だな」
ミケははやにえとなっているMTTBを見るなり、そう言った。
「ここのMTTBは群れで行動する習性がある。という事は、仲間意識のようなものも存在する可能性が高い。その習性を利用して仲間を助けに集まってきた所を一網打尽にする計画だったんだろう。もっとも――」
ミケは剣を引き抜くとブンと真上に向かって、真空波を飛ばす。
ぼとりぼとりと、胸を枝で貫かれた猫の死体が何個も落ちてくる。
「きゃっ」
それを見て、ショコラがわたしに抱きついた。
死体には先程、この場所を覗いていた男と同じように体中に木の葉や草木がつけられ、顔には迷彩色のペイントが成されていた。
「どうやら、罠を張った張本人達が逆にやられちまったみたいだけどな」
「っ!?」
ざわざわと森がざわめくのを感じた。
周囲を濃厚な殺気が満たしていく。
「気づいてるアルか?」
「うん、囲まれてる」
リィリィが周囲を伺いながら言うのに、わたしも頷く。
「少なく見積もっても、五十体はいるアル」
わたし達はすり足で後ずさり、巨木を背にする。
巨木に磔になっているMTTBに見下ろされながら、わたし達は警戒を強めていく。
やがて気配は実態を伴って、一体、また一体と姿を現してきた。
「あの……」
「大丈夫アル。ネコエルフ魔法使える。いざとなったら自分の身は自分で守るネ。だから、私の事は気にせず存分に戦うといいアル」
思っている事を先に言われた。わたしは無言でリィリィに頷く。
一応出来る限りの事はするつもりだが、そう言ってもらえるとありがたい。
「こりゃピンチだな。下手すると森中から集まってきてるぞ」
「ならいいじゃない。むしろ探す手間が省けたわ」
ミケの言葉にわたしは刀を鞘から抜き放つ。
周囲の敵の数はわたし達が立っている所以外埋め尽くす程になっていた。
わたし達が陣取っている巨木周辺だけがぽっかりと口を開けたように穴が開いている。
それ以外は全てMTTBの海だ。
強がりを言ってみたけど、これって結構やばいんじゃないかな。五十どころか百を軽く超えている。
「来るぞ!」
ミケが声を上げたと同時に、MTTBの海が津波を起こすようにわたし達に向かって一斉に襲い掛かってきた。
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