24話 猫の狩りといえば暗殺だよね
わたしは姿勢を低くしながら、極力音を出さないように森を駆ける。
標的はこの先にいるMTTBの群れだ。
ある程度の距離まで近づくと、今度は駆け上がるように木を登っていく。
「リィリィの言った通りね」
リィリィの索敵能力に感心しつつ高い枝まで来ると、わたしは腰を下ろし眼下を見下ろす。そこには、狼男のような造詣をしたMTTBが群れを作りたむろしていた。
数はおよそ五。
その内の一体は他の固体よりも一回り大きい。わたしのターゲットはアイツだ。
枝から枝へと飛び移りながら、群れの真上まで移動すると、わたしは手に持ったニャルラトフォンから画面を操作しメールを送信する。
そうしてから、刀を鞘から抜き放つと、柄を握る手に力を込めた。
「ふぅ……」
息を整える。
すでに樹海に入ってから、わたし達は数回の戦闘を行っていた。
その戦闘の中で学んだことは闇雲に群れに飛び込んでいっても、敵はフォーメーションを作り、適度な距離を取りつつ攻撃してくるので、意外と瞬殺するのが難しいという事だった。
MTTBウェアウルフの一体一体の戦闘力は聞いていた通り決して高くはない。
猫村正で一閃すれば相手の命を奪うことが可能。
しかし、一度群れがバラけてしまうと殲滅するのがめんどくさい事この上ない。
ならば、群れが固まったまま倒すのがもっとも効率的ではないかと考えたのだ。
MTTBウェアウルフの群れには一回り体が大きいリーダーがおり、それを倒すと命令系統が一瞬混乱する事を、今までの戦闘でわたし達は学んでいた。
なので、わたしの目的はそのリーダーを暗殺すること。
幸いな事にネコエルフのリィリィは森と対話が出来るらしく、大まかな敵の方向を教えてくれるので、その方向に一番素早く動けるわたしを先行させ敵を見つけたら、頭上で待機、味方が追いついてきた所でリーダーを暗殺し、群れが混乱した所をみんなで攻撃をしかけ一気に殲滅する。
一見手順が多くなって、時間が余計に掛かりそうだが、多分こっちの方が早いはず。
それに、奇襲による暗殺こそネコ科の狩りの王道だと思うのだ。
前にテレビでチーターの狩りの特集をやってて、ああいうの一回やってみたかったんだよね。
木登りしたのも初めてだったけどうまく出来たし、これも日々のカーテン登りの賜物だよね。いやー、やっててよかったなー。カーテン登り。
わたしがうんうん頷いていると、ブブブッと一回ニャルラトフォンが震える。到着を知らせるワン切り。もちろんマナーモードに設定しているので音で相手に気づかれることはない。
カチャリ――。
刀を構えた音が妙に大きく聞こえる。わたしは標的の一回り大きいMTTBに狙いを定めると、一気に枝から飛び降りた。
「――――っ!!!!」
落下の勢いそのままに、わたしは剣を振り下ろす。人狼のMTTBは脳天から縦に真っ二つに切り裂かれ、声なき声を上げた。
「っ!?」
集団に動揺が走る。その隙をわたしは見逃さない。
さらにもう一体に駆け寄り一閃。
さらに返す刃をもう一体に浴びせる。
三体倒した。
あと二体。
しかし、すでに残りの二体はわたしから距離を取っていた。
わたしが追いかける構えを見せると、
「――――ッ」
横一文字に爆ぜた。そしてもう一体もミケが剣を突き立てていた。
「ふぅ」
塵となって消えていくMTTBの残骸を見ながら、額の汗を拭う。
「お疲れさまです。回復しますか?」
「え、あ、うん。じゃあ、お願いしよっかな」
「ホントですかっ、えい! ライトヒール!」
ショコラが駆け寄ってくると、嬉々として端末を操作し始める。体が淡く発光したと思うと段々と疲れが取れる。
ショコラはといえばとてもご機嫌である。
契約プランが変わって回復魔法が使いたい放題になったからなのか。それとも今まで満足に使えなかった反動からなのか、回復魔法を使うために携帯をいじるショコラは楽しくて楽しくて仕方がないといった様子で、何かあるとすぐ回復魔法をかけてくる。
見ようによっては携帯電話依存症患者の初期状態にみえなくもないような……。いや、いいんだけどね。疲れが取れるから。
「あ、ミケ」
剣を鞘に収めながら、歩いてくるミケに声を掛ける。
「あのさ、ちょっと訊きたい事があるんだけど」
「うん?」
「アレってどうやってるの?」
「アレ?」
わたしの問いかけにミケが首を捻る。
「遠当てみたいなのってどうやってるの? わたしもやりたい!」
別名真空切り。先ほどわたしの目の前のMTTBを裂いたのも、このミケの遠くから飛ばした斬撃だった。
前見たときは勝手にミケの必殺技みたいに思っていたけど、あれって実際の所なんなんだろうと思ったからだ。
あわよくば覚えたい。というか、以前MTTBと初戦闘の際に、確かにわたしも同じ事が出来ていたはずなのに、今、もう一度同じ事をしようとしても全然真空波的なのは出ない。
「ああ」
ミケは剣に手をやり、刀身を数センチほど露出させた。
「あれ、剣の効果だから」
「え?」
「このウィング・ド・エッジ以外の剣じゃ無理だぞ」
がーん。あれって剣の効果だったんだ。そういえば、あの時わたしはミケの剣を使って戦ってたような記憶がおぼろげにある。
「じゃあ。わたしには出来ないの?」
「うん、無理」
「えー」
抗議の声を上げる。
頑張って真空波を出せるようになろうと思って、隠れて剣の練習とかしちゃいそうになっちゃったじゃないか。あ、でも、やる前でよかった。そこは怪我の功名なのかも。
落胆するわたしに、ミケはニヤニヤとした笑顔を浮かべながらぽんぽんと頭を叩くと、
「まっ、落ち込むなよ。お前の剣にもすっごい効果があるかもしれないだろ?」
「むぅー」
再び抗議の声と共に上目で睨む。
ミケの言うとおり、わたしの猫村正にも何か特別な効果があるんだろうか。今のところ特に何か特殊な事が起こったという事はないから、多分ないと思うんだけどなぁ。
わたしがそんな事を考えていると、瞑想をするように目を瞑りあたりの気配を探ってくれていたリィリィが声を上げた。
「向こうに敵の気配を感じるアル」
そう言うと、わたし達から見て二時の方向を指差す。
「ありがとう、リィリィ」
「お安い御用アルー」
わたしが礼を言うと、リィリィは照れたように頭をかいた。
森に入ってから、リィリィはよく働いてくれている。
わたし達のこの戦術もリィリィがいなければ成り立たないものだ。彼女を連れてきたのは正解だった。
まあ、連れてくるって決めたのはわたしじゃなくてミケだけど、本人に直接言うと、調子に乗るから心の中でさすがミケって言っておくことにした。
と、リィリィが指差している方向から。ズーンという轟音が響いた。続けてメリメリという音、遠くで巨大な樹木が倒れたのだ。
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