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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
2章 グレートキャットフォレストの戦い
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21話 ネコバスに揺られて

「お手!」


 言われて、わたしは右手を差し出す。


「おかわり!」


 言われて、わたしは左手を差し出す。


「伏せ!」


 言われて、わたしは体を地面につける。


「ちんちん!」


 言われて、わたしは立ち上がる。


「ばーん!」


 言われて、わたしは死んだ。




「……っ!」


 ぱちっと目を覚ますと、わたしは体を起こす。

 窓から差し込む朝日が目に滲む。


「どうかしたんですか?」


 すでに着替えを終え、白いローブに着替え終わっているショコラが怪訝そうな目でこちらを見ていた。


「ずいぶん、うなされてたみたいですけど」

「やっばい。犬になる夢みてた。こわぁ」


 ブルッと震えると、自分の体を抱きしめる。


「また、下らない夢みてんのな。お前」

「下らないって、犬だよ犬。ホラーだよ……って」


 そこで言葉に詰まると、目を瞬かせる。


「なんで、ミケがレディ〈こっち〉の部屋にいんのよ」


 さも当然という風に自然に馴染んでいるミケに向かって、わたしはジト目を向ける。


「お前が全然起きないからって、ショコラに呼ばれたんだよ」


 めんどくさそうに、頭を掻きながらミケが言う。


「ったく、寝起き悪すぎなんだよ。お前は」

「し、しょうがないでしょ。猫は寝るのが仕事なの」


 実際、家に居た時は一日十四時間くらい寝ていたのだし、ミケもそのくらい寝ていたはず。


 今は、人間の姿になっているとはいえ、そんなすぐに人間の睡眠時間に順応できるはずがない。

 文句を言おうと、布団から出ようとした所で動きを止める。


「――っ!?」


 慌てて、布団を抱き寄せる。

 薄いネグリジェ一枚という自分の格好に気がついたからだ。むぅと頬を膨らませながら、ミケを睨みつける。


「着替えるから、出てって」

「はいはい」


 ミケは掌を落ち葉のようにヒラヒラと部屋から出て行った。


「あの、ショコラは?」

「は?」

「ショコラも出てった方がいいですか?」


 ショコラが赤い顔をしながら、なんかよくわからん事を言っている。


「いやいや、居ていいに決まってるでしょ。女の子同士なんだから」

「そう、そうですよね! 女の子同士ですもんね!」


 ショコラは取り繕うように笑顔を作ると、顔の前で手を振っていた。


「うん?」


 すごく態度が妙である。もしかして、昨日ショコラに何かしちゃったんだろうか。どうしてなのかわからないけど、寝るちょっと前くらいから記憶がない。


「あの……」

「ササッ……」


 手を伸ばすと、なんか露骨に逃げられた。あれー、なんかちょっとショックなんですけど……。


「うーん、ま、いっか」


 まあ、大したことではあるまい。

 うんうん、と自己完結する。


 着替え終わると、宿屋に併設された食堂で軽い朝食をとりながら、今日の予定を話し合う。


 ちなみに、メニューはライ麦のパンとサラダとミルクだった。パンをミルクにつけながら食べると、柔らかくなって美味である。


 パンを頬張りながら、ミケの話を聞くに、クエストが行われる目的地のグレートキャットフォレストという森はこのネコソギシティから結構離れているらしい。


 なので、ネコバスに乗って行くことになるという事だった。


 バスの停留所で待っていると、毛むくじゃらの大きな茶色い猫がやってきた。


 それは普通に四速歩行の猫なのだが、とにかく巨大で内部に客が座ることが出来る座席と、空間を持っている事が普通の猫とは違う。これがネコバスである。


 ネコバスは停留所に停まるとゴロゴロとアイドリングをしている。にゅっと扉が側面から現れる。わたし達は、ふかふかの室内に乗り込むと、席に着いた。


 バスはネコソギシティを後にすると、平原沿いの道を駆けて行く。


 流れていく田園の景色を見ながら、ぼんやりする。

 ネコバスの中はもふもふでふかふかでどこか獣くさい。


 隣ではミケとショコラが、ショコラのニャルラトフォンを覗き込みながら、なにやら、真剣に話し込んでいる。


「それで、回復魔法を使うとすぐにお金がなくなっちゃうんです」

「ああ、なるほど。それは多分契約してる会社が悪いな。ちなみに会社はどこにしてるんだ?」

「ニャンニャンメディック社です」


 ショコラが端末を操作しながらミケに見せると、ミケは「ああ」と頷き、


「そこは上級者向けの会社だから、辞めた方がいいな」


 そう言うと、目を細める。


「そこは、待機時間が短い代わりに価格が馬鹿高いんだよ。しかも下位の回復魔法自体が存在しない。この会社の一番下位の回復魔法を本当に下位だと思って使ってたら、すぐに資金が底をつくだろう。初心者にはとてもお勧めできないな」


「そうなんですか。ネットでオススメされていたので、ここにしたんですけど……」


「ネットっていうと、ニャルトーク?」

「はい」


 ショコラが頷くと、ミケは眉間を押さえながら、


「あそこは、自称上級者様しかいないからなぁ。つーか、悪くはないよ。俺も今の会社にするまではニャンニャンメディックだったし。使いたい時に魔法がすぐ使えるのはストレスフリーだしな。ただ、やっぱり金が半端なく掛かるんだよなぁ」


「うーん、そうなんですか。ミケさんは今はどこの会社にしてるんですか?」

「俺? 俺は、今はニャイチンゲールだよ」


 ミケが言うと、ショコラが驚いた顔をする。


「ニャイチンゲール社って、今ネットでめっちゃ叩かれてますよね。速度が遅いって、実際の所はどうなんですか?」


「いや、実際遅いと思うよ。高位の魔法を使おうと思ったらめっちゃ待たされると思う。しかも、たいして安くないし。とりあえず最大手だから安心って奴しか使わないんじゃないか。多分」

「え、でも」


 ミケさんは使ってるんですよね? とショコラが言いかけるのを遮ってミケが続ける。


「こいつが勝手に、俺のニャルラトフォンで契約しちゃったんだよ」


 そう言うと、ミケは親指でわたしを指差す。


 突然会話の中に自分の名前が出てきたので、盗んだボートで船を漕ぐ状態であったわたしは目を瞬かせる。わたしですか?

 わたしのせいですか。そうですか。というか、まだその事を根に持っていたのか。抗議の視線をミケに向けるが、華麗にスルーされる。


「まあでも下位の魔法とか初心者用のプランとか充実してるから、回復魔法の入門には一番向いてる会社だと思う。パーティで同じ会社にすればパーティ割もきくし」

「そうなんですか……」


 ショコラが画面を見つめながら、少しの間考え込む。そして、自分の中で結論が出たのか小さく「よし」と言うと顔を上げた。


「決めました。やっぱり会社を乗り換える事にします」


 そう言うと、ショコラは早速手続きを開始するが、うまくいかないのか「あれ、あれ?」と何度も首を傾げている。


「貸して」


 見かねたミケが、ショコラの手元から端末をヒョイと取り上げる。


 ショコラのニャルラトフォンを手にしたミケは、数分、画面上で何かをずっと操作していたが、やがて終わったのかショコラの手元に携帯を戻す。


「ほら」

「あ、ありがとうございます!」


 取りこぼしそうになりながらも、なんとか受け取ると画面を見てから礼を言う。


「とりあえず下位の回復魔法使い放題のプランにしといたから、これで回復するのに残金を気にする必要はないから」

「はい、それで――」


 ショコラは遠慮がちに、上目遣いでミケを見る。


「実は、もう一つ相談したいことがあるんですけど」

「何?」

「あの、攻撃魔法も使えるようになりたいなと……」

「ほほう、それは殊勝なことだな」


 ミケはにやりと笑みを作ると、


「治癒師〈ヒーラー〉なら、まずは神聖魔法だ。治癒師でも割引がきく唯一の攻撃魔法ジャンル。代表的なのはホーリーニャンクルスとネコメシアの二社だな。


 ホーリーニャンクルスの方が大手だが、ネコメシアの方もややマニアックな性能の魔法が揃っていて通好みだぞ。ただ、この場合ホーリーニャンクルスはニャイチンゲールと事業提携をしているから――」


 また長々とミケが説明をし、ショコラが熱心に頷いている。

 バスに乗った後の二人はずっとこの調子だった。


 わたしはといえば、まったく話についていけない。異世界の話を聞いてるみたいだった。


 魔法使い同士の会話は、まるで絡まった毛糸のようで、完全に置いてきぼりである。


 それにしても――、むぅと二人に流し目を向ける。

 ミケの奴、ずいぶんとショコラには優しいな。


 いや、二人が仲良くなるのはいいことだと思うけど。いいことだと思うけど、なんだろうこの気持ち。なんだかもやもやとしたものが、胸につっかえて苦しくなってしまう。


 胃もたれ?


「なんだろ。なんか変ものでも食べたかな?」


 これが胸焼けってやつかもしれない。人間にはよくあることらしいし、飼い主さまもよくそれでヨーグルトを食べていたし。


「はぁ……」


 ため息を一つ吐くと、窓の外の景色に目を移す。

 気がつくと、周囲の景色に木が増えていた。

 段々と森の匂いが強くなる。目的地も近いのかもしれない。


「ルナも、魔法の一つくらい使えるようになったらいいんじゃないか?」

「え……」


 外の風景をぼんやり眺めていると、ミケが声を掛けてくる。ショコラはといえば、相変わらず端末と格闘中だ。


「発動させるのがめんどくさいならエンチャント系とか。猫の手も借りたいあたりオススメできると思うけど」

「うーん」


 ミケの言葉にわたしは曖昧に頷く。魔法、魔法かー。使えるようになっといた方がいいんだろうが、あんまり興味沸かないというのが正直なところだった。


 というか、あの電話勧誘の応対のせいで、わたしの中の魔法のイメージがだだ下がりになっているというのもある。


「今は、いっかな」


 おそらく態度に現れていたのだろう。ミケは「そうか」というとそれ以上は言ってこなかった。


「あの、ミケさん。ちょっと」

「ん、どうした?」


 ショコラに呼ばれて、ミケがそちらに戻っていった。

 わたしはそれを目で追いながら、睫を伏せる。


「あー、もうっ。なんなのよっ」


 わたしは椅子に座りながらぶらぶらと足を思いっきり振った。

 このもやもやの原因は多分ミケにあると思う。よくわかんないけど、そんな気がする。まったく、猫をイライラさせるなんて最低だな。やっぱりミケはいけ好かない奴だ。


 再確認できた所で、車内アナウンスが鳴る。


「まもなくグレートキャットフォレスト前―、グレートキャットフォレスト前に到着します」


 それからしばらくネコバスは林道を走ると、おそらく車でいける限界であろう場所にある森の入り口のバス停に停まった。


 ネコバスを降りると、そこからは徒歩で森の中の道を歩いていくことになった。しばらく歩くと、開けた場所が現れる。

 本格的に森が深くなる入り口の手前にはちょっとした草原があり、そこにはいくつかテントが張られている。

 さらに使い魔〈サーヴァント〉のパーティと思われる数十人の猫たちがたむろしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば猫バス登場するアニメの森のヌシ、実はもののけプリンセスに登場したコダマの進化系だってね(まさかの裏設定ッ 是非とも調べてみてくださいね( ´∀` ) [一言] >異世界の話を…
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