113話 とりあえず寝よう
「終わった~」
最後のリースを入り口のドアの掛けると、わたし達は抱き合って喜び合う。
すでに夜が明けて、外は明るくなり始めていた。
あれから、ちょっと脱線しすぎた事を反省して急いで進めた結果、結局、夜通しやってなんとか終わったという事になる。
二人でやっていたにも関わらず、チグリスが一人でやっていた時に比べてあまり作業効率が上がっていないような気がするのは気にしてはいけない。
とにかく、わたし達の作ったペパナプフラワーは無事リースへと姿を変えて、壁やテーブルや扉なんかを彩っている。
「やったわね」
「うんっ」
手を取り合うと、綺麗に飾り付けられた部屋を見つめ感慨に浸かる。
充足感で胸が一杯になった。
ほぅっと放心したように眺めていると、ショコラが目を擦りながら階段を下りてきた。そして、わたし達の姿を見つけると驚いたように目を瞬かせた。
「あれ、お二人共こんなに早く何を……、っていうかマジで何してるんですか?」
びっくりとしていたショコラの顔がみるみるジト目になる。
「何って、リース作ってたんだよ。ほら」
そんなショコラに、わたしは壁やドアに掛けられたリースを手で示す。すると、ショコラが部屋の飾りが増えている事に気づいて「わぁ」と感嘆の声を漏らした。
「これ、どうしたんですか?」
「実は……」
ショコラが訊ねるのに、わたしが事情を説明する。
実はキヌちゃんという猫が帰ってくるのが今日である事、それに間に合わせる為にチグリスが夜中にペパナプリースを一人で作っていた事、途中わたしが水を飲むために降りてきて、そのままチグリスのリース作りを手伝った事を簡潔に伝えた。
「そうだったんですか……。そういうことなら、ショコラも起こしてくれればよかったのに」
「ううん、さすがにそこまでしてもらうわけにはいかないわ。ルナちゃんに手伝ってもらったのは偶然下りてきたからだし、さすがに夜中に起こすわけにはいかないもの」
ショコラが申し訳なさそうな顔をしてそう言うのに、チグリスが首を振った。
「そうですか」
ショコラは柔和な表情を作って頷くと、
「それはわかったんですけど、リースを作るだけでそんなに着衣が乱れるものなんでしょうか?」
再び、ジト目を作ってわたし達の服装に目を落とした。
それで、わたし達ははっとする。
そう言えば、あの後慌てて作業に戻ったから服を直していなかった事に気がついた。
わたしはといえば、パジャマのボタンが外れて胸元が見えているし、ズボンもずり落ち気味でパンツもちょっと見えている。
じゃあ、チグリスはといえばキャミソール型のネグリジェの肩紐が肩からずり落ちて、胸が見えそうになっていた。
「あ、これはチグリスが……」
「ルナちゃんだって途中からノリノリだったじゃない」
「そ、そんなことないもん」
チグリスがクスクスと笑うのに、わたしが頬を膨らませて反論する。
「実は、ルナちゃんに可愛い猫を撮るコツを教えていたの」
そう言ってチグリスはニャルラトフォンを操作すると、ショコラに見せる。
「えっ……」
「これとか」
「すごい……」
「あと、これも」
「こんな事まで……」
ショコラが画面を食い入るように見つめながら、顔を赤くしている。
「ああ、もう。ショコラに見せなくていいからっ」
わたしは二人の間に割って入ると、ニャルラトフォンをチグリスの胸元に突っ返す。
「別にいいじゃない」
「よくないっ」
むっ、と睨むと「えー」と目を逸らす。
ショコラはほぅと呆気に取られていたようだったが、はっと正気に戻ると「はぁ」とため息を吐いた。
「仲がいいのはいい事ですけど、女子寮じゃないんですから、ちゃんと身なりを整えといてくださいね。風紀が乱れます」
「わ、わかってるって」
言われなくてもそうする。わたしは慌ててパジャマのボタンを留めるとズボンをあげる。
「くすくす」
「ほら、チグリスも笑ってないで」
わたしは床に捨ててあった羽織ものを拾うと、チグリスに手渡す。
「ありがとう」
チグリスはそれを受け取ると、ネグリジェの肩紐を掛けなおして羽織ものを羽織った。
「ふぁぁ……」
身なりを正した所で、わたしは欠伸をする。
なんだかやり切った安心感からか、再び睡魔が頭を出してきた。
「ルナさん眠そうですね」
「うん、なんか落ち着いたら眠くなってきちゃって」
そう言うと、欠伸で出た涙を拭う。
「ルナちゃん少し寝たら? 朝ごはんが出来たら起こしてあげるから」
「うん……」
「そういうチグリスさんもですよ。朝ごはんはショコラが作りますから、それまで二人は寝ててください」
「え、でも」
「まかせてください」
「そう、じゃあお言葉に甘えようかしら」
ショコラが強く言うのに、チグリスも折れたようだった。
緊張の糸が切れたのか目をトロンとさせると、わたし達はショコラに見送られながら階段をゆっくりと上がっていき、それぞれの部屋に戻った。
わたしは部屋に戻ると、そのままバタンとベッドに倒れこみと布団を被るとすぐさま眠りに落ちてしまった。




