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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
4章 ネコソギシティの騒乱
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100話 レインズダイアリー①

「死んでる……の?」


 わたしは恐る恐る近づく。

 それは欠損の激しい男の猫の死体だった。

 胸には大きな穴が空き、下腹部は千切れている。一目見ても、すでに事切れている事がわかるほどに酷い状態だった。


 一体ここで何があったんだろう……。

 そう思っていると、わたしの手に握られたダガーワームが一際激しくざわつき始めた。


「ど、どうしたの?」


 わたしは慌てて手に持ったダガーワームを見る。

 すると、ダガーワームは蝋を溶かすようにポタポタと雫を垂らしていた。

 いや、雫に見えたのはダガーの形を形成していたダガーワーム一匹一匹だ、地面に落ちた銀色のナメクジのような虫達が目の前の猫の死体に向かって列を作っている。


 わたしが溶けかけのダガーの形をしたものを地面に置くと、ダガーの形はすぐに解けて、銀色のヒルに戻ったダガーワームが、一斉に猫の死体へと向かっていった。

 そして、死体の体によじ登りお腹の付近まで来ると、彼らは再び一つに纏まりダガーの形状へとその姿を変化させる。


 その様子は先ほどまでの刀身が波打たたせていた姿とはうって変わって、キラキラと銀色の淡い光を反射させており、とても落ち着いた様子だった。


「もしかして、この猫が狂猫……。あなた達の飼い主さまなんだね」


 わたしは体を屈めると、守り刀のように狂猫の体に乗るダガーワームを見つめると、目を瞑り静かに手を合わせた。


「……」


 暫くの間そうしていたが、立ち上がると、


「最後だけど……飼い主さまに会えてよかったね」


 そうダガーワーム達に声を掛けると、視線を外してさらに部屋の奥へと進んだ。

 部屋の中心には机が並べられており、その上には紙束が無造作にばら撒かれていた。

 わたしは、その一枚を手に取ると書かれている内容を読んでみる。


 そこには細かい字がみっちりと埋められており、よくわからない表やグラフが並び、見ているだけで頭が痛くなりそう。

 わたしは机に紙束を戻すと、今度は壁際にある本棚に目を移す。

 おそらく、机の上にぶちまけられている紙束はこの棚から持ってきたものなんだろう。

 ごっそりと穴が空くように本棚が歯抜けになっている。


 ここにも、特に目を惹くようなものはないかな。

 本棚から本を取り出してぺらぺらと捲ってみるが、とてもじゃないが、わたしに読めるような内容のものではなかった。


「ん?」


 本の出し入れとしていると、パサリと一冊のノートが棚から落ちた。


「レインズダイアリー……?」


 ノートの表紙には〈レインズダイアリー〉というタイトルが書かれていた。どうやら、レインという猫が書いている日記らしい。

 ぺらぺらとノートを適当に捲ってみる。





『発芽体

ある日、私の前に深い目指し帽を被った男と、金色の毛並を持つ英雄猫が現れた。

 彼らは、私に女王型MTTBの種を渡してきた。

 MTTBの生態は未だ謎に包まれているにも関わらず黄昏の種〈Twilite Beens〉とは、非常に貴重なものを前に私の興奮は最高潮に達した。


 MTTBの研究に興味の持っていた私は、すぐさまそれに飛びつき研究を始めることにする。

 わたしの持つ冷凍制御魔法の術式を用いれば、MTTBを発芽体の状態で留める事が可能だ。理論は間違っていなかった。芽を出したMTTBは十分にアンダーコントロールされている。問題ない。

 これからの事を考えると胸が弾む。




 MTTBの養殖

 私はすぐさまMTTBの養殖技術の研究を始めた。

 これがうまくいけばニャルハラにエネルギー革命を起こす事が出来るに違いない。

 文明の進歩とは、常に脅威と背中合わせの関係にある。


 MTTBという未知なる脅威に対面した時、ニャルラトネットワークというそれまで影も形もなかったものが突然整備され魔法が大幅に強化されたように、MTTBの養殖もまた、脅威を糧として文明を更に前に進めるものに違いないのだ。




 赤猫社

 問題が起こった。

 赤猫社の研究室を追い出されてしまった。

 赤猫社の猫どもは誰も、私の事を理解しようともしない。


 MTTBが持つ結晶化マタタビ、そこから生み出される魔力はまさに夢のエネルギーと言えるだろう。魔法が広く世の中に使われるようになり、慢性的な魔力不足が叫ばれるなか、これはブレイクスルーになり得るものに違いない。


 そもそも、赤猫社というのは慢性的な魔力不足の解消を目的として設立された魔力基金ではなかったか。

 MTTBの養殖はそれを解消しうる技術である。

 それにも関わらず、まるで奴らは私の事を狂人を見るような目で見るとは、なんという奴らだ。


 MTTBを、ただの脅威、悪魔の類として決め付ける世の中に、私は辟易している。奴らはアホか? 今の社会はお前らが卑下してみている我々使い魔〈サーヴァント〉による魔力提供で成り立っているという事に市民共は気づいていないのか。

 とりあえず、私は知己を頼りYUSA〈ユサ;夢科学研究所〉に身を寄せる事にする。




 ニャルラトホテプ

 MTTB三元神の一体ニャルラトホテプについて、驚くべき事実を知ってしまった。

 神々の領域を侵したとされるMTTBニャルラトホテプは公には猫乙女〈ニャルキリー〉達によってすでに倒されたという事になっているが、真実はそうではない。


 ニャルラトホテプは生きている。猫乙女達は封印するまでしか出来なかったのだ。

 夢拡張領域と呼ばれる夢世界〈ドリームランド〉の一角に新たに空き領域を作り、そこにニャルラトホテプを押し込めた。


 現在言われているニャルラトネットワークとはニャルラトホテプを封印する為のシステムの総称のようなもので、そのままでは認知する事が出来なかった未知の敵であるニャルラトホテプを認知する為に猫乙女達がYUSAとの全面協力の元に生み出したものなのだ。

 彼らは夢の中に神的拡張領域に似た性質を持つ夢拡張領域という檻を作り、そこにニャルラトホテプを閉じ込めた。


 その後、夢拡張領域はテレパス、次元超越といった神的拡張領域的側面に目をつけたスティーブジョブネッコを中心としたYUSAの独立メンバーによってニャルラトネットワークとニャルラトフォンという形で新たに整備、商業利用に転用され、広く一般に使われるようになったわけである。


 ニャルラトホテプという自らを脅かす直接的な外敵の存在があったとはいえ神々が自らの神秘を我らに明かす事は滅多にない。そのチャンスに目をつけ、ビジネスに結びつけた男の手腕はかなりのものだ。

bニャルラトネットワークの構築まで、かなりの悶着があったに違いないが。まあ、それにそれはどうでもいい事か。


 問題なのは今も奴がウェブの深層に潜んでいるという事だ。

 夢拡張領域が檻であったならば、ニャルラトネットワークとはニャルラトホテプを拘束しているいわば網である。

 猫達がネットを使えば使うほど封印は強固になっていくというのがYUSAの考えのようだが、どこまで本当かは分からない。


 一つ言える事はニャルラトホテプはニャルラトネットワークの潜在的脅威、最悪のウィルスとして今も存在しているのだ。それにも関わらず、ニャルラトネットワークを拡大させ、ネット依存社会を推し進めるYUSAは正気ではない。


 だが、私も人の事を言えた立場ではない。

 ニャルラトホテプが居なければ、ニャルラトネットワークは生まれなかった。

 やはり、文明の進歩とは脅威と隣り合わせにある。その持論に私は更に自信を深める。




 猫乙女

 YUSAの極秘資料を漁っていた事がばれた。

 それと共に『アグリアス』『しらたま』と名乗る二柱の猫乙女達が私を殺しに来た。

 どうやら、私が知った事は彼女達にとって相当に都合の悪い事だったらしい。


 神が市民を殺しに来るとは神民分離の原則とはなんだったのか。

 私がそう問いただすと、彼女達は、


「今の我々は神ではなくお前と同じ使い魔だ」

「だから殺しておっけーなんです。早く死んでください」


 などと意味の分からない事を言って取りつく島もなかった。

 まるで殺人マシーンのようだ。

 彼女達の感情の籠もっていない冷徹な瞳を思い出すだけで、背筋が凍る。


 死神の二つ名の通り、彼女達の戦闘能力は常軌を逸している。私もそれなりに強いつもりでいたが、手も足も出そうにない。

 兎に角、逃げられたのは運がよかった。

 手を貸してくれたミミには感謝してもし足りないぐらいだ。


 しかし、もうYUSAには近づく事すら出来ないな。

 気が休まらない日が続く。

 早く、落ち着いて研究がしたいものだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] デモンズデンターの絵が頭に浮かんできません。 僕のイマジネーションの限界だコレ。 うーん、世界観がすごいSFになってきましたね。 SFというのはおかしいですが。 レインズみたいなマッドサ…
[一言] >ど、どうしたの? そんな言葉を掛けられるだなんて……もうルナちゃんにとってはペットですな( ´∀` ) そ、そして……なんて恐ろしい真実(゜Д゜;) ここでクトゥルフ要素が絡んでくるとは…
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