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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
5章 世界が壊れる音
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78話 剣客

 戦争、侵略、征服。言い方は言語と歴史の数だけあるが、命を懸けて戦った者たちが、その後にすることは大抵同じだ。


「今日の戦いで俺たちはトトサワルモ地方の四分の三を手にした。あともう少しだ。景気づけに今日はみんな楽しんでくれ」


 そう、宴である。 


 世界征服を開始してから約三年が経過した。タイミたちを拾ってからは四年になる。たったそれだけの時間でトトサワルモ地方のほとんどがセイの手に落ちた。

 厳密に言えばアーゼランとは同盟を組んでいたり、征服されていながらセイに反抗している集団もいるため完璧に支配しているというわけではないのだが、まあそのあたりは言わなくてもいいだろう。言っても、目の前で楽しそうに酒を飲み料理を楽しんでいる部下たちは気にしないだろうし。


「セイさま~セイさまも飲んでますか~~?」

「飲んでる飲んでる。お前もしこたま飲んでおけよ。森の聖領で取れる果実と砂の聖領で取れる魔物を組み合わせたとっておきの酒と料理だ。うまいだろ」

「とっても!」


「……セイ様、聞き時を逃していたんですけど、なんでセイ様が料理をしているんですか……?」

「なんでって、そりゃあ俺が一番料理がうまいからだろ。この部隊の数も増えてもう五百人もいる。俺が担当しないと隅々まで飯と酒が行き届かない」

「任せろとおっしゃっていたので任せましたが、命じていただければ近場の街の料理人でも攫ってきましたのに」

「そいつらは大抵俺より料理が下手だからいらないよ。それよりお前ももっと楽しそうに食え食え。こっちはアスペムで学んだ緑宝石兎の甘煮だ。俺の好物なんだ」

「……いただきます」


 セイが使っている分割体はトトサワルモ地方中に散っており、その経験を共有している。分割体そのものの練度も上がり、頭部と両腕だけの部分的な分割体を七十体即席で作り、料理チームを組むことさえ可能だ。

 最近征服した国から引き抜いて部下になった魔術師が信じられないものを見る目をしているのを視界に納めながら、無視して料理を作り続ける。


 この世界の戦士は崖を素手でよじ登り岩盤を拳で砕くが、その分消費カロリーが大くなるのかよく食べるのだ。一般人換算なら十人前は必要になる。よく戦った後は百人分食べることすらある。


「だーかーら!俺はお前の部下ではない!暴竜、分かってるな!?何度も言ったな!?お前がさっさと世界征服してくれないとボスが困るんだと!だから俺は協力してやってるのだと!!」

「ああ、聞いている聞いてる。これで二十五回目だな。ほら、酒をもういいっぱい飲むか?」

「飲む‥‥‥」


「……私は部下になってやってもいいと思っているわ。この頑固おやじと違って、貴方を王の器と認めているもの」

「やめろ。俺たち八大災禍は全員が対等だ。アデライドも言っていただろ。やることが終われば切れる縁だって。ほら、あーん」

「もがもが」


 宴会場から離れて、この場で唯一の人型分割体でありこの軍では本体ともいえる個体のセイが、バーカウンターのような場所で二人を相手にしていた。

 【鬼武者】のゴウキと【救護騎士】のミレイユ。共に八大災禍旗揚げのメンバーであり、現在は一時的にアデライドの命令でセイの指揮下にある。


「ぐぅ……すぅ……」

「はぁ……平和はいいことだけど、稼ぎが少なくなるのは困りものね」


 強い奴と戦い己を鍛えることを生きる目的に据えている鬼神衆の頭目であるゴウキはもちろん、無神論者であり神殿を襲撃して回っていたミレイユも今では肩身の狭い身だ。

 セイが征服した国はちゃんと統治しているので、略奪が出来なくなってしまったからである。


「だからちゃんと戦いの場を割り振っているだろ。ベルゼラード帝国の強い奴はゴウキたちに、ハイディ神聖国との戦いはミレイユに――誰だお前?」

「おや、さすがにこの距離なら気が付きますか」


 セイの視線の先には知らない老人がいた。老けており、外見年齢は八十といったところだろうか。

 そう知らない老人がいたのだ。この城の中にある宴会場に居るのはセイの部下だけで、外部の者など居ないはずなのに。居ることに、セイもゴウキもミレイユも部下たちも全員が気が付かなかったのだ。


「ああ、失礼。そう怖い顔をしないでいただきたい。敵意はありませぬ」

「俺は誰だって聞いたんだよ」


 セイの手には水晶の様に透き通った二本の青い刀、水晶刀が握られていた。そんなセイに部下たちは驚く。死者の王との戦いで愛剣を失ってから手に馴染む剣が見つからず魔力剣を使っていたセイが、「一度しか使えないが、この剣なら全力が出せそうだ」と自慢していた剣だからだ。


「おおう、困りましたな。儂は暴竜殿と手合わせ願いたくて訪れただけなのですがのう……。ああ、申し遅れました。儂はトラストと申します」

「トラスト?…………………………………………知らないな」

「ほほ、無理のない事です。儂は田舎者でして」


 老人は朗らかに笑うが、セイは世界征服を始めてから最も警戒していた。


 当然だ。ほんの五メートル先に近づいて来られるまで気が付けないほどの隠形の使い手を、全く知らないのだから。


「それで、何の用だ?いや、誰の使いだ?私怨か?まさか本当に戦いたくて来たってだけじゃないよな」

「いえいえ、誤解にございます。確かに儂の住む国は貴方に征服されましたが、娘夫婦も孫家族も、皆笑顔が増え申した。恨みなぞ持ち合わせておりませぬ。

 ただ、儂は見ての通り老い先の短い身。剣に生きた者として、最後は剣で死にたく思うのです。お相手願いませんか」


「断る……と言いたいが、断ったら俺の部下に手を出しそうだな」

「はい。切り捨てます」

「分かった。応じよう……というわけだから、お前らは落ち着け。飲み直していいぞ」


「……そういうわけにはいきません。セイ様、セイ様の城としての責務を果たせなかった私に、どうかチャンスを頂けませんか」

「ダメ。死ぬだけだから」

「ぐっ……!で、ですが!私はセイ様の安寧の場所です!それを否定するこのクソジジイは私ぎゃふん!」

「落ち着けリーメール!セイ様すみません!よく言っておきますんで!」

「ああ」


 リーメールがぎゃあぎゃあと騒いでいる。分からなくもない。リーメールはキャッスルミミックと融合した魔族であり、この城は彼女の体内のようなもの。侵入者に気が付けなかったことなど今まで一度も無かったのだから、セイ以上に悔しいのだろう。


「賑やかですなあ」

「重苦しい空気が嫌いでね」

「良い事です」


 セイとトラストは歩く。着いた場所は城の奥にある通路。道幅は狭く、向かい合って立つと、背を向けるか、相手を倒すしか移動できない。


「ここでいいか」

「ええ。感謝します。では、死ぬとしましょう」

「いや、生かして、お前は俺の部下にする」


 



 戦いは熾烈を極めた。


 老人、トラストの剣はこの世界で初めて見るタイプで、刀を使っていた。

 この世界の剣士は大抵は長剣か大剣を使う。鍛えた肉体と闘気や身体強化の魔術で底上げした身体能力で殴り飛ばす。極端な言い方だが、刃物が付いた鈍器のようなものだ。


 しかしトラストの剣は違う。立てれば紙のように薄い刀身を操っている。断つのではなく切っている。


「【紫銅】」


 何かを呟いた。拾ったその音が、武技を発動するための言霊だと気が付いた。

 何かが来る。目を凝らして老人を見る。刀を、手を、腕を、全身を。集めた膨大なデータベースから相手の流派を判断する。


 がつん、と腕に衝撃が走る。


「……全く分からない。我流か、俺の知らない流派だな」

「……なんと!なぜ腕が落ちておらぬ!?儂の剣技は龍すら切り裂くのだぞ!?」


 セイが反応するより早く、トラストの刀がセイの右腕を切りつけた。半分しか切れなかったのは、単にセイが【重結合】で身体強度を上げているのと、人族にしか見えないために、トラストの方が見誤ったのだろう。


 しかし、なんにせよ。


「切られた。ふふ。剣で切られたのは、いつ以来かな」

「やる気になりましたかの?」

「ああ」


「一方的に剣で切られるなんて、スレイ亡き今、考えても無かったよ。恥ずかしいな」


 セイの目に闘志が宿る。

 思い出すのはかつての記憶。この世界に転生して、スレイたちに稽古をつけてもらったあの頃。毎日切り刻まれたあの頃。

 別れた後も剣を振って、魔物を相手に剣を振って、切られて食われて齧られて。ジョブチェンジで【剣神】のジョブが表示され、転職して、もう剣の腕は打ち止めだなと受け入れたあの頃。


 セイにとって戦いとは勝利のためにすることであり、武術も魔術も手段に過ぎないし、こだわりもない。


 ゲーム風に言えば、常に相性の有利属性で戦う、とでも言うべきか。


 だが、剣だけは別だ。

 スレイたちに教わった、確かな繋がりの証なのだから。


「純粋な剣術の競い合いなんて、久々で嬉しいよ」


 セイの常に成長している。他者から剣を学び、修め、自己流に伸ばす。どのように改良するのが、自分が一番強いのかを考えた。


 その一つがこれだ。


「【早踏】」

「お、おおおおおおお!?早いのう!」


 鋭さが自慢のトラストを、さらに上回る速さでセイが切りかかる。


 二刀。柄同士で繋がった二本の刀は針のように軽く、剣術スキルのレベルが最低でも10は無ければ振ることすら出来ない失敗作としてある鍛冶屋の倉庫で眠っていた業物。当てるだけでランク6の竜の鱗を切り裂いた刀を剣術スキルレベル18相当の腕前のセイが振るえば、およそこの世に切れぬものは無い。


「負けぬよ、【重亀】」


 しかし、対するトラストも凄腕だ。腰に佩いだ三本の刀の内、一本は右手に構え、残りの二本は指の間に挟むように左手で持つ。まるで獣の爪のように刀術はセイと拮抗する。


 お互いに空き地を探して一歩下がる。同時に、トラストは残像を残してさらに一歩下がる。今の今までトラストの首があった場所を空のように青い線が走り、遅れて壁が切り裂かれる。遅れて聞こえた風切り音と左耳のあった場所から感じる冷たい風に、『耳を抉られた』と気が付いた。


 続いて感じる気配に合わせて刀を前に突き出し、セイの刀と切っ先同士で衝突する。

 またしても勝ったのはセイ。剣術が互角ならば、勝負を決めるのは純粋な腕力。セイの圧勝だ。


 その事実に、一つ気が付いた。


「爺さん、まさか見た目通りの歳か?」

「っ!ええ、ええ。あと十年、いえ、あと五年早く闘気を習得出来ていれば、百二十年でここまで老けることはなかったと後悔の日々ですよ」

「どうりで」


 闘気は使い手の生命力を使う都合上、生命力のトレーニングになり、大抵の使い手は寿命が圧倒的に伸びる。

 しかしこれは若いときに身に着けると若い時期が伸びる半面、老いてから身に着けても大して寿命が延びない。元より老いで生命力が少なくなっているため、修行できず、伸ばせる余地も無いのだ。


 トラストもそのパターンなのだろう。老いてから身に着け、他の者がこの先百年二百年と修行できるのに、自分はたったの百と少しの時間で死ぬことで精神を病んだのだろう。いくつかの事例がある。


「だが手は抜かないぞ。あんたは俺が会った中で、スレイの次に強い剣士だ」

「おおっ!それは嬉しいですなぁ。人生が報われるようですよ」


 しばらく打ち合った後に、トラストは膝を付いた。

 その光景に、セイは油断をしないように気を付けながらも勝利の二文字が頭に浮かぶ。

 スレイに次ぐ剣の使い手。老いていなければ勝てなかっただろう。


(ここまでですか……)


 トラストは霞む目を凝らして、セイを見上げる。

 剣に生きた人生。自由に剣を振れなくなった故郷を飛び出し、信じる神に背を向け、異郷の地で出会った人と恋に落ち、子を成し、生きる喜びと、剣への執着が薄くなる恐怖に覚える日々。

 それも今終わる。あと十年早ければ、だがそれは無いので、もう人生の総決算には十分で。


 十分で?


(……いいえ、ならば、あと十年、あと一年、あと一日早く習得していれば、なんだというのですか)

「む?」


 首を落とそうと振り下ろしたセイの刀を、トラストの刀が受け止める。二刀、三刀。四振り五振り六振り。切れない感触に不思議に思う。急激に強くなったわけではない。トラストの剣は既に見切った。自分の方が強い。セイがしっかりと彼我の実力差を理解して、もう勝てると判断していた。


 しかし不思議な感触だ。正確な像がつかめない。

 まるで、一振りごとに身長が伸びている様だ。


「爺さん、霞んだ目が晴れたのか?」

「ええ、あと十年などと言わずとも、この一秒が、この瞬間が修行なのだという初心を思い出しました」

「無理もない。ご老人、普通ならボケている年だろう」

「ははっ。御冗談を。まだまだ現役ですぞ」


 体を捻る動きで飛び跳ね、トラストは奇襲を仕掛ける。跳ねた動きは回転エネルギーに変り、そのまま刀を振りかぶる強さになる。

 そこから始まるのは連続攻撃。三振りの刀による絶え間ない別れ。


 意志があっても体が丈夫になるわけではない。若い体になったわけではない。だと言うのに、トラストの踏ん張りは地面をへこませ、息もつかせぬ達人の動き。


「ぬっ!?」

「【四六斬】。老いたこの身でも使えたようで」

「やるな!この固体を簡単に切り裂くなんてさ!」


 一つ一つは細かい傷だ。しかしセイの体は人族をベースにしている以上、体には血が流れ、筋肉繊維で部位を繋いでいる。血を流せば、動きは鈍り、断たれれば動けなくなる。

 

「爺さん!【斬撃耐性】のレベルはいくつだ!?よっぽど斬って斬られての人生だったんだな!」

「ほほほほほほセイ殿こそ人の事を言えますまい!その歳でこの斬りにくさ!体が頑丈なだけでなく、【物理耐性】スキルでも習得していますな!?素晴らしい!」

「あんたと同じに思うな!ただ一年くらい聖領で暮らせばあんたも身につくよ!」

「素晴らしい闘争心だ!生き残ったら儂もやってみましょう!」


 戦いは加速する。トラストの斬撃でセイの肉が断たれ、セイの刺突で肉を抉る。一進一退の攻防。状況は互角……ではなく、わずかにセイが優勢だ。

 だがそれは剣の腕前ではない。セイのダンジョンコアという種族ゆえの話。もし対等な条件なら、既にセイは死んでいたかもしれない。いや、きっとそうだ。


 対等な条件では戦わない。有利な条件で戦う。セイはこの考えを否定したことは無いが、今この瞬間だけは邪魔に思ってしまう。


「このままでは儂の負けですのう。ならばっ!」


 トラストは右の壁に向かって飛ぶ。脚を付けたのは壁。地面に垂直に立ち、刀を振るい始める。

 壁に立つ。まるで重力の方向が変わったように、物理法則を無視しているように。壁に立っている。

 やっていることだけ見れば曲芸、サーカスのようだ。しかしここで使ってきたならば、きっとそれは秘策なのだとセイは瞬時にあたりをつけ妨害しようとする。


 しかしトラストの動きは止まらない。

 トラストの故郷、砂の聖領のさらに西で、生き抜く過程で生まれた流派。年老いてからは使えなくなった。いや、使えないと思い込んで、使わなくなった流派、異種・雑技流。


 その神髄は、重心移動と遠心力によるありとあらゆる環境と存在への対応。

 極めたものは、天井にすら立つ。


「はあ!?」


 未知の角度から降り注ぐ剣戟にさすがにセイも驚いてしまう。重心移動と遠心力を使いこなし、壁や天井を足場にして動き回る。まさに縦横無尽。ひとたび攻撃態勢に移れば、重力さえも完璧に攻撃に乗せている。


 楽しいな。そう呟いたのは、セイか、トラストか。いや、きっと両方だ。『勝利』を目指さず剣を振るう。セイにとってはスレイたちに扱かれていたころ以来。トラストも似たようなものなのだろう。

 

 楽しい。そう自覚した両者の動きが、さらに鋭さと美しさを増していく。

 遠くから見ていたセイの部下たちは、踊りのようだと思った。舞うような動き、予め決まっていたように拍子をとり、拍子を外す。反撃すらも演目の一部のように取り込み、合いの手に貶め合う。


 機能美、という言葉がある。

 人を斬るという機能を極めた剣と動作が美しいように、無駄を削ぎ落し洗練することで生まれる美。人が何を美と思うかを研究した末ではない、「宿る」美。

 人が大木や大海原に神を見出す様に、様子を見に来たセイの部下たちは洗練された機能美にまるで神の降臨を見い出す。


 無限の様な永遠が続く。だが時間は有限だ。セイの水晶刀に、ほんの少しひびが入るのを感じ、セイは勝負を決めに掛かる。

 

 武術とは人から学び、修め、自分に合うように改良することで進化する。

 体の大きくて頑丈な人は、それを活かす。体が軽くて俊敏な人は、これを活かす。

 ではセイは?セイだけの特徴とは?もちろん種族だ。種族:ダンジョンコア。一応の同胞は居るが、縁が無いのでいないようなものだ。参考には出来ない。ではステータスを見てみよう。特徴は、取り柄は、自分だけの武器とは。


(【超速思考】、【群列思考】、全開)


 当然、思考速度だ。

 思考を加速させる【高速思考】の上位スキル、【超速思考】。一度に複数の事を考える【並列思考】の上位スキル、【群列思考】。常人では習得することは難しく、覚醒させるには肉の体では不可能とまで言われる伝説のスキル。この二つを武術に組み込む。


 思考が加速する。十倍、百倍、千倍。景色が遅くなる。加速する思考は現実を侵食し、斬撃の余波で飛び散った瓦礫が、宙に浮かんでいる様だ。

 この技を見た人は、セイに向かってこう言った。

 まるで、違う時間を生きている様だ、と。


「——」

「獲った」


 駆け出す。止まった時間の中で、水中よりもなお重く纏わりつく空気を引き裂いて、セイの剣はついに届き、胸を切り裂いた。


「楽しかったよ。トラスト殿」

「——————ぁあ、俺もだ」


 かすれる声を最後に、老人は血に沈んだ。





「セイ様!ご無事で――——ぎゃあああ!!!」

「血塗れじゃないですか!今すぐ医者!医者を!医務室に!」

「……いらないよ。自分で止血できる」


 珍しいことに、立っていることすら出来なくなったセイは倒れこみ、血の水たまりを揺らした。

 またさらに赤くなった。遠くで悲鳴が聞こえる。


「あー……疲れた。でも…………楽しかったー……」

「セイ様がお喜びの様で何よりです。それと、この死体はどうします?いいフレッシュゾンビが創れると思いますが」

「あーどうすっかなー……」


 隣には死体がある。今日会ったばかりの身の上も知らない老人だが、なんだが久々にスレイと会えたような幸福感が胸に満ちている。

 この気持ちはすがすがしい、というのだったか。


「いや、いいや。俺が蘇生する」

「よろしいのですか?」

「ああ、久々に、敬意を持てる人だった。お礼に俺の体を使って、肉体を若く作り変えよう」


 セイは聖属性の空間を作り、手を合わせ、魂を見送った。

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