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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
5章 世界が壊れる音
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72話 留守を守る宝箱

 下手人を追撃しにセイたちが出払った後、怪しい人影が無人のキャンプ地の近くにある茂みにやってきていた。数は十五人程度、全員が精鋭だ。

 目的は帰還拠点の破壊と物資の鹵獲だが、別動隊を率いて来た老将ニューテッドの豊富な経験をもってしても理解が困難な光景に足踏みしてしまう。


 目の前にはテーマパークのジオラマのような小さなお城がある。ニューテッドは眉間を抑えながらも偵察兵を出し調査させた。


「隊長、周辺に他の不審なものはありませんでした」

「城の周辺には土属性魔術で地盤を固めた痕跡があります」

「見えている窓は全てハリボテで内部が見えません。また、見張りも一人もいません」

「ふむ、では間違いなくあのおかしな城が拠点だろう。……見た目がおかしいが、城である以上防衛戦も想定しているに違いない」


「それが、見た目通り戦いは想定していないようです。堀はおろか物見櫓すらなく、【気配遮断】を高レベルで習得している者は城門の内側まで難なく行くことが可能でした」

「……意味が解らん。異国の地では野営を嫌う高貴な軍人が家ごと持ち運ぶこともあると聞くが、その類か?あの見た目はただの趣味?留守を守る者がいないのは暴竜の軍略か?」


 外見年齢が六十を超える老年のニューテッドの眉間に刻まれる皺が一層深くなる。若い時期はハイディ教の神官戦士として魔物や異教徒と戦いの日々を送り、時には神を裏切った者たちの街や国を攻めたこともあるため彼は非常に軍事行動に秀でた将軍だ。

 英雄ではなく「軍人」としての能力ならばこの世界でも最上位に数えられるだろう。


 しかし、その上で読み切れない。トトサワルモ地方の半分を征服した暴力性と軍事力の強さと数々の悪評と、目の前のふわふわもこもこした城の姿をした軍事拠点が一致せずにうまく現実を認識できない。


「まさかこれも暴竜の作戦の内なのか……?」

「いかが致しますか?撤退しますか?」

「……いや、作戦通り暴竜たちが出払った今こそ絶好のチャンスだ。最低でも帰還拠点ごと焼き払い、出来ることなら物資を奪う」


 決断すれば次の行動は速かった。部下たちは一瞬で装備の点検を済ませ、陣形を組んで襲撃する。

 城の見た目をした敵拠点には可愛らしい装飾が施されているが、周辺の景色は岩だらけで、物音ひとつしないのだから不気味さの方が際立つ。


 もしかしたら罠ではないのか。そんな考えが頭をよぎりながら、魔術兵が巨大な炎の塊を放つ。


「火よ、火炎となり、その巨体で邪悪を祓え、【巨炎葬】」


 放たれたのは攻撃魔術の中でも、弾丸系と呼称されるものの上位魔術。小さな火が高温になり、激しく弾けたと思ったら一気に巨大化。人体を骨に出来るほどの高温な炎の塊が城門を破壊した。

 先陣を切るように突撃兵たちが侵入していく。


「誰も居ない……?」

「私が確認しよう。あまねく命は神から生まれた、【生命感知】……驚きました。本当に誰もいません」

「馬鹿な。不用心すぎる」

「内部は普通だな……早く内部構造も調べてくれ」

「ああ。全ての物質は神から生まれ、我らは神の子は全てを知る、【物質感知】……構造は分かった。しかし、どこにいけばいいんだ?重要そうなものが何もないぞ」


 一人一人が武術と魔術を硬度に納めているため、即座に城の作りを丸裸にする。

 しかし、分かったことは「この城には何もない」ということだった。


「何もないとはどういうことだ。正確に報告しろ」

「言葉通りのです、将軍。この建築物があるだけで、物資が何もありません。しいて言えば、調理場らしき部屋に人がいた痕跡があります」

「一体どういう事だ……?いや、なんにせよ足を止めるのは不味いな。迅速さを優先して二手に分かれよう。私を中心に五名は調理場に。残りは城を隈なく調査せよ」


 警戒しながらもニューテッドたちは調査を優先する。ラフィットが暴竜たちをひきつけているが、それでもこの短時間で暴竜は自分たちとは違う考えて行動していることは十分に理解した。

 どれだけ短く見積もっても六時間は戻ってこないという想定が、既に完全に崩壊している。


「この小皿に一つだけ取り分けられた肉は、料理人が味見に切り取ったものでしょうか。まだ温かい」

「ということは料理中に、いや、調理器具は洗ってある。食事中に襲撃が重なり、全員が急いで対応してということ、か?だとしたら恐るべき対応力だ。我らも見習わねばな」


 どれだけ探しても敵がいないことに気が緩んだのか、ニューテッドは振り向きながら冗談を言う。兵士たちも同じように気が緩んだのか、つられて笑う。そして気が付いた。


 一人、足りない。


「……ん?お前たち三人だけだったか?」

「えっ?」


 一瞬遅れて、ずくん、と心臓が大きく跳ねる。一気に冷や汗をかき、呼吸が粗くなる。

 経験的に剣を抜く。闘気を張り巡らせ、全方位を警戒する。何かが起きた。一人消えた。理解が追い付かない。なぜ。いつの間に。


「くっ……、これはいかん流れだ!いったん外に――」


 ごくり、という何かを飲み込む音と共に、全員消えた


「は?」


 一瞬で景色が変わる。彼らも良く知る建築様式のお城から、まるで古くてかび臭い、遺跡の様な床のどこかに。


「た、隊長!ご無事でしたか!」

「生きていたのか!?ああいや、まずは点呼だ!全員いるか!?」


 そこには部下たち全員がいた。いなくなった一人だけではなく、別行動をしていた全員が。

 つまりは、別動隊としてやってきた全員が。一網打尽に出来る場所に。


「隊長、う、上を……」

「だからまずは……なぁっ!?」


 ニューテッドは反射的に怒りを抱きながらも上を見上げる。そして驚愕する。

 天井は無く、無限に暗黒が広がっている。試しに目の前の壁を破壊してみると、同じような壁が。さらにもう一枚破壊しても、同じような壁が。ここは尋常な空間ではない。


 その異常な光景に一週回って理解が追い付いた。二百年もの長い間で積み上げたA級冒険者にも負けない膨大な魔物との戦闘経験が過去の類似事象を思い起こさせたのだ。


「いかん、キャッスルミミックだ!脱出するぞ!ここはすでに魔物の腹の中だ!【御使い降臨】!」


 ニューテッドに続いて部下たちも【御使い降臨】を発動する。

 一人一人の頭上に虚空から降りて来た光の柱が降り注ぎ、光が収まると光り輝く天輪と翼を生やし、神々しさを感じさせる特殊な魔力を放ち始めた。

 【御使い降臨】。神の力を借り受ける神聖魔術の一種にして、選ばれし聖者のみが使える特別なスキル。その使用者が十五人。何も知らない一般信徒が見れば神が降臨する前触れとすら思ってしまうほど神々しい光景だ。


 しかし神々しさを穢す様に、膨大な瘴気を帯びた触手が四方八方から壁を壊しながら襲ってくる。


「くっ!この触手はミミック系の魔物が共通して持つ『舌』か、なんと邪悪な気配!気を付けろ!おそらくランクは12はある!!!下位の邪神に匹敵するだろう!そして既に我らは腹の中!一瞬の油断が命取りになるぞ!」


 ニューテッドは闘志を燃やし部下と共に諦めずに戦い始める。当然だ。彼らは軍人であるがその前にハイディ教の信徒。この美しい世界を穢し、汚染する魔物の排除は神より授かった至上命題である。


 謎の軍事行動を行う謎の国と戦うはずが、その正体は邪神の卵だったのだ!気合が入らないはずがない。


「隊長に続け!」

「これほどの強大な魔物、制御から離れれば世界の危機に数えられるぞ!」

「もし複数使役してるならば、邪悪な神々の使途どころか、邪悪な神々の卵とすら言えるだろうな」

「やはり生かしてはおけない!」


「なんとしてでも帰還し、この事実を伝えるのだ!暴竜は既に、邪悪な神の一柱に数えていいほどの脅威だと!

 うおおおおおお!神よ、我に邪悪を祓う力を与え給え!【破邪顕正】!!」


 気合を入れ直したニューテッドたちに苛立つように、さらに大量の触手が襲い掛かって来た。





(好き勝手なことを言っちゃってさ)


 公表していないため誰も知らないが、セイが率いるクロナミ国の正規軍は全部で十個の部隊がある。

 総隊長であるセイが直接率いる第一部隊を頂点に、九人隊長がそれぞれ率いる九つの部隊。全員がセイから加護を授かり特別な力を得ている怪物たち。


(セイ様の偉大さが分からない馬鹿どもめ。……あー、でもセイ様なら「これはこれで使い道がある」って生け捕りにしようとするんだろうなー。皆殺しでいいと思うんだけど)

 

 そのうちの一人、一番の新入りである第十部隊隊長のリーメールという人族の少女は肉とレンガに囲まれた謎の空間で苛立っていた。


 リーメールはかつて戦争孤児だった。それも周辺諸国と終わる見込みのないだらだらとした戦争を続ける小さな国の。

 十歳の時に戦火に巻き込まれて父親を失い、逃亡生活で母も病に倒れた。唯一の肉親である母親のために必死で身に着けた算術を生かして商店で薬代を稼ぐような、いつ破綻してもおかしくない暮らしが始まってしまった。

 それも再びの戦火で商店ごと無くなり、もはやいつ死んでもおかしくなかった。


 しかしセイが周辺諸国を丸ごと征服したおかげで戦争は終わった。千年前に愚かな王を倒したものの、誰が次の王様になるかを決めるために専念も戦争を続けた小国たちは、征服され戦争する武力と権利を剥奪されたからだ。

 翌日に行われた募兵にリーメールは飛びつき、魔物使いとしての適性を見込まれ兵士になれた。のちに知ったことだが、セイが軍に新しい兵士を入れる頻度は国を十個征服するたびに一人といった程度で、入隊出来た時点でセイのお眼鏡にかなった証だった。


 その後の暮らしは夢の様だった。伝説の一部になっていた、と言ってもいい。

 世界征服をしようというのに千人もいない超少数精鋭のセイの部下に選ばれ、そこから一年たった今では物資のほぼすべてを預かる程に出世した。まだ十五歳の少女にそこまで預かるなど正気ではないだろう。

 しかし世界の半分を手に入れた男からそれほどまでに重要な立場を任された事実がリーメールの自己肯定感を十分以上に満たし、またリーメールもこれに応えた。


 十五歳という思い込みが強い年齢なのも合わさってだろうが、母を救われ、強さに憧れ、国々を蹂躙し、誰よりも前に進み続けるセイの背中を見続けた彼女は、クロナミ国の旗揚げ時期からいる古参の兵士以上にセイに向ける忠誠心が強い。


 大抵の配下の者たちが「強くなれるのは理解できますが、ちょっと倫理的に避けたい」と嫌がっている、魔物との融合も受け入れるほどに。


「避けろ!」


 ニューテッドたちがいる空間に、謎の思い金属塊が落下した。衝撃は床を揺らし、兵士たちを吹き飛ばす。

 金属塊は羽を広げるように解れ、中から可愛らしい少女が姿を見せた。


「あの少女が、我らの敵なのか?」

「着ているのは金属製の鎧?呪われているように見えるが……」

「違うよく見ろ!あれは魔族だ!」


 兵士たちの間に動揺と殺気が走る。必ず殺すという意思と、なぜこんなところにという困惑。

 そして、誰もがすぐに考えが思い至った。悪名高き暴竜は、魔族を従えているのだと。そしてさらに、暴竜も魔族かもしれない、と。


「……」


 ミミック種の頂点に位置するキャッスルミミックと融合したリーメールは個にして城。城の姿の時は城である限り自由に外見を変えられ、【空間拡張】スキルのレベルと最大魔力値に応じて内部も物理法則を無視して広くなる。

 異常なまでに広い空間を持ち軍隊を物資ごと体内に収納したまま個人の移動速度で輸送できるという、セイと部分的に同格以上の有能さを持つのか強みだ。


「……違う、さらに悍ましい。あれは魔族化。神が禁じた邪法の一つだ」

「まさか魔物使いの最上位の身が使えるという、魔物との融合!?」

「部位移植ではなく全身融合か。しかも最上級の悪魔にも匹敵する魔物と……こんなに幼い少女に邪法まで使っているとは、これほど悍ましいものは見たことがない」


 人型形態の彼女は、遠目には部分的に鎧を身に着けているだけに見えるだろう。その細い体に反して岩盤から直接切り出したような武骨で巨大な盾と鎧に不釣り合いさを覚えても、人間の範疇に見える。

 しかし近づいて見ると、鎧は身に着けているのではなく一体化しているのだと分かる。鈍器としても使えそうな巨大な籠手、両足に着けた戦闘靴だけではない。全身を覆うラバースーツも顔を覆うマスクもゴーグルも、彼女の爪や髪の毛のようなのもだ。人間の様な弱点が存在しない。


 ランク12の魔物、キャッスルミミックの力を人型に圧縮し、人の意思で力を振るう怪物。城の内部に足を踏み入れたものを特殊な体内に取り込み、肉と鉄で嬲り殺す。過去に現れたミミック種の魔族の中でも最も強い特殊個体。

 しかもセイが自分のダンジョンで作った魂の無い個体と融合したため、普通ならある魔物側に主導権を奪われるリスクすら踏み倒した、セイの……クロナミ国軍の剣の一つ、魔族兵。


「私はセイ様ほど優しくないよ」


 セイの伝説の一部であることを誇る彼女だが、物資の管理と拠点の留守を任せられたのは、全てその実力ゆえだ。

 「このB級冒険者程度の体じゃ極伝を使わない限り傷一つ付けられない」とセイにお墨付きを貰った彼女に、負ける理由など何一つない。





「……………………一人、逃げられたか」


 リーメールの視線の先で、空間に穴が開いていた。


 追いかけるか少し考えた後、自分に下された命令を思い出し、おとなしく殺した兵士たちの死体を飲み込み始めた。

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