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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
1章 ダンジョンコアに取り憑きました
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8話 五日目 終

 ふらふらと羽毛が風に揺られるように、セイは野原を疾走する。


 目標はこのダンジョンのボスなのにボス部屋から出てきた変わり者のダンジョンボス、ランク4の魔物、インフェルノボア。

 ランク4は武装した一般人程度ではいくらいても相手にならず、一人前の騎士や冒険者でも一人では勝てない強敵。地球で言えばだいたい恐竜くらいの脅威だ。

 当然セイが正面から戦って勝てるはずもない相手であり、それでも倒したいのならが答えは一つ。

 奇襲である。


 目標地点まで五百メートルと遠いが、それは地球の話。ステータスの加護を受けた上に魔術と闘気で強化している今のセイならば十秒とかからない。


(風下もこっちであってるけど、一応風属性魔術で操作するか……?いや、魔力がもったいないか)


 魔獣とは普通の獣が穢れた魔力に汚染され魔物と化したものの総称であり、その魔獣たちは元となった獣の性質を受け継いでいる。

 インフェルノボアは猪が魔物となったものだ。セイは猪の知識は持っていなかったが、このダンジョンで猪の魔物の魔石を吸収し猪の魔物を創造できるようになったことで、同時にその性質も知った。ならばその知識で応用できる。

 魔獣は元となった獣の性質を引き継いでいるが、同時に元となった獣が持っていない性質は持っていない。猪の嗅覚は犬に匹敵するほど鋭いため風向きには注意が必要だ。しかし同時にそれ以外の知覚能力には乏しい。


(いける!)


 セイは魔術陣を展開し、三つの火球を大きく山なりのカーブを描くように放つ。


「ブモッ!?」


 インフェルノボアは驚いて上を見上げる。炎という原始的な破壊の力を前に反応しないのは人間でも難しい。本能で生きている魔獣にとってはなおさらだ。

 インフェルノボアは猪の魔獣が火属性を獲得し進化した種であるため火属性には耐性があるが、それでも完全に防ぐことは出来ず、くらうだけで命の危機に直結する炎は無視できない。


 そして隙だらけとなったインフェルノボアを見逃すほどセイも甘くはない。


「【火炎付与】【灼熱剣】!」


 疾走の勢いのまま突撃し全力で側面を切りつける。

 火属性を付与した高熱の剣はインフェルノボアの【火属性耐性】スキルを貫通し、鎧の様な体毛を溶かしながら肉に突き立てる。


「砕けろ!」

 そして剣に込めた魔力を優れた魔力操作で一気に放出する。体内で解放されたエネルギーはインフェルノボアの体内を破壊し、傷口を中心に内出血で痛々しく青く染まる。

 剣を引き抜いた傷口からはどくどくと大量の出血。再生能力も応急手当の手段も持たないインフェルノボアもあとは放っておくだけで死ぬだろう。


「よしっ!うまくいった。我ながら完璧な作戦だ」


 魔物であれ、生物である以上体内には血液が流れ、一定量の血液を失えば死ぬのは同じだ。

 そしてセイがインフェルノボアに勝てないとは真正面から殴り合った場合の話。炎の鎧を展開されようと、逃げ回るだけならば可能だ。


 今のうちに離れようとすると、その前にインフェルノボアは炎の鎧を展開する。全身が炎に包まれ、セイには近づくことも出来ないほどの熱波が広がる。


「んっ?悪あがき……じゃない!?」


 そしてさらに、インフェルノボアを包んだ炎は勢いを操作され、なんとインフェルノボア自身の傷口を焼いて塞いでしまった。


「まじかよっ!」


 インフェルノボアが纏った炎はインフェルノボア自身の火属性耐性すら超えることも出来る。それを知らなかったセイは一気に窮地に追い込まれる。

 インフェルノボアを包むように炎の壁が現れ、さらに周囲の樹々に着火することでフロア中が炎のフィールドへと変化する。炎という原始的な破壊の力は平等にセイにも恐怖と熱の痛みを与える。

 インフェルノボア自身も命を削っていそうだが、魔物と人間では圧倒的に魔物の方が生命力は多い。我慢比べでは確実に負けるだろう。


 それにインフェルノボアも悠長に構えているつもりはないようだ。炎の壁を突き破り突進してくる。


 セイは突進してくるインフェルノボアに向けて魔術で地面をすくい上げるように隆起させ、土の杭を顎に向けて衝突させる。

 しかし効果は無かった。むしろ土の杭が反動で砕け、勢いを落とすことなくインフェルノボアはセイを突き飛ばす。


「頑丈すぎるだろ!――ぐっ!」


 あっけに取られたセイは回避が間に合わず、咄嗟に闘気の出力を上げるが、体ごと突き飛ばされ大地を転がっていく。

 勢いが収まり慣れない痛みに耐えて目を開けると、間髪入れずにもう一度こちらに突進しようと反転するのが見えた。セイは即座にポーションを飲んで痛みを引かせ、賭けに出るかを選ぶ。


「一か八かだけど、このまま死ぬよりはいいか」


 セイは瞬時に覚悟を決め意識を内側へと向けると、膨大な魔力が嵐のように吹き荒れる。


 セイは最初にダンジョンが消滅するまであと十日と計算したが、それは正しいと同時に間違いでもある。

 ダンジョンとは神話の時代にこの世界を侵略しに来た異世界の神々が創造した故郷の風景の再現であり、この世界にとってはシミの様なものである。維持するだけで膨大な魔力を消費してしまう。

 ただ維持するだけでなく魔物やギミックも創造するならばさらに消費魔力は上がる。加えてギミックのメンテナンス、魔物の消費カロリーなども全て魔力で賄うとなると、並みのダンジョンはすぐに干上がってしまい自滅するだろう。


 セイの算出した十日で魔力が尽きるというのもこれと同じであり、魔力という名の維持費用が十日しか持たないという意味だ。

 逆に言えば、ダンジョンの維持に魔力を回さなければ、その分の魔力を今使うことが出来るのだ。


 自分のダンジョンの魔力を引き出し今ここで使うなど、自分の血を飲んで喉を潤すような無茶苦茶な延命措置と同義だが、目の前のインフェルノボアを倒せばこのダンジョンが開放されセイのダンジョンに魔力が流れ込むのだから、ギリギリ問題ないだろう。


 【ダンジョンコア接続】で自分のダンジョンに蓄えられた魔力を引き出す。

セイのダンジョンは非常に小さなものだが、ダンジョンはダンジョン。世界に流れる竜脈から魔力を吸い上げているダンジョンに蓄積される魔力は人の身をでは扱い切れないほど膨大だが、セイは【高速思考】【並列思考】を駆使して制御してみせる。


(完全制御は無理か……だけど、これで十分だ。速攻でケリを付ける)


 魔力の嵐が止むと、セイは空間を重くするほどのエネルギーに包まれていた。

 膨大な魔力を使いセイはあらゆる能力を上昇させる。


「ヴォオオオオオォォォオ!!!」

「【アースウォール】」


 突撃してくるインフェルノボアにセイは同じようにアースウォールを使う。


「ブモォ!?」

 しかし先ほどよりもその規模はけた違いだ。地面が盛り上がり、そのまま土がインフェルノボアを包み込む。

 腐葉土のように柔らかい土だが、それは同時に衝撃を吸収する緩衝材にもなる。

 インフェルノボアの勢いは殺され、セイの手前で停止する。


 セイはこの隙を逃すまいと魔力をふんだんに使う。柔らかい土に魔力を流し込むと、水のように柔らかかった土が一気に硬度を高めインフェルノボアを締め上げる。

 それだけにとどまらず、土は形を変えながら内部に伸び、インフェルノボアに杭のように突き立てる。

 セイの魔術の腕はまだ見習い程度だが、一流の魔術師の百倍の魔力を使い放題ならば成果も見習いの域にはとどまらない。土の杭はドリルのように肉を抉る。


 閉じ込められ肉を抉られる痛みに耐えるインフェルノボアを前にゆっくりと剣を正眼に構え、息を整える。

 闘気に込める魔力を最大に。制御が出来ず垂れ流しになってしまうほどに闘気を強める。


「【豪剣撃】!」


 セイはもとより強いわけではない。剣技も魔術も、素人に毛が生えた程度だ。達人から見れば……いや、一般的な兵士であっても、セイの動きは分かりやすく簡単に見切れるほどに拙いものだ。

 しかしそれでも、通常の百倍の魔力で身体能力が強化された体で、通常の百倍の魔力が込められた武技が放たれればそれは必殺の一撃となる。


 狙いは頭部。インフェルノボア自慢の岩のように硬い骨と筋肉を、岩さえ砕く武技が突き砕く。

 頭部を砕かれたインフェルノボアが動きを止める。強大な生命力を持つ魔物も、生命のルールに従い即死であった。





「あ“あ”あ“―‥‥‥疲れた」

「お疲れ様でーす。本当に倒しちゃうなんてすごいですね!」

「ありがとー」


 セイはインフェルノボアの魔石を回収すると、ダンジョンコアの部屋には先にララが来ていた。

 激戦になることは予想で来ていたため、一番安全な場所に居てもらったのだ。


「それであれですかね。なんかびっくりするくらいまん丸なやつ」

「うん。あれがダンジョンコアだね」


 二人の視線の先にはダンジョンコアがある。セイのものと同じく完全な球体であり、神秘的な光を放っている。


「本当に俺がやっていいの?」

「ええ。もちろんです。今回の私は役立たずでしたからね……」

「いやいや、荷物持ちとしての仕事はしていたんだし、もとより荷物持ちとして雇ったんだから、役立たずというのは変だよ。まあ、くれるというならもらうけど」


 セイは剣を構え、ダンジョンコアに振り下ろす。

 ぱきりとあっけなくダンジョンコアは切り裂かれ、力を失ったように地面に落ちる。


「これで攻略完了、であってますか?」

「うん。今後このダンジョンで魔物が生み出されることは無いよ。……まあそれは、魔力から創造されないって意味で、普通の魔境と同じように今いる魔物が繁殖で増えることはあるだろうけどね。され、それじゃあお待ちかねの……」

「宝物庫ですね!」


 セイとリタはダンジョンコアを回収すると、足取りを弾ませながら宝物庫に向かった。





 ダンジョンボスの部屋から出ると、遠くから地響きが聞こえる。


「たくさん集まってるな」

「あわわわわ……」


 音源を見れば魔物が争っている。ダンジョンコアが壊されたことで支配がなくなったからだろう。


「よし、適当に全滅させよう」


 空中に無数の魔術陣が浮かび上がる。火球、風刃、水槍、土流。乱れ打ちだ。

 まだダンジョンから引き出した魔力は残っている。一人前の魔術師で魔力一万程度であり、これをうまくやりくりして最上の結果をつかみ取るのが一人前の魔術師だ。セイは三流の魔術師だが、一人前の魔術師以上の魔力を適当に消費できる以上、魔物たちに逃げ場はない。


 セイたちがダンジョンの出入り口にたどり着くころにはあらかたの魔物は死に絶え、リタの背負子もいっぱいになっていた。


こうして初めてのダンジョン攻略は完了し、セイはけっこうやばかったなは内心で笑っていた。


さくさく展開していくはずが……

今後はこれよりサクサク進むはず



……それにしてもダンジョンと戦争までが遠い

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