70話 頼れる部下たち
セイが世界征服を開始してから一年が経過した。征服は勢いを落とさず続き、トトサワルモ地方を縦に四分割した一番左側の上半分のほとんどを支配下に堕とすまでに至っていた。
「【寒封天】よ、暴竜を打ち取ってくれ。B級冒険者パーティとして名高いお前たちなら可能だろう」
「当然です。必ずや首を持ち帰ってみせましょう」
エゾ国の君主が冒険者達を見送る。三百年前に冒険者が建国したこの国の軍事力は軍隊を創るのではなく冒険者を重用する方針を取っているため、国の防衛も冒険者に任せている。
そのため冒険者に対する信頼は非常に大きい。中でも【寒封天】はかつては冒険者として前線で剣を振るっていた国王に引退を決意させるほどに活躍し続けているほどの冒険者パーティ。たとえ悪名高い暴竜であろうとも必ず勝てるはずだ。
「これで暴竜は大丈夫だろう」
「ええ。ですが……」
「分かっている。問題は部下の方だろう」
暴竜を打ち取れるほどの戦力を用意しておきながら、彼らの顔色は晴れない。
彼らは気が付いているのだ。驚異的なのは暴竜だけではないと。
「この一年で暴竜に侵略された国は多いが、暴竜が活躍しているのはあくまで戦場。国を落とす決め手にはなっていない。真に恐れるべきは率いている部下たちだ」
「陛下のおっしゃる通りです。しかも支配下に置いた後のことまで考えて極力人命も物も壊さないようにし、それでいて確実に攻め落としている。加えて最悪なことに、城の中で戦い短時間で終わらせているため情報もほとんどない。正直、想定の仕様がないです」
国王だけでなく宰相に大臣たちという国家の中枢を担うエリートたちまで集まっていながら、彼らは頭を抱えることしか出来ない。
しかしそれも仕方のない事だ。「暴竜が戦場で暴れ耳目を引いている間に、暴竜の部下たちが王城に潜入し国王たちを降伏させた」。これしか情報がないのだから。
いくらこの世界が情報をあまり重視しない程度の文明水準といっても限度がある。国や軍を担う専門家は情報を重視し、密偵や偵察兵を惜しみなく使っいる。
暴竜ならば天を割る火炎を激らせていただの、大地を砕いただの、国ごと竜巻で滅ぼしただの、地上に海を作っただの色々と聞こえてくるが、あくまでこれは戦場の話。城に攻め込んでくる部下の情報が全く集まらないのだ。
「なんにせよ、打てる手は全て打った。そうであろう?」
「ええ。後は天に身を任せるまでですね……」
国王たちは覚悟を決めたように気を引き締めた。
その覚悟が保てなくなるまで、そう時間はかからないだろうが。
「ん…………っ!?陛下!お逃げ下さい!」
冒険者たちを見送ってから約一時間、会議を終わらせて一時解散と決めた頃、騎士の一人が悲鳴を上げるように警告する。
いったい何が。状況を確認するよりも早く会議室の扉が蹴り破られた。
「なんだ貴様らは!」
「こちらにいらっしゃるお方をどなたと心得る!」
威勢よく啖呵を切る国王たちに、無機質な機械音声の様な声が返ってくる。
「大人しくしろ」
「王子と脱出路、そして民は既に我らの手に落ちた」
「抵抗は無駄だ」
国王たちは驚愕に目を見開く。その言葉の内容に……ではなく、飛び込んできた敵兵たちの見た目に、だ。
彼らは黒を基調にした光沢のある鎧を身に纏い、魔物を模した兜を被り、両手には瘴気を固めたような槍。
鎧は赤黒い何かが血液の様に循環し、兜には一つ一つの形が違う異形の瞳が六つも宿り、槍は漏れ出る瘴気が全身に纏わりつき周囲を畏怖させている。
およそ人間に見えない。現代の地球から転移してきた人がいれば戦隊ヒーローの改造怪人とでも呼んだだろう。
それも当然だ。セイの部下たちが身に着けているのはセイとセレーネが共同開発したとっておきのバトルスーツ。核命を使った身に着ける新兵器だ。
本来は兵士たちにも獣人たちの様に核命を移植するつもりだったが、「怖いというかキモイです(意訳)」。「力を授けていただく身で恐縮ですが、もう少し何かないでしょう(意訳)」と言われてしまったので作ったものだ。
大臣たちは悲鳴を上げ、騎士たちは迎え撃つ。
突然の奇襲に面食らったが、勝算は十分にある。当然だ。自分たちは幼いころから体を鍛えている騎士。相手は兵士とはいえ元難民か元貧民だった雑魚。
妙な格好をしているが、たった二年でその差は無くならない。戦闘能力とは武装ではなく個人の能力で決まるもの。
負けるはずはない。
「「「「ぎゃああああ!!!!」」」」
しかしその自信は先走った四人が瞬殺されたことで失われた。
「つ、強い!?」
「気を付けろ!技量も高いぞ!」
セイの部下たちはまるで達人のような動きで騎士たちを翻弄する。二年前まで武器を持ったことがない初心者とは思えない。明らかに異常だ。
「ふっ、俺たちはセイ様より加護を授かっている。お前たちの常識では測れないのさ」
「……まさか鎧にはまった水晶体たち、それは宝珠だな!?」
「…………よくぞ見破った!」
兵士たちは誤魔化す様に見た目よりも多くの物が入るポーチから槍を三本取りだす。背中から生えた腕で掴み、嵐のような猛攻で騎士たちを圧倒する。
事実として雑魚である彼らが騎士たちを圧倒する。秘密は見破られた通り鎧に着けた宝玉にある。
宝珠。それは魔力を流すだけでステータスシステムに干渉しスキルを習得出来るマジックアイテムだ。セイが自分自身のスキルを共有しているダンジョンコアを核にしたダンジョンでならば簡単にドロップ品として回収できる。セイたちは鎧に宝玉を組み込むことで着用者にスキルを付与しているのだ。
込めているのは【槍術:6Lv】【鎧術:6Lv】【連携:6Lv】【剛力:6Lv】。スキルレベルは6で一流であり、騎士たちと同じ水準。ならば身体能力に勝るほうが勝つのは道理だ。
「ここの騎士達は思ったより強いな」
「ならば多少の被害は許容するか」
「出し惜しみをせずに上級魔術を使うぞ」
また別の兵士たちが腰にぶら下げていた巻物を取り出す。
魔力を注ぐと巻物はひとりでに開き、中身に充填された氷結魔術が解き放たれる。
【氷結鎮風】。水属性氷魔術と生命属性失活魔術を組み合わせた強烈な呪いの風が部屋中どころか城中を通り抜ける。風を浴びたものは雪山に放り込まれたように全身がかじかみ、しばらく何も食べていないかのように虚脱感に襲われる。
風が止むころには騎士を含めた全員が床に倒れ込み、戦意を失っていた。
「よし!今回も何とかなったな!」
「はしゃぐな。まずは国王を拘束しろ」
「騎士たちの武装も全て回収だ。待機している奴らも呼んで城の財産と国庫を漁らせろ。記録を忘れるなよ」
しばらくして全員の捕縛が完了した。
「制圧完了。セイ様に連絡しろ」
「ああ。……セイ様、エゾ国城の制圧完了しました」
『がはっ…………ご苦労』
「増援は必要ですか?重症の様ですが」
『いらん。なんとかなった。——————おい【寒封天】ども。戦いは終わりだ。国王が降伏した』
しばらくして【寒封天】と共にセイがやってきて、正式に降伏した。
こうしてエゾ国もクロナミ国の支配下に入ったのだった。




