67話 戦争に向けて
改めまして一部最後の章の始まりです。完結に向けて頑張ります。
それから総合評価650pと100,000pvありがとうございます。とても嬉しいです。
セイが獣人たちを拾い自治区を作ってから約一年、セイの本体が大精霊の捕獲に向かって少し経った頃に、第一集落に見慣れない建物が出来ていた。内部は会議室のようになっており、五つの自治区の主だった者が集まっている。
世界征服に向けた軍事会議のために作った本部だ。
「最初に降伏勧告を送る。拒否されたら俺が国王のいる街を襲撃する。みんなはその隙に街を包囲して降伏するまで攻撃する。これをトトサワルモ地方全土が俺の支配下になるまで繰り返す。分かったか?」
「分かりました」
「無茶だと思いますが、セイ様の御心のままに最善を尽くします」
「預かっている魔物たちもうずうずしてるますし、今すぐ出撃しましょう」
「大将は良くても、兵士たちの武具の補充が心配だな。皆に増産するよう伝えておく」
「そんなに急ぐなら食料の消費は少なくて済む、か?いや占領した後も余ることは無いだろうから、ダンジョンに潜る人員を増やすべきだな」
「反発も大きいだろうし、占領した国の貴族や王族はダンジョンの転移機能でこの国まで運んで監禁したほうがよさそうですな」
「お頭と違ってうちのやつらは盗賊業が長いんで、その経験を生かして火事場泥棒をさせましょう。占領しても間違いなく財産を出し惜しみ奴が混ざっているはずです」
「……すまん、冗談を言ったつもりだった」
しかし掲げる目的に反し、会議は和やかに進んでいた。
「大将、いつものことながら分かりにくいんで、冗談を言う時はもう少し表情を崩してくだせぇ」
「俺は分かっていましたよ領主様。最初に聞いたときは周囲の魔境から魔物を操って襲わせると言っていたんで、妙に優しい作戦に変えたんだなと疑問に思ったんです」
「……気が変わったのかなって」
「お前ら俺を何だと思っているんだ。俺一人ならやるけど、今回のリスクは俺の怪我じゃなくて部下の命なんだから安全マージンはしっかりとるに決まっているだろ」
「はいはい。セイ様、お戯れはその辺にして、真面目な軍議に戻りますよ」
「おー」
タイミの号令で全員が姿勢を正す。基本的に元は貧民や破落戸なので軍人の様には出来ないが、この場に集まった全員も理解しているのだ。これから始める大仕事は生半端な覚悟では達成できないのだと。
「では改めまして。これより我ら五つの自治区改めクロナミ国はトトサワルモ地方全土の征服に乗り出します。目的は文明水準の向上と共通秩序の確立、そして死亡率の低下。
ここまではよろしいですね?」
全員が頷く。事前に伝えておいたので困惑している者はいない。
「よろしい。続いて具体的な手段ですが、戦力を三つに分けて行動します。セイ様を中心に兵士を率いて近隣諸国から順番に攻め落とす部隊。クロナミ国の守護は龍神様お二人に。最後に独立した部隊としてあの変態と四獣の五人で敗色濃厚な国を守護し安く買いたたく。これが大まかな方針です。……セイ様、この間拾ってきたあの異常者に信を置いて大丈夫なのですか?」
「心配するな。あの変態女は俺に似ている。俺があいつを捨てない限りあいつも俺を裏切らないよ」
「……分かりました」
「ロダン様、それにカラザ。守りは任せたよ」
「任された。その代わりにお土産よろしく。酒だけではなく書物もだぞ」
「眷属として頑張りますね」
一応出席してくれている龍神たちからの許可も取れた。これで一安心だ。
「では意見も出揃ったよう様なので、会議は十分でしょう。現時刻をもって皆さまは正式にクロナミ国軍の幹部です。以後は制服と紋章を肌身離さず身に着けておくように」
「タイミ様、それって必要なんですか?」
「後々の事を考えれば必要です。世界征服が終わった後は要職を降りても構いませんが、向こう百年は統治する以上適当ではいけません。しっかりとした手順と儀式と決めることが信用と安心につながるのです」
「何度も言われたので分かっているつもりですが……百年かー。人族の俺たちは死んでるだろうな」
「セイ様はまだ生きているでしょう。獣人の私たちも。それにセイ様が決めたことです」
「分かってます分かってます。俺たちもセイ様の決めたことに反対なんてしませんよ」
「よろしい」
「しっかし、皆殺しってわけにはいかないんだな」
「当たり前だろ。世界中を繋ぐために世界征服するのに、殺してどうする」
セイが世界征服する理由はアーゼランと話したことが全てだ。
日本で生まれ育った常識がセイを未だに縛っているが、不殺の考えはない。人とは死ぬものであり、為政者の方針や心構えでどうこうできるものでは無い。精々死亡率を変動できる程度だ。自分の命を含めた様々な経験でよおく分かっている。
そも、世界中で戦争が起こり今日も今日とて人が死んで殺して殺されているというのに、セイが不殺の方針を掲げたところでどうにもならない。
この世界では二十歳になれるのは百人に一人。そこから五十歳まで生きていられるのはさらに百人に一人。セイでも調べきれない赤子や幼児の死者を含めるさらに上がるだろう。それほどまでに死亡率が高いこの世界をどうにかしたい気持ちはあるが、それは世界を征服した後の話だ。
立ちはだかる者は殺す。
「しかし、征服した土地を百年後まで統治するつもりとは、セイ様にも心境の変化でもありましたか?たしか強敵と戦った末に死にたいとおっしゃっていたと記憶しているのですが」
「……そうなんだよなーーー」
雰囲気が一転して、セイがダラーっと机に伏せる。
「なあダグザ、お前って失敗するまで何かを積み上げるゲームってしたことある?河原で石を積み上げ続けるとか。落ちてくるボールを避け続けるとか。ひたすら障害物競走を続けるとか」
「なんですかその苦行は。遊んだことは無いですか、想像は出来ます」
「そういうゲームってさ、失敗してようやく記録が付くんだよ。失敗してようやく完成すると言ってもいい。俺はこの最高記録を目指しているんだ」
「はあ」
「でもなーーーー失敗したいわけじゃないんだよ。分かるか?俺は失敗したいわけじゃないし、死にたいわけでもないんだ」
「はあ」
「あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーーでも死ななきゃ自分の人生の採点が出来ないんだよ!」
「タイミ様、どう返答すればいいのでしょうか」
「いつもの発作よ。気にしないであげて」
「というわけで、俺の考えに答えが出るまでは生きているつもりだし、生きる以上は快適な暮らしがしたいんだ」
「セイ様、急に落ち着かないでください。ついて行けません」
「随分と、みな忠誠心が高いようですね」
タイミや自治区の……元自治区の区長たちが和やかに話を進めていると、今まで黙っていた男が疑惑と不満を隠しきれないように口を開いた。
「なにか?」
「この自治区……いや国は最近出来たばかりで、住民は暴竜が拾ってきた貧民や流民が大半と聞いていたもので。ああいや、俺も酒場でよく一緒に飲んでいたのであいつの人なりを知らないわけではありませんが……つい」
「そう畏まらなくても構いませんよ。お気持ちは理解できます」
「いつ死ぬかも分からない中で救われたら、おっさんも俺たちの気持ちが分かるよ」
「本当はそんな事態には陥らないほうがいいんだけどな」
「……」
不信感を……いや、不安を隠しきれていな男性はフーディ。
ついこの前の貴族たちや聖騎士と共に自治区を襲撃した冒険者だ。
「そうピリピリするな、フーディ。お前も現場指揮官としてちゃんと働いてくれれば、お前の家族の身の安全は保障すると言っただろ」
「……捕虜の俺に指揮官を任せる判断に正気を失っていないか不安なんですけどね……」
「俺を含めた全員が侵略戦争の経験がほとんど無いんだ。なら捕虜を使っても任せられるやつに任せた方がいい。頼りにするぜ」
「……わーた。わーったよ。捕虜は捕虜らしく従うさ。でも俺の国にも温情をかけてもらうぞ」
「約束は守るさ。
さて世界征服の始まりだ。手初めてに一番近場のトランライクを攻め落とすぞ」
トランライク。商業軍事都市トランライク。その名前を聞いてタイミやリンクスたち獣人組が殺気立つ。
仕方のない事だろう。なにせ奴隷にされた時に運び込まれた都市なのだから。
翌日、セイは部下の兵士たちを率いてトランライクに向かっていた。数よりも質を重視した兵士たちはマジックアイテムの補助もあるとはいえ、セイに後れを取らず木々の生い茂った森を飛ぶように駆けていく。
ほどなくしてトランライクに最も近い森の出口にたどり着く。セイは無言でトランライクを見つめている。最高指揮官として表面上は不安などなさそうだが、内心は腹立たし気だ。
(本当は俺が全力を出せれば良かったんだがな……あのイカれ女、こんなバッチリなタイミングで動き出すとは運のいい……いやまさかリリと繋がってたりするのか?いやーでもそんな情報はなかったし……)
世界征服は既定路線だったが、このタイミングで始めるのは予定になかった。
本来ならばS級冒険者以上の力を持つセイが世界中を武力であっさり統一。セイでも勝てるか怪しい三人のS級冒険者とそれに匹敵する実力者たちの懐柔のみに頭を働かせていればいいはずだった。
しかしリリからの依頼のせいで大精霊の捕獲に力の大半を注ぎ、現在のセイはA級冒険者程度……世界中に自分の分割体を派遣しているため、このセイはB級冒険者程度の実力しか発揮できない。
それでもやりようはあるが、「まず間違いなく達成できる」から、「達成できるかすら怪しい」にまで勝率が落ちてしまった。
それもこれも全ての原因は南東にある国が世界征服に乗り出したせいだ。正確にはあの国のイカレ大将軍のせいだ。あの残虐趣味のクズだけは無視できないため計画を前倒しにしなければならなくなってしまった。想定外だ。
「ま、人生なんて想定通りに進まないもんだし、そんなもんか」
「大将?どうしました?」
「何でもないよ。さておまえら、作戦は伝えた通りだが、精々死なないように気を付けろよ。ふふふ。これからたくさん殺しに行く俺が、死なないようにしろとはおかしな話か」
「心配してくださるのは嬉しい限りですが、大将も死……なないでしょうが、働きすぎにはお気を付けください。大将は全ての部隊の命令系統の最上位にいるのですから、我々に任せてお休みしていただきたいのが本音なのです」
「なら生き延びて早く育ってくれ。お前たちは簡単に死にすぎなんだよ」
そういえば、ラキア国で将軍をしていた時は部下が全員死んだんだったな。今回は何人死んで、何人生き残るだろうか。
そんなことを考えながら、セイは元気よくトランライクの城門を蹴り飛ばした。




