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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
4章 染みわたる意志
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66話 似ているとは同じではないの意味

予定よりも長くなったのでこの章は「世界滅亡編」から「染みわたる意志」として、ここで区切ります。

 トトサワルモ地方の片隅、断崖絶壁に囲まれた窪地に栄える無法者たちの街で流れ星が落ちた。

 正確には、上空から流れ星の様に飛び膝蹴りをかましてくるセイが目撃された。


 本物の隕石の如き衝撃を伴う攻撃に住民たちは慌てふためく。法の保護下にない彼らは女子供を含めて全員が戦闘員であり、迫りくる巨星の力を理解してしまったのだ。その破壊範囲はこの名もなき街を容易く覆いつくし、人を殺すに十分すぎる破壊の痕跡を残すだろう。

 しかしその未来はやってこない。なぜなら会議のために街に来ていた八大災禍の二人、【猫手】と【巨大母船】が立ちはだかったからだ。


 猫手と呼ばれる青年が手をかざすと空間が歪み、空間が切り抜かれたような透明な二本の刀が浮かび上がる。

 巨大母船と呼ばれる女性が拳を握れば拳は血の様に赤黒く染まり、その迫力は遠近感を狂わせる。


 上空で三人が衝突。二時間にわたる激戦を繰り広げるも決着が着かず、乱入してきたアデライドを三人がかりで止めてようやく争いが終わった。

 争いの後は宴だ。各地から略奪した酒に肉、最近生まれたこの町独自の歌や踊りを楽しんで帰ることにした。





「直接会うのは久しぶりだな。リリ、俺が直接会いに来た理由は分かっているな?」

「この街を訪れた目的も忘れて遊び疲れた挙句帰ろうとした馬鹿のわりに堂々としていますねあなたは……。失礼、邪悪が口から漏れてしまいました」


 三日ほど遊んだ末に訪れたのはリリが住んでいる家だ。

 セイがリリと再開し八大災禍に加入してから一年。ようやく大きな指令が降りて来たために遂行していたら問題が起こったので分割体で問い詰めに来たのだ。


「はぁ……改めて言葉にしますが、私に二心はありません。八大災禍を作ったのも、アデライドと手を組んだのも、全ては姉さんが選んだあなたの栄達を見届けることが私の生きる理由です」

「栄達ねぇ……あんまり興味はないが、立身出世とか?」

「それもいいですが、あなたはすでに国を作っているではありませんか」

「は?」

「おとぼけにならなくてもよろしい。あなたが作った獣人や貧民たちを集めて作った自治区のことですよ」

「あー……いやまて、あんなのは人口が多いだけの村みたいなものだぞ。それにハイディ教の認可も受けていない」

「御冗談を。小さな町だと人口は精々千人程度、あなたの自治区は全部で五万人もいるではありませんか。それにハイディ教がどうしたというのです。あんな建前を守っている国などほとんどありません。あなたの自治区とやらは十分に小国を名乗れますよ」

「そういうもんか」


 セイは興味がなさそうに返答する。

 事実として興味がない。獣人たちを拾った責任で面倒を見ているが、五年……あと四年もすれば出ていくつもりなのだから。


「……って、そういう話ではない。俺が聞きたいのは今回の仕事の事だ。聞いていた話と違うぞ。俺の組まされた奴は気がふれた魔法使いだし、捕獲する大精霊は一匹じゃなかったぞ」

「くすっ。騙したわけではありませんよ。あなたに伝えないほうがあなたのためになると判断したからこそ、このような手の込んだことをさせていただきました。あの魔法使いは処分に困ったのであなたに相棒と言う名目で押し付けたのは事実ですが、それもすべてはあなたのためです。どうか私を信じてください」


 リリはセイを相手に怯むことなく言葉を返す。表情からは一切の悪気も悪意も見えず、その言葉を信じてしまいそうになる。

 だが信じるに値しない。現状、リリの行動は何一つセイの役に立っていない。セイは己の利益を確保しているが、それはセイがそういう風に行動した結果でありリリのお陰だということは無い。


(んー……こういうのは困るんだよな。俺は頭が良くないから、こいつが何を見て喋っているのか全く分からない……。精神魔術で頭を覗くか?いやそれは人道的に駄目だろう)


 向かい合うセイもリリを相手に怯むことなく、しかして内心では困り果てていた。リリが何を考えているのか読み取れないのだ。

 しかし、結論は会いに来る前から決まっている。


「はぁ……リリ、やはりお前は信用ならない。だが、お前はララの妹だ。その一点を持ってお前を信じよう」


 信じる。なぜならリリはララの妹だ。リリは死んだ。生家の無い。そもそも国ごと無くなっている。ならばリリはこの世で唯一ララの痕跡だ。贔屓にする理由は有っても、無下にする理由はない。

 セイのためにしていることだと主張するならば、致命的な何かが起こる一歩手前までは譲っていいだろう。


「だが、俺は俺でやることがある。大精霊の捕獲で手が回らなくなった分の戦力はお前に出してもらうぞ」

「もちろんです。しかし私は手伝えないのでこの子をお譲りしましょう。セレーネ」

「はい!」


 リリの声に応じて女性が壁をすり抜けて部屋に入ってきた。セレーネ、セイとよく魔術談義をしている友人だ。記憶をさかのぼれば魔術談義を初めてしたのも彼女かもしれない。


「セレーネ、今までよく私に仕えてくれました。これからはセイさんのお力になりなさい」

「もちろんです!リリの姉御、今までお世話になりました。……さ!セイさん!帰りましょう」

「まてや。リリ、説明しろ」

「セレーネは元々、自分を自由にしてくれたあなたの力になりたいと言っていました。なのであなたの部下になるのは決まっていたんですよ。彼女は一流の魔道具職人なので、間違いなく力になってくれるでしょう」

「俺も一流の魔道具職人だと自負しているが、本当に力になるのか?俺が大精霊の捕獲に割いている力に釣り合う程に?」

「ええ」

「……ならいい。信じよう」


「ふっふっふっふっふ。セイさん、どうかご安心を。私が生まれてから今日までの二十二年間、ずっと勉強した魔道具職人としての力で魅了してみせます」

「信頼するよ」


 セレーネは自信満々のようだ。

 ろくな実績がないと記憶しているが、まあいいだろう。頻繁に魔術談義をしているので実力はある程度は把握している。


 これで要件は終わり。あとは帰宅するだけだ。

 だがその前に。


「リリ、顔をよく見せてもらうぞ」

「?どうぞ?私ってそんなに綺麗ですか?」


 戯言を無視してじっと見つめる。

 太陽の様に美しい金の髪に、空の様に美しい青い衣装、強い意志を思わせる大きな瞳に野に吹く風の様な明るさ。なにもかもがララにそっくりだ。

 しかし。


(やっぱり、似てないな)


 パーツは同じだ。けれど、なぜかララのようだとは思えない。


「ありがとう。よくわかったよ」

「?どういたしまして」


 セイは疑問が溶けたように満足して、部屋を出ていった。





 場所が変わり第一自治区の行政区。巫女に混ざって仕事をしてるセイが急に動きを止めた。


「どうしました?」

「いま知り合いの妹の顔を見てるんだけど、似てないなって」

「?それはそうでしょうね。人は環境によって違う育ち方をしますから、血の繋がりがあっても、それ以外で大きく変わります」


 セイが完成した書類をタイミに渡すと即座に次の書類を取り出す。最近は他の自治区の人口が増えてきたので忙しいのだ。

 今この部屋に居るのはセイとタイミだけ。タイミが黙々と書類を片付けている姿を見ていると、ふと思いついた。


「タイミ、お前って兄弟がいるんだった?」

「ええ。妹が四人。弟が九人。今は一人づつしか生き残っていませんが、私に似ず優秀な子達です。今生きているのはセイ様が助けてくれたおかげですよ」

「そうか。まあ、そうか。似ないものなのか」

「残念ですか?」

「そうでもないさ。血の繋がりがなくて似るということだから。最近似ているやつを見つけたしな」


 セイは平穏を装って作業を続ける。

 残念なのは本当でもあるが間違いでもある。家族だからといえども全然似ない場合もある。当然だ。十人十色、一期一会、千差万別。世の中とは皆平等でもあり一人として同じ人間はいないという矛盾を共存させるものなのだろう。


 死んだ人は死んだのだ。セイという反証もこの世界という新たな環境で少しずつ変化している以上反証足りえない。死別だけでなく時間は全てを変化させ過ぎ去ったものは二度と手に入らない。

 たとえ似ているものでも、似ているだけで同じものでは無いのだ。


「失礼します。セイ様、原種吸血鬼たちの拠点から高速離脱したことで体に不調をきたしてしまいました。調整をお願いします」

「リンクスか、ちょうどいい。お前も兄弟はいるんだっけな、似てる?」

「は?はぁ……姉様たちは私と違ってお淑やかでしたし、兄貴たちは私と同じようにがさつでしたので……似ているのも居れば、似ていないのもいた、といってところでしょうか」

「そうか。やはり血筋よりも環境のほうが人格形成に大きな影響を及ぼすのか」


 何かを納得したようなセイを相手に、リンクスとタイミは顔を見合わせて困惑する。秘書と会話係としてセイと接する機会の多い彼女たちも、セイの事はあまり理解できていないのだ。

 当然ではある。育った環境は世界が丸ごと違うし、見ている理想も違う。セイもあまり演説などをするタイプではないので理解する機会も少なく、次から次に襲い掛かる仕事のせいで時間も取れない。理解出来ないのは普通の事だ。


 しかし彼女たちにとって……いや、この五つの自治区に住む全員にとってセイは大切な恩人であり崇拝対象でもあるのだ。力になれないことは無力さに打ちひしがれるに等しい。


 そんな二人の様子の変化に気が付きつつもセイは取り合わない。既に思想と肉体がほとんど単一種族になっている自分が人間たちから見れば化け物であり、相互理解が出来るとは思っていないからだ。

 同じ国に所属し同じ職場に居て同じ仕事をする。それ以上は求めない。


 思想はアーゼランと通じ合えればいいし、肉体の強さはトトキと殴り合える。ここではない。


 セイは淀みなく次の書類をめくり、嬉しそうに声を上げた。


「ようやく準備が出来たのか」

「……ああ、どうやらその様ですね」

「いよいよですか!」


 二人も嬉しそうだ。元より提示していた目標に向かう準備が終わったのだから、セイ以上に気合を入れていた二人の喜びようも一押しだろう。

 セイは軽い調子で、世界の歴史を変える事件のために腰を上げた。


「じゃ、世界征服に乗り出すか」

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