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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
4章 染みわたる意志
81/119

閑話 12 吸血鬼の終わり

先週は疲れていたので投稿できませんでした。目標達成継続ならずで残念。


そして今週も残念なことに、予定を変更して幕間です。まだちょっとくたばってます。

「ここが原種吸血鬼の根城か」


 生命力にあふれる植物が支配する大森林の奥地、約二万年前に滅んだ王国の跡地にセイの姿があった。

 このセイは本体から分かれた分割体の一つ、A級冒険者相当の力を持つ個体であり、大精霊の捕獲や魔法使いの討伐と並行して原種吸血鬼の駆除を行いに来たのだ。


「城を覆っている暗い結界は……【夜化粧】だったかな。原種吸血鬼が使う切り札で能力値を五割くらい上げるっていう。これは激戦になりそうで楽しみだな」


 吸血鬼たちは嗜好品であり邪悪な神に捧げる供物でもある人間を攫うために人間社会に繋がりを持っているが、原種吸血鬼を始めとした幹部以上の者は人の世から離れた場所で悠々自適な暮らしをしている。この古城もその一つだ。


 かつてセイが聖領ユグドラシルで見かけた邪神派の吸血鬼の生き残りが住んでいると調べ上げ襲撃に来たのだ。


 トトサワルモ地方にいる原種吸血鬼は六人。そのうち邪神派吸血鬼のベオランは大陸龍に食べられたのであと五人。砂漠で襲ってきた悪神派吸血鬼の三人は殺してもいいところを見逃してあげたので、もう襲ってこないだろう。


 『邪血の邪神』ビビべバラを信奉する邪神派吸血鬼で生き残っている原種吸血鬼はネイローゼとゲガグラ。そのうちでも知将として名高い反面武力があるとは全く聞かない原種吸血鬼であるネイローゼが住んでいる。倒すなら今だ。


「【疑似神格構築:太陽神】」


 必勝の相性になる様に体を作り変えて、城に入っていった。


 ……後になって振り返れば、この判断は軽率だった。


 セイは基本的に情報を集めてから襲撃するが、人間社会で集められる情報が正しいとは限らない。【夜化粧】はかつて原種吸血鬼と戦った英雄が神託で教えられたという伝説しか手がかりがなかったために絶対に正しい保証はないし、この建物にネイローゼがいるという情報が信憑性があっても、ネイローゼしか原種吸血鬼がいないという確証はない。


 それは仕方のない事ではある。絶対的に正確な情報など存在しないし、慎重という名の臆病を発揮してチャンスを逃すのも馬鹿らしい。ある程度の蛮勇も必要だ。

 セイは転生してから狂ったほどの時間を戦闘に当てている。その確かな経験が自信となり、格上の原種吸血鬼を相手に怖気付いていない。

 しかし油断していなかったが慢心していたのは事実だろう。


 セイにとって分割体は格闘ゲームのキャラクターのようなもの。

 この体は捨て駒ではない。本体をレベル100とすれば、レベル60くらいには強い。分割体の中では上位十体に入る貴重な個体だ。

 故にこのセイはそう簡単に捨て駒には出来ない。失っても致命傷にはならないが、失うのは痛手、という程度には大切だ。


 しかし、この【夜化粧】を発動するのに原種吸血鬼が最低でも三人必要な超大技で、内部にいる原種吸血鬼の数に応じて能力値の上昇量が上がるとは知らなかった。


  



 夜の暗さを持つ結界を抜け、城門を破り、通路を壊し、襲い来る吸血鬼を蹴散らし、原種吸血鬼が鎮座する玉座の間にたどり着き、問答無用で襲い掛かった。

 相性は抜群。太陽神の疑似神格を持つ今のセイは対面するだけで吸血鬼の肌を燃やし、再生能力を使わせ続けることで能力値にデバフを常にかけることが出来る。通常の吸血鬼なら今のセイに前に立たれただけで蒸発する。


 しかし、相手は原種吸血鬼。この世界を創造した十二の大神の一柱と勇者の間に生まれた真祖から祝福を受けた高次元の存在。その種族としての力は亜神に分類され龍や古の巨人にも匹敵する。

 つまり、弱体化しようともA級冒険者程度のこのセイにとって荷が重い相手だった。


「死ね!害獣が!」


 荒ぶるネイローゼが闇属性魔術の【暗黒通路】を発動させる。通常であれば触れたものを崩壊させ傷つける円柱型の結界を地面と水平に展開し相手の動きを制限する魔術なのだが、これは人族の話。原種吸血鬼の魔力量と魔力をもってすれば触れたものは瞬時に自壊させるほど強力な円柱を一秒に満たない時間でセイとの距離を詰める。


「すぅっ……オオオオオオオオ!!!!!!」


 対するセイは咆哮で応える。己の能力から発動できる魔術の速さと威力を考え「人間の様に呪文を唱えるよりも、魔物や精霊の様に声で魔術を発動したほうが効率的だ」と結論を出したセイの咆哮は魔力が籠っており、咆哮が詠唱の代わりとなる。

 闇属性魔術の対となる光属性魔術の【調和光】。本来は精神異常を取り除く光を攻撃的な意思を載せた魔力で編むことで【暗黒通路】と衝突、無属性に散った魔力は衝撃波となって城を揺らした。


 この隙を逃さず的確にネイローゼの首に剣を――。


「くそっ!」

「おとなしく血を寄越しな!」


 背後から漆黒の斬撃を放つもう一人の原種吸血鬼、ゲガグラを光の剣でいなしながら返す刀で袈裟斬りにする。

 太陽の光を束ねて形を作った剣で切る。吸血鬼には必殺になりうるはずだが、左肩から右腰にかけて切断されたというのに平然とゲガグラはセイに追撃する。


「くそっ、話以上に不死身だな。原種吸血鬼というのは」

「はっはー!当然だ!人間如きに俺たちが殺せるものかよ!」

「ゲガグラ、油断するな。そいつは異世界人、勇者たちの様に気色悪い攻撃をしてくるかもしれない」

「とっと、そうだったそうだった」


 回転して剣を捌きながらセイは体勢を立て直す。

 ネイローゼは魔術師型、近接戦闘は比較的苦手。ゲガグラは剣士、魔術は比較的苦手。そこまでは分かった。人型をしているためか人間の様な戦い方をする。セイが今までに見た人間たちを同じだ。

 だが、能力値がかなり高い。人型なだけで人ではないので当然だが、見た目と能力値の齟齬が大きすぎて感覚が狂ってしまう。


 それに、残忍だの傲慢だのといったうわさに反して、五万年以上生きているためか冷静になるのも早い。

 せめて一人であれば、ついそう思ってしまう。

 この城に複数いる可能性は考えていなかったわけではないが、他の場所の吸血鬼襲撃事件と合わせて考えるとその可能性は極めて低いとも考えていた。運が悪いというべきか、深読みしすぎたというべきか。


 原種吸血鬼たちは油断を消しながらも余裕の笑みを浮かべている。

 むかつく。


「ふふっ。百年も生きていない幼さで我らに匹敵するその強さ、たいしたものだ。剣術の腕前だけなら我を超えるかもしれん。魔術の腕前だけならネイローゼを超えるかもしれん。対等な闘いなら危なかった」

「だが!戦場に置いて対等な闘いなどないと知れ!貴様が無傷なのもここまでだ!」

「!?」

 

 近接戦闘が苦手なはずのネイローゼが距離を詰め、魔術が苦手なはずのゲガグラが魔力を練り上がる。


 今までにないパターンに襲い来る焦燥感。こちらを動揺させる嘘だという可能性。とにかく行動すべきだという経験則。


 たった二十年の人生。たった五年程度の戦闘経験。だが確かに原種吸血鬼たちと渡り合えたという成功経験から、セイは同じように太陽光を集めて作った剣と盾を構える。


 その瞬間、玉座の間の天井を突き破り三つの人影がセイに襲い掛かる。


「はっ……!——————チィ!」


 セイは瞬時に意識を切り替え、盾を爆弾に変えて投擲し、手元の剣一本に集中する。

 意識が加速し、世界が遅くなる。


 セイが習得している武術系スキルの中で最もスキルレベルが高いのは剣術スキルだ。しかし戦士ではなくセイという存在に注目してみると、武術系スキル以外のスキルも高レベルだと気が付く。

 ならば、こちらを使わない理由はない。


 セイがスレイに対抗するために独自に開いた武術の流派、葉隠れ流。その奥義は「葉っぱ一枚あれば相手の目に留まらない高速移動」。

 しかしセイが開祖なのだから当然今なお進化し続ける。これをさらに進化させた技が時通脚。【高速思考】で思考を加速させ、肉体も素早く動かす。言葉にすればただそれだけだが、セイが【超速思考】と【群列思考】を併用して発動したとき、その速さは容易く音を超え、光に迫る。


「速い!?」

「俺が行こう、【超即応】【超力】【破槌】」


 天井から襲い掛かって来た一人目が城を一撃で破壊する力を秘めた槌を振り下ろす光景を置き去りにし、セイはすれ違いざまに胴体をぶった切る。


「【飛陽爆斬】」

「【槍空円】」


 セイの振るう剣は太陽が爆発したような火炎の奔流となり二人目の原種吸血鬼に襲い掛かる。この一撃は吸血鬼は太陽に弱いだとかいう相性の有無に関わらず全てを灰燼に還すだろう。しかし原種吸血鬼は槍を円の様に回転させ真正面から受け止めてみせた。


「お前ら、砂漠で俺が見逃してやった悪神派の原種吸血鬼だな!恩知らずなやつらめ!」

「知ったことか!勝手に俺たちの同情しようとも、我らをこのような穢れた生き物にした女神への復讐心は消えぬのだ!そしてお前は危険すぎる!邪神派の馬鹿どもと五万年の断絶を乗り越えても倒すべきだ!【空間歪曲】!」

「支援型か、なら先に――」

「邪魔はさせねえぞ、人間!」


 三人目が魔術で空間を曲げるのを止めようとすると、最初に切った原種吸血鬼が復活してセイを羽交い絞めにしようとする。

 そのような鈍間に捕まるセイではない。音を置き去りにした衝撃波だけを残響に床を蹴り、抜かし、空間属性魔術を発動しようとしている原種吸血鬼を丸ごと消し飛ばす。


「【掴星】」


 手のひらサイズのお星さまに圧縮した太陽の輝きを開放し、その光と熱で塵一つ残さず消せばさすがに再生しないだろう。まずは一人、あと四人。セイは勝利を確信し――。


「ん?」

「馬鹿め!既にお前は術中だ!」


 急に魔力が消失する。手のひらサイズの太陽が消え、身体能力上昇系も消える。視界の外側にいる気配を辿れば、魔力を練っていたゲガグラが妙な魔術を発動し、玉座の間の上空に特殊な文様が浮かんでいた。


「封印術……いや、呪い。それも魔力封じか」

「はっはー!これで――」

「この程度で俺を止められるか」


 原種吸血鬼たちはこの世界でも最上位の不死性を持つ。首だけにしても死ぬことは無い。

 ならばとセイは支援型を全身丸ごと潰すことにした。


 封じられたのは魔力のみ、肉体変化のようなセイの体質に依存する力は封じられていない。重心を下げ、爪を生や――。


 肉体を変化させようとした瞬間、天井が落下し壁がセイを閉じ込めるために迫って来た。


「時間を与えちゃくれないか」

「これだけ密集すれば貴様の速さも生かせまい!」

「我慢比べといこうか!人間のお前と吸血鬼の我ら、どちらが脆いかな!」


「上等!魔力剣を使えなくなった程度で俺が負けるかよ!」


 一体五の戦いは激しさを増す。剣が、槍が、拳が。衝突音で空気を揺らしながらぶつかり合い肉体を破壊しながらより洗練されていく。

 一辺が五メートルもない密閉空間を縦横無尽に駆け回りながらお互いを潰しあい、ついに原種吸血鬼の剣がセイの右腕を切り落とした。


「ちっ、だが俺は切断されたところで――」

「この時を待っていた!」


 セイに真後ろに()人目の原種吸血鬼が姿を現す。


 そいつは手にした夜よりも暗い漆黒の魔剣を振り下ろす。


――ぶちっ!


「いっっっっ!」


 セイの存在しない右腕に切断されたかのような激痛が走る。

 完全に制御しているはずの痛覚が悲鳴を上げる。髪のように、爪の様に、切断され程度で痛むはずのない腕が、激痛に悲鳴を上げる。


「この隙に……」

「かああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 追撃を仕掛けようとする原種吸血鬼たちに、セイは全力で【構築魔法】を使う。構築魔法は分解魔法の対となるセイの二面性が形を成した魔法。何かを構築する魔法ではなく、何でも分解するように何でも混ぜ合わせる魔法。

 ならば、原種吸血鬼そのものを素材にすることも出来る。


「なっ!いかん、いったん引け!」


 ネイローゼの声に従い全員が後方に逃げる。間一発、全員が生存できた。

 しかし、原種吸血鬼たちの体表はぐちゃぐちゃになり、セイの周囲には剥ぎ取った肉片と周囲の瓦礫を混ぜた盾が構築されていた。


「ぐっ……これは、【断魔】の剣術?……いや、魔力の流れを切り離す、伝説の断魔の剣か」

「正解だ。二万年前、遠隔操作を極め四肢を落とされても平然としている怪物がいた。お前は少し違うようだが、同じ方法で殺せるようだ」

「くそっ……さすがに経験が違うってわけか……いや、それより、お前は何者だ」


 セイは時間を稼ぐように問いかける。

 原種吸血鬼にその目的はバレバレだが、彼らはセイを嬲る様に、揶揄うに嘲りの声で返答する。


「何者って……知っているだろう?我ら原種吸血鬼はこのトトサワルモ地方に六人いるって。君の目には、何かおかしなものが映っているのかい?」

「ああ。六人目、ベオランの死体は大陸龍の腹の中で確認した。間違いない」

「……!」

「いや、そうか……悪神派と邪神派のそれぞれに原種吸血鬼が三人ずつってのが間違いで、本当は、このトトサワルモ地方に七人目の原種吸血鬼がいたわけか。大した情報統制だな。ちっ」


 セイは冷静に状況を把握しようとする。打開策を探すために。

 しかし無駄なことだ。今のセイは既に死に体。全身を修復できるセイは欠損した場合の戦い方を習得してないため、戦闘能力は大きく下がっている。六人全員がセイを注視しているのもあり、隙が無い。


「……大したものだ、というのは我らの言葉だ。俺は女神に反目したが、こいつらの方針にも馴染めなかったから、いざという時の切り札として隠されていた原種吸血鬼。俺が駆り出されたのは五千年ぶり、お前は大したものだよ」


 原種吸血鬼たちはパチパチと拍手をしてセイを称える。本心ではないのだろう。その顔は全員が余裕そうだが、よく見ると一人だけぷくぷくと頬が引き攣っている。


(うっかりしてた。ただ龍や古の巨人と同格の種族ってだけじゃなくて、全員が魔王との戦いを生き抜いた元英雄だったな。見積もりが甘すぎた)


 セイは内心では苦々しく後悔に心を焦がしながら、なんとか打開策を考える。


「暴竜、よくその幼さで神に匹敵する力を手にしたものだ」

「しかしそれもここまで、死よりも戦いを尊びながら、人としても尊厳と誇りを捨てきれなかったことがお前の敗因だ」

「大人しく封印されてもらおうか」

「なに、お前の本体が大精霊と戦っていることは知っている。戦い終わり衰弱したところを狙えばよいだけだ」


(ここまでか……いや、本格的に不味い。この肉体を失うだけでも痛手なのに、俺の本体の動向まで知られているのか)

 

「たいしたものだよお前は。他人の魔力圏を貫く精密な魔力操作、巨人の如き膂力、100年も生きていない身で神にも匹敵するほどに育った恐ろしい怪物。だが……彼らは女神の狂気で吸血鬼に落ちる以前、魔王との戦いでは勇者軍の封印部隊にいたのだ。貴様よりも死ににくい邪悪な神々に魔物と戦い、封印してきた!貴様ごときに負けることなどない。お前の本体は大精霊に釘付け、戦いが終わる頃には、全てのお前を封印して見せよう!」


(逆転の目はない、か……これは、もう)


 六人全員が武装を構える。彼らの放つ攻撃を防ぐ術は、もうない。ならば――。


「自爆するしかないか」

「「「「「「は?」」」」」」


 セイは左腕を胸に突き刺し、己の心臓、ダンジョンコアに触れる。


 原種吸血鬼たちは異変に気が付く。慎重に事態を見守ろうとするもの。一刻も早く消し炭にしようとする者。だが、五万年もの間不仲だった彼らにはもう精密な連携はなく、一秒という永劫にも等しい時間をセイに与えてしまった。


「【界没自壊】」


――ダンジョンコアを中心に、セイの肉体が自壊する。


 セイの戦闘思想は物理法則に従っている。地球とこの世界の物理法則は微妙に違うが、それでも硬いものを素早く相手にぶつければ相手は死ぬという思想は正しいものだ。

 しかし、生き物を殺すなら、物理ではなく魔術でも可能だ。この技はセイの切り札の一つにして必殺技。


 【分解魔法】の奥義、【界没自壊】。魔術制御にかけては神域に至っているセイが、なおも分解魔法の制御を手放してしまう程の暴走だ。


――自壊はセイの体を飛び出し、世界に及ぶ。大昔に神々が世界を創造したのであれば、理論上はこの世界を魔力に分解することも可能。その理屈を証明するように、床も壁も天井も玉座も武器も、武技も魔術も時間も空間も原種吸血鬼たちも分解されていく。


 まるで一枚の絵画に消しゴムを掛けるように雑に壊れ、ぐちゃぐちゃになり、無に返る。


 崩壊はその範囲を広げ、【夜化粧】より少し大きな範囲までをセイを含めてこの世界から消滅させた。





「セイ様、大丈夫かしら」

「馬鹿ね、私たちが心配することじゃないわ」

「そうそう、今回は私たちが弱すぎて連れて行ってもらえなかったけど……」

「次回は足手纏いにならないよう、強くなっておかないとね」


「それはそうだけど……さっきの轟音はただ事じゃないわ、見に行った方がいいんじゃないかしら」

「駄目だって。セイ様からの命令なのよ。ここに居なさいって。今の私たちが出来ることは、セイ様を信じることよ」

「うー……でも、セイ様も抜けているところがあるし、油断して敵の攻撃をわざと受けてそのまま負ける、なんてことも……ただでさえ今のお身体は弱いのだし……」

「そっ、それはそうかもしれないけど!」

「私が束になった時より強いのだし、心配しても無駄でしょ、ね?」

「うむむむむー‥‥‥!」


 セイは原種吸血鬼たちが激戦を繰り広げた古城から離れた崖の下、巧妙に隠されたボートに四人の獣人がいた。

 

 彼女たちはセイが統治する自治区の自警団のメンバー。リンクスを始めに「神話に出てくるような原種吸血鬼なんて危なすぎる!心配だからついて行かせて!」と懇願し、万が一のために逃走経路を確保する役割を預かったのだ。


「でも……あのもう音もしなくなったし様子を見に行くくらい……うっ!」

「リンクス!?どうしたの!?」


 リンクスの様子がおかしくなり、敵襲かとあたりを見渡す。だが、敵影はない、一体どういうことか。


「セイ……さ、ま‥‥‥り……た」

「セイ様!?セイ様がどうしたの!?まさか遺言じゃないでしょうね!そんなの許さないわよ!」


 セイの不死性は、肉体が分割されてもくっつければ吸収し、元の形に戻れることにある。肉体の九割を消し飛ばされても右足からだけでも全身を再生できるし、全部消し飛ばされても他の場所に保存しておいた肉人形から再生できる。……失った体積分の魔力は失われるが。


 では、他の場所の肉体とはどの程度を指すのか。どの程度あれば自我を保存できるのか。

 少なくとも――。


「あーあーーあーあーあーーーー‥‥‥リ、リンクス」

「ああ、リンクスだ。そして、俺でもある」


 落ち着いたリンクスからは、声帯は同じはずなのに、全く別人の声が聞こえて来た。


「原種吸血鬼との戦いで肉体を失ってしまった。しばらくこの体に入っているから、よろしくな、リンクス」

(はっ!光栄です!……ところで肉体は私が動かしましょうか?)

「頼む……あっ、戻った!」

「リンクス!セイ様もご無事で何よりです!」


 少なくとも、セイの肉体から作った『核命』を肉体の95%以上に移植された他人にも、セイは自我は入っている様だ。

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[一言] アホ神としてすっかり定着した主人公
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