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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
4章 染みわたる意志
79/119

閑話 10 熊殺し亭

大精霊との戦いから一年後くらいです

次で幕間は終わりです。本編に戻ります。たぶん

 トトサワルモ地方の中心から東北東にはアスペムと呼ばれる迷宮都市がある。

 この辺は昔は強力な魔物が多く住み着いていた大魔境だったがある冒険者が浄化して人が住めるようになった経緯があるため今でも冒険者が多いのが特徴だ。街から遠くへ行けば復活した魔境があり、その奥にはランク8を超える強力な魔物が住み着いており、いつかその魔物を倒して領土を手にする野心に溢れた冒険者が連日魔物を狩っている。


 魔境に囲まれたアスペムだが、迷宮都市と呼ばれるだけあって街中にダンジョンがある。B級ダンジョン『鬼人窟』。亜人系の魔物の中でも力が強いことで有名なオーガが出現し、上位種も全てオーガ。特殊能力を持っている個体は少なく、腕力と耐久が高いこと以外には優れた点はない。

 しかし、その分腕力と耐久は恐ろしく高い。


 人間よりも硬く、人間よりも速く、人間よりも強い。ならばその一撃は人間にとっては必殺だ。

 もとより魔物は人間を滅ぼすために作れたため、魔物の能力値は人間よりも高い。その中でも特に腕力が強いオーガは弱い個体でも全力で腕を振るえば一般人なら木っ端みじんに粉砕してしまう程だ。


「あ”あ”あ”ーーー疲れたーー!!!」

「やっかましい!!!いちいち煩い口を開くな!」

「どっちも煩いは馬鹿垂れ共!!!!!」

「相手にするな。それより飯にするぞ。肉を腹いっぱい食いたい」


 そんな危険な魔物が出現するだけあって、集う冒険者も肉体に秀でたものが多い。

 魔術や弓使いなども当然いる。しかし大半はデカく太くごつい、筋骨隆々の大男ばかり。道を歩けば二人分の横幅を使い背負った武器はオーガの屈強な肉体をを一撃で粉砕するであろう凶悪なオーラを放っている。


「かっけー!俺も大人になったら冒険者になる!」

「はぁ?兵士の方がかっこいいじゃん。俺は兵士になる!」

「兵士ぃ?どこがかっこいいんだよ。この間の魔物の氾濫でも、魔物をやっつけてくれたのは冒険者じゃん!兵士なんて後ろでこそこそしてるだっせーやつじゃん!」

「むぐぐぐぐ……こんにゃろう!」


 街の住民は冒険者たちに英雄を見る様な視線を向け、子供たちも同様だ。ダンジョン内部で強力な魔物を相手に鍛えた肉体とスキルは並大抵の敵など物の数ではない。

 領主の騎士も兵士もいるが、活躍するのはいつも冒険者。ダンジョンからのも魔境からの反乱も撃退し、年に一度はランク6以上の大物が広場に飾られ歌を作られる。ならば尊敬と称賛を受けるのは当然冒険者だ。


 そんな冒険者を相手に多くの商人が集まる。雑貨屋、武器屋、魔道具屋などなど。飯屋もその一つだ。


 魔物や武器に冒険者という特徴的な単語を除けば、冒険者は肉体労働者だ。体が資本で財産で武器。いつも大食いの彼らはどこにっても歓迎される。


「着いた着いた。今日も混んでるのか」

「そりゃそうだ。なんたってこのアスペムで一番うまい飯屋だからな」

「今日はオークの丼がおすすめか。相変わらず安くて多い」

「採算が気になるな。やはり元冒険者の店員たちが直接取ってくるから安くできるのかだろうか。さすがは『熊殺し亭』だ」


 『熊殺し亭』。アスペムで最もメニューの量が多いことで有名な大食い向けの飯屋だ。

 店員は全員が現役冒険者以上の実力が有り、食材はダンジョンと魔境で現地調達。店名の由来は店員一人一人が熊を殺せること。そして熊でも食べすぎて死ぬ量の食事を完食すること。全員が一流の冒険者であり一流の料理人であり一流のウェイター。

 家族経営が基本のこの世界で珍しく家族以外の店員も雇い、たった十人で五百人が入れる店を回している精鋭部隊である。


「活力鍋お待ち!肉団子ときのこピザもだ!ハッシュポテトと鬼骨ラーメンはもう少しで出来るぞ!」


 注文してから颯爽と席に届いた……いや、投げつけられた食事がテーブルを揺らす。どう見ても一品で三人分はありそうだが、これでも一人分。冒険者は体を良く動かすから全員大食いということ言葉を裏付けるようにどんどんと腹の中に納まっていく。


 冒険者たちは忙しそうに食事を勧めるが、当然厨房も忙しい。野菜の皮を剥き、肉を切り、火を操り、盛りつける。その光景は厨房は厨房でも給食センターか社員食堂の厨房と例えるのが適切だろう。


 店員たちも右へ左は上へ下へ。全部で百キロはありそうな食事のタワーを片手で持ち上げバランスを取り、てきぱきと客を捌いでいく。


「皿洗い終わり!ごみ捨て行ってきます!」

「熱光豚のクリームソースを百七番テーブルに持って行って!水晶魚の握りも!早く!」

「三番テーブル空いたぞ!皿を下げてこい!セイ!」

「分かりました!」


 そんな店員の中に、セイがいた。


「片付け終わりました!」

「よし!じゃあ次は――」

「蟹味噌の肉巻きの仕込みと鶏肉の溶岩漬けの仕込みやっときます!その後は呪木入りの野菜スープの解呪やっときます!」

「——任せた!」


 当然だがこのセイもセイが大陸中に散らした分割体の一つだ。他の分割体と違い、戦闘能力があまりなく、代わりに俊敏性に特化させている。


「ん?今なんか通ったか?」

「うわっ!いつの間にか料理がある!?」

「あれば噂の新入りか……本当に早いな」


「双子月の卵をかき混ぜ――」

「終わりました!」

「緑宝石兎の甘煮を――」

「終わりました!」

「トマトの包み――」

「終わりました!ホムラさん風茸サラダの作り方を教えてください!」


 セイが分割体を世界中に散らしているのは万が一本体が死んだときのバックアップの役割もあるが、本命の目的は世界中の文化と情報を収集する事だ。例えばそれは砂漠の歩き方であり、海辺の文化であり、船の作り方であり、様々な場所の政治形態であり家の内装であり武具の作り方であり魔導書の作り方などなど。総じて言えばセイの知らないこと全てが収集対象だ。

 もちろん、料理のレシピもその一つ。


「よく見とけよ?こうして風属性の魔力で中和して――」

(風茸の魔力量は15。対してホムラさんが放出している魔力量は3。使っている包丁の素材は鉄で魔力的な硬化はない。それでも中和出来ているのは風茸から出てきている魔力の量が細々としているからか。ここで魔力を内側まで入り込ませて一気に中和したらどうなるかな)


 先輩店員が料理する光景を眼球を通じて記憶する。セイの種族であるダンジョンコアのメモ欄と【完全記憶能力】を組み合わせることでいかなる情報も取りこぼすことは無い。五感で感じたこと全てをコアに還元し、別の場所の別のセイが再現する。

 セイが住む集落が急激に発展している理由の一つだ。


「セイ!そろそろ出前の時間だ!場所は鬼人窟の五層!いなかったら適当なやつに売ってこい!」

「分かりました!ついでにオークも何体か狩っておきます!」


 冒険者への料理の出前。熊殺し亭のサービスの一つだ。

 冒険者ギルドと提携を結び、前日までに注文が入れば魔境だろうとダンジョン内だろうと料理を運ぶ。狂気の沙汰だが全員が並みの冒険者よりも強い店員だからこそ出来る。補給部隊が戦場を飛び回る様に、引退して冒険者たちが料理をもってダンジョンを飛び回る。同じことだ。

 通常は万が一を考えて店員二名で出前をするが、セイなら一人で十分。


「ひとっ走り行ってくるか」


 そういってセイはひょいとダンジョンの内部に足を踏み入れる。


(お客さんは……五層と六層の階段にいるな)


 セイは索敵が得意と主張しているが、実際は【神格:迷宮神】の効果でセイはダンジョン内部で起きていること全てを把握できる。目標まで何メートルか。何回どちらに曲がるか。間に障害物はあるか。魔物はどこにいるか。瞬時に全てを把握したセイは軽く足に力を籠め、地面をけり砕く。


「ん?風か?」

「馬鹿。ダンジョンで風か吹くものか。噂の【神風】だろ」


「お待ちどおさま!」

「お!?おお、熊亭の……助かったよ」

「いえいえーお代はギルドから引いておきますので。それでは」


 神の息吹のような速さと力強さで障害を踏み越え、店を出てから約五分で到着。当然だが店員内で最速だ。

 お代は冒険者ギルドの口座から貰うのでダンジョン内でのやり取りはない。影収納から取り出した料理を渡して分かれるだけだ。


(さて……危ないのは五層に一人、二層に二人、一層に十人か。【隔壁】)


 帰りがけに、死にかけている冒険者を助けて回る。セイの慈善事業の一環だ。

 迷宮の神の一柱であるセイにとって、人間も魔物も等しく魔力源である。しかしセイは人間を自称しているため人間びいきだ。

 そもそもこのダンジョンはセイの管理下にないため人が死んでもセイの下に魔力が集まるわけではない。ならば普通の人間のように振舞うだけだ。


「ん……ん?なんだこいつ。行き倒れ?」


 全員助けて店に帰る途中、謎の少女が倒れているのを見つけた。


(俺の力でも居るのが分からなかった……こいつはあまり強くなさそうだし、この装備が原因か?)


 迷宮の神であるセイでの目視するまで存在を認識できなかった。精霊や妖精とは違う。本人は精々E級冒険者程度の実力。しかし魔力を見ると装備品に異常なほど精密な術式が刻まれているのを見れば、原因は分かる。


(こっそり精査するのは……駄目だよな。倫理的に)


 人を殺すことに躊躇いが無く国でも神でも滅ぼすセイだが、倫理観と常識はある。その中に行き倒れに何をしても良いという項目は無かった。


「とりあえず傷はないな……本当に腹が減っているだけか?なら水と食料を置いておくか……あ、呪いを喰らったのか。納得納得」


 疑問が晴れて気分が良くなったセイは解呪と魔物除けの結界を使って店に帰っていった。

 その少女が目を覚ましたのは、セイが去っていった数分後だった。


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