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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
3章 豊穣の国
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50話 奪われる肉体

 セイに襲い掛かった吸血鬼は二名、感じる重圧から考えて貴種吸血鬼だろうか。


「お前ら、なんで俺に襲ってきたんだ?」


「気を付けろ!こいつ、情報以上に強いぞ!」

「分かっている!お前こそ目を逸らすなよ!」


 どちらも貴族の様な没個性の外見な上、二人とも剣士のようで区別がつきにくいが、強いて言うなら片方は背が高く、もう片方は平均的な身長だ。


「話を聞け……違うな、ちゃんと話せ、か?」


 セイの手の平が発光し光属性魔術【太陽光】が放たれる。


「ヴェルン!絶対に防げ!」

「分かってるよ!【大山壁】!!」


 大柄な方の吸血鬼が土属性魔術を使うと、砂漠の砂が集まり山のように分厚い壁が出来上がる。

 吸血鬼は太陽に当たると皮膚が燃えるという弱点があるため、この慎重な対応も当然だろう。


「【即応】、【限界突破】」


 平均的な身長の方の吸血鬼がセイに迫る。

 身のこなしをよく見ると、こちらの方が剣術の腕は上だろう。


「うおおおおおお!くらえ、【神鉄断】!!!」


 平均的な身長の吸血鬼の名はゴス、貴種吸血鬼にして、五万年もの時を生きる最古の貴種吸血鬼。ランク12のヴァンパイアエンペラーにまで進化した神話級一歩手前の怪物であり、その長い時間を活かして鍛え上げた【剣術】は【剣王術】に覚醒、レベルも3になるまでに至った超人だ。

 S級冒険者でさえも単独で返り討ちにした過去を持つ、邪神派の原種吸血鬼の抱える最強の兵士だ。


 しかし、セイには敵わない。


「【付与:太陽体】」

「ぎゃああああ!!!!!」


 セイはその場から動かずに、己の肉体に太陽の光を付与した。

 全身がピカピカと輝く様は冗談のようだが、吸血鬼には絶大の効果を発揮する。斬るために接近したため至近距離で太陽の光を浴びてしまう。


 太陽の光に焼かれる痛みが全身を襲い、これでは剣を振るうどころではない。一刻も早く日陰に隠れなければ灰になってしまう。


「なめるなぁ!!!」


 しかし、ゴスは最古の貴種吸血鬼。この程度の窮地は何度も経験がある。全身を焼く痛みに耐えながら、果敢に切りかかる。人間であってもS級冒険者に認定されるほどの腕前が、吸血鬼の身体能力から放たれる。

 その光景をギリギリで目で追っていたヴェルンも勝利を確信する。


「遅い、てりゃ」

「なっ!?」


 しかし、セイはゴス以上の剣の腕前と身体能力を持っている。

 全てにおいて勝っているセイが負ける道理はない。


 軽い掛け声、しかし今までの五万年にも及ぶ人生で見た中でも屈指の鋭さの剣がゴスの体を切り裂き、腹まで切り裂いて止められる。


「【付与:太陽剣】」

「いぎゃああああ!!!!!!!いたいいたいたいいたいい”い”い”い”!!!!!!!」


 剣に太陽の光を付与され、ゴスは文字通り体内から焼かれる痛みに悲鳴を上げる。

 その顔を苦痛に歪んでいる。吸血鬼にとって太陽の光を浴びることは人間でいう強力な酸をぶっかけられることに相当するらしい。


「すまん。痛めつけるのは本意ではない。なのでやめて欲しかったらどうして俺を襲ったのか教えて――」

「【大流砂】!!」


 セイの足元の砂が大規模な流砂を起こす。直径百メートルにもなる落とし穴に慌ててセイは飛び上がるが、その際にうっかりゴスを落としてしまった。


 落下するゴスをヴェルンと呼ばれていた背の高いほうの吸血鬼が回収する。セイは知らなかったが、ヴェルンはゴスのサポートが主な役割の吸血鬼だった。


「生け捕りは難しいな……よし、情報は死霊術で聞き出せばいいか。【飛陽斬】」


 生け捕りから殺しに目的を変えたセイは剣を横薙ぎに振るい、太陽の光と同じ性質を持った飛ぶ斬撃が二人の吸血鬼を襲う。斬撃の速さで迫る太陽の光から二人が逃れる術はない。


 そこに、闇を纏った謎の人物が割って入る。


「【断魔】」


 なんと、同じく剣を持ったその人物は闇の魔力を纏わせた剣で【飛陽斬】を斬ってしまった。


「たった二十年しか生きていないのに、私たちを超える実力。恐れ入る」

「主観時間が違うんだろ。長い寿命に胡坐をかいてだらだらしてるお前たちと、同格以上の敵と戦い一秒の一万分の一の時間を生きる俺。積み重ねた経験が違う」

「これは手厳しい。

 ところで君、我らが神の生贄になってくれないかい?」

「無理だな」

「そうか。じゃあ殺す」


 月の光が謎の人物の闇を切り裂くと、その素顔が見える。


「悪神派吸血鬼三頭領の一人、原種吸血鬼のエルダだ」

「セイ。肩書は……そうだな、D級冒険者のセイだ」


 気の緩むような返答に気にすること無く、エルダは切りかかる。迎え撃つセイに、油断はない。


(こいつ、たぶんランクは15。つまり俺の格上だな)


 原種吸血鬼は最低でもランク13。そこから長い間経験を積めばランクは二つは上がると見たほうがいいだろう。


「まだ気になることがあるんだが、どうして俺を生贄にするんだ?俺を狙うよりも、お前たちの犯罪組織のネットワークで俺と同じくらいの価値がある命を集めるほうが安全だと思うけど」

「我が神の意志だからさ!」


 エルダが武技【閃光】を放つ。言葉の通り閃光の如き剣閃がセイに迫るが、セイも同様に【閃光】で撃退する。


「悪神派の吸血鬼たちは邪神派と違い犯罪組織の運営が下手だって聞いたぞ。その言い訳にしか思えないな。俺を襲うほどのリスクを負う理由がない」

「はっ!おいおい、神託を降ろしてくださったんだぞ。信仰のためと言えば信じるかい?」

「信仰?愛と生命の女神を裏切ったお前たちにも、信仰心なんてあるのか、驚きだ」


 セイの言葉にエルダの表情が険しくなる。禁句だったのかもしれない。


「裏切っただと!?ふざけたことを言うな!強い種族にしてあげると話を持ち掛けながら、日に当たれない体にしたあのクソ女神のほうが先に裏切ったんだ!だが、俺たちに同盟を持ち掛けたあの神は、再び俺たちを、太陽の浴びられる体にすると約束したのさ!」


 エルダの全身を【闘気】が駆け巡る。龍や獣王、巨神と同じように神に分類される生き物の生命力を全身に血液の様に巡らせる上、【限界超越】により肉体のリミッターを解除する。

 格闘術の武技【縮地】で一瞬でセイとの距離を詰めたエルダは、【流星突き】を放つ。その威力は山に穴を開けるだろう。


「【柳流し】」


 しかしセイは剣を柔らかく動かし受け流す。どんなに鋭く重い剣技も、その剣の延長線上にいなければ絶対に干渉しない。スレイを相手にして学んだことだ。

 これにはエルダも驚愕の表情を浮かべる。


 返す刀で首を切り落とそうと剣を振るう。エルダはその行動を理解する前に、その首が落とされるだろう。


「させるか!!」


 その一瞬前に槍がセイの剣を受け止める。

 激しい衝撃、セイの豪剣は岩を容易く砕くが、受け止めた槍使いの力量も伺える。


「間に合ったな」


 新しい吸血鬼だ。

 おそらく、二人目の原種吸血鬼。

 

「先走るな。強敵だと言っただろう」

「すまん……」


 自分と同格かそれ以上の吸血鬼が二人。

 一人なら勝てる。二人でも、勝てないとは言わない。


(そういや邪神派も悪神派も、原種吸血鬼は三人いるって聞いたな)


 咄嗟に剣を後ろに添えると、鋭い衝撃がかかる。

 視線を後ろに向けると、そこには短剣を構えた吸血鬼がセイに切り掛かっていた。


 【闇夜刃風】、夜に生きる吸血鬼が編み出した月の光でさえも照らせない暗殺術だ。


 原種吸血鬼が三人。その脅威を理解したセイは本気の一撃を繰り出す。【分解魔法】で周囲の砂漠を切り取り、【構築魔法】で砂を手にしている剣に混ぜ込む。重さにして数トンの砂が一メートル程度の剣の大きさに圧縮された。


 セイの膂力で重さ数トンの砂剣を振るう。くらえば原種吸血鬼といえどひとたまりもないだろう。


 しかし、彼らはセイの実力を理解した上で襲っていきたのだ。対抗策はある。


「みんな、合わせろ!」


 短剣を持った原種吸血鬼は背後に逃げ、剣を持った原種吸血鬼であるエルダがセイの相手をする。

 

 遠くに隠れていた数十人の吸血鬼たちが一斉に魔力をつなげた。それはかつて愛と生命の女神に選ばれた勇者が考案した【縦横糸編】という技だ。

 吸血鬼たちの魔力が直列でつながり、加算される。

 魔力を注ぎ込まれたエルダの剣に数十人分の魔力が集まる。その負荷がエルダにかかるが、エルダは吸血鬼の中でも真祖から直接祝福を受けた原種の吸血鬼。太陽の光に焼かれながらそれ以上の速さで再生するほどの再生力で負荷を受けながらも剣を振るう。


「【勇力】【命脈断ち】」

「【獅子豪剣】」


 激突。セイの豪剣とエルダの剣がぶつかり合い、周囲の砂を吹き飛ばしクレーターを作る。

 その中心では、セイとエルダが鍔迫り合いをしていた。


「その歳でこれほどの力。何度成長の壁を越えたのか!」

「二十回は越えたよ。いやーこんなに超えたのにS級程度とは、やっぱり俺は才能がないなぁ」

「それだけ超えていながら生きているとは、まるでかつての勇者たちのようではない、かっ!」


 撃ち合いは互角。衝撃に引っ張られて距離を取る。


(格上の原種吸血鬼が三人、さすがにきついな)


 癖のように一歩さがる。

 セイの戦いにおける基本的な方針は「安全マージンを十分に取る」ことである。


 勝てる戦いしかしたくないというのは不可能だが、同時に理想だ。相手の攻撃では破壊されない鎧を着て、相手の防御を貫ける武器で攻撃する。

 不可能だが、この状態に近づけることで十分な安全マージンを取ることができる。


 ゆえに、セイは癖のように一歩下がる。

 距離を取り、自分と相手の間に結界を作り、相手の間合いの外から十分な攻撃を放つ。

 これがの基本パターンだ。リスクを取ることもあるが、基本的に一手目はこうする。


 しかし、セイを殺すために十分な研究を重ねてきた吸血鬼たちにとって、その一手目は必ず行動が読める最大のチャンスでもある。


「いまだ!」


 短剣を持つ原種吸血鬼の掛け声と同時に、周りにいた吸血鬼たちが魔力の繋げ方を変える。【縦横糸編】の並列、消費する魔力を他者が肩代わりし一人の強力な術者の術を拡大する技だ。


「これは、動けない。【鈍重】か?」


 セイの全身に重圧がかかる。巨竜に踏みつけられているような巨大な重圧がかかる。

 これにはさすがセイも動けない。


「行けるぞ!」

「ああ、今度こそ!」

「我らの悲願が叶う時だ!」


(何してくるのかなー)


 セイはこの状態でも余裕……という名の慢心があった。セイは強い。単純な戦闘能力でもS級冒険者並み。かつ、耐久力は世界でも両手で数えられるほどの上位だ。


 もし龍を一撃で殺せる攻撃が直撃しても、セイは耐えられるし、そこから必殺技で逆転できる。

 精神を狂わせる攻撃も、セイは耐えられる。指一本動かせなくても、自分の生命力を削り切るには一時間はかかる。


 聖領ユグドラシルでもランク13の魔物の攻撃でうっかり心臓と頭部を破壊されたが、なんら後遺症なく復元出来た。

 ここまでの戦闘でも全く消耗していない。あと一か月は不眠不休でも戦える。


 それゆえに、原種吸血鬼たちを自分よりも格上と認識していながら、油断していた。

 怪我はするだろう。しかし、致命傷にはならないだろう、と。

 そう、経験に基づいて判断してしまった。


「心を操る我らが神よ」

「表と裏、善と悪、人の持つ業」

「異界で生まれ、この世に根付いた新たな理」


 それゆえに、原種吸血鬼たちが発動使用しているものが大人数の魔力をつなげてようやく発動できる儀式魔術であることにも、それが魔術師ギルドでいう最上級魔術であると気がついても、何も対応は変えない。


 なんとなく、祭壇のようだと感じても、危機感は感じない。


 (この規模ならたぶん火属性の禁術【熱雷爆発】、空間属性の禁術【神話崩壊】、時間属性の禁術【未来送り】あたりかな。まー俺ならその全部でも耐えられるし食らってみるか)


 見聞きしたものを一生忘れないユニークスキル【完全記憶術】、暇があれば収集している魔術の知識、そして知り合いの冒険者から聞いた危険生物。それらの知識からセイは発動される魔術を予測し、その上で問題無いと結論を出す。


 しかし。

 

 セイは二十二歳。この世界に転生してから五年。たったそれだけの時間でこの世界で最上位の実力者になったことは素晴らしい。

 しかし、それは油断であり、慢心だ。

 たったそれだけの時間で、五万年もの時を生きる吸血鬼の知識を全てを自分も知っていると、知らなくても耐え切れると油断してしまった。


「「「【神威降臨】」」」


「あ?」


 最後の文言が唱えられると、セイを中心に術式が立方的に広がり、セイを汚染する。


「ぐ、ぎゃああああああ!!!!!!」」」」」


 セイを中心に禍々しい、しかし同時に神々しさを感じる漆黒の魔力が渦を巻く。


 セイの口から悲鳴が上がる。

 今まで感じたことのない痛みが襲う。知らない。こんな痛みは知らない。


 知らないものは、経験したことのないものは、備えられない。


『ふはははは!!!油断したな、人間』

(!?)


 誰かがセイの心に語りかける。いや、誰かではない。そんなはずはないが、そんなまさか。まさか、だがこいつの正体は。


(俺……?俺、なのか?いや、そんなはずはない)

『そうだ!俺はお前であり、お前は俺である。しかし、俺がお前なのは俺の権能の一端に過ぎない。

 我の真の名はギガライア!『二心の悪神』ギガライアである!」

(なっ!)


 告げられた真の名にセイは驚愕する。

 『二心の悪神』ギガライア。それは、悪神派の原種吸血鬼たちが信奉する悪神の名だ。


『ふははははは!!!!弱く惨めな人間よ!無知で愚かな時と空間の眷属よ!知らなかったのか?貴様らが邪悪な神々と呼ぶ我らは、いつでも受肉を望んでいることを!考えたこともなかったのか?神工物であるダンジョンコアは、我らが受肉する器として最も優れていると!ふは、ふははははは!!!!!』

(なっ、ん、だと!?)


 セイの思考が驚愕に染まっていく。高速思考と並列思考を使っても、驚愕が終わらない。赤子が百万人で協力しても、一人の学者の方が早く正確な答えを出せるように、セイの考えは空回りする。


『さあっ!貴様は永遠の眠りにつくがいい。この肉体の主導権は、我がいただく!』

(ぎゃあああああああ!!!!!!)


 その言葉を最後に、セイの人格は激痛と共に闇に沈んでいった。





 漆黒のオーラに包まれたセイを吸血鬼たちが一言も発さず、固唾を飲んで取り囲んでいる。

 彼ら悪神派原種吸血鬼たちの計画、我らの奉じる神を受肉する企みは、恐らく成功しただろう。


 しかし、その体が維持できるかはやってみなければ分からない。神の力は人には過ぎるもの。この世界の神々であれ、異世界から侵略に来た邪悪な神々であれ、常人な入れば発狂し、肉体は自壊してしまう。


 見守っていると、セイから放たれる邪悪な気配が急激に強くなる。


『ふふふふふ』


「こっ、この声は!神託の時と同じ!?」

「うまくいったのか!?」


 吸血鬼たちが騒めく。感動して拝み、涙するものもいる。そんなものたちを気にすることなく、悪神は産声をあげる。


『ふははははははは!!!!!!!!!!!我!この世に受肉したり!!!!!!』


 黒いオーラが晴れ、そこではセイの体から、セイのものでない声が放たれていた。

 見た目は変わらない。人相が悪人のものになった程度だ。しかし耐性の無いものであれば意識を失うほどの重圧、汚らわしく吐き気がするが、同時に無知なものでもそこに神がいると分かるほどの神々しさ。


 『二心の悪神』ギガライア。この世界に巣食う邪悪な神の一柱だ。


『ふぅ……久々に肉体は心地よい。【ステータス】……ほう、かなりのものだな。この肉体を使えば、愚神ハイディを排除し、邪魔な同胞を取り込み、この世界に君臨することの不可能では無い』


「ギ、ギガライア様!」

『む?』


 上機嫌に笑っていると、吸血鬼の一人が水を刺してくる。

 エルダだ。


「我らは命令通り、御身の肉体を用意したしました。ですので、どうか我らに太陽を!」


 エルダたちは縋るように頭を下げる。彼らは吸血鬼だが、彼らにとって吸血鬼という種族は憎むべきもの。再び太陽を見るために、悪神に従っていたのだ。


『ああ、そうだったな。約束通り()()()()()()()()()()してやろう』

「あっ、ありがとうございま………ぎゃああああああ!!!!!」


 突如として吸血鬼たちが苦しみ出す。原種も貴種も従属種も関係ない。全員が、だ。


「な、なぜ……」

『約束だからな。お前たち全員、この肉体に取り込んでやろう。ふははははは!!!構わないだろう?お前たちは、太陽を浴びれるなら肉体がどうなっても良いと言ったのだからな!』


「そっ、そんな馬鹿な話があるか!裏切るのか!ずっと貴様の下僕として尽くしていた我らを、裏切るのか!」

『馬鹿共め。我は『二心の悪神』。心の相反性を司る神。多くのものを裏切ってきた貴様らが、どうして大元である我に裏切られないなどと思ったのか。やはり元人間の生き物は愚かだ』

「き、貴様!」


 吸血鬼たちが激昂するが、その気迫は続かない。なぜなら、ギガライアの権能で理不尽な喜びが生じているからだ。


「あ、あああ、ありが、とうございます。か、感謝、し、ます」

「うひゃひゃひゃひゃはははははははは!!!」

「いやだ!俺は、俺はもう一度日の当たる場所に!

「い、いひひひ、いひひ、う、嬉しい!どうして、どうして悲しくないんだ!」


 ギガライアの権能は心に干渉する。その力により悲しみと憎しみが薄れ、気持ち悪い喜びが溢れるように沸き上がる。


(ちく、しよう……こんな、ところで……うひひひひひ………………申し訳ありません。ヴィーナ様……)


 エルダも、他二人の原種吸血鬼も同様だ。かつて見た太陽。かつての家族と過ごした温かい原っぱの記憶が薄れていく。第二の家族も同然だった同じ女神の信奉者たちを裏切ってまで求めた太陽も、色あせていく。


 何度も他人にやってことだ。悪神が受肉できるだけの肉体を探して、多くの罪なき人を魔に堕として来た。その報いが訪れたのだ、と。心が闇に沈み、新しい人格が顔を出し始める。


『いぎゃああああああああ!!!!!!!!!!!』


 しかしその瞬間、ギガライアの悲鳴が上がった。

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