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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
3章 豊穣の国
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44話 意味不明で理解不能な強者

 ベルナの特訓は一か月で切り上げた。ランク3の魔物を倒せた以上、冒険者としてやっていける最低水準に到達したと判断したためだ。


 誰かを育てるというのは経験が無かったのでやってみたが、終わってみるとなかなか楽しかったなと振り返っていると、冒険者ギルドからダンジョン攻略の査定の結果が来た。手段はいつも通り、テイマーギルドが飼育している鳩による手紙の配達だ。……と思ったが、今回は違うようだ。


「鳩じゃなくて、烏?」


 烏。黒い鳥。狡猾にして人を害するもの。そんな鳥が手紙を運んできたのは初めてだ。


「たしか烏が手紙を運ん来るときは悪い内容だと聞いたような気がするけど。なんかあったのかなー」


 足に巻きつけられた手紙を取り、開く。


 内容を簡潔にまとめると、内容はダンジョンの消滅の確認。ダンジョンが成長する様子を失っているので、セイの言った通りダンジョンコアを摘出したことは事実と判断する、と。


 残りの内容は、報酬の内訳だ。


 E級ダンジョンが七つ、D級ダンジョンが三つ、C級ダンジョンが一つ、B級ダンジョンが一つ。魔物を吐き出すだけの成長しないダンジョンになっていたと確認できたので、それぞれE級ダンジョンは百万トト、D級ダンジョンは一千万トト、C級ダンジョンは一億トト、B級ダンジョンは十億トトの報奨金が口座に振り込まれた。


 昔は……というか、つい最近まではこういったお金は現金で取引されていたため、お金が足りず宝石などの物品に変えることが常識だったそうだが、ここ数年で急成長したトト商会が銀行を作り、手形や金融の概念を広めたことで一部の都市部以外でも報酬を振り込むという形で支払えるようになったらしい。


 便利なことだ。

 その分通帳と引き出しカードも兼ねるようになった冒険者カードと冒険者コードも紛失したときの危険性も上がったが。


 ちなみにこれは非常に大金である。一千万トトあれば十分に広い一軒家が買えるし、百万トトもあればD級冒険者が身に着けている装備を一式そろえることも出来る。それほどの大金だが、ダンジョンコアを摘出しダンジョンの成長を止めるとはそれほどまでに大変なのだ。


 そもそもの話、ダンジョンは破壊することは出来ない。破壊不能の異世界だ。一つの世界であるため、文字通り世界を壊す力でなければ破壊できない。


 そして、世界を壊す力など神々でさえも持っていない。

 当然だ。もし壊せるのであれば、魔王を倒した後に勇者が全てのダンジョンを破壊し、魔境を浄化しただろう。


 しかし破壊は出来ないが、正攻法で浄化する手段がある。ダンジョン内・魔境内の魔物を一パーセント以下にまで減らし、これを一か月ほど続けることで維持するための瘴気が足りなくなり、崩壊する。


 もう一つ、破壊とは違うが……ダンジョンコアの摘出も有効だ。ダンジョンコアはダンジョンの頭脳でありコントローラーであるため、失われるとため込んだ穢れた魔力をうまく扱えなくなり、成長できなくなる。

 ただしため込んだ魔力はそのままなので、しばらくは魔物は産み落とされ続ける。


 どちらにせよ個人で行うには途方もない労力が必要であるため、通常はこの報酬が山分けされる。

 収入が多いというより、必要最低限の出費が少ないから利益が大きいのだ。


「やっぱ一人の方が儲かるな。てか、手紙の内容に問題なように思うけどなんで黒い鳥が……あ、もう一枚あった」


 最後の一枚に書いてある内容には首を傾げた。


「俺に監視を付ける‥‥‥?」





 冒険者ギルドに行くと、話は通っているらしく受付の人がギルド長の部屋に通してくれた。

 場所は冒険者ギルドの三階。この街の冒険者ギルドは一階が受付、二階が上級冒険者用の会議室、三階がギルド長の部屋になっている。セイも来るのは始めてだ。


「セイ様をお連れしました」

「どうぞ」


 案内してくれたギルド職員の声に、女性の声が返事をする。そう言えばここの冒険者ギルドのギルド長は女性だったなと思い出す一方、もう一人の気配に疑問を覚える。

 覚えがない気配だ。


「おおっ……すげえ美男子だ」

「……?どうも」


 室内に入り、セイは驚愕する。そこにいたのは傾国の美青年だった。

 顔のラインがシャープで鼻筋は細く高い。スラリとした背丈、黒い髪質はサラサラで中性的な顔立ち。地球育ちのセイからすればこの世界の住民は個性の違いはあれど全員が美男美女だが、その中でも飛びぬけていると分かる。

 陰気なオーラがいくらかイケメン度を打ち消しているが、それでも隠し切れない美貌。傾国ではなく傾星と言ってもいいかもしれない。

 男性を見て息をのむほど美しいという感想を抱いたのは始めてだ。

 たぶんその辺で十人くらいの女性に声を掛けると五十人くらいついてきそうだ。


「おほん。【暴竜】どの。初めまして、私はこのチルクの街の冒険者ギルド長をしている、オリーブと申します」

「おっと失礼。俺はセイ、【暴竜】とも呼ばれています」


 うっかり存在を忘れてしまっていたギルド長から声を掛けられ、セイは正気に戻る。

 視線を向けると、二十代くらいの美しい女性がいた。青年の方と同じく黒髪で、すらっとした体型で、目つきがきつい。……うん美しいと思う。たぶん。


 隣に座っている青年が美しすぎて灰色かつ凡庸に見えてしまうが、美しい女性だと思う。


 おかしい。目を閉じても男性の顔が瞼の裏側に焼き付いているなど経験など今までにない。

 魅了の魔術に掛かっている形跡もない。天然でこの美貌なのか?恐ろしいな。


「まずは確認を。手紙に書いた通り、あなたが報告したダンジョンの確認が終わりましたので、その件の報奨金を振り込みました。こちらに細かくまとめております」

「どうも」

「続いて本題です。単刀直入に言いますが、あなたには国家反逆罪の疑いがかけられています」

「なんでさ」


 うっかり敬語が崩れてしまった。

 仕事の事務的な付き合いの人には敬語で接しようと心がけているのに。


「お心当たりはありませんか?この間、あなたがアーゼラン・ウルディア嬢の代理として婚約者候補たちと決闘した翌日、この国の王族がほぼ全員殺された件についてです」

「あれか……。いやだが、本当にそれは知らない。俺は彼女の依頼に応じただけだから。本当に知らないんだ。俺も驚いている。生き残ったのはあの決闘に来ていたやつだったか?」

「ええそうです。そして、あなたが本当のことを言っているのか判断は私どもには分かりません。ですが国からあなたの事を調査しろと依頼が来た以上、断ることも出来ません」

「それで監視を付ける、と」


 納得がいかない。俺はやっていない。そんな不満が沸き起こるが、さすがに国が個人に目を付けているなら、暮らしにくいのも事実。

 ここは受け入れるべき、だと思う。


 ……まあ、思い付きと勢いで貴族のお嬢様を誘拐とかしておいてもめぐりめぐって監視程度なら甘んじて受け入れるべきだろう。

 

「そうですね。依頼という形で、ちゃんと金をくれるならいいですよ」

「助かります。監視するのはこちらの方です」


 オリーブは示したのはさっきから黙っていた男性だ。


「私は冒険者ギルド調査室所属、C級冒険者のトトキと言います。あなたの監視を任されました」


 冒険者ギルドの調査室所属。たしか冒険者ギルドに直接雇われている冒険者のことだ。


 冒険者は基本的にフリーランスの様なものだ。民間や公的機関からの依頼を冒険者ギルドが中継し、個人の責任で受ける。

 しかしそういった一般の冒険者は信用が無いため、魔境の土地や魔物の分布の調査依頼などは冒険者ギルドが信用できるとお墨付きを付けた特別な冒険者に回されるという噂がある。


 そしてそれが事実であるとセイはララからこっそり教えられた方がある。


「よろしくお願いいたします。私はセイです。セイと呼んでください」

「よろしくお願いいたします。私もトトキでいいですよ。これから一年ほど宜しくお願い致します」

「………………長くないですか?ギルド長」

「国家反逆罪の疑いですからね。短い方ですよ」

「まじっすか……。一応聞きますけど、俺は普段通りに活動していいんですよね」

「ええ。街で遊んでいても、ユグドラシルの根元まで探索しても自由です。あなたが国家を害する気があるかどうかを判断するための監視なので」

「ユグドラシルの根本ってまあ、この人なら行けそうですね」


 セイの言葉に二人が少しだけ驚く。それもそうだろう。大抵の人がトトキを見ればその美貌に驚き、それ以外を見ないのだろう。


 しかし、セイはトトキがかなりの強者だと見抜いていた。


(俺と同じくらい……いや、本気でやっても勝てるか……これでC級って詐欺だろ)


 トトキはそんなセイの様子に気が付いたようだ。


「冒険者は自由業ですが、あまり上に行き過ぎるといろんな人に目を付けられて『気ままな冒険者』ではいられなくなるんですよ。なのでC級のままにしている人も結構いるますよ。私より強い人も何人か知っています」

「まじかよ」

「B級になると知らない名士の結婚式の招待状を頻繁に送られますし、護衛依頼という名のお見合いも増えてきますよ」

「うわーめんどくさい」


 対応は軽いが、内心でセイは驚愕、どころか恐怖する。

 目の前の青年からは自分より強い気配を感じているのに、そんな彼より強いものも多数いるという事実。


 セイは世界で最強だと自負しているわけではないし、自分より強い人がいることも知っている。しかし実際に目の前に現れられると驚くものだ。


 トトキの後ろでギルドマスターが「いやそれは無いだろ……」と言いたげな顔をしていることにも気が付かないほどに驚愕した。


「さて、セイさん。お話は以上です。我々冒険者ギルドにはあなたはの手の内を暴こうとする意志も、ありません。自由にどうぞ。ただし冒険に出るときはトトキを同行させてくださいね」


「じゃ早速一緒に深層に行きませんか?俺は聖樹ユグドラシルの根本って言ってみたかったんですよね」

「いいですね。私も久しぶりです。知ってますか?ユグドラシルの根本にはいい温泉があるんですよ。入れば若返るくらい」

「おお!それは楽しみです」


「……採取してきたものは冒険者ギルドが以外では売らないでくださいね。私たちなら素材が本物かどうかも確認せずに引き取りますから」


「トトキさんって信用されているんですね」

「親族ですからですかね」


 こうしてセイは青年と共に聖領の深層に向かった。


「……ふうっ!緊張しました。あなたもお連れ様です。受付に戻っても良かったんですよ」

「お姉ちゃんったら。こんな面白い噂のネタ、聞き逃すわけないじゃない。それより大丈夫なの?深層って、最低でもランク8とかよね」

「そうだけど、まあ本当に危ない時はお爺様が連れて帰るでしょ」





 聖領ユグドラシルは三層に分かれている。上層、中層、深層。これに外層と根本の二層を足すこともあるが、一般的な冒険者にとっては深層が最深部であり、挑むのは勇者か愚者の二択だけだと言われる領域だ。


 そんな場所に、若い青年二人がうろついていた。


「さて、セイ。最初に私の実力を見せておきますね」

「おう。見学しておくわ」


 トトキがセイの前に出る。

 武器は持っていない。魔術師、もしくは格闘家なのだろうか。そう考えていると、セイの鋭利な感覚は魔物の気配を感じ取った。

 距離は五百メートル。大きさは小型。犬の魔物。


 そんなことを考えた一秒後。たったそれだけの時間で五百メートルの距離を詰めた魔犬がトトキに襲い掛かった。


 それをトトキは手で触れただけで爆死させた。


(……ん?)


 一、ニ、四、十、二十、五十。襲ってくる魔物は次々と増えていく。セイの知識に無い魔物だが、以前戦った竜よりかなり早いのでたぶんランクは7くらいだ。

 それを一撃で殺している。


(???……なんだ?どうやっている?なんで手のひらを当てただけで内臓が爆発するんだ???)


 トトキの戦い方は全く見覚えがなかった。

 この世界に転生してから調べて分かるものなら武術であれ魔術であれなんでも貪欲に調べたが、トトキのやっていることは理解できない。

 武術には見えない。ただ高い能力値を活かして、音速で迫りくる魔犬に正確に手のひらを合わせ、犬の内臓が爆発する。


 どういうこと?


 セイが困惑していると、森の奥から大きな生き物が出てくる。大きな音を出しすぎたのだろう。


 その魔物は非常に大きかった。

 それこそ、山ほどに。


「山竜じゃん。こんなのも生息しているんだ」

「ええ。珍しいですが、いますよ」


 高さ二百メートル。長さ五百メートル。横幅四百メートル。そんな現実感を失うような巨体の魔物、山竜。みためは亀に近い、地属性の竜の上位種であり、ランクは最低でも9。小さな国なら単独で滅ぼせる魔物だ。

 その評価にも納得だ。この巨体を動かすエネルギー、想像するだけで規格外だと分かる。


「よっ!」


 トトキは文字通り山のように巨大な竜の鼻頭に飛び込み、拳を叩きつけた。


「せいやっ!」


 パンチ。正拳突きともいえない。武術系スキルを習得しているのか怪しいほどの、普通のパンチ。


 ただそれだけの一撃で、山竜は前後にぺしゃんこになった。


 意味不明。理解不能。強いということ以外分からない、浮世離れした強さ。


 しかしそれでも、なんとか一部な理解できた。


(たぶん、【闘気】が異常に強い。内臓を爆発させているのは内順の応用、かな?)


 この世界にはステータスシステムがあり、それを見ればその者の能力値が分かるが、この世界にはスキルもあり、【筋力増強】や【怪力】で増幅された実際の力を数値化するのは難しい。


 しかしそれでも経験的にはなんとなく分かる。

 元の能力値がいくつで、【筋力増強】のスキルレベルがいくつの時の威力と、素で能力値がいくつの時と同じ威力か。そういった検証を重ねれば計算できる。


 それによると、先ほどの山竜をぺしゃんこにしたときのトトキの【力】は、おそらく瞬間的に300,000ほど。セイの約十倍だ。それもあの様子では本気じゃないだろう。

 

(まじですごいな。スキルで大きく変動するとはいえ、人族のS級冒険者の表記される能力値が10,000くらいじゃなかったっけ。こいつ何者だよ)


「終わりましたよ」


 トトキに声を掛けられそちらを向くと、常軌を逸した光景が広がっていた。


 ランク9からランク6の魔物が数百。それも全て素足で倒している。

 これほどとなるとセイでも出来ない。いや、倒すことは出来るが、これほど綺麗に素材を残したままなのは不可能だ。


 たぶん、全部換金したら向こう百年は貴族以上に豪遊できるほどの金になるだろう。


 監視員のはずだが、これは勉強させてもらういい機会かもしれない。


「トトキ、次は俺が実力を見せるよ」

「ええ、楽しみです」





「セイ、私より強いんじゃないですか?」

「それはないと思うぞ」


 セイも張り切って戦った結果。生み出された光景はトトキのものと似通ったものだった。


 ランク10からランク5の魔物の死体が満遍なくまき散らかしてある。異次元の聴力と人間離れした思考速度で周囲の魔物を探知し、膨大な魔力を活かして遠距離攻撃。恐れず近づいてくる魔物は剣で撫で斬り。

 分解魔法も万物同化も惜しみなく使い、無機物と有機物を問わず分解されセイに取り込まれ、空間ごと壊されるその戦いは人型の災禍が暴れているようだった。


 その光景に、トトキは「俺より強いな」と思った。

 セイも同じことを思っているが。


「それにしても、セイが使っていた分解魔法ってやつ。もしかして使いこなせていないのか?」

「えっ、見ただけで分かるのか」

「ああ。明らかに無駄が多いからな。ユニークスキルだとそういうこともある」


 そうなのか。

 ユニークスキルは発現者自体少ないから、セイも持っている情報が少ないため理解が浅いのだ。


「トトキ、お前の見解を聞きたいんだけど、どう思う?どうして俺の魔法は使えないんだ?」

「んー」


 一泊おいて、トトキは口を開く。

 その様子は悩んでいるというより、知識の整理をしている様だ。


「可能性は三つあるな」

「三つもあるのか」

「ああ。本当に使い道がない外れのスキルの可能性、まだセイが使いこなせていない可能性、そしてまだ他にスキルを習得する必要がある、の三つだ」

「どれも考えたこともなかった……」 


「私が見た例だと、【透過魔法】というのがあった。これは発動すればあらゆるものを通り抜ける魔法で、使った奴は地面に向かって無限に落下した。

 未熟な例だと、【振動魔法】というのがあったな。使えた奴は肩こりや食器を洗う時に便利だと言っていたが、最終的に物質を振動させてオリハルコンを砕いていた。

 最後に片方しかなかったというのは、【吸収魔法】と【放出魔法】。最初は【放出魔法】しか使えず魔力をそのまま放出する無属性魔術の劣化版だったけど、【吸収魔法】を覚えたことであいつはS級冒険者にまでなった。まだこいつは生きてるんだったかな。

 セイの【分解魔法】もおそらくはこのどれかの問題があると思うよ」


「……なるほど。勉強になるな」


 セイの脳内で凄まじい勢いで記憶の洗い出しが始まった。自分が過去に分解魔法を使った際の記録、全て、だ。

 

「ま、今日の所はおしまいにしましょう。深層の夜は冷えますから、早いうちに寝床を準備しないと大変なことになる」

「……っん。そうだな。そうだった。ここは危ない場所だった」


 トトキに先導されセイはついて行く。

 彼は自分よりも格上だ。そう受け入れれば、後ろを歩くことに抵抗が湧くはずもなかった。





「なあトトキ、やっぱり俺よりもお前のほうがすごいってば。俺は札一枚で家を作るなんて出来ないよ。符術って言うの?教えて」

「いやいや、すごいのは私よりもセイの方だよ。魔境でこんなに美味しい食事にありつけるなんて思わなかった。このタレ?というのに肉を付けるだけでこんなに違うんだね」


 深層の蔦が絡まって洞窟の様になった空間に、街にあるような一軒家があった。

 二人組の男性が仲良く食事をしており、もしここにこれた冒険者がいれば周囲と室内との光景のギャップで幻覚を疑っただろう。

 なにせ、家を作る前にたおした巨大な魔獣が風よけとして放置されているのだから。


「街より深層で過ごしていれば楽かなって思っていたけど、こんな家に住めるなら本当に楽だな。一年ほど深層にいようかな」

「そうだなぁ。虫以外にもこんなに美味しいものが食べれるとは……そういやセイ、どうやって術式魔術なんて珍しい魔術を身に着けてたんだ?」

「はあ?」


 術式魔術、それはイメージと多少の魔力を世界に捧げることで、世界が魔術陣を媒介して代わりに魔術を発動してくれる便利な魔術だ。

 たしか、簡単な魔力操作で発動できるため、初歩の初歩でならう魔術………………のはずだが。


「いやいや、魔術陣を空中に展開するなんて、極めて高度な技術だよ。セイは鳥が空を飛ぶように、もしくは魚が海を泳ぐように簡単に魔力を扱っているけど、人族は魔力操作が苦手な種族だから、初歩の初歩なわけがない。

 術式魔術なんて、とっくに失伝して誰も使っていないと思っていたくらいには使用者が居ない魔術のはずだよ」

「まじかよ…………」

「むしろそれより、セイは精霊王や妖精王と同じくらい……いや、それ以上に魔力に親和しているのに、武術を修めているのが分からないよ。セイは鍛えなくても基礎スペックだけでかなり強いでしょ」

「それはそうだが、そんな俺をスパスパ切れる人に会ったことがあってな……それに殴ったほうが速いし……」


 セイは見た目に分かるほど狼狽していた。


 いや、おかしいと思ったことがないわけではないのだ。自分以外に術式魔術を使っている人を見たことが無いし、そもそも存在を知っている人が今まで誰も居なかった。


 思い返せば、砦で部下に魔術を教えた時も、ララに話を振った時と、誰も術式魔術の存在を知らなかったけど、あれらそもそも人間社会でほとんど誰も知らなかったからなのか。あいつらが無教養だからだと思ってた。

 この世界の錬金術が衰退したのもこれが理由か?


 いや、それでもなんで自分は術式魔術がこの世界の基礎的なものだと思ったのかと自問自答したら、答えはすぐに分かった。

 ナビがそう言っていたからだ。


『マスター。私はダンジョンマスターを補佐するための創造されたナビゲーションシステムです。知識もインストールされていますが、私自身は本の内容を読み上げるプログラムのようなもの。この時代のこの国の人間社会で一般的な知識とされているかのより合わせは私の責任が及ぶ範囲ではありません』

『はっはっは。お前は正しい。

 よし、そのうちお前に肉体を作って引っ叩いてやるからな』

『楽しみに待っております』


 ナビ、そういや五万年前の記録しかないんだった。術式魔術を基礎として魔術を習得するって、術の神が臨んだ机上の空論だったのかよ。


「あれ?そういやあの子は魔力操作をすぐに習得してたような」

「なにかいいました?」

「んー、いやなんでも無い。悪いことは起こってないからな」


 最近できた弟子の一人に想いを馳せつつ、さらに森の奥へと進んだ。





 そして虫と肉の内臓のどちらが美味しいかで争っていると、一年の時が過ぎていた。

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