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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
3章 豊穣の国
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42話 蠢く闇と呑気な光たち

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

完結目指して頑張ります。

 太陽の光が届かない闇の中で、血の様な赤いワインが暗い光を反射して輝いていた。

 長大な食卓に並べられた料理の数々も、そこに座った者たちも極めて品が良く、パンの一つ、食器を持つ仕草一つを見てもそこは平民とは違う世界であると感じさせる。


 しかし、ここに集まったのは貴族ではない。……いや、そもそも人間ではない。

 

 冷酷で、残忍で、血を求め、人を弄ぶ夜の貴族、吸血鬼。


「チルクの街に【暴竜】が現れたそうだ」


 その中でも原種と呼ばれる吸血鬼のコミュニティの一つで、不穏な会話が交わされていた。


「以前にも伝えたと思うが、【暴竜】は転生者だ。今回の議題はこいつをどう殺すか。皆で考えようじゃないか」


 そう言ったのはコミュニティに君臨する三人の原種吸血鬼の一人、ネイローゼ。いつも顔色が悪く神経質そうに顔を顰めている、見た目は二十代ほどの美青年だ。身に着けているもので貴族的な雰囲気を出しているが、書類か役人に向かい合っている姿の方が想像しやすいだろう。


「転生者で【暴竜】?ああ、田舎でのんびりしていれば満足だと言っていたのに、私たちに突っかかってきたやつだっけ?」


 暗闇の中から声が一つ応じる。同じく三人の原種吸血鬼の一人、ベオラン。ネイローゼと同じく二十代の美青年に見えるが、こちらは野性的な魅力を放っている。着ているものもはだけており、装飾品よりも己の筋肉質な体こそが美しいと主張している様だ。


「あの男なら俺の城の庭で働いているよ。宿屋をやりたいとも言っていたからな。俺の部下たちの別荘の管理をさせている。背中に娘と妻のアンデットを縫い付けてな」

「ベオラン、それは二千年前の話だ」

「じゃあ千を超える竜を従えた竜人の娘か?あいつはお前が飼っているんじゃなかったか?」

「そうだな。あの女には竜の繁殖と料理法を研究させている。が、それは一万年前の話だ」


 まるで漫才のような緩い会話だが、周囲で口を挟まずに控えている部下の吸血鬼たちは唾を飲み込むことも出来ないほど緊張している。

 当然だ。彼らは神話の時代から生きる怪物。同じ吸血鬼とはとても言えないほど別格の存在。自分たちなど一睨みで殺せる、神のごとき化け物なのだから。


「私が言っているのは五年前にラキア国に現れた、人族の青年の話だ」

「五年前?ってことは俺は知らねえな。前回の会合は十年前じゃねえか。三年前の緊急の会合じゃ聞かなかったし。

 んでラキア?あの滅んだ国か」

「ああ、そして現在の実力はA級冒険者に匹敵する。信奉しているのは時と術の神コククロ。所属している組織は無し。光神教とは親しくないが、独自の常識を持っているため行動が読めないため、場合によっては我々に牙を向ける可能性も十分にあるな」

「……はぁ!?」


 驚愕に顔をゆがめるベオランに、ネイローゼは愉快そうに頬を吊り上げて説明を続ける。


「所持しているスキル、及び能力値は不明。ユニークスキル……彼らが言うチートスキルも所持しているかすら不明。見た目の年齢は二十ほどだが、身長は報告によって一メートル五十センチとも五メートルとも。確実なのは魔術と剣術に秀でており、肉体が恐ろしく丈夫だということだが、これがスキルなのはマジックアイテムの力かは不明。師匠は【次元切り】のスレイ及び傭兵団『修羅』の面々。彼らから剣術を始めとする戦闘術を学んだらしい。

 今から五年前、十七歳の時に冒険者ギルドに登録。その一年後にはなぜかラキア国の砦を預かる将軍になり、そのさらに一年後の『死の王の乱』もどうやったのか生き延びる。その後は生死不明だったが、ここ最近冒険者ギルドに立ち寄ってことで発見できたらしいな」


 そうネイローゼが言うと、ベオランだけでなく、他の吸血鬼も動揺を隠せなかった。

 冗談だと思い笑い顔を作る者。事実だと思い呆然とする者。その中でもベオランだけは激高した。


「ふざけるな!転生者は見つけ次第に殺すと、千年前に決めただろうが!なぜそこまで育っているんだ!今すぐトトサワルモ地方にいる無能な吸血鬼たちを全員ぶち殺せ!」


 牙をむき出しにし、爛々と目を怒りに染めるベオランだが、転生者を恐れてはいない。ただ自分たちが五万年もの間、闇の世界に君臨できているのは自分たちが最強だからではなく、邪神の加護があったから、そして自分たちが勝てる状況を整えてから戦ったからだと。


 転生者はそれだけなら恐ろしくはない。異世界人、神話の勇者の同郷と聞けば聞こえはいいが、その実ただの一般人だと、神話の時代に勇者たちを直に接した彼らは知っている。

 しかし、彼らは異世界人、この世界の常識とは全く異なる世界で生まれ育ったがゆえに、この世界の誰も気づかず、また成しえないことをなすのだと、知っているのだ。


 知っているのだ。かつて創造と空間の神シュヌマーが「このままでは魔王には勝てない。ならば、異世界から救援を呼ぼう。この世界とは異なる常識で育った者たちならば、神を含めてこの世界の誰にも成しえないことを成すだろう」と言い、のちに勇者と呼ばれる者たちを召喚したことを。


 神話の勇者に並ぶほどの個人が現れたことは無い。法と光の神ハイディが異世界の知識を危険なものとして抹殺しているこのもあり、危険なほど文明が発展したことも少ない。

 しかし、個人であれ集団であり、自分たちの首に剣を届かせたものの中には、異世界人も多くいる。


 特に勇者と同じく『チートスキル』というものを持っている奴は極めて危険だ。今まで積み重ねた知識や経験を笑い飛ばすほどに強力で、そのスキルを持っているだけで自分たちの命に手をかけてくる者がいたのだ。


 【暴竜】がチートスキルを持っているかは不明だが、それよりも次元切りのスレイが師匠というのがやばい。十年前に次元龍を単独で撃破したときに、隙を突いて複数の邪神と悪神たちが短命の呪いを掛けたが、その際に咄嗟の反撃で一柱の悪神を切り殺したことはごく少数の存在だけが知る恐ろしい事実だ。


 そして何より。


「忘れたのか!あの十人目の最凶の勇者の事を!あの悪夢のような女を!」


 神話の時代、勇者として召喚された数は各属性の大神と同じで火、水、風、土、光、闇、生命、時間、空間の9人とされている。

 しかし、彼ら神話の時代から生きる者たちは知っている。勇者には十人目がいたことを。


 十人目の勇者は、光の勇者の恋人だった女だ。

 もとより勇者の選考基準は戦闘能力ではなく、各神々が己の教義に基づき素質のある者を連れて来たのだ。その中でも光の勇者はあちらの世界から旅立つ時に恋人に別れを告げると、なんとその恋人はこの世界まで付いてきてしまったのだ。


 特別な加護は一人に集中させたためその恋人の分のチートスキルは無かったが、愛する人のためにとその女は献身的に尽くし、元は看護師だったらしくこの世界でも多くの人を救った。


 そして結論を言えば、人類を裏切り、大神である芸術と風の神を封印し、匠と大地の神を消滅させた。

 法と光の神ハイディと愛と生命の神ヴィーナの戦いには横槍を入れ光の勇者たちを封印した。

 銃と近代兵器なるものをを使い神々を殺し地上で活動出来なくした。


 神々から名前どころか存在をなかったことにされた怪物にして、今でもどこかで生きている、怪談の様な実話。

 そんなやつの二人目になりうる相手を、生かしておくことはできない。


「その通りですネイローゼ様!その異世界人は今すぐ処刑すべきであり、その任をどうか私に!」

「いいえ、どうか私に!私ならばネイローゼ様とベオラン様の期待に応えて見せます!」


 そしてベオランの言葉に部下の吸血鬼たちも追従する。これは手柄を上げる機会だ。貴種と原種は生物として別物であるため手柄を上げても原種に進化できるわけではないが、手柄を上げれば邪神から加護を得らることが出来る、かもしれない。

 加護を得れば、他の貴種吸血鬼たちよりも上位の権力を手に入れられるのだ。


 ……ベオランのいう粛清に、自分たちが入っていない保証がないため有能さをアピールしたいというのもあるのだろうが。


「いいや、まずは失態を挽回させるチャンスを上げるつもりだ。トトサワルモ地方にいる吸血鬼たちも全員を粛清するとなると、我々と同規模のあいつらに隙を見せることになるからね。

 そもそもの話。頭角を現したと思ったらすぐに国が滅んだせいで情報がなくなり、生きていたと思えばあの空界都市アトラスに移住していたというイレギュラーな存在は今までの五万年の間にもいなかった。前例が無いことの失態は温情を掛けるというルールだろう」

「空境都市アトラス!?あんな場所にいたのか!?……いや、それなら、そうだな。今回だけはぶち殺すのは無しだな」


 その言葉にホッと息を吐く吸血鬼たち。

 しかし、一部の知識がある吸血鬼たちは顔を強張らせていた。


 空境都市アトラス。『大地を映す天蓋』や『山を生む石』といった第一世代の魔物が稀に奥からやってくる、人界の最果ての一つ。

 龍や巨神と同じく肉体を持つ神々の一種である原種吸血鬼にとっても、命の危険が伴う危険地帯だ。

 そんなとこに住まわれれば、さすがに手を出せない。


「これはまだ七割しか確定とは言えないが、娘がいるという情報がある。この弱みから探ってみるよ」

「なるほど。まあその手の話はおまえが一番うまいからな。お前に任せるよ。武力が欲しいときは俺が行こう」


 吸血鬼という邪悪なイメージとは裏腹に、比較的彼らは仲がよかった。

 この世界の異物として自分たちを排除しようとする光の神に、自分たちと同じように邪悪な神に首を垂れた原種吸血鬼たち。そんな多くの敵がいるために、このコミュニティの原種吸血鬼たちも比較的結束出来ていたのだ。


 あとはいつも通り、難民や貧民を束ねる闇ギルドがどうだとか、トト商会に入り込めないかどうかだとか、チヨウ国の王族の生き残りが自分たちに靡きそうだとか、不老の吸血鬼たちの長い夜の暇つぶしに役立つ情報を交換し、新しい吸血鬼候補の紹介と承認を行い、お開きとなった。


「そういやネイローゼ。チルクの街っていえば、お前の人間牧場があった場所じゃなかったか?無限光が嗅ぎつけてきそうって言ってた」

「覚えていたのか。そうそう。ハイディ教の無限光がやってきたよ。七人中四人は殺したんけど……」





 昼下がりの飲食店。酒場や食堂ではなく、貴族には劣れども十分に裕福な人が訪れるおしゃれなカフェのような飲食店に、一組の男女がいた。

 年齢こそ少年少女ではないが、二人ともにこやかで遠目には大人同士のカップルにも見えるかもしれない。


「で、国中に使い魔を飛ばせるほどの魔術師である君に、この街に居る吸血鬼の捜索を手伝ってほしいんだ」

「報酬次第と言いたいけど、そもそも俺は情報屋じゃないから他を頼りなよ」


 実際は恋人ではなく、平和的な話し合いから瞬時に殺し合いに移行できる物騒な心を持つ二人組、セイとオデットである。

 

「これは極秘の情報なんだけど、この街の領主は吸血鬼と繋がっていているんだ。そして神殿にも魔の手が及んでいて、多くの孤児院から吸血鬼の家畜が『出荷』されている。私たちはこれを止めるためにこの街に来たんだけど、既に三人の仲間が殺されて困っているんだ。

 困り果てたお姫様に力を貸したように、私たちにもその力を貸してくれないかい?」

「極秘の情報をさらりと流すのは止めてくれよ。聞いても聞こえなかったふりをするけど。

 で、お姫様っていうのはアーゼランのことか?あいつとは色々あって協力したけど、あなたたちとは特に何もないから手伝わないよ」


「うーんそれは困った。この街の情報屋は信用できない奴しかいなくてね。君の様に中立の人こそ信用できるんだ。

 そうだ。見返りに私の体を好きにしていいよ。これでどうだい?」

「それはとても魅力的だけど、これでもやりたいことが多くて忙しいんだ。ていうか神殿の人って身持ちが硬いんでしょ。自分の体を大切にしなくていいのかよ」

「はっはっは。私たち無限光は戦闘部隊だから、街に居る人たちとは事情が違うんだよ。思想が同じなだけで組織が違う、と言ってもいい。

 というかハイディ様の教えでは肉欲は禁じていないよ」

「そういやそうか」


 無限光。神の光に限りは無く、この世界全てに行き届くという光神教の一般的な思想に基づいて設立された戦闘組織であり、信者を守る一般的な神官戦士と違い邪神信奉者や異端者を殺して回る、戦闘に特化した武闘派集団。


「無限光はその時代の教皇の直属の組織であり、人数の上限は決まっていないが現在は百二十七名。その中でも三名の隊長を頂点とした組織があり、あなたとリタという女性は『回帰』という神の時代に世界を戻すことを目指していて、吸血鬼や魔人族といったヴィーナの新種族を主な標的とする派閥にいる。

 あってる?」


「……どうだろうね」

 セイは淡々と語るが、オデットはその内容に頬が引き攣っていく。その内容は一般人が知っているはずのない事だ。

 特に人数は自分たちの所属は知られていることが内通者を疑う程の異常事態だ。


 だが、今はその異常な情報収集能力に頼りたいのだ。


「君ほどの人物とはじっくり時間をかけてでも仲良くなりたいけど、今は私たちにも時間が無いんだ。だから手早くいくよ」


 そう言って懐から取り出したのは、光り輝く石であり、その石には『7』という数字が書いてあった。

 その石の正体に感づいたセイは慌てて周囲から疑われなくなる【幻惑】の結界を展開する。


「無限光のメンバーの証である身分証だ。これを君に預ける代わりに、私に協力してほしい」

「…………まじかよ」


 その覚悟に、セイは思わず身を見開く。セイはこの世界の人間社会から半歩以上はみ出しているし、神殿との距離も遠いため実感は薄いが、目の前の身分証は行ってしまえば彼女の命そのものと言っても過言では無い代物だ。

 この光る石は光神石といい、法と光の神ハイディの祝福を受けた神像を加工して作ったもの。無限光のメンバーだけが持つことを許され、失うことは粛清対象になってもおかしくないのだ。


「そこまで覚悟を示すなら、俺も協力したくなるというものだ。いいよ。なんでも聞いて。俺の【収音】の魔術と【高速思考】、【並列思考】、【意思思考】の合わせ技なら、いまこの瞬間、神殿の地下の分厚い防音室でリタって人が俺の悪口を言っていることも、この街から少し離れた砦で領主様がある女性と密会していることも全部『聞こえる』からね」





「ありがとう。このお礼は後日必ずする。また困ったら頼らせてもらうよ」

「いいよいいよ。その代わり光神石を返して欲しかったら俺の頼みも聞いてね。まだ何も決まってないけど」


 オデットと別れたセイは宿に戻る。やはりダンジョンに潜ると日にちの感覚がずれてしまうからこんな中途半端な時間になってしまったが、まあしょうがない。

 適当に裁縫でもしよう。


「あ、あの!」


 そう思っていると、セイにまた誰かが立ちふさがった。

 女性……ではなく少女というべきか。金色の髪と瞳。皮の鎧と質の悪いナイフ。典型的な駆け出しの冒険者だ。


「あれ、君は確か……さっきの冒険者パーティーの荷物持ちの子?」

「は、はい!お願いします!そ、相談に乗ってくれませんか!?」

「うん。暇だからいいよ」

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