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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
幕間 1部
40/119

閑話 1 聖騎士 1話 親子

空にある魔境、通称魔空の中でも最も危険とされる聖領アルカディア。その危険度は聖領ユグドラシルにも匹敵し、並みの冒険者なら一時間で殺される。

 そんな危険地域の一角で、ある少女が魔物を一方的に蹂躙していた。


 巨大な剣を振るい魔物を次々と肉片に変えていく。剣術というより喧嘩慣れした人間が剣を握っているような荒々しい戦いだが、津波のように襲い掛かる大量の魔物を相手に一歩も引いていないその姿からは確かな実力が伝わってくる。


 実力は確かなようだが、その姿は少し珍妙だ。一般的に魔物と闘うのは冒険者や傭兵、兵士に騎士だが、その格好は誰が見てもそのどれでもないと分かるだろ。なにせ修道女の服を着ているのだから。

 一般的な修道女の服とは少し違う。スカートは動きやすくするためにスリットが入っており、頭部に被るフードも首元に届かない程度の長さしかない。。


 しかし特徴的なのは、刃渡り十五メートルはある巨大な剣だろう。


「ぜりゃあああああ!!!!」


 野球バッドでも振るかのように巨剣を振ると、多くの魔物が吹き飛ぶ。

 下を見ればランク1のゴブリン。上を見ればランク5のミノタウロス。代わりどころでは魔空に適応し翼を生やしたランク4の狼スカイウルフ。それらがめくれ上がった雲の地面の破片と共に木っ端みじんに吹き飛ばされていく。その様はまるで巨人に蹴り飛ばされる土塊のようだ。


 大量の魔物を倒し油断している少女に向けて、大木の陰からオークアーチャーが弓を構える。

 オークアーチャーのランクは4。ランク4ともなればその身体能力は恐竜に匹敵する。しかもその上で弓を使っているのだ。弓は人体だけの限界を超え威力を出す兵器であり、地球人でも弓を使えばその力は鉄板を貫通する。それを恐竜並みの身体能力の持ち主が使うのだから、その威力はさらに高まり戦車すら貫通する。


 弓はバキバキと金属の棒が軋む音を立て、ついに矢が放たれる。


「ふん」


 しかしその矢は、少女の掌で受け取められる。いや、正確には、少女が纏った高密度の闘気が矢を防いだのだ。


 闘気は普通なら陽炎の様にぼんやりとしか見えないが、密度を上げると遠くからでも分かるほど輝き出す。それはその昔、人類が神の庇護を失い、魔術も技術も衰退した時代に人類を守った輝き、人類の前に立ちふさがる暗闇を切り裂いた明かりにして、灯火と呼ばれたもの。

 少女の闘気もそんな灯火と呼ばれる領域に到達していた。


 手のひらと戦車さえ貫く矢が衝突すると轟音が空気を揺らし、その余波で少女に奇襲を掛けようとしていた魔物が思わず身をすくめてしまう。しかし、矢は少女の手のひらの皮一枚破ることも出来ず、べきりとへし折られた。


「うらぁああああ!!!」


 巨剣を投げ飛ばし、追いついて殴り飛ばす。その巨剣の射出はまるで大砲のようで、オークアーチャーを大木ごと粉砕した。

 

 巨剣は勢いを落とさず突き進み、雲山の麓からこちらを見ていた巨人の腹に突き刺さりようやく止まる。


 巨人、巨人族とルーツを同じくし、はるか昔この世界の神として生まれた巨神の中から、魔王への恐怖や畏怖の感情からこの世界を裏切った巨神が生み出した魔物たち、その怪力は竜にさえ迫る大自然の暴力の側面の化身だ。


 ランク8、スカイジャイアント。空に適応し百メートルを超える巨体でありながら翼で飛行する、巨人の中でも常識外れの力を持つ巨人だ。


 そんな巨人に向けて、女性は疾走する。闘気で強化された脚力は雲の地面を抉り、音の速さで体を前に進める。

 少女は巨人の腹に着地し、剣を引き抜きと同時に真上に跳躍する。そして巨剣に魔力を注ぐと、ただでさえ十五メートルと巨大だった剣が百五十メートルという超超超巨大な剣にまで巨大化する。


「死、ね!」


 闘気を足元に集めて作った簡易的な足場を使い急降下。巨人は反応する暇さえなく一刀両断された。

 

 その衝撃で雲の地面が崩れ、遥か低空の地表が見える。落ちれば超人でも死ぬだろう。せっかくの高ランクの魔物の素材は持って帰らないともったいないと少女は慌てて剥ぎ取りにかかる。


 その寸前、誰かに見られていたことに気が付き剣を向け‥‥‥ようとしたが、それが知っている人物だった分かり剣を降ろす。


「大将じゃん!久しぶりだな!」

「おう、元気そうだな」


 セイが顔を出すと、ハナビの世話係をしている少女、アサルは朗らかに手を振った。





 アルケンシア大陸の辺境、標高五千メートルの山の上にある岩肌をくり抜いて作られた空境都市アトラス。

 その都市にある場末の酒場の様なこの場所が、十六歳にしてB級の天才冒険者【暴母】のアサルの拠点だった。


 小国では国一番であってもおかしくないB級冒険者が利用する拠点としてはふさわしくないように見えるが、その理由はアサルの振る舞いを見れば明らかだった。


「おーい店長!ビールおかわり!」

「アサルちゃんこぼしすぎだよ!」


 正直に言えば、かなり下品な振る舞いだ。

 いや、下品というのは大げさかもしれない。しかし冒険者は粗野なものが多く、アサルの振る舞いもかなり粗野……品が無い、というのが正確かもしれない。

 豪快にビールを飲んでいる。この世界では一般的に十五歳で成人であり、そもそも飲酒を禁じる法律は無いが、ぐびぐびと流し込んでいる様はおっさんのようだ。


 アサルは神官戦士であったため礼儀正しい人物であったはずだが……元々アサルはスラム育ちであり、流れの聖職者に救われて教会に入り教育を受けたという経緯がある。そのためもしかするともともと粗野で、人格を漂白したことで被っていた猫が外れたのかもしれない。


「だははははは!!!」

(しっかし、記憶を消したはずなのに、なんでこうなったんだ?)


 人格とは一冊の本の様なものだ。 生まれた時は白紙だが、人生経験を積むごとに中身が書き込まれ、独自に人格が形成される。

 セイが行った闇属性魔術の精神干渉は、その本を消しゴムで白紙にし、セイに都合のいい情報を書き込む術だ。


 幼児や廃人になっては困るため抹消する記憶は最低限にとどめ、本来の記憶を保ったまま人格をセイに絶対服従、家族や光神に向けていた感情をセイに置き換える。そうしてセイは都合のいい従者を手に入れたはずだった。


「ほら大将。ここはソーセージがうまいんだ。食え食え」

「もがもが」


 こいつ俺に絶対服従とかしてないだろう。ソーセージを口に突っ込まれながら、セイはそう確信した。

 セイが趣味で着せていたメイド服も脱ぎ捨てて、着慣れているのか修道服らしきものを着て、セイにもフレンドリーに接している……のだと思う。ため口は生意気な態度とも受け取れるが、セイの乏しいコミュニケーション能力でもこれに悪意が無いことは分かる。


 セイにとってアサルの態度は不良のヤンキーのようだ。もちろんセイは不良もヤンキーも実際に接したことが無い。そのためセイからすれば異文化で馴染みがいないだけで、距離の近さのアピールに背中を叩いたりするだとか、粗野な態度も素の自分をさらけ出すとか、そういう事なのかもしれない。


(記憶は消したはずだが……いわるゆ染みみたいなやつかな。洗濯しても消えない頑固な汚れがあるような、記憶を漂白しても消しきれない記憶があるんだろう)


 セイを最上位に優先するという書き込みは消えていないと思うが、たぶんそれさえ守れば後は自由にしていいというような精神の再構築が起こったのかもしれない。

 なにぶん、セイも他者の記憶や人格の干渉などあまり経験が無いためはっきりとした結論が出せない。


「大将、そっちの調味料とってくれ」

「はい」


 セイは理解を諦めることにした。

 悪意は感じない。そして害意も感じない。ここ二年ハナビの面倒をちゃんと見てくれている。ならばなにも不満は……なくはないが、もとより完璧や理想とは届かないものなので、現状で満足しておこう。


 精神干渉の魔術が変な不具合を起こしたとか、そういうことではないはずだ。


「お、おい……アサルちゃんと一緒に居るのはまさか……っ!」

「あ、ああ、まさか、あの、アサルちゃんを孕ませて捨てたっていうあの……っ!」


 酒場の他の席からセイたちを見て噂話をしている声がする。

 それもとんでもない内容の。


 しかし、誤解されるのも当然だ。アサルは実年齢が十六歳らしいが、幼少期をスラム街で暮らしていた時に栄養失調だったせいか身長が低い。セイの見立てでは、セイがいま百八十センチくらいで、セイの胸程度しかないから百四十センチだろうか。


 そんな少女が二歳の赤子を連れて冒険者をしていれば、どういう理由があるのかと疑問に思われるのは当然だ。冒険者は死に近いため他者と仲が深まりやすく、肌を重ねる関係になることも多くまた早いというのは有名な話であり、妊娠する女性冒険者も珍しくないし、それが女性と赤子だけで旦那が一緒に居ないという例も珍しいが無いわけではない。

 しかしその女性が見た目なら十歳程度で、天才的な実力の持ち主で、しっかり子供の面倒まで見ているとなると、前例がないと言っていい。


 優秀な女性冒険者が子供を産んでも育てるのは雇った侍女という例や、育てられず教会や孤児院の前に捨てていくという話なら多いのだが。


 そして、そんなどう考えても旦那と破局したとしか考えられないのに、旦那らしき人物と仲良く食事をしていれば、困惑するのも当然だろう。


 今まで気にしていなかったが、少しは外聞というものを気にするべきかもしれない。


「それでハナビのやつも最近は魔境にまで付いて行きたい言い出してよー」

「ふーん……じゃあ明日俺が連れていくよ」

「お?いいのか?危ないぞ?」

「いいよいいよ。俺なら大丈夫だし、一応父親だから、父親らしいところを見せておかないとな」

「そりゃあハナビも喜ぶな。あいつ捨てられたのかと気にしてたし」

「ほえ?そうなの?」

「ああ、赤子の成長は速い。昼間は孤児院に預けているが、それが普通ではないとあの子も気が付いているみたいだ」

「そっかー……まあ一年くらいは居るつもりだから。しばらくは俺も面倒を見るよ」

「そりゃ助かる」


 食事が終わり、セイは重大なことに気が付いた。


「そういや金が無いんだった。俺の分も払っておいてくれ。あと宿が無いから泊めて」

「分かった」


 店員や他の客の視線がなんとなく痛かった気がする。

 外聞に気を付けよう。





「ハナビ、起きろ」

「ん……っ……ん……?だあれ?」

「セイ。お前の父親だ」

「ちちおや……、ちちおや!?あんたがおれのおやじなのか!?」

「………………口が悪い……いや、アサルがああだし、当然か」


 清楚な見た目の可愛い見た目からは予想できない口調に一瞬遠い目をしたが、意識して気持ちを切り替える。


「ハナビ、魔境に行く。一緒に来るか?」

「まきょう……いく!」

「大将、ハナビ、山見屋に行ってきたけど、今日は山が降るそうだから気を付けろよ」

「「はーい」」


 セイは着の身着のまま、ハナビには念のため結界石と空気草を装備させてから魔境に向かう。

 今は早朝の八時。大抵の冒険者や参道師は既に魔境に入っている。それは朝早くから仕事に取り組んだ方が不測の事態が起こってもカバーできるという真っ当な考えに基づくものだ。


 そんな彼らを見下ろしながら、セイは雲の地面を歩くのではなく空を飛んで最深部まで行くことにした。


「たかーい!」

「しっかりつかまってろよー」


 セイは無属性魔術【飛行】を使い、ハナビをおんぶしながら風のように聖領アルカディアの雲山脈の山頂まで向かう。

 

(あったかい……?)


 竜や天魔のような影を避けながら進み暗雲道に突入したが、ハナビはそんな暗い景色の中で、不思議と懐かしい様な感覚に包まれていた。

 ハナビは知識が無いため、セイはそんな大ごとだと思っていなかったためどちらも正解にはたどり着けなかったが、ハナビの頭の中には生まれたばかりの頃。実の両親が育てられないと泣きながらハナビを手にかけようとした時のことや、まだアサルが居らずセイがハナビのおしめを変えてきた時の、懐かしく、確かに愛されていた時の感覚を思い出していた。


「ついた。ここが一番上だな。あの雲の中には危ないから入れないけど」

「……わぁ」


 ハナビはセイの声に意識が現実に戻る。そしてその眼には、壮大な景色が広がっていた。


 上空三万メートル。聖領アルカディアのさらに上空だ。

 眼下には巨大な雲の塊が浮遊している。この距離なら綿あめのような優しい存在に見えるが、実際は直径が五十キロはあり、周囲を雷が包んでいる。伝説によると聖獣、魔物でありながら、その絶大な力故人間にも興味を示さない神のごとき存在が住まうという。


 そしてその周囲には雲海が広がり、雲海から島のように標高数万メートル級の山が突き出している。


(さすがに広いな)


 この世界は神話の時代は竜や巨人といった人間よりも遥かに巨大な生物が生活していたため、地球よりも遥かに大きい。知識としては知っていたが、実際に見てみるとセイもそのスケールの多きさに舌を巻くばかりだ。


「すごい!すーーーーーーーーっごい!」

「喜んでくれたか?」

「うん!もちろん!」


 ハナビも喜んでくれている様だ。

 セイにとってハナビは押し付けられた存在であり、父親を名乗っているが、父親の自覚や父親の責務といった考えはない。


 しかし、形には意味が宿り、名前には意味があるという。


「ハナビ」

「ん?なんだ、おやじ」

「どうしてお前にハナビって名付けたか、教えておく」

「どうして……?」


 セイは手のひらに魔力を集める。属性は火、光、風、そして土。

 上空に向けて発射。魔力は様々な色が付き、花のように広がる。


「わぁ……!」

「あれは花火という。炎の花。輝く花。綺麗な花。あれがお前の名前の由来だ」


 ハナビは初めて見る綺麗な花火に目を輝かせるが、何かに気が付いたように顔を暗くしてしまう。


「おやじ……」

「ん?どうした?」

「おはな……もうきえちゃった……わたしも、すぐにきえちゃうの……?」


 セイはその言葉にキョトンとした。そうか、真意というのは、やはり簡単には伝わらず、言葉と行動を重ねたほうがよい、と。


 そして、まさか、と言葉を返し、再び手のひらに魔力を集め、打ち上げる。


「うわぁ……!いっぱさいてる……!!」

「花火は一瞬で消えるが、何度でも打ち上げられる。お前も同じように、お前が輝きたいと思う限り、何度でも輝けるさ」


 ハナビは今度こそ花火に目を奪われてくれたようだ。

 ありがたい。実は、これから言うことは、セイにとっても恥ずかしいのだ。


「なあ、ハナビ」

「?なあに、おやじ」

「そうだ、俺は親父だ。そしてお前は俺の娘だ」

「……?うん」


 一呼吸置き、しっかりとハナビの目を見る。

 ハナビも、綺麗な景色を楽しむ目から、すこし真剣な目になった。気がする。


「形には意味が宿り、名前には意味があるという。……いまは愛など無くても、これが暇だからから始まることでも、俺がお前を娘と呼び、お前が俺を親父と呼ぶなら、いつかきっと俺たちは親子になれるのかもしれない。

 だから、お前が俺を親父と呼び、俺がお前を娘と呼ぶうちは、親としてお前を愛し、必ず助けると誓おう。……ずっと一緒に居るかは分からないけど、これは絶対だ」


 セイは真剣な眼をしてハナビに語り掛ける。

 自覚は無かったが、セイの人生の中で、一番真剣な顔をしていた。


 昨日までのセイは子供であった。地球では十七歳の高校生、つまり子供で、そこから生まれ変わっても、腕っ節が強くなっても、何も背負わないセイは大人びた子供の延長線上にいた。

 しかし、今日初めて、セイはその人生で大人の顔を、人生の先輩として、誰かを導く者の顔をしていた。


 これはハナビに伝わっただろうか。


「……??…………???」


 伝わって無いようだ。


「……やっぱりこういうのは俺の柄じゃないのかな。いやまあ、二歳にする話じゃなかったか」

「よくわかんないけど、ありがとな!おやじ!」

「おう!じゃ帰って飯にするか!」





・名前:アサル

・種族:人種

・ジョブ:巨剣投剣士

・レベル:30

・ジョブ履歴:見習い剣士、剣士、見習い神官、剛剣士、大剣士、巨剣士

・年齢:16歳


・パッシブスキル

状態異常耐性:8Lv

物理耐性:8Lv

魔術耐性:8Lv

精神耐性:8Lv

剣装備時攻撃力強化:小

自己強化:信仰:8Lv

能力値強化:前衛:8Lv

怪力:8Lv


・アクティブスキル

剣術:8Lv

闘気:8Lv

投擲:8Lv

無属性魔術:1Lv

光属性魔術:1Lv

魔力操作:1Lv

限界突破:8Lv

家事:3Lv


・ユニークスキル

巨剣の申し子

ダンジョンコア解放:7Lv





・名前:ハナビ

・種族:人種

・ジョブ:無し

・レベル:50

・ジョブ履歴:無し

・年齢:2歳


・パッシブスキル

無し


・アクティブスキル

無し


・ユニークスキル

勇者の運命

ダンジョンコア解放:1Lv

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