32話 一手目
「————————————ん”ん”っ……やめっ……!」
「————————お前の―い―で――がっ――」
「————こ——やる――っ」
壁の向こうから肉を打ち付け合うような音と、水がはじけるような音が聞こえてくる。この砦に来てから汚かったので最初に改造した部屋、攫ってきた女性に乱暴する部屋が約一年ぶりに使われていた。
連れ込んだのはセイの部下の兵士たちで、連れ込まれたのはラドミアだ。
セイからすればこの砦で勤務しているただの仕事の同僚であり、強い感情は持っていなかったので何とも思っていないが、兵士たちにとっては最初の戦場から一緒にいた戦友であり、共に死線を超えた仲間だったのだろう。それゆえに大勢の仲間を殺したラドミアを憎んでいた。
凌辱も性欲の発露ではなく、憎しみの発露を性欲という形で出力しているのだろうか。漏れ出てくる声は弱者をいたぶる喜びではなく、どこか悲痛に聞こえる。
セイは冷静に「いや、そもそもこっちも相手を殺しているし、俺の部下の死の責任は俺に帰結するはず」と考え伝えたが、憎しみとは合理性とは無縁の気持ちなのだろう。全く耳を傾けてくれなかった。
というかそんなに兵士同士で仲が良かったこともセイにとっては驚きだ。表面的にしか把握していなかったのだが、まあ破落戸には破落戸なりの絆でもあるのだろうか。
「もうすぐ茶が出来るから、それを飲んでいったん落ち着いてほしい」
「……であれば、あれを今すぐ止めていただきたい」
「すまんがあの女は部下にあげちゃったんだ」
いや、そんなことで現実逃避している場合ではなく、今は正面にいる女性に集中するべきか。
目の前に居る女性の名はアイリ。ラドミアの従者であり、右腕であった女性だ。
聞こえてくる悲鳴かもしれない音を聞きながら、こちらを視線で射殺さんとしている。当然だろう、妹のように大切に思っている姫様が乱暴にされても、自分は何も出来ないのだ。その心情は察して余りある。
(とりあえず連れて来たけど、どうしようかな)
セイは手元で茶を作っている。問題に向き合いたくないので、もう一回現実逃避に茶に意識を集中しようか。
セイの作っている茶は沈静作用のあるお茶だ。スレイの弟子をしていた時に、「稽古の後にはこれを飲みなさい。叩かれて内出血した血が固まると稀に視力が落ちたり、腕が持ち上がりにくくなったりと悪影響が出ますので、それを防止する薬膳の一種です。まあセイは頑丈なので必要ないでしょうけどね」と言って教えてくれた技術。あの剣以外は無能と言ってもいい師匠が教えてくれた、唯一の剣以外の技術だ。今でも大切に覚えているし、改良して鎮痛効果や眠り薬としても使えるようにしてある。
今回のような状況を想定していたわけではないが、役に立ったなら幸運と喜びたくなる。
(うん。すぐに出来ちゃった。さすが俺だな)
内心で冗談を飛ばしながら、諦めて視線をアイリに向ける。
美しい女性だ。あまり他人に関心が無いセイでもそう思う。この世界の貴族には良くいる金髪に碧眼。年齢は知らないが、身長は百七十センチ程度だろうか。可愛いよりも美しいという形容詞が似合うだろう。
貴族らしいが、やや地味目。お城に居る美人なメイドさんに混ざっていても違和感はないだろう。
こちらを睨みつける眼力が強すぎて、ちょっと怖いが。
「要件は……」
「ん?」
「要件は、なんですか?」
アイリは激情をなんとか飲み込んだ口調で問いかけてきた。
「姫様をあんな目に合わせて、それを私に隠しもせず、私をあなたの前に座らせた理由は、なんですか。
我が国の機密情報を聞き出すことも、調略も、姫様をあんな目に合わせては、出来ないでしょうに」
アイリの疑問は最もだ。
敵兵を捕獲した場合、大抵は人質として身代金を国や雇い主である貴族に要求する。それは捕獲したのが最強の精鋭部隊の一人でも、国王の娘でも同じことだ。
しかし、国王の娘を捕獲しておきながら、身代金を要求もせずに、政治的な交渉の武器にするわけでもなく、現場の兵士たちに慰み者にするために下賜するなど、アイリには聞いたこともなかった。
間違いなく、王都の貴族たちに引き渡して政治的な交渉の切り札の一つにしたほうがいい。
何せ国王の娘なのだ。身代金として国家の収入の数年分を要求しても無理な要求ではない。
少なくとも慰み者にすることはあり得ない。
A級冒険者に匹敵する力を封じるために隷属の首輪で思考を制限したりといった、平和的な処置にとどめるはずだ。
それが当たり前のはずだ。
加えて、ただの従者でありラドミラと比べれば価値など無いに等しいアイリまで手当てをして砦に連れ込んだ理由も分からない。慰み者にするというのなら納得できる理由であるが、目の前に座るセイにそのようは気配がないのもアイリの混乱に拍車をかけていた。
そして、セイはその問に対する答えを有していた。
「特に理由はないぞ。ただ、お前が生きていたから連れて来ただけだ」
その答えは、アイリの脳は拒絶してしまうものだったが。
「なんか俺は殺しが好きみたいに語られているが、そのつもりは無い。平和を愛している。死体を探しに行ったらお前は生きていたからな。戦いの最中ならともかく、明確に勝敗が決まった後に殺す必要もない。だからお前を手当てしたんだ。
ああ、ラドミラに関しても理由はないよ。精鋭部隊の一員にして王女とか、手に余るから死んだってことにしたほうがいい。今度に関しては、まあとりあえず死なせはしないよ。兵士たちが落ち着いたら、適当な場所で第二の人生でも歩んでくれると最善なんじゃないかとおも――」
アイリの拳がセイに迫る。その拳はセイに片手で受け止められたが、口を止める効果はあった。
「ふ、——————」
「ふ?」
「ふざ、けるなっっっ!!!!」
捕虜という立場も、姫様の命を握られているという状況も頭から吹き飛んだ。
「……まあ、そうだろうな」
当然セイも自分の言葉が受け入れてもらえないものだということは承知している。
戦いの後で生き残った人は殺したくないというのは本心だし、王女の身柄とか手に余るのも本当で、おとなしく第二の人生を歩んでほしいのも本当だ。
しかし、なんの理由もなく生かされて、おとなしく……国に帰ることもなく、今までの人間関係や人間社会での立ち位置を捨てて生きろという言葉を受け入れる人はそうそういないだろう。
セイなら死んでも殺しに挑む。
「とりあえず、【鎮静】【睡魔】」
「きさ、ま‥‥‥」
「茶が無駄になってしまったし、説得上手くいかないか。うーん本当にこいつどうしようかな。殺すわけにもいかないし」
眠らせたアイリの前に、セイは一人腕を組んで考え始める。
殺してしまえば、現在セイを悩ませている問題は間違いなく解決する。
しかし、その選択は取れない。この世界に来て早三年。セイもこの世界に馴染んできたが、現代日本で生まれ育ったことで育まれた価値観や常識、倫理観が無かったことになったわけではない。ゆえに、殺さなくても解決できるのに、『殺し』という安易な選択を取ることに大きな抵抗を感じていた。
「よし、保留。当面は下働きでもさせて、そのうち結論を出すか」
「以上が報告になります」
チヨウ国の最重要視施設である王城、その中でも限られたものしか入れない部屋に四つの影が在った。
一つは俊敏性と隠密性を増加させるマジックアイテムを多く装備している男性。
次の『王殺し』になれると期待されている『翼』のメンバーであり、セイたちとの戦いを観察していた唯一の人物である。
『閃光剣』のラドミラも、『王殺し』のアロン、『蛇使い』のスーナナも誰にもその存在を伝えられず、彼らが死んでも助太刀せずに情報を持ち帰ることだけが役目の諜報員だ。
「……最悪だな」
報告を聞いた青年、チヨウ国国王、レギウス・チヨウはそう呟いた。
彼は『六翼剣』のメンバーを使い捨てにしたつもりはない。
『王殺し』のアロンはここ十年任務を失敗したことがない最強の暗殺者であり、仮に『暴竜』が噂通りの……噂にある通り山を素手で投げ飛ばしただの口からビームを吐いただのといった不確定な情報が全て真実であったとしても、彼ならば殺せずハズだった。
『蛇使い』のスーナナは千を超える多種多様な変位種の蛇を操る世界最高のテイマーだった。人工的に交配させ狙った特殊能力を持つ蛇さえ作り、その力は千人の一流の魔術師と総力戦が出来るほどだ。彼ならばたやすくセイの部下を殺し、万が一決着が着いていなければアロンに助太刀し、強力な支援をしただろう。
『閃光剣』のラドミラも、他二人には劣るがA級冒険者に匹敵する力を持つ。足手まといにはならないはずだった。
そして『はずだった』は、何一つ想定通りにはいかなかったようだ。
「恥ずべきことです。ご命令いただければ、私が直接出向きましょう」
そう声を掛けたのは、五十代程度の壮年の男性であり、国王であるレギウスに対等な目線で会話が出来る人物。
彼はラギロウ。六翼剣のゼロ人目にして司令塔、『天輪』の名を冠する最強の切り札だ。
「いや、万が一がある。あの黒い光を見ただろう」
その言葉には、ラギロウも無視できない。
その生涯をチヨウ国に捧げ数多の強敵、数多の魔物と戦ってきた彼であっても、あれほどの魔術を見たのは数えるほどだ。
国のために負けられないという気持ちはあれど、冷静な思考は万が一を考え今は出るべきでないという結論が出るのは自然なことだった。
「それに、もはや武力が役に立つ段階ではない。ラキアに送り込んだ諜報員たちの情報を急がせろ。
ラドミラの居場所を、一刻も早く突き止めなければ!」
『六翼剣』が『暴竜』を討伐のために出撃したことはチヨウ国が大々的に宣伝したため誰もが知っている。
なぞの漆黒の閃光が全てを破壊し、その後チヨウ国が勝利の知らせを発表しなかったことで、『六翼剣』が負けたことを誰もが理解した。
そして、ラキア国が「六翼剣を三人打ち取った」というお触れを出したことで、それは確定情報になった。
「だが、我々はラドミラが生きていることだけは分かっている」
ラドミラは六翼剣のメンバーであるが、同時に王位継承権を持つ王族である。そのため彼女の生存を知らせるマジックアイテムをチヨウ国は保有していた。
契約者が死ぬと明かりが消える蠟燭型のマジックアイテムの明かりが消えていないのだから、間違いなくラドミラは生きている。
「となると、やはり『暴竜』のセイは確実にラキア国中央政府の子飼いだな。他のメンバーは始末しておきながら、ラドミラだけは生け捕りにする。間違いなくラキア国から指令を受けているはずだ」
「でしょうな。これほどの実力者を我らに悟れせず育て上げ、国のためなら汚名を被ることもいとわない。……我らはラキアを甘く見ていたようだ」
そして彼らは、セイがどこかの貴族や王族が保有する戦力であると誤認していた。
人は理由を求める生き物だ。一流の政治家でもある彼らは、セイのような存在を作れる貴族に心当たりがあるだけに、完全に事実を誤認していた。
「……随分と、自分たちに都合よく考えるんだな。お前たちの考える陰謀は全て偶然で、『暴竜』はただの一般人だとは考えないのか?それこそ、俺の様な」
「………………口を挟まないでいただきたい。あなたはただ護衛として名前だけ雇われているのですよ。
それに、それだけはあり得ないでしょう、あなたの様なものが他にいるなど。『森人』のアルフ殿」
そう声を掛けたのは、『森人』のアルフ。
世界に三人しかいないS級冒険者だ。
「ああそうだ。貴方であれば『暴竜』が相手でも倒せるでしょう。いかがですか?」
「ラギロウ、俺は目立った動きをするつもりはない。隠居中の爺だからな」
「そうでしたね。その見た目では、いつも混乱してしまいます。不思議な生き物ですね、エルフというのは」
『森人』のアルフ。彼はエルフだ。
この世界の神話において、神々は最初に人族、エルフ、ドワーフを創造したという。亜人と呼ばれる獣人や鬼族は魔王との戦いの後に生まれたのだ。
それゆえに人族、エルフ、ドワーフは平等であり、他の種族と違い地球で言う人権が認められている……が、実際にこの辺りの国々で人族以外を見ることはまずない。
支配者階級は全員人族で、民も人族。そんな中で住みたいと考えるエルフもドワーフもまずいない。
例外的に、エルフの里やドワーフの里から追放された『はぐれ』と呼ばれる者がいる。アルフはそんな両親から生まれた人族の国育ちのエルフだ。
『人間』として分類されるが、差別されるエルフの身の上では冒険者くらいしか食い扶持がなかったため、仕方なく冒険者になり、二百年でS級冒険者になった男だ。
それからさらに百年。現在のS級冒険者の中で最も強いと言われるアルフならば、万が一にもなく確実に『暴竜』を打ち取れる全員がそれを当たり前のこととして理解していた。
実際、セイも密かに「遭遇したら逃げの一択しかない奴リスト」に登録している怪物だ。
「ふん。『暴竜』の正体などどうでもいい。それよりも一刻も早くラドミラの身柄を探し出すんだ。女だから十か月は平気だろうが、もし知らない王家の血を引くものが生まれれば、この国は終わりだ」
国王であるレギウスが心配しているのは、いつだって国の未来だ。
この世界において血筋とは権威だけでなく、王家に伝わる特別なマジックアイテムを起動させるカギにもなる。政治的、軍事的の両方の意味で万が一にもラドミラに子供生まれては困る。
一刻も早くラドミラを見つけて救出、それが無理なら、一刻も早くラドミラを殺さなければならない。
「ふんっ。まあ、俺もなんでもいい。俺が受けた依頼は国王の護衛として名前を貸しただけだ。あとは知らん。用があれば呼びに来い。
ああ、そうそう。部下の手綱を握っておけよ」
そういってアルフは部屋を出ていった。
国王と国家最強と謳われる精鋭部隊のリーダーでありながら、その天衣無縫なふるまいには口を挟めない。それほどの『暴力』という特権を持っているのがS級冒険者だ。
「ふぅ、ようやくいったか――」
「さて、それでは――」
政治的な話を再開しようとする二人の耳に、どたばたとやかましい足音が飛び込んできた。
「父上!ラドミラを救出に行かないというのは本当ですか!?」
そう怒鳴り込んできたのは若い青年だ。
純白の鎧に身を包んだ美青年であり、鎧で隠れていない部分からは鍛え上げられた肉体が覗いている。何も知らない一般人が見ても、騎士という言葉が頭に浮かぶだろう。
「……ラーロウ。まだ、私は君の父親ではな――」
「ラドミラが!俺の婚約者が卑劣な暴漢たちに捕まっているのです!一国の早くあの砦を責めるべきです!」
まくし立てる青年に、レギウスもラギロウも頭を抱える。
彼はラーロウ・ローランド。ラドミラ・チヨウの婚約者であり、公爵家の長男であり、チヨウ国軍第一騎士団の騎士団長だ。
理想の騎士と評判の彼だが、ラドミラを愛しすぎるあまり、ラドミラが絡むと騎士としても貴族としても落第ものの行動や言動をしてしまうとうことでも有名だ。
加えてそれがまた魅力だと彼を慕う者も増えているのだから、国を統べる国王としては頭が痛い存在だ。
「ラーロウ、一応聞くが、あの砦というのは『暴竜』がいる砦の事か?なぜあそこにいると思うのだ」
「決まっています!ラドミラは世界で最も美しいのですから、その身柄を手にして物は確実に彼女の虜になります!止めるものが無い以上、慰み者にされるのも必然です!ですから!一刻もはやく救助に行かなければ!!!」
「……いったん黙れ」
ラギロウが神速の手刀と叩き込むと、ラーロウはようやく静かになった。
「……助かったぞ。あと少しで私は精神的な過労で気絶するところだった」
「陛下、でしたら、いったんこいつは幽閉すべきではないでしょうか。少なくとも暴走する理由がなくなるまでは」
「……それがいい」
ラーロウが連れていかれたが、結局レギウスの隊長が戻らず、その日は解散になった。
湖畔に浮かぶ牢獄の様な貴族の別荘。そこには一人の女性がいた。
「あら?」
女性は建物全体があわただしくなった気配に顔を上げる。誰だろう。そう考えたが、このような辺境の別荘に来るとは一人しかいない。
「ふむ。起きていたか」
「女性の部屋にノックのなしに入るのはマナー違反ですよ。アトラ殿下」
「お前がまだそう返せる人物かを見ているのだよ。リリ」
ラキア国第三王子アトラ・ラキア。そしてララの妹のリリである。
リリはクーデターを起こした貴族の妻として処刑されるところだったが、セイの助命を受け命を救われたもの女性だ。帰れる家がないため、助命を聞かされたアトラが責任をもってもう政治に関われない場所で保護しているのだ。
「聞いたか?セイが六翼剣を撃退したそうだ」
「まあすごい」
「……なにか連絡はないか?」
「あるわけないでしょう。私は姉さんの妹だから助けてくれただけです。この一年、手紙一つありませんよ」
この一年、何度も言われた言葉に辟易しながらいつも通りの言葉を返す。
不敬なこと極まりないが、守ってくれる家族もおらず、世話になった人もいらず、守るべき姉も居なくなったリリは破滅的な言動をするようになっていた。
「あの時処刑されていれば、私は楽になれたでしょうに。あの男の事を恨んでいます。いまは余生を過ごすだけの身の上、ふふ、人族の寿命は百年だそうですし、あと八十年はこの屋敷から出られませんね」
「そういう割には、そのリストはなんだ?人材を集めているそうだが」
「ただ暇つぶしですよ。新しいものが好きなので。最近はこのララレララという音楽家が楽器を毎回壊すという前衛的な音楽で名をはせているようですね。他にはこのララララという建築家が……レーラという料理人が魚から調味料を……セレーネという魔術師が……」
「…………………分かった、もういい。また来る」
アトラは狂人を見る目をリリに向けると、疲れたように出ていった。
(よし、これでまた時間を稼げた)
無論、リリの言動は演技である。
(セイ。姉さんが愛した人。助力するなら私も力を付けないと)
ララは婚約を妹に押し付けたことで恨まれていると思っていたが、リリは全く恨んでいなかった。
むしろ籠の鳥にしかなれない自分と比べて、自由に空を飛ぶようなララを敬愛し、役に立てることに悦びを覚えていた。
そんなララは死んだが、ララが愛した男が生きている。ならばその男との接触を測ろうとするのは当然だった。
(姉さんはもういない。ならば姉さんの残滓だけでも私のものにする)
リリは一つだけ間違えていた。
自分は狂ったふりをしている。それは演技だと思っている。しかし、方向性が違うだけで、確かに彼女は狂っていた。
ラーロウが幽閉されてから三日後、それは起こってしまった。
「悪魔の腕よ。わが身に宿れ」
セイが居る砦のさらに南。魔境である半島に、謎の男たちがいた。
「『暴竜』は強い。間違いなく。あの六翼剣で勝てないなら、俺では絶対に勝てない。だが、目的は勝つことではなく、ラドミラを助けることだ。ならば、やりようはある」
その先頭にいる人物はラーロウ。愛のために脱獄し、愛のために魔物すら利用する男だ。
「ランク13、邪神にさえ匹敵する不死の王をおびき寄せて、『暴竜』にぶつける。俺たちは他のやつらと合流し、ラドミラ様を救出する。いいな」
その声に、同行している第一騎士団の精鋭、通称ラドミラ様ファンクラブ武闘派の面々が頷いた。
この日、国が亡ぶ最初の一手が打たれた。
サクサクいきます
戦記物ではないのに時間を食った




