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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
2章 戦場生活
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29話 刎首剣術

文字数が膨らんでしまいました。

次こそ終わるはず……。

 【閃光剣】ラドミラの従者、アイリ。彼女はチヨウ国第一王女であるラドミラの身の回りを世話する侍女であると同時に、戦場ではラドミラの背後を守る第一の腹心だ。

 アイリも公爵家の血を引く高貴な家の出であり、ラドミラとは実の姉妹のように育った。ラドミラが王族の女性としての使命を放棄し剣を持ってなお、ラドミラの傍に居続けた親友でもある。


「引くな!この魔物だけは倒しておかなければ、間違いなく人類の脅威となる!」

「「「おう!」」」

「……」


 そんな彼女であっても、この事態にはラドミラを見捨てかけていた。


「シャァァァーーーッッッ……!!!!!」


 目の前で、巨大な蛇が咆哮で天地を震わせる。

 ラキア国の兵士たちが緑と呼んでいたその蛇の咆哮に応じて、周囲の植物が急成長する。草木は伸び、絡まり、さらに丈夫な樹木に。それを繰り返すことで並みの騎士でも手こずる強度となり、さらに魔力を注ぐことで、上級の騎士であっても斬れないほどになる。

 みるうちに急成長した樹木は人間の動きを阻害する。これを放置すればまともに剣を振る空間する確保できなくなってしまう。


「姫様……」

「言うな、引き時なのは分かっている!だが、これは災害指定……その最上位である環境種だ!見逃すことは出来ない!」

(……これは不味い……完全に功績に目がくらんでいる)


 魔物とははるか昔、異世界からこの世界を侵略にしに現れた異世界の神々がこの世界を侵略する先兵として創造した眷属である。本能として人間を害する意思が刻まれており、たとえ能力的には子供にも殺されるランク1のゴブリンであっても人類の脅威である。

 

 そして魔物の中には、災害指定を受けるものがある。

 災害指定とは、その名の通り災害に匹敵する魔物として認定されるということだ。


 魔物はランクが8にもなれば小国を滅ぼすほどの力を持つが、実際に滅ぼされることはあまりない。なぜなら、滅ぼす旨味が無いからだ。


 魔物は本能として邪悪な神々から人間を害する意思を刻まれているため、人間は美味しいご馳走であり効率の良い経験値源だ。しかし成長すると並みの人間では経験値源として足りなくなってしまう。

 どれほど大好物でも、米粒一つ分の大きさなら興味をわかなくなるのと同じだ。そのため高位の魔物は人間を積極的には襲わない。積極的に人間を襲うのは低位の魔物だ。

 そして低位の魔物を従え、群れを作り強化し、効率的に人間を襲わせるゴブリンキングなどのキング種が明確な脅威として災害指定を受ける。


 そして、中には単独で災害指定を受ける魔物もいる。ただそこに居るだけで環境を魔境へと変化させる、人類の生存領域を直接的に塗りつぶす生きた災害。それこそが環境種だ。


「こいつを生かしておけば、もはや戦争どころではない!何としてもここで倒すんだ!」

 

 そんな怪物を倒せる。ようやく本物の手柄を手に入れられる。

 偽りの功績で称えられ続けたラドミラにとって、本物の英雄になるチャンスだ。それが目を曇らせ、引き時を見失わせてしまった。


「……ああもうっ!分かりました手伝います!でも、後でお説教ですからね!」

「ああ!背中は任せたぞ!我が騎士達よ!」


 そんなラドミラに怒りを覚えつつも、最後には自分よりも体が大きい妹へ向ける様な目になり、アイリは剣を握り直し緑に切りかかった。




『こちら第一隊。魔槍の精魔炎魔石が尽きました』

『こちら第三隊。負傷者二名。戦闘続行は可能です』

『こちら第ーーぎゃ!い、いてえ!第八隊!【魔力砲】の魔石があと三つ!盾は無くなりました!あと、いま腹を斬られました!』

「第一隊は精魔氷炎魔石に切り変えなさい。第三隊は第四隊と交代。第八隊は今緑に木盾を作らせてます。受け取ったらそれを使うように」


「副長!風魔石の製造が終わりました!」

「こっちは魔力砲の魔石です!でも不完全です!」

「今すぐ前線に運んでください。水魔石も忘れずに」


 砦の執務室では戦場もかくやという慌ただしさでルヴェアが書類を書いては動かし部隊に指示を出すという激務を繰り返していた。

 ルヴェアが指揮している部隊は五人で一つの隊であり、前線に十隊、補給に十隊の合計百人二十隊だ。


 この一年でしっかり育てただけあってしっかり集団として纏まっているが、それを動かすルヴェアの負担は人一倍大きい。

 負傷したメンバーが居ればすぐに下げ五人組の隊を維持。緑が直接戦いそのうちに半数を休ませ半数は罠を仕掛け続け援護。補給兵にした五十人も万が一の時は前線の兵士と入れ替われる。理論上は完璧だ。

 工兵という本来は直接戦わないのに緑と騎士達との戦いの余波だけで負傷者が出ている当たり、直接的な戦闘能力も育てるべきだったかと思わないでもないが、こればかりはルヴェアの不得意な分野の話であり、ルヴェアに丸投げしたセイの責任でもあるが。


『副長!こちら第二隊、一人巨木に頭をぶつけて死亡!』

「はあっ!?ーーっ、第十隊を分解!一人第二隊に加わりなさい!」


 ついに死者が出た。残りどのくらい持たせられるか。そんな不安が募ってくる。


 しかし、急報にその心配は無くなった。


『俺だ。一掃するから指示する場所に誘導してくれ』

「隊長!?了解です!」





 少し時間は遡る。セイとアロンの戦いは白熱していた。その攻防の余波で回りの樹々は切り落とされ、既に風景が変わっていた。


 『暴竜』のセイ。その異名は膨大な魔力で大量の魔術を使い竜が暴れたように地形さえ変えたためである。

 言い換えれば、格下を相手に無双しただけだ。

 そのためアロンはこの森の中という巻き添えにする人がいない場所ではセイの強みを発揮できず何もさせずに片を付けるつもりであった。


 一瞬で二十年の付き合いがあり自分と同格の『蛇使い』スーナナがやられた時は驚き情報不足を呪ったが、スーナナはテイマーという不安定なジョブに就いていたのだ。対してアロンは近接戦闘に秀でており突かれる隙も無いため、動揺を落ち着かせ即座に殺そうとした。


 しかし、セイの剣技はアロンの予想を超えていた。


「驚いたぞ。魔術に秀でていると聞いたが、剣術も得意だったとはな」

「褒められてる気がしない。なんで短剣でそんな重いんだ……よっ!【重剣】!」


 セイは魔物として秀でている身体能力を生かして鍔迫り合いを跳ね返すと、剣の重さを数十倍にする武技を発動し正面から切りかかるも、余裕で回避される。


「ふっ」


 そして再び首を落とされた。


「いてえな」

「……やはり、意味が分からない。なぜ首を刎ねられて死なないんだ」


 セイがめげずに剣を振るが、アロンとの実力差を思い知らされるばかりだ。

 【即剣】、【飛斬】、【突貫】、【十連斬撃】、【閃光連刃】。次々と武術を放ちどれであっても致命傷となりうるが、セイとは違い剣で切られると死ぬのは人間であるアロンにとっては当たり前の事であり、当然のように身のこなしだけで回避された。


「【痛刃】」

「いっ……?……いっ、てえええええ!!??」


 当然回避するだけではない。懐からもう一本の短剣を逆手に握ると腕を切り落とす。その瞬間激痛が走る。腕を切り落とされたのだから痛いのは当たり前だが、今まで首や手足に胴体を斬られても大して痛くなかったに、今回の痛みは別格だった。

 痛みとは精神に関係している。子供は注射で痛がるが、慣れて大したことがないと学ぶと痛みを感じなくなる。それと同じようにセイも斬られても問題ないと認識した瞬間から大して痛みを感じなくなっていたが、まるで人間だった時のような激痛だ。

 


「ふむ。ゴーレムの類かと思ったが、生身なのは確かなようだな」

「……たしか、拷問用の魔術に痛みを増幅させるものがあったけど、それか」


 実力はアロンの方が上だが、不死性はセイの方が上であり、結果的に一進一退の攻防になっている。


 アロンは摩訶不思議な生体をしているセイを分析しながらも、最も分からないことがあった。


(なぜ、俺はまだこいつを殺せていないんだ?)


 アロンから見て、セイは確かに実力者だ。

 魔術はまだ見ていないが、剣術は素晴らしい。まだ十九歳らしいが、自分がその年だった頃よりも確実に上だ。セイが何歳から剣を持ったかは知らないが、物心ついたときから組織に育てられた自分よりは才能か有るか努力出来る人物だろう。


 今のセイの剣術は一人前と言えるだろう。魔物相手にはランク6程度ならまず勝てる上に、武技で斬撃を飛ばせるので飛行する相手にも勝てるだろう。人間相手ならば武装蜂起した農民百人を生け捕りに出来るだろう。

 十分強い。


 しかし、その程度。常識の範囲内だ。

 一振りでドラゴンを切り裂く剣士に、身の丈の十倍の巨剣を振り回し大地を砕く剣士、振り回せば周囲百メートル以内の敵を上下に切り分けれらる剣士。そんなA級やS級と呼ばれるような超人と比べれば間違いなく雑魚だ。

 そしてアロンもそんな超人であり、【短剣術】が覚醒した【刎首短剣術】もレベル9にまで極めている。【短剣術】で言えばスキルレベル19相当だ。


 理由を探すならば、短剣は長剣と打ち合うのに向いていないことや、護衛対象でもあるラドミラの安否を心配しており戦うに集中できないなどがあげられるが、そのうえで瞬殺できるほどの実力差があるはずなのだ。


(なにかあるはずだ……それを解かない限り、こいつは殺しきれないのだろう……くそっ!まるで魔物みたいだ)


 しかし、一つ明確に分かったことはある。


(足運びは雪風流、剣の構えは大火流に似ているな。スレイの弟子って噂は本当かもしれないな信じがたいが……)


 『次元切り』のスレイ。冒険者と傭兵としてたたき上げ既存の流派に該当しない独自の剣術へと昇華させた天才剣士。

 足運びで短距離転位のような空間跳躍を可能とし、その斬撃は時間も空間も切り裂く。百万以上の犠牲者を出したランク14の魔物、次元竜を単独で討伐した超人。

 その剣術を学ぼうと弟子入りするものは多くいたが、天才肌ゆえに理論が説明できず教え方は実戦のみ。寸止めすらしない命がけの教え方であり、稽古である国の王族を切り殺したことで『弟子殺し』という異名もつけられ世界中で畏怖される怪物だ。


(たしかに斬られても死なないこの体であれば学べるな……羨ましいことだ)

「よし、分かった」

(むっ?)


 突如セイが動きを変えた。正眼の構え。剣を正面で置き足は右足を前に。剣を扱ううえで最も基本的な構えだ。

 そのまま後ろに下がる。アロンにはそう見えた。

 

 しかし、セイは正面から虚を突いた。


「あ?」


 一瞬思考に空白が生まれ、気が付くと脇腹を切り裂かれていた。


「次元斬法・葉隠れーーモドキだけど驚いてくれたみたいだな」





 セイが行ったのはスレイの歩方を見様見真似で再現したものであり、ムーンウォークやバックスライドと呼ばれる技法の一種。後ろに動いたと思ったら前に、前に進んだと思ったら後ろに、全く同じ動きで動く方向を変える意識の隙を突く技法であり、セイが前世のテレビで見た踊りを思い出し形にした歩方だ。


 この世界では全く持って未知の技法であり、超人にも一度は通じるのはスレイで検証済みだ。


(このおっさんめっちゃ強いな)


 そして脇腹を抑えて後退するアロンに追撃しながらセイは内心で賞賛する。


 アロンは気が付いていないが、この場所には大量のデバフをまき散らしている。前後不覚、混乱、吐き気、感覚の伝達時間の齟齬などを魔術や薬物で起こし、セイは対抗する魔術や持ち前の魔物としての頑丈さで耐えつつ、アロンに『自分は正常だ』と思わせる気付けの魔術を気が付かれないように全力で繊細にかけている。


 そのおかげでアロンは実力の三割程度しか出せていない。

 そして、そのうえでセイと互角なのだから、賞賛の言葉しか出てこないのも当然だ。


「まあ殺すけど。【虚剣】」


 お互いに生き死にがかかっている。ましてセイは部下の命もかかっているのだ。負けるわけにはいかない。後退するアロンを負い、意識の隙を突くように剣を振る。

 そして気が付いて。


「あ、逃げられた」


 後退ではない。撤退だったようだ。

 セイの視界の先でアロンが神速で撤退していく。どうやら倒しきれないと悟り、力尽きる前にラドミラの回収に向かったのだろうか。


「まあいい。絶好のチャンスだ。『俺だ。一掃するから指示する場所に誘導してくれ』」

『隊長!?了解です!』

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