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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
プロローグ
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2話 廃村

 村を滅ぼすと決めたものの、問題があることに気が付いた。


「今の俺は幽霊だからものに触れられないんだけど、どうやって殺せばいいんだ」


 幽霊、その体は霊体で構成されており、ものや人をすり抜けることが出来る。しかしそれは同時に触れることが出来ないということだ。

 静穏が知っている殺害方法として撲殺や絞殺などがあるが、今の体で実行できるものが思いつかないのである。


『それでしたら、ダンジョンコアに受肉することで解決できると考えられます』

「受肉?」


 ナビは自分に呼応させて静穏の体内にあるダンジョンコアを光らせた。するとダンジョンコアが白く輝き静穏の体を内側から満たすように変形する。


『ダンジョンコアの強化機能の一つです。過去に霊系統の魔物がダンジョンマスターになった際の事例から推察しました』

「おー。こりゃすごい」


 ダンジョンコアが静穏の体を満たすと、今まで感じていなかった土の感触が足の裏から伝わってくる。てしてしと壁を叩くと、たしかに壁に触れることが出来た。


『あとは魔術もお教えすることが出来ますが、いかがしますか?』

「魔術があるのか!……興味はあるけど、いまから覚えられるのか?」

『不明です。人によって習得時間は様々で、一度で習得出来るものもいますが、大抵のものは数か月かかるというデータがあります』

「じゃあとりあえずいいや。魔術はそのうち教えて」

『了解しました』

「じゃあいってくるか……それにしても、ナビさんって物知りなんだな」

『ありがとうございます。私は術の神に生み出されたダンジョンマスター専用ナビゲーションシステム、その中でも知識に特化しているので知識量は知恵の女神や術の神に次ぐと自負しております』


 モニターから聞こえる声からしか判断はつかないが、静穏にはその声がどこか嬉しげ‥‥‥いや、誇らしげに聞こえた気がした。





 村を滅ぼすと決めた一時間後、静穏は森を歩いていた。木々が枯れ果て木の葉すらない死んだ森だ。日は既に暮れており、星明りだけが地上を照らしている。


「せめてナイフ一本でも欲しかったんだけど、だいぶ無茶してるな俺」


 田舎道とすらいえない廃道、あってないような道を歩く。

 道とはいうが整備された街道ではなく、おそらくは人の作った獣道という方が正しいだろう。


 静穏は日本で着ていた学生服姿のままだ。なんでも霊に物理的な姿はなく、その魂が思う当然の姿になるらしい。静穏は静穏自身が学生服姿であることを最も自然だと無意識に思っているため学生服姿なんだとか。

 当然、霊体に受肉してもそのままだ。


「あれか」


 さらに進むと廃村が見えてきた。途中では何もなかった。死んだ土地には死んだ木があるだけで、小動物一匹いなかったのだ。

 目の前にある廃村は、正確には廃村にしか見えないだけで廃村ではない。ダンジョンで探知をした際に人を示す光点が三十近く表示されたからだ。受肉しても幽霊でもある静穏の目にもはっきりと人の生活の跡が見えていた。


「以前読んだ本で、人は極限まで飢えると人肉すら食べると書いてあったけど、この村ではそういうことは無いみたいだな」


 この死んだ森になぜかある村。食料の当てすらないこんなところで生活しているなど、よほど特別な理由があるのだろう。

 しかし静穏がそれを理由に足を止めることは無い。気になるが、気にしている余裕はないのだから。


 太陽が沈んで人々は寝静まっている。寝ていないかもしれないが、その時は詰みなので考慮しない。

 

「見つけた。思った通りあってよかった」


 静穏が向かったのは納屋だ。目的はそこにあるであろう金属製の刃が着いた農具。どれだけ寂れていても村……つまり農村ならば殺傷能力がある道具があるはずと予想したが、当たっていたようだ。


 静穏は農具を手に村の広場に向かい、息を整える。

 今から、この村を滅ぼす。村人を殺して、自分が生きるための糧にする。


 心理的に抵抗が強い。寝込みを襲うのは闘争とは言えない。

 生きるという巨大な戦いの一部であると言い訳もできるが、それでも止めたいという気持ちは無くならない。

 しかし、やらなければ自分が死ぬ。天秤にかけどちらかを選ぶならば、静穏は殺しを選ぶ。


 網膜に村人の座標を示す光点を表示する。いまからこいつらを殺さなければねらない。例えば一番近くにいるのは――。


「こんばんは、そんな物騒なものを担いでどうしたんだい」

「……っ!」


 静穏の背後から声がかかる。驚きのあまり手にした農具を放してしまう。

 全く気が付かなかった。いや、戦いの素人である静穏が気配に気が付かないのはおかしくないが、農具を構えた不審者である自分が穏やかに話しかけられるなど予想していなかったのだ。


「おや、驚かせてしまったかい?それは失礼」


 驚かないわけがない。振り向いた先に居たのはやせ細った青年だ。

 恐らくは雰囲気から二十代の青年だと思う。服装も思っていたよりも普通で、襤褸切れではなく日本で育った静穏の目にも「服」として映るものだ。しかしそんなことよりも体のほうに目が行く。


 端的に言えば、骨と皮だけの体だ。頬はこけており目はぎょろぎょろしている。服もおそらくはぴったりのサイズだったが、細くなったからだろう、だぼだぼだ。肩口から見えている首元では骨の形がはっきり分かる。

 どう見てもがりがりの貧民のような風貌であり、生きていることが不思議なほどだ。率直に言えば、どうして動けているのかも分からない。

 この村は貧乏なのだろうと予想はしていたが、直に見ると衝撃的だ。


「君はこの村に何をしに来たんだい?」

「……見て、分かるだろう」


 おたおたとしてしまったが、静穏は慌てて農具を拾う。殺すためにこの村に来たのだから、やることは変わらないのだ。

 目の前の人物の力量は分からない。だが、やることは変わらない。もとより静穏の相手の力量を見抜く力などないのだから、誰であれ殺傷物を振り下ろし、殺す。

 それでだめだったらおとなしく死ぬ、それだけだ。


「まあ待ちなさい。質問を変えよう。見ての通りこの村には食料もお金もない。こんな村を襲っても旨味はないだろう。それなのに襲うということは、君はこの村を襲うことで生き抜くための糧を手に入れられるということだね?」

「……」


 質問の言葉だが、そうだという確信がある口調だ。


「なら提案だ。僕たちはおとなしく君に殺されよう。その代わり、一人は君の下においてくれないかい?」

「なに?」


 静穏は驚いてしまう。

 自分たちを殺そうとしている相手にかける言葉にも思えなかったからだ。


「どういうつもりだ?お互いの状況は分かっているだろう。俺なら、そんな言葉は無視してお前たちを殺せるぞ」

「驚くことじゃないはずだよ。これは僕たちからの命乞いだ。僕たちの命は惜しくないけど、一人だけ、死なせるわけにはいかない子がいるんだ」


 静穏は眉にしわを寄せ思考する。しかし、うまくまとまらない。命をむき出しにした交渉など経験がなく、動悸が速くなり呼吸が粗くなる。

 さっさと殺すべきだろいう本能と、人として交渉を無碍にするべきではないという理性がせめぎ合う。


「断ると言ったら?」

「その時は全力で抗わせてもらうよ。大切な子だからね。人間の底力を舐めないことだ」


 青年の言葉と共に、圧が放たれる。

 おそらくそれは殺気というのだろうということは、静穏にも察しがついた。


「……分かった。その子は俺が保護しよう。その代わりお前たちは全員殺す。いいな」

「いいよ。みんなもそれでいいかい」


 みんな、という言葉と共に周囲の家から村人たちが顔を出す。静穏は気が付いていなかったが、静穏の行動は目立っていたようだ。


「これはあなたにあげるわ」

「……どうも」


 村人の一人から、剣を渡される。これで殺せ、ということだろう。その後は好きにしろ、ということでもあるのだろう。


「……あんた、最後に聞かせてくれ」

「なんだい?」

「どうして俺にその子を託そうと思ったんだ?言い分は分かったが、それでも納得できない。俺が約束を守らない奴だとは思わなかったのか?」

「なんだ、そんなことか。そんな心配はしていないよ。君は僕たちを殺すつもりだったと言うけれど、顔に殺したくないって書いてあったからね。悪人には見えなかったんだよ。少なくとも、君は最後の最後までは口にした約束を守る人だと思ってるよ。どのみちここ村に先はない、というのも理由だけどね」

「そうか……」


 静穏はその日、殺人を犯した。

 後悔は無いし、恥じることもない。しかし、その手に残る感触は、血沸き肉躍る楽しい闘争の戦果などと言えるようなものでは無かった。転生したばかりだったからよかったが、腹になにか入れていれば確実に吐き出していただろう。





 ダンジョンに戻りしばらくうなだれた後、ナビに現状を確認させる。


「ナビ、村人たちの死体はこれで全部だ」

『お疲れ様です、マスター。これでこのダンジョンはあと十日ほど維持できます』

「十日?短すぎる。当面って言葉に齟齬があるのか?」

『いいえ。村人全員を魔力に変換すれば五年は持つ計算です。しかし、その魔力の大半はマスターが生かすと言っているその子のものです』

「この子が?そんなにすごいのか」


 静穏の目線の先には、生後一年程度の赤子がいる。

 青年から託された子だ。名前はハナビにした。


『いかがなさいますか?マスター』

「保護するって言っちゃったからな。殺さないよ。……そうだな、ダンジョンがあと十秒で消滅するってくらいの寸前なら……いや、そこまでするならおとなしく死ぬべきか?

 まあ、いいや。保留だ」

『かしこまりました』

「ふぅっ……なんだがどっと疲れた。それよりナビさん。他のダンジョンが竜脈を塞いでいいるって言っていたよな。あと十日でそこを潰す。情報はあるか?」

『了解しました。それでしたらこのダンジョンの西にあるダンジョンをおすすめします。そこからは竜脈がわずかに漏れているので、他の所よりも質が低いか、崩壊寸前であると考えられます』

「分かった。じゃあそこにしよう。俺が留守の間はカタログから赤ちゃん用のミルクとか必要になったら召喚して世話してあげてくれ」

『マスター、私に育児機能はありません』

「わかってる。でも知識に特化しているというならなんとかしてくれ。そっちも十日以内に解決してみせるから」

『了解しました』


 翌朝、静穏は西のダンジョンに向かった。

これにてプロローグは終了です。サクサク行きます

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やりたいことはわかるけどそうはならんやろ
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