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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
2章 戦場生活
28/119

26話 悪者

前回の最後にステータスとフレーバーテキスト、及び数行の本文を追加しました。

読まなくても混乱はたぶんしないです。


作者はフレーバーテキストが好きなのですが、本文に入れらなかったのは巻末に適当に入れることにしました。

 セイが陥落させたチヨウ国最西端の街、漁業で栄えた副都ライラン。この街の東側にセイ達が砦を構えているため、必然的にその東にある次の街がチヨウ国にとっては新しい最前線の街である。

 セイがライランに魔術を打ち込み、十万を誇るライランの人口のうち半数が死に、さらに一万が東に逃げた。着の身着のままで逃げたため盗賊に襲われ、あるいは盗賊になり、もしくは野垂れ死に、稀に魔物に襲われた。そのため到着できたのは三千といったところだ。


 そうしてその町、王都ザガレアたどり着いた者たちはセイという人物、いや、悪魔の恐ろしさを伝え、それらが編纂され、多くの舞台や吟遊詩人たちの手によって市民たちへ広がっていた。


 例えば、この王都ザガレアの中央にある大広場の舞台でも。


「う~~ひゃはっははははは!俺様はセイだ!さあ泣き叫べ!いたぶってやるぞ~~!!」


 妙に汗臭そうで肩に棘とかついているようなパンクな鎧を着た三十路くらいの大男が、セイと名乗り悪そうなことを叫んでいた。その顔には歴戦の猛者を示すような傷跡が残り、悪そう、というよりも、下卑た、といったほうが適切であろう表情を張り付けている。

 棍棒を振りあげると、観客に見せつけるように大きく大きく振りかぶり、舞台の上にいる一般人風の人たちに向けて振り下ろす。


「ぎゃああ“あ”あ“っ!」

「ううっ……い、いたい……」

「もう、やめて……街を……みんなを……」


 吹き飛ばされて地面を転がる民衆たち。衣服はボロボロで全身が汚れだらけ。そして何より顔に浮かぶ恐怖と僅かな怒りが、彼らは無力でかわいそうな被害者なのだと観客たちへのアピールになっていた。

 演劇は続き、大男が棍棒を振りかざすと、衝撃波や炎が飛び交い、街が壊れ人もこと切れる。その様を見て高笑いする姿は物語に出てくる悪魔そのものだ。


「なんて酷い……」

「ああ、あんな奴がこの世にいるなんて……」

「いや、きっとセイってやつは悪魔なんだ!この世の人じゃないんだ!」

「ラキア国はなんでこんな奴を野放しにしてるんだ!」

「俺聞いたぞ!なんでもライランを襲ったのは、こいつが勝手にやったらしいぞ!」

「あれほどの魔術を使えながら、こんなひどいことに使いなんて――許せないわ!」


 演劇を見ている観客たちには、怒りの感情が湧き上がっていた。あんな奴を許してはならない、と。


「ううっ……もうだめだ……」

「次は、このザガレアが……、いや、チヨウ国すべてが奴に、滅ぼされてしまう……」


 舞台の上では、痛みに耐えかねるように蹲る一般人風の人たちが降伏を宣言しようとしていた。

 その時、観客たちの心は一つになる。セイを許してはならない、だれか、あいつを倒してくれ、と。


「そこまでだ!」


 その時、舞台の外から闇を切り裂くような鋭い一声が人々の意識を振るさせた。


 その人物は観客たちを飛び越え舞台に乗り込み、光り輝く剣を引き抜くと真上に掲げる。


「あ、あの光は!」

「聖剣スパイラル!ということはまさか!」

「【閃光剣】様だ!【閃光剣】のラドミラ様だ!」

「【閃光剣】!?と、ということは、『六翼剣』が出陣するのか!?」


 観客たちは熱狂に包まれる。【閃光剣】ラドミラ。本名、ラドミラ・チヨウ。このチヨウ国の第一王女にして、自ら剣を振って戦い敵国の兵士たちや魔物を切り捨てる真の英雄だ。


「ひっ!ひぃぃぃぃいいいい!!!!」

「この国に仇をなす者を、認めることは無い」


 閃光が走る。光のように早い一閃に皆が目を奪われ、正気に戻る時には既に大男は泡を吹いて倒れていた。


 ラドミアが気絶した大男には目もくれずに立ち去っていく姿に、観客たちは色めき立つ。

 そうだ、私たちには『六翼剣』が居る。ラドミア様がいる。セイなどという悪魔は、彼らが容易く打ち取ってくれるだろう。

 そんな希望と、期待が広がっていくのを、陰で諜報員たちが見ていた。





 『六翼剣』。チヨウ国が誇る、秘密部隊にした最高の戦闘力を誇る猛者で構成された戦闘集団。

 個人の武力よりも知略や戦略を好む気質の国でありながら、ラキア国の秘密部隊にも迫る個人たち。

 その力で何度も戦況を覆し、単身で魔物の暴走を止め、ある時は国内の不穏分子を始末し反乱の芽を積み、最近ではラキア国との戦場、主戦場でラキア国の秘密部隊の一人を打ち取ったを囁かれている。


 チヨウ国の最大戦力。チヨウ国の建国王が六翼の御使いから翼を継承したという伝説に由来する組織であり、この国を象徴する国家の柱。


「くだらん。あんな芝居が本当に必要なのか」


 その『六翼剣』に所属し、上右翼のシンボルを割り振られた『六翼剣』のラドミア・チヨウは、合流した部下と共に拠点の一つに向かいながら呟いた。


 二十歳という驚異の若さで『六翼剣』に任命された彼女は、「光のように早い」と称えられるほどの剣の達人だ。

 見た目も非常に整っている。鋭い切れ目がその気の強さと意思を連想させ、鼻筋の通った顔立ちは神の作った人形のようだ。体つきも女性的で、その姿を見た者は美と戦の女神が地上に現れたと信じてしまうだろう。


 血筋も王家の血を引く血統書付きで、現国王の娘。兄弟もいるが、もし今の国王に不幸があれば、彼女を初の女性の国王にと推す勢力もあるほどだ。


 無論。そんな評判は欺瞞であると、ラドミラは知っているが。

 自分の剣は、光よりも遅い。

 幼いころに見た騎士たちの御前試合。その綺麗な姿に憧れて、城を抜け出し勝手に魔物を狩り、折檻を受けてもそれを止めなかった自分。情勢が変わり、たまたま婚約者達も候補から進まず、国民たちに分かりやすいシンボルが必要だった。そのため、プロパガンダ用に自分の席が用意されただけだ。


 そして、お飾りの自分が怪我をしないように、本当に危険な任務には、他の……真の『六翼剣』が必ず同行する。


 きっと、そんな毎日が続くのだ。


「気に入りませんか?あの悪魔のように恐れられる男、『暴竜』のセイを討伐し、奪われた副都ライランを奪還する。これにはラキア国との戦争の行く末がかかっているのです。一年前の戦場ではラキア国最強の部隊、『竜殺六崩拳』の一の拳を打ち取って姫様が、今度は血に飢えた竜のような新星を打ち取る。姫様の名は国中に轟くでしょう」

「打ち取ったのは、私ではないだろう」

「ちょっ……!」


 従者のアイリが慌てて馬車に張られた消音の結界を確認しもう一枚展開する。

 ラドミラは絶対に傷ついてはならない広告塔であるため、移動には豪華な馬車が使われ、賑やかしの騎士も同行し、戦地には優秀な部下と、この秘書であり従者であり、自分の世話係でもあるアイリが同行するのが常だった。


「私の護衛をする騎士に支給される家中は装飾過多で非常にうるさい。私の声など聞こえないさ」

「それでも、念を入れるのが私の仕事ですから」


 そう言いながらも、アイリスは心の中でまた始まったよ、と思う。


「そんなに気に入りませんか?」

「当たり前だ。【暴竜】だと?神話に出てくる英雄の二つ名を襲名するなどおこがましい。戦場で無双した。山を崩した。港を襲い五万人殺した。たかがその程度の相手に、なにを恐れているのだ」


 たかが、そう、たかがなのだ。

 セイの悪行として知られている行為だが、実際には大したことは無い。戦場で無双したといっても、相手は冒険者でいうF級、よくてE級、それに武器を持っただけで昨日まで農民だった者たち。その程度の雑魚だ。無双など、騎士団長やB級冒険者相当の実力が有れば十分に可能だ。

 山を崩した、港を破壊し五万人殺した。なるほど。大したものだ、一般人から見れば。

 山を崩すのも港を破壊するのも、それほど大規模な魔術を行使できるのは確かにすごいと褒めていいだろう。しかし、強者を殺すには足りない。百メートルからの落下も、吸い込めば肺を焼く熱気を生み出す炎も、竜とすら戦う自分たちにとっては常識の範囲内の力だ。


「『六翼剣』の誰か、なんならお飾りである私でも殺せる雑魚にすぎないよ、セイとはいうやつはな。そうだろう?」

「はい。ですが、ここまで悪名が轟いてしまうと、万が一を想定しなければなりません。逃がしてしまえば、『六翼剣』からさえ逃げ切ったという名声が、さらに【暴竜】の虚像を大きくしてしまいます。ただでさえ、一年前の戦場で『六翼剣』のメンバーにも負傷者が出てしまい、すぐには動けませんでしたから。

 いえ、なんなら、『六翼剣』が出陣するというだけで、【暴竜】の虚像を大きくしてしまいます」


「だから、ああやって民衆から『六翼剣』に出張って欲しいと懇願するようにこの一年かけて誘導した……と。ふっ、なんにせよ、中身のない功名でまた私は称えられる訳だな」

「(うーん……これは今までで一番重症ですね)」


「まだ愚痴を言っているのか、小娘」


 不意に、馬車の中で新しい声がした。

 しかしラドミラは動じず、気だるげな声で返答する。


「……【王殺し】殿か。いい加減、小娘なんて年じゃないんだがな」

「小娘だろう。腕も心も未熟で、口先しか動かさない、まさにだろう」


 ラドミラと同じ、そして真の意味での『六翼剣』のメンバーであり下左翼を預かる剣。そして一年前の戦場でもラキア国の『竜殺六崩拳』の一の拳を打ち取った男、【王殺し】のアロン。

 ラドミラの戦場での護衛でもある人物だ、


「【王殺し】殿。婦女のいる部屋に勝手に入るのは褒められたことではありませんよ」

「なに、俺が最初からいたのにも気が付かずにお前らが入ってきたのさ。

 それよりラドミラ、今回はお前も出ることになったぞ」


「……なに!?」


 ラドミラはアロンの言葉に跳ね起きるように目に力が戻る。まるで堂々と将軍をやっていたころのようだ。


「今回の任務、何も情報が無いのは知っているな?」

「半年前に突如森が生まれ、『羽』の連中を含めて誰も戻らなかったことだな……まさか、事実なのか!?」

「そうだ。それゆえに、今動かせる最大戦力で叩く。三人は療養とラキア国の本軍の監視で動けないが、俺とお前、そして『蛇使い』の三人で攻める」

「そうか……そうか……っ!ついに私もっ……!」

「聞いてないなこいつ……【風刃剣】」

「っ!!」


 黒く塗られた短剣が走り、ラドミラの首に迫る。

 全く予備動作を感じられない神業の一撃を、光速の剣が防いだ。


「言うまでもないと思っていたが、やはり小娘には必要か。当然、お前の身柄の方が重要だ。俺たちと違い、万が一の時はお前だけは生き延びる必要がある。理解できないならこのまま帰ってもらうぞ」

「……分かっている」

「ならいい」


 そう言い終えると、アロンの気配が希薄なり、完全に消えた。立ち去ったのは潜んでいるのかは分からないが、会話は終わりということだろう。


「あの……」

「ん?」

「アロン様たちで【暴竜】を倒せるのでしょうか。いえ、皆さまの実力を疑うわけではないのですが」

「それなら大丈夫だ。アロンは『六翼剣』の中でも腕利きと聞く。それに【蛇使い】は会ったことがある」


 蛇系の魔物を率いて戦うテイマーであり、単身で万を超える敵兵を一掃したことがある。

 その手柄も自分のものとして報告されたラドミラは、その強さを知っていた。


「それに、今まで集めた情報には【暴竜】の武勇を示す情報はほぼない。一年間『黄昏の鉱脈』に潜っているが、一年もあったのにE級、到達階層も十層。その間『次元斬り』のスレイの指南を受けていたとのことだが、あの女は弟子殺しでも有名だ、こちらはデマだろう。

 魔術の腕は立つようだが、それだけだ。闘気を強めておくだけでも十分だ」


 ラドミラにとって今回の任務は、気に入らないが、失敗はない。そんな程度の任務だった。

 まさか、自分がこの先どんな目に合うかなど、想像もしていなかった。





「俺めっちゃボロカスに言われてんなー」

「まあ当然だと思いますが」

「隊長の悪名は国中に轟いてますからね」

「俺も、手紙で親に『そんなやつの部下は辞めろ!』って書かれました」


 ちょうどラドミラとアロンが話している時、セイはこっそり王都ザガレアに部下たちと潜入していた。


「しっかしばれないものですね」

「当然だ。俺ってばああいうイメージらしいからな」

「……なるほど」


 部下の一人は先ほどの舞台でセイを名乗っていた大男を思い出す。

 身長、見た目、言動、威厳、何もかものが違っていた。


「俺ってば民間人も巻き込むのも気にしないで魔術をぶっ放しただけで、強姦や略奪はしてないのにな。なんか知らない悪名まで増えてやがるぜ」

「だけ、というにはデカすぎると思いますよ」

「はいはい、隊長、拗ねないでください。副隊長からおこずかいを預かっているので、これで好きなもの買っていいそうですよ」

「……みんな俺の事を子ども扱いしすぎだろ」

「子供みたいじゃないですか。見た目とか、身長とか」

「死ね」

「うっ」


 セイの拳がみぞおちに綺麗に入り蹲ってしまったが、気にせず偵察を続けた。

 そして結論を出した。この程度の国、自分は殺せない、と。

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