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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
2章 戦場生活
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23話 破落戸の砦

 セイの所属しているラキア国はここアルケンシア大陸の東部の地方にある。さらに東部地方は南半分が地中海となっていて、チヨウ国は地中海の最西端に位置している。

 この地中海に突き出した瘤のような半島には死者の王と呼ばれる魔物が支配する荒野が広がっており、比較的安全な範囲で漁業をする副都ライラン以外では人類の領域がほとんどなく大半の人間が近づきたがらない場所だ。


「この山は登るのは初めてだけど、道があって助かった」


 そして同時に、セイが生まれたダンジョンがあった草原の近くでもある。

 セイが生まれたダンジョンから見て北にあった山。そこにセイは来ていた。


 もとより山といっても富士山のように大きな山が一つあるのではなく、水面よりも標高が高い丘が無数に連なっている山地であり、今いるのはその中でも最も東の山だ。正確な座標はセイが生まれたダンジョンの北東、副都ライランの東である。

 ライラン自体はラキア国の南東にあるのだが、ライランを中心にすると、南西にセイが生まれたダンジョン、南に死者の王がいる半島、東がセイがいる山でありもっと東なら敵国であるチヨウ国、北に別の砦。北西に王都で西に迷宮都市タリオンだ。

 

 つまるところ、セイが赴任させられたこの山はチヨウ国との新しい最前線であり、最も危険で最も人気のない前線基地。


「……うん?誰だお前」

「旅人、なわけないか。新入りか?」


 そしてそんな山の頂上にある砦に到着したわけだが、見張りをしていた兵士たちは兵士と言いたくない見た目をしていた。

 装備はセイがつい一か月前に居た戦場で見ていた兵士たちと同じだが、気崩しており帯剣もしていない。気のせいだと思いたいが酒気も帯びている。油断しきったその姿は後ろの砦がかなり寂れているのも相まって、山賊という言葉を連想してしまう。


 なんでも、この部隊は破落戸を集めた部隊だという。

 ラキア国では募兵制を採用しているため食い詰めた農民や愛国心溢れた一般人だけでなく、その気性の酷さのせいで村人たちから消極的に追放されて仕方なく兵士になったものも多い。当然休戦しようとも故郷に帰れるはずもなく、新天地で真人間としてることも出来ない。開放すれば盗賊にしかなれないような者もいる。

 そんな盗賊予備軍をかき集めた部隊の一つ。それがセイが隊長を任された部隊だった。


「俺はセイ。今日からお前たちの隊長になるものだ。聞いていないのか?」

「……隊長?あーそういやなんか言ってたな」

「おいおい嘘だろう。こんな弱そうなやつが隊長かよ!」


 セイは人種の違いのせいでこの世界の水準から見れば年齢よりも幼く見えるので、十八歳だが、この世界ではギリギリ成人した十五歳程度にしか見えない。頼りなく見えるのは仕方ないだろう。


 隊長になったことだし意識して高圧的な口調にしてみたが、全然威圧されていない。そんなに隊長っぽく無いのだろうか。

 

「事実だ。ああ、一応『暴竜』とも呼ばれているらしい。今日までのまとめ役はいるか?案内してくれ。ああいや、案内しろ」


 しかしそれを考慮してあげるつもりはなかった。


「はっ!舐めた口をきくじゃねぇか。お前なんざしらねぇよ」

「いいか、ここのルールはな……ぎゃん!」

「は?……ぎゃぺ!」


 セイが隊長と名乗ったあとも、兵士たちはため口を聞いたので殴り飛ばす。


 二人の兵士の首根っこを掴んで砦という名の木造のログハウスの様な建物に近づき、一気に二人を投げ込んだ。


「うおおおおお!!!!?なんだ!?敵襲か!?」

「やっちまうぞ!お前ら俺に続け!」


 兵士たちがぞろぞろと出てくる。敵襲と予想していながらも隊を分けたりせずに丸ごと突撃してくる様に練度の低さに思いを寄せながらも、セイは受けて立つ。


「俺も冒険者も兵士もやったからな。流儀というのは知っているつもりだ。俺が勝ったら俺が隊長と認めるだろう」


 弱肉強食。それがこの世界に根付いたルールだ。

 そしてセイは、そのやり方がとても気に入っていた。





 三十分後、ログハウスの前には死屍累々とした光景が広がっていた。

 破落戸たちの顔は腫れ上がり、ある者は腹を抑えながら蹲り、ある者は気絶している。


「うぅっ……け、剣士じゃねえのかよ……」

「剣士だよ。ただ素手でもお前たちを倒せるくらい差があるだけだ」


 この世界では個人で人知を超えた力を持つ者がおり、剣の一振りで山を切り裂くことや、そこまで言わずとも鎧や盾を切り裂けるくらいは出来る。そのためいわゆる乱闘や軽い喧嘩ではスキルも武技もなしの素手で殴り合うのが一般的である。

 当然【格闘術】スキルを習得しているものが有利だが、この破落戸たちにはセイとの能力値の差を埋められるだけの実力者はいなかったようだ。


 今目の前で気絶した熊のように大柄な男もおそらく【格闘術】スキルの使い手だったのだろう。この破落戸のまとめ役だったらしく。それなりに強かった。

 まあ気絶したようだし、後回しでいいだろう。


「そこのお前。起きてるみたいだし建物を案内してくれ」

「お、おれぇっ!?い、いえ。分かりました!」


 気絶していないものを連れてログハウスに入る。内装は武器庫に事務室、食堂に調理場、大部屋など。外の広場を練兵場と言い張れば、確かに砦と言い張れる程度には設備が充実していた。

 最低限度でしかないが。


「ん?この部屋は何だ?」

「あ、ええと、そこは……」


 ログハウスの隅には小さな小部屋があった。このログハウスの設備の最低限さを見れば小さな倉庫だろうか。そう思い扉を開ける。

 しかし予想とは全然違う用途の部屋だった。


「臭いな……それに汚い。おい、ここは?」

「え、ええとぉ……も、問題ありますか!?どこもやってることじゃないですか!」

「それは質問の答えになってないな」


 セイは破落戸の答えを無視して部屋に入ると、虚ろな目をした二十歳程度の女性の頬に手を当てる。生きてはいる様だ。

 いや、嗅いだ覚えがあるイカのような臭いと、女性や床についた白濁し液体。慰み者にされたのは明らかだ。それに、筋肉の付き方を見るに、民間人だろう。


「馬鹿か。こんな不衛生なところに」

「だ、だからどこの隊だって……はえ?」

「こういうことを絶対にするなとは言わないが、するにしても掃除くらいしろ。病気になるぞ」

「そっちすか」


 兵士は真顔で聞き返してきたが、セイはいたって真面目だ。

 戦場で女性が慰み者にされるのは確かによくあることだ。それに対してこの世からなくそうとはセイは思っていないし、自分の部下でも止める気も無かった。

 セイの今の肩書は兵士であり隊長。もっと言えば対チヨウ国防衛隊隊長だ。要するにチヨウ国と戦うのが『仕事』であって、戦場で起きる悲劇に思う所は無かった。

 ただ思うのは、この行いで兵士たちにどんな影響が出るのかだけだ。


「あ、今回は違うな。こいつどこの者だ?」

「えーと……たしかライランで攫った女ですね」

「じゃあ駄目だな。こいつはもう自国民だから、非道な扱いは禁止だ。するなら敵国のやつにしろ。そっちなら兵士でも民間人でも咎めない」


 セイは言い終わると女性を抱えて寝具がある部屋に向かっていった。

 背中越しに感じる視線が、なんだか変なものを見る様な困惑した視線なのだが、なにか隊長らしくないところがあっただろうか、と思いつつ。


「そうだ。あいつらが起きたら、まずはこの砦をまともなものに作り直すって伝えておいてくれ。あと木こりとか猟師とか、兵士になる前にやってた仕事も聞くって」

「了解でーす」

「俺は隊長だぞ。俺には敬語を使え。俺も偉そうにする。そういうものだ」

「へい!了解しやした!」

「……まあいいか」





 強く殴りすぎたのか、兵士たちは夜まで起きなかったので大掃除は明日からにした。

 セイはまだ事務所や隊長の部屋も汚いため利用する気になれず、樹々中で寝ようと思う、そう言って外に出ていった。


「【ダンジョンコア接続】……【疑似ダンジョンコア創造】……【魔物創造】」


 周囲に誰もいないことを確認してから、セイは魔物を作り始める。本来ならダンジョンを作りその最奥の部屋で行う作業だが、自我を持ったダンジョンコアであるセイからすれば、多少魔力は多めに使うが魔物の創造はしようと思えばどこでも出来る術だった。


「……いや、やっぱりやり直し。……蛇……鳥……悪霊……いやさらに抽出して……」


 視界の端に映る、メモ帳として使っている【視覚白紙】に情報を纏めながら考察を進める。


 今まで取り込んで魔物のデータを掛け合わせて、セイが欲する新種の魔物を形作る作業だ。

 本来は既存の魔物を召喚すれば戦力としては十分であるため誰もやらないが、邪悪な神々と同じようにダンジョンマスターも魔物を創造する力を持つ。人間社会に生きるセイにとってはチートと言ってもいい能力だろう。


「【魔物創造:木蛇】」


 セイがようやく決めた魔物を創造する。

 それは体が木で出来た蛇だ。見た目で考えると魔獣に分類されるが、実際はトレントのように自我に芽生えた植物である。


 新種の魔物だが、ランクは1。全長も五十センチとお世辞にも強くはない。当然毒も無いため、ゴブリンと同程度の戦闘力だろう。

 この魔物の本領は直接的な戦闘ではないが。


「よし一気に育てよう。当分戦闘は無いし、出し惜しみは無しだ」


 セイが手を差し出すと、木蛇はするすると巻き付いてくる。創造した魔物は創造主に絶対服従、文字通り神と被創造物の関係だ。

 そしてセイは木蛇に魔力を注ぎ込む。


「――、―――――、――――――――――!」

「おお、そんなに喜んでくれるのか」


 テイマーは魔従との間に経路が生まれ感情が伝わってくると聞くが、これがそうなのだろうか。木蛇が神から神託や予言、加護や寵愛を受け取った信徒の様に喜んでいるのが伝わってくる。

 ここまで喜んでくれると、こっちまで嬉しくなってくる。


 セイが行ったのは魔力の譲渡。それも常識では考えられないほどの量だ。

 セイの魔力タンクは二つある。一つはこの体、もう一つはダンジョンコアだ。今は一時的に本拠地が無いためどっちも一つの肉体に納めてあるが、この二つは財布と銀行口座くらいに違う。

 セイが食事をし睡眠をし呼吸をすれば自然に回復していく肉体の魔力ではなく、これとは比べ物にならないほど大量の魔力。すなわち他者を殺し奪ったもの、土地から吸い上げたものといった魔力だ。

 その総量は現在のセイの肉体の魔力の軽く凌駕し、ステータスに表示される数値にして数百万はある。魔力生命体であるセイが生きているだけで自然と消費してしまう分のここから出している貴重な魔力タンクだ。

 そのうちの七割、ドラゴンや精霊に匹敵する量の魔力を木蛇に注ぎ込んだのだ。


「シャァァァ!!!」

「デカくなった」


 その結果、ランクは一気に8まで上がり、大量も全長三十メートルにまで成長した。

 おかげでセイは残基が三割に減ったと言えるくらい弱体化したが、まあ良しとしよう。気分が高揚して判断を間違えていないと言い切れないが、間違えていたらそのうち取り返せばいい。


「『森蛇』か。我ながらかっこよくて強力な魔物が生まれたな。よし、お前は緑と名付けよう」

「シャア」


・名前:緑

・ランク:8

・種族:森蛇

・レベル:0

・年齢:0歳


・パッシブスキル

魔術耐性:1Lv

物理耐性:1Lv

怪力:1Lv


・アクティブスキル

無し


・ユニークスキル

緑化


 初めて自分で作った新種の魔物に歓喜しながら、上機嫌に寝た。


 なお翌日、当然のように大騒ぎになったが、実はテイマーでもあったんだと主張すれば分かってくれた。心なしか畏怖の視線も向けられているので、最初からこうすればよかったかもしれない。

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