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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
プロローグ
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1話 ダンジョンマスター

「う、ん……?」


 少年が目を覚ましたのは、真っ黒な空間の中だった。風もなく音もなく、光もない。地面に触れている感覚もない。


「なんだ?俺は確か……あ、死んだんだった」


 少年、打浪静穏は即座に回想し自分が死んだことを思い出した。


「やっちまった……なんで俺はあんな負けそうなことをしたんだ……」


 静穏が後悔したのは咄嗟に知り合いでしかない少女を守ったこと……ではなく、ナイフを持った相手に生身で立ち向かうという愚行のことだった。

 咄嗟に強盗と戦おうと思ったことは別にいい。自分がそんな人間だとは知らなかったが、生まれて初めての事態に初めての衝動を覚えた、それだけのことだ。死んだことも別にいい。


 しかし戦おうとして、子供のようにがむしゃらに暴れただけなのは悔やむことだ。

 知識として「パンチは腕じゃなくて腰で撃つのだ!」とか「ナイフではなくナイフを持つ腕を見るんだ!」といった知識はあったが、全く引き出せなかったことが悔しいのだ。

 ナイフを持った中年と素手の男子高校生。特別格闘技を学んでいないなら、勝てるはずもない。しかし知識を総動員すれば勝てたかもしてない。

 全力を出し切れなかった。それは静穏にとって死ぬよりも後悔することだった。


「って、ん?どこだここ?俺死んだよな。ってことは死後の国とか?……たぶん違うな」


 一通り呻いて冷静になった静穏はあたりを見渡す。

 見渡せばあたりは一面の闇……ではない。よく見ると周囲はごつごつした岩肌であり、どうやら洞窟の中にいるらしい。静穏はしばらく固まったあと、とりあえず天国や地獄っぽくもないなと思った。


「俺は死んだんだよな?ナイフが心臓に刺さったはずだけど……。んー?この声、この学生服、たしかに俺だ。俺が打浪静穏って名前のことも、親のことや学校もこと、バイト先の店名、教科書の知識……、うん、ちゃんと覚えてる。この間転んで怪我したこの手も……って、透き通ってる!?まさか幽霊!?」


 静穏は自分の体が半透明になっていることに初めて気が付いた。


「え、えー、えええー?まじ?なにこれ、転生ってやつか?いや幽霊って生命じゃないから生まれ変わったとは違うのか?なんだこれ?」

『お目覚めですか?でしたら現状をご説明させていただきます』

「うわっ」


 何とか現状を理解しようとする静穏に声をかけたのは、突如現れたモニターだった。

 静穏のいる岩肌であること以外は会議室のような空間の、静穏から向かって正面の壁が発光しモニターとなった。


『初めまして、ダンジョンマスター様。あなたはこのダンジョンの主として召喚されました。私はダンジョンマスターの補佐として創造されたナビゲーターです。なにかご質問はありますか?』


 静穏は目を見開いて硬直してしまう。モニターから聞こえる老若男女の判別が出来ない人工音声のような声。コンビニで強盗に遭遇した以上の日常とは乖離した状況に頭が真っ白になったのだ。

 しかしいつまでも目を逸らすことも出来ない。冷静に質問をしていく。


「え、っと。まず、なんで俺はここにいるんだ。召喚されたっていうのは、なんで?」

『お答えします。ダンジョンは発生するとマスターを召喚します。この召喚ではダンジョンの周辺から動物や魔物などから適当な存在を召喚します』

「そうなんだ。俺の近くにこんな洞窟はなかったと思うんだけど」

『今回の召喚の際に時空の揺らぎが観測されました。おそらくはその影響で本来の選出範囲が変化してしまったのだと思われます』

「そう……まとめると、偶然その召喚に俺が選ばれたってこと?あなた……ナビさん?は随分と他人事に語るけど」

『命名を認識しました。今後私の固有名称を【ナビさん】にします』

「俺が命名するんだ……じゃあごめん間違い。名前はナビにして。ナビさんとは俺が勝手に呼ぶので」

『了解しました。今後私の固有名称は【ナビ】に変更されました。……質問にお答えします。私はナビゲーターなので、システムを実行するだけでありシステムのエラーは私の把握できない問題です』

「まじかよ」


 音声認識の機械と会話しているような不思議の感覚の中で、なんとか情報を纏めていく。


(とりあえず、こいつはあんまり情報を持ってないな。権限が低いっていうのかな。スマホのアプリを使えるけど、アプリで起こるエラーをどうこうすることは出来ない、みたいな)


 内心で混乱しながらも、徐々に冷静になっていく。情報を自分の理解に落とし込む。顔をしかめつつ、聞くべきことを考える。


「俺が召喚されたのは分かった。いや分かんないけど、とりあえず納得した。じゃあ次に俺の事、なんで幽霊になってるの?」

『不明です。ですが推測として、召喚の際のエラーが原因だと思われます』

「それは何も分からないのと同じでは。……いやいい。じゃあ次に、俺についてどのくらい分かる?さっき魔物って言っていたけど、俺も魔物なの?」

『いいえ。マスターは現在、ただの幽霊です。肉体を失い強い未練のある霊が魂だけとなり現世を彷徨う存在、幽霊と酷似しています』

「酷似しているって、幽霊はいるんだ。そっちの方がびっくりだ。でも俺に強い未練なんてあったのかな」

『それは不明ですが、マスターが現世にいるのはダンジョンマスターになったからだと推測されます。ダンジョンのマスターになったものはダンジョンコアと接続され強化されます』

「ダンジョンコアと接続?」

『はい。ダンジョンコアと接続すると、ステータスの能力値をはじめとした強化を受けます。マスターは強い未練がなくても輪廻の輪に戻る自然の力に抗える形で強化されているのでしょう」

「へー……ダンジョンコア……あ、これか、なんかある」


 静穏は自分の心臓に手を当てると、半透明な球体が体から出てきた。

 直径十センチ程度の球体であり、歪みのない完全な球体だ。珍しさに当てられ静穏は持ち上げ無意味に回転させる。


「ほえー」

『他に質問はございますか?』

「んー、まあだいたいわかったよ。要するに俺は偶然召喚されて、何故か幽霊になったと。……何もわかってないけど、刺されて死んだはずだから、第二の生?を受けたと思っておくよ。今考えても仕方のないことみたいだし。

 それで、俺は何かすることは、いや、させられることはあるの?マスターを召喚するってことは、仕事があるってことでしょ?」


 静穏は現状への理解を放棄し、とりあえず受け入れることにしたのだった。

 静穏は自己評価が低く常識を疑い、「自分は全知には全く及ばない」という認識がある。人間は世界の真理に到達していないし、知識はこの世界を解明しきれていない。そのため理解できない現状も起こった以上は現実なのだと。


『その通りです、マスター。マスターにはダンジョンの管理、維持と運営をしていただきたく思います』

「具体的には?ていうかダンジョンってそもそもなに?」

『お答えします。ダンジョンとは神代の魔王との戦争のせいでこの世界に穢れた魔力が広がったため、穢れた魔力を正常な魔力に浄化するための装置です。術の魔神が世界に刻んだ浄化機構であり、ダンジョンが大きいほど世界が安定します。そのためマスターにはダンジョンの維持と拡大を進言します。なお、ダンジョンはダンジョンコアが破壊されると消滅し、マスターも死亡します』

「えっ、俺死ぬの?」


 途中まで冷静に聞いていたが、最後の情報にはさすがに驚いた。

 ここが異世界なのは確定だな、などという呑気な考えも吹き飛ぶほどの衝撃だ。


『はい。ダンジョンマスターはダンジョンコアと繋がっているので、ダンジョンコアが破壊されるとその影響を受けます。本来は死亡には至りませんが、マスターの場合は幽霊なので消滅すると考えられます』

「あ、ああ。なるほど。つまり死ぬっていうか、正確には延命装置が止まる感じか」


 静穏は幽霊なので、通常のダンジョンマスターと事情が異なるようだ。


「分かった。ダンジョンの維持と拡大な。それはどうすればいいんだ?ダンジョンと言えば魔物がいるイメージがあるんだが、俺は魔物でも外から連れてくればいいのか?」

『いいえ。ダンジョンコアに手を当ててください。そうするとダンジョンマスターのみが使用できるメニューが表示されます』

「ダンジョンコアに手を当てて……お、本当だ」


 静穏の目の前に、モニターが表示され、そこには【迷宮】と【配下】、【DP】と書いてある。


『メニューに表示されているのがこのダンジョンの全てです。ダンジョンポイントを消費して配下の創造やダンジョンの拡張を行うことが出来ます』

「へー、ゲームみたいだな」


 静穏は現代日本に生まれた人間であり、多くのゲームをやったことがある。その中の一部と類似していることも気が付き興奮気味だ。

 しかし、ある事実に気が付き頭が冷えた。


「ナビさん、早急に確認したいことがあるんだけど」

『なんでしょうか』

「このメニュー、【迷宮】の欄にある【状態:一層:洞窟】ってのはいいんだけど、カタログの【召喚可能物:無し】ってのは何。あと【供給魔力:無し】と、【DP】も無しって表示されているんだけど」

『現在このダンジョンに保有魔力は無く。召喚できるものも無く、ダンジョンポイントも無い、ということです』

「そうだよな。何が出来るのか?」

『何もできません』


 静穏は思わず壁に蹴りを入れる。

 脚はそのまま壁を透過し、空振りの様な感覚を味わうだけだった。


 しかし激情に身を任せている暇はなく、静穏はさらに悪い事実に気がつく。


「あ、ちょっとまった。原理は知らないけど、ナビが表示されてるそのモニターやダンジョンコアのモニターとか、これって表示するのに魔力とか消費しないの?」

『されます。現在は保有魔力が数値にして一未満ありますが、残り十二時間でこのダンジョンを維持できなくなり自然消滅します』

「俺もうすぐ死ぬじゃん!」


 ダンジョンコアが破壊されると自分も死ぬ。そう聞いたときは驚きつつも、どこか他人事だった。いきなり実感が湧くはずもなく、死ぬとしてもまだ先だろうと。

 しかし具体的に時間を伝えられ、かつあと半日というタイムリミットの短さには絶叫してしまう。


「ナビ!魔力————ああいやDP?ダンジョンポイント?を稼ぐにはどうすればいい!」

『全て同じものです。ダンジョン全体の魔力がまずは維持を最優先に回され、残りがDPに変換されます。術の魔神がダンジョンの運用を画一化する際にDPという単位を作ったと情報があります。DPの稼ぎ方ですが、主に世界に流れる竜脈からの補給と、魔物や侵入者を含めた生物から魔力を吸収。この二つが主です』

「前者は【供給魔力】ってやつか。今はどっちも無いんだな」

『はい。立地の問題でここ以外のダンジョンに竜脈が流れており、このダンジョンには竜脈からは魔力が補給されません』

「分かった。いずれ他のダンジョンは潰す」

『もう一つに関してですが、現在このダンジョンに魔物はおらず、侵入者もいないためこちらでも稼げません』

「詰んでるじゃん。このダンジョンの外は?魔物とか動物はいる?」

『微かな竜脈を呼び水にこのダンジョンを中心に十キロを探知できますが、探知しますか?魔力を消費するので残り時間が六時間になります』

「今すぐやって」


 ナビが探知を走らせると、モニターに魔物や動物を示す光点が……灯らなかった。


『探知しました。その結果、このダンジョンの周囲十キロ以内には魔物も動物も存在しないことが判明しました』

「はい詰んだ。おとなしく死ぬか」


 静穏は自暴自棄になりダンジョンコアを放り投げ大の字に寝転がる。静穏とて死にたくはないが、これは完全に詰みである。

 魔物や動物から魔力の吸収……この場合は殺して死骸をダンジョン内部で放置すればいいらしいが、相手が居なければ戦えない。


 前世で静穏は戦って死んだ。その際に全力を出し切れなかったことが最大の後悔であり、同時に闘争の快感を知った。

 平凡な男子高校生、野犬が相手でも普通は負ける程度の弱者。それでも戦うくらいはしたいのだが、相手が居ないのだから、どうしようもない。


(おとなしく死のう。二度目でも死ぬのは恐ろしいが、この興奮状態を維持すれば苦しまず死ねるだろう。たぶん)


 しかしそんな静穏の耳の言葉が届く。


『マスター、諦めているようですが、一つ方法があります』

「ないと思うんだけど、一応聞く。なに?」

『ここから一キロ先に人間の村があります。人数は三十人程度。この人間たちの魔力を取り込めれば、しばらくはダンジョンを維持できます』

「――」


 静穏の目が思わず、見開いてしまう。

 人間を殺す。人間でも魔力を稼げるということにも驚いたが、人間を殺すという選択肢を提示されたことにも驚いたのだ。


(いや、気がつかなかったけど、侵入者ってのはそりゃあ人間だよな。人間を殺せば生きられる……殺れるか?俺に………………殺るか)


 決断は一瞬だ。静穏は即座に殺す決意をする。

 自分が生きるために他人を殺す。しかも今回の場合は完全に無関係の人間を、だ。そのことに抵抗は非常にある。しかし他人を殺してまで生きたいとは思わない……というような高潔な精神を静穏は持ち合わせていなかった。

 もちろん、そもそも村人と戦っても静穏は死ぬ可能性も十分にあるのだが、そのうえでも静穏は殺す選択を曲げなかった。


 むしろ、村人を殺せば自分は生きられる。殺さなければ死ぬという分かりやすい二択が生まれたことで、殺すことを選択する意思が強まったのだ。

 無論、静穏の勝手な考えだ。標的にされる村人が災難でしかないが、それを理解したうえで静穏は戦おうという意思を曲げなかった。


 静穏は死んでこんな考えをするようになったのか、それとかダンジョンマスターになると倫理観が希薄にされるのか。

 おそらくはどちらでもない。静穏は元からこういう人間なのだろう。


 生きたい、というのもおそらく一番の理由ではない。体が闘争も求めているのだ。

 元の世界のいた時は芽吹くことのなかった純粋すぎる闘志を持って、静穏は戦いを選んだ。

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