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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
2章 戦場生活
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17話 戦争

 この大陸には数多くの国家が存在し、そのほとんどが大陸の統一を掲げ戦争している。栄えては滅び、復興しては滅び、新設しては滅びる。しかし長年栄枯衰退を繰り返すうちに、突出した国力を持つ国家が同時に現れた。


 ラキア国とチヨウ国。この大陸にて覇を唱える国家は多く存在するが、多くは小競り合いだ。外交の延長の出来事であり、近年は戦争などほとんどなくなっていた。しかし近年、この二つの国家は領土を広げ、ついに隣接してしまったことで大規模な大戦へ発展してしまった。


 一応はラキア国民なのでラキア国側としてセイがふらりとやってきたこの戦場も、まさに地獄絵図だ。


 戦場では怒号と悲鳴が響き渡る。それは相手を威嚇するものであり、己を鼓舞するものであり、恐怖から逃避するためのものだ。国からの募兵に応じて参戦したとはいえ、大半は武器を持っただけの農民。積み重なる死体の山に平静を保っていられるものは少ない。


 先鋒が槍を突き出し数を減らしあい、運のいいものだけが生き残る。遠距離からは弓が飛び交い運の悪いものはここで死に、稼いだ時間で魔術を唱え終えた魔術師たちが魔術を使い、さながら大砲や爆弾の様な威力で陣を更地に変える。


「うおお“お”お“っ!!」

「くそがっ!!」


 雄叫びを上げ兵士が敵国の兵士に襲い掛かる。目の前の兵士が自分と同じように一族から押し付けられてやってきた農民なのか、それとも金銭や名誉のために傭兵になったのか、気にする余裕もない。お互いに二メートル近い長さの槍を持ち、胴と頭だけはくすんだ防具で守られている。

 無骨な装備は絶え間ない争いで凹み、使いまわしているのか前任者の血などの汚れが残っている。地球よりは倫理観の低いこの世界でも、大半の人間は嫌悪感で吐き気を催すだろう。


 それでも、そんなことを気にしている者から死んでいくと理解しているからか、それとも現実から逃避してるのか、彼らは命の限り殺し合う。


 泥臭く殺し合っている兵士たちから少し離れた場所では、上等な装備に身を包んだ兵団が殺し合っていた。歩兵の乱戦とは違い、こちらは常備兵であり、重装備の者たちが前衛を固め、ローブを着込み杖を持った魔術師たちが後衛から魔術を放っている。


 この世界の住人たちはステータスシステムの加護のお陰で個人の力は地球の常識を遥かに超え、熊を素手で仕留め猪の突進を生身で受け止めることも出来る。超人だ。

 しかしそれはどの陣営の人間でも同じことであり、ぶつかり合えば地球と同じように戦死者は頻出する。


 前衛の一人が熊を一撃で殺す威力のメイスで鉄の盾を凹ませるも、その隙を突いた他の兵士の槍が脇腹を抉りに迫る。寸前でメイスを手放し必死で下がり回避する。しかしそのせいで空いてしまった穴に敵兵がなだれ込み形成が傾く……かに見えたが、下がってしまった兵士の仲間が後ろから槍で突き殺し、敵兵の死体が穴を塞ぐ。


「気を付けろ!魔術が来るぞ!」


 敵兵の誰かがそう叫ぶと、後方から魔力が開放され、無数の魔術陣から火球が飛び出し敵兵に襲い掛かる。敵兵たちのうち農民らしき者たちはあたふたと退避するものや高揚してしまい声が聞こえていないものがいるようだが、そちらは最初から狙われていなかったのでまだましだろう。狙われていた常備兵の者たちは悲惨だ。なんとか盾を構えるも、熱を防ぎきれるはずもなく高温が腕を伝い体を焦がす。


「あちいいぃいぃいぃっ!!」

「腕がっ!俺の腕がああぁっ!」

「ま、まてっ!盾を放したらなおさらっ――!」


 肉を炭化させる熱が人体に降りかかる。感覚の喪失に耐え切れず敵兵たちは盾を放し逃亡するが、当然なんの解決にもならず背中に火球が降り注ぎ焼死する。


「やったぞ!」

「みたか蛮族どもめ!」

「油断するなっ!まだ終わっていなんだぞ!早く次の場所を助けに――!」


 幸運と不運が均され、運良く勝てた、運良く魔術師の詠唱を妨げるものが無かった、風向きかその日の調子か、ともあれ運の一言に集約されるなにかが均され、天秤が振れるようにラキア国側の常備兵たちに不運が訪れる。


「う、うわあああ!」


 農村からやってきた兵士ががむしゃらに投げた剣が、運悪く常備兵の伝達兵の喉に突き刺さる。この世界の住人が頑強さでも地球とはけた違いに頑丈だが、柔らかい喉に鉄の剣が突き刺さらないわけでもなく、これまた運悪く、当たり所が悪く、一瞬で絶命してしまう。


 それが連鎖にさらなる不運を呼ぶ。この隊の強みは雑多な戦場にうまく溶け込み、強敵に目を付けられないように擬態する能力の高さだった。

 しかしそれが崩れると周囲の目を引き、さらに強いものの目に留まってしまう。


「あの辺ではうちの兵が押されているな……。生き残りが何人かいるが、やむを得まい。『爆撃』のラクシュよ。仕留めろ」

「了解」


 一キロ以上離れた場所にありながらレンズのようなマジックアイテムで離れた場所を監視していた指揮官は側近に命令を下す。すると豪華なマジックアイテムの装備を身に着けた弓騎士は巨大な弓を構え、照準を合わせる。


「【爆弓砲】」


 神話に曰く、勇者の一人は謎の粉を使い大きな筒から勢いよく金属の爆破する弾を打ち出し、雑多な魔物を蹂躙したという。その話を参考に生み出した弓技は完成度が高く、弓騎士の腕も相まって正確な座標に着弾し、勝っていたラキア国の兵士たちを肉片に変えた。


「うむ。相変わらずいい腕だ」

「恐縮です」

「そう硬くなるな。お前はこの安全な場所から打っていればいいのだから、楽な仕事だろう」

「ここは戦場、安全な場所などありませんよ」

「ははっ!真面目だな」


 弓騎士は眉を顰めそうになる。側近とはいっても、仕える貴族から一時的に出向しているに過ぎないため、敬意も関心も薄い。重ねて注意することもなく、口を閉ざしてしまう。


 弓騎士は嫌な上司にストレスが溜まっていたのか、安全な場所など無いから気を引き締めろといいながら、弓騎士自身も気を緩めてしまう。自分の価値を理解しており、打つのは少しでいい。自分が活躍しすぎると下級兵士の手柄を奪ってしまう。ならば気を抜いて休むのもいいだろう。

 そう言い訳して、「そこに隠れていたのか」と直感的に聞こえた気がした声を無視してしまう。それが彼らの命運を分けた。


 ただでさえ魔物でもあるため能力値が高く、その中でも敏捷の数値が高く、それに加えて【闘気】で能力値をさらに高め、【剣装備時敏捷強化:中】と【軽装備時敏捷強化:中】の効果も発揮させたためにその速さは影を踏まないほど。

 本陣が隠されていたため探し回っていたが、あれほどの武技を使えるものなら切り札のような存在、つまり本陣に居るはずだ、そう考え一直線に走る。


「えいや!【瞬撃:乱舞】!」


 ミサイルが着弾するように本陣の壁にライダーキックで蹴り砕き、先ほどの弓矢の発射地点らしき部屋で剣を振るい無数の斬撃を飛ばす。数値で言えば格上のはずだが、油断していた弓騎士は元々近距離戦闘が不得意なこともあり一瞬の抵抗の末に首が落ちる。


「うんうん。結構経験値が溜まる。やっぱり魔物よりも人間の方が経験値効率はいいな」


 同じ戦闘でも人を相手にすれば、魔物の人を害するという存在理由も満たすからなのか経験値が多めに入る。個人的にとても良いことだ。


「えーっと……」


 弓騎士の首を持ち上げ、ついでに標識も探す。単に殺すだけでもセイという個人としては良いが、兵士としては活躍が認められるには誰もが見ている場所で戦うか、殺した相手の身分を証明する物品が無くてならない。首でも十分だが、勲章でもあれば満点だ。


「あったあった。これは……なんちゃら勲章だな。この間の勲章図鑑で見た奴。じゃ本陣に戻ろう

 あ、その前に」


 今いる場所は敵の本陣。つまり重要な場所であり、襲撃者を見逃すはずもない。


 しかし襲撃者は当然それで殺されるなら、最初から襲撃などしない。

 嗤うように、慈悲ある様に、一つ微笑んで陣を丸ごと消し飛ばすべく強力な魔術をセイは放った。

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